〈建設グラフ1999年9月号〉

interview

3環状9放射の完成に全力投球

建設省関東地方建設局 道路部長 鈴木忠治 氏

鈴木忠治
昭和20年5月生まれ、東北大学工学部卒
昭和44年4月千葉県採用
昭和61年2月建設省道路局国道第二課長補佐
昭和63年4月建設省河川局防災課災害査定官
平成 2年4月京都府土木建築部道路建設課長
平成 4年4月千葉県土木部道路建設課長
平成 7年4月千葉県土木部道路計画課長
平成 9年4月千葉県土木部技監
平成 9年5月北陸地方建設局道路部長
平成11年4月現職
関東地方建設局は、首都を含む関東一円の基盤整備を担っており、局道路部では3環状9放射の道路網完成に全力を挙げている。集積度の高い都市部では投資効果も大きく、しかも首都圏の渋滞原因となっている通過交通を避けるためにも、幹線道路網の完成は待ち遠しいところだ。ただ、同部の鈴木忠治部長は、大局的な見地から、公共事業の安直な投資効果至上主義には迎合しない。「地方の整備を怠れば、国土保全の上で問題が発生する」として、とかく投資効果に疑問が持たれやすい地方での公共投資の重要性も主張する。国策として行う道路整備の意義とは何か。地方自治体は、それにどうか関わるべきなのか。首都と地方とはどんな関係であるべきかなど、行政を取り巻く最近の情勢に絡めながら、鈴木部長に見解を伺った。
――基盤整備事業の執行に当たっては、どんな気構えで取り組んでいますか
鈴木
わが国は戦後40〜50年にわたる基盤整備の蓄積があって、今の豊かさがあります。今日、私たちが利用している都市基盤は、私たちの先代の人々が整備して残してくれたものです。したがって、われわれが現在、造っているインフラは、われわれ自身が使うというよりも、次の世代が使うものと考えるべきでしょう。インフラの場合は少なくとも10〜20年。着工して10年かかります。計画期間も加えると30年にもなるのです。ですから、決して短兵急に考えるべきものではないのです。
国だけでなく自治体も、次世代に遺産を残す気持ちでインフラを整備してもらいたいと思います。
――最近は首都圏の再整備に対する要望が高くなっていますね
鈴木
かつて不幸にも一時期、全ての公共事業をストップしてしまったのが、今日になって負になっていると言えるでしょう。
私たちの使命は3環状9放射の道路網整備ですが、現在の3環状の整備率はわずか2割に止まっています。しかし、今後10年も経てば、外環(外郭環状)は東側が完成します。そして圏央道は西側が完成します。これによって変則ではありますが、3環状ができます。そうなると、都心を通らずに東西南北を結ぶことが出来ますので、かなり交通状況は違ってくると思います。
――最近は、整備と環境保全との両立という矛盾する難しい課題が課せられていますね
鈴木
環境といえば川崎地区の問題がありますが、環境問題は、各省庁が連携して総合的に取り組むべきものなのです。電気自動車の導入、総量規制などは、建設省単独では無理です。騒音対策だけなら可能ですが、排気ガス問題は建設省だけでは対応できません。
川崎訴訟は環境庁が主体になって和解しましたが、これからも建設省としてはハード面で環境問題を考慮しながら進めていく必要があります。ただし、極論ですが、環境だけを重視するなら、自動車は都内では一切走るなということになります。これでは経済は成り立ちません。したがって、バランスが大事ですね。
これまでは致し方なかった面もあろうかと思います。戦後復興から経済成長という重大テーマがありましたから。しかし、これからの時代は違ってくるでしょう。
――公共事業をめぐっては、様々な論議があり、この数年は事業の総量も変動があったため、建設業界にとっては将来の不安材料となっています
鈴木
平成10年度には、公共事業費は前年度対比で7%削減するという方針でしたから、当面、ブレーキを踏んでいる状態でしたが、後に補正によっていきなりアクセルを踏んで、一気に2倍強になってしまいました。要するに、いまだインフラの不備という認識と、景気を上昇させるという2本柱がそうさせたのでしょうが、現場としては大変むずかしい昨今であります。したがって、計画的な事業の執行がより望まれる時代であろうかと思います。
――そうした中で、最近目立つのは、東京都が都内での事業予算獲得にかなり力を入れ始めている現実です
鈴木
かつて私は新潟県に赴任していましたが、地方と都会との議論が沸騰しました。地方で公共事業をやり過ぎている。東京に落ちた税金が地方に行き過ぎているとの主張が持ち上がりました。しかし、東京は本来、生産拠点ではありません。本社が軒並み東京にあるので、税収もそれだけ多くなるのは当然のことなのです。したがって、東京と地方を対立の構図でとらえるべきではないのです。
地方は地方で生き、東京は東京で伸びて行くというのが本来の姿です。地方が中央に頼っている構図を変える必要はありますが、これは一気に実現できるものではありません。しかし、例えば北陸で生産される総供給電力量の三分の二を東京と関西に供給しているのです。食料にしてもそうです。ですから、東京と地方は持ちつ持たれつの関係なのです。
ところが、一時期計画された3年間で15%公共事業を減らすというようなことになれば、地方は大打撃を受けることになるでしょう。なぜなら、ほとんどの町村が建設産業に頼るものが大であります。したがって、全体において、インフラが未整備であることとあいまって、都市部の整備はもともと進めるものですが、特に地方においては、土木産業の意味合いが濃いことを意識する必要があると思います。
――しかし、最近では公共事業の投資効果がかなり重視されるようになりました
鈴木
費用対効果を公共事業で重視する事は当然でありますが、その示標のとり方によっては、地方部における公共事業の執行は難しい面も出てきてしまいます。極論を申し上げますと、地方の過疎地域での公共事業の困難性が強調される形となります。
一方、過疎地に住んでいただいているからこそ、国土が保全されていることを忘れてはなりません。地方にもしも人が住まなければ、国土保全と国防の上で問題が生じるでしょう。かなり手薄な状況となってしまいますから。したがって、国土庁が提唱した国土の均衡ある発展は、国土保全と国防の両面で重要なことなのです。
――よく聞かれる公共事業批判には、そうした事情への考察が含まれていないように思えますね
鈴木
公共事業は莫大な税金を使わせていただいているわけでありますので、必然的にご批判ご意見を頂いて事に当たることになると思います。公務員は民間企業のように経済行為によって収益を上げるわけではないので、勤務評定が難しい。時々、バッシングされることも必要でありましょう。
――近年は情報公開が法制化されると同時に、建設省は公共事業のアカウンタビリティを重視する方向に向かっていますね
鈴木
特に関東地建の場合などは、年間事業費が1兆円にもなります。したがって、常に監視されている状態でなければなりません。確かに情報公開が進んでおり、環境問題に対する国民の関心も高まっていますから、公共事業においても環境に配慮した場合、どれだけ事業費が増加するのかをお示しすることが良いのではないかと思っています。
これまで、一般に説明をするということは得意でない面があったと思います。そこでわかりやすい公共事業を目指すべきと考えております。
――道路整備に関する新5か年計画では、道路整備による経済効果をマクロ計量経済の方程式に基づいて、金額で表現されています。しかし、庶民感覚から考えると、逆に家計や個人所得を基準にしたミクロ経済的な視点で表現した方が理解されやすいのでは
鈴木
確かに何兆円といっても一般の方々には実感しづらいかも知れませんね。家計の何百円、何千円単位で説明しないと理解してもらえない一面はあるでしょう。2兆円投資して年間4兆円の儲け、そして利便性が…といってもピンときません。この道路を整備することで何時間短縮されるといったほうが分かりやすい。現実の価値観で表現しないと見ないし、聞かないし、説明の効果がありません。
――その意味では、3環状9放射の整備によるメリットは、説明を要しないほど分かり易い。したがって、完成を心待ちにしているのは都民だけではありませんが、気になるのは進捗状況と整備上の課題です。
鈴木
変則ではありますが、3環状9放射は、外環と圏央道についてはいよいよ完成のメドが立ってきました。とはいえ、外環の西側は全く着手できません。また圏央道は 300キロの延長で、事業費は3兆円にもなるため財政上の問題が残されています。
どうしても地方は東京志向が強いため、放射路線は自然発生的に出来るのですが、都内の渋滞解消のためには避けて通れないわけですから、国が国策として割り切り、恣意的、政策的に決定して進めなければいつまでも整備出来ないという事情があります。
――道路は、作れば作るほど相乗効果や利用価値が上がるという一面もあるのでは
鈴木
一例を上げれば、北陸自動車道の新潟−柏崎が完成した当時は、利用者がほとんどなかったため、大騒ぎになったことがありますが、今では一日に2万台の利用があるのです。関越道も同じく2万台ほど走っています。17号では7−8千台くらいですね。それでいて上越新幹線も、収支のバランスは取れています。つまり北陸と直結した経済効果は、結果的には絶大だったと結論できるわけです。
――その意味では、外環や圏央道のもたらす波及効果は計り知れないものがありそうですね
鈴木
そうした実績を背景に、当面は3環状9放射の完成に全力投球します。9放射は不備ながらも9割が出来ています。環状の整備率は2割ですが。それが10年後には曲がりなりにも出来てきますので、渋滞はかなり改善されます。
もちろん、このほかにも50号、51号、20号などのように、中央道に並行していながらも生活道路として利用されている道路もありますから、住民の足回り道路もきちんと整備していくことが必要です。これが交通の機能分担というものです。
――東京都の石原知事も、道路整備にはかなり前向きのようです
鈴木
積極的な知事さんとの印象を受けました。知事さんの考えでは、都心の途中まではバスだけを乗り入れることにしたり、交差点は立体交差にしたり、渋滞箇所は応急処置でも短期間で改良するなどの構想を持っているようです。
そうした構想にも配慮しながら、私たちは理想の絵(ビジョン)を常に社会ニーズに合わせて修正しつつ、目標に向かって取り組む方針です。
――都財政が、緊急事態であることを考えると、国策への期待が大きいということでは
鈴木
しかし、最近では直轄国道が多いのはおかしいとの指摘があります。とはいうものの、現実には地方自治体は、自主財源での市町村道の整備をなかなか実行してくれないのです。したがって、道路についてどのような機能分担になっているのか、直轄と、地方自治体が主体になるべきものについて再整理する時が来ていると言えるでしょう。
これについては恐らく行革と同時に再構築されるでしょう。その結果、むしろ国が直轄でしなければならないものが増えるかも知れません。

HOME