<建設グラフ1996年1月号>

interview

インターネットは産業基盤

企業競争力の鍵に

(財)札幌エレクトロニクスセンター専務理事 鈴木俊雄 氏

鈴木 俊雄 すずき・としお
昭和15年生まれ、北海道出身
昭和34年入庁・人事課配属
昭和47年秘書課主査
昭和50年総務局秘書課秘書係長
昭和54年同課長
昭和58年経済局商業課長
昭和60年市民局広報部副参事
昭和62年同部長
平成元年中央区副区長
平成 3年7月現職
――最近、毎日のように「インターネット」に関するニュースが流れますが、インターネットの普及はビジネスの世界にどんな影響を与えると思われますか
鈴木
インターネットは最近、各界から注目され、その人気は過熱ぎみとも思えるほど爆発的なものがあります。ただ、現状ではまだ趣味の域を脱しておらず、またインターネットバブルなどといわれるように、将来像は見通せない状態にあります。
また、普及率について諸外国と比較すると日本ではまだまだ低く、電話のように「必要不可決の道具である」と認識している人は少ないのが現実です。原因は、テレビ、新聞、雑誌といった既存の情報媒体から電話、パソコン通信に至るまで、情報を得るための手段が他にたくさんあり、その存在感がまだ大きくないことにあるといえるでしょう。
しかし、経済活動の側面から今後を展望した場合、それを導入し活用したかどうかが今後の企業の存続を左右する重大なファクターとなっていくのは確実といえます。企業の競争力の違いは、時代の潮流を敏感に察知し、新時代の投資にいち早く手をつけたかどうか、また時勢に合わせた対策を適切な時期に行ったか否かによって生じます。ところが、それらが目に見えるような形で急激な変化をもたらすわけでなく、徐々にボディーブローのように効いてくるので、それに無頓着だった企業の経営者は、気づかないうちにいつしか時代に取り残され、かつて通用していた手法がなぜか通用しなくなり、疲労感ばかりが蓄積され、それでいて成果が上がらない。そうしていずれは原因も明確に自覚できないまま“自然死”に至るのです。バブルの崩壊とともに倒産し消え去った企業の内情を見ると、ほとんどがそうした道筋をたどっていたことが分かります。
技術の革新は一気に起こるのでなく、既存のものを改良しながら少しずつ進んでいくので、実感されにくい。インターネットの効果も同じで、当初からそれを実感することはないかも知れないが、今から導入し、活用したかどうかが企業力の差となっていずれ現れてきます。ここに“時流”というものの恐ろしさがあるといえるでしょう。

――北海道ではどのように普及していくと思われますか
鈴木
 インタ−ネットに限らず、情報媒体は、それが乏しいところほど爆発的な広がりを見せます。
例えば寒冷地で国土の広い北欧の国では、設備投資の効率が悪いことから電話機の普及が先進国の中では最も遅れていました。ところが、携帯電話の開発で、急激に電話が普及しました。先進国で携帯電話の普及率が60パーセントという国は例がありません。これは条件の厳しさが技術革新によって克服されたケースといえます。
インターネットも同様で、表現の自由や情報が著しく制限されているか、あるいは乏しい国では、逆にその普及率は飛躍的で、現代の中国などは好例でしょう。
したがって、情報、産業ともにインフラ整備の遅れている北海道では、逆にこれを活用して新たなビジネスを興したり、業務を拡充する上で理想的な環境にあるといえます。ところが、道内はもちろん全国においても、まちづくりの基本にこうした情報インフラを含めて考えているところは皆無です。道路網の整備は行うが、同時に情報網としての通信ケーブルの併設をセットで考えている自治体がないというのは残念です。

――企業での具体的利用については
鈴木
まず企業の業務に直接関わる情報がもっと掲載されれば、自然と普及して行くと思います。インターネットで情報収集していなければ、業界内の話題についていけず、他社との競争にも遅れるという趨勢になれば、導入せざるを得ない状況になりますから。特に建設・建築業界などは、諸官庁の入札情報や予算の内訳などに関する情報が掲載されていれば、各社の営業社員の情報力や営業効率が向上し、大手ゼネコンに遅れをとるケースは減っていくでしょう。
インターネットは企業の大小を問わず、ビジネスチャンスを公平にするという一面もあるのです。
また、道内の各支店をインタ−ネットでつなぎ、通信の手段として用いれば、営業の道具としての利用価値も期待できます。
中には、コンピュータ自体に抵抗感を覚える人達もいます。そうした抵抗感を取り除くためには、特定の機能を得るために必要なボタンと手順だけを明示し、迷わずに使えるようにしておき、その日常的な使用を通じて操作に慣れてもらうなどの工夫も必要でしょう。それは庶民が家電の操作に慣れるのと同じことです。決して「そもそもインターネットとは…」などと大上段に振りかぶることはありません。必要に迫られて毎日使用していれば操作を覚え、そしていずれは、ほかの機能・操作にも関心を持って取り組むようになるものです。

――第3セクターのエレクトロニクスセンターもインターネットの実験事業を行っていますね。
鈴木
札幌市が「北海道地域ネットワーク協議会(NORTH)」の参加企業と協力してエレクトロニクスセンター内に、インターネットの情報の拠点となるnocというハードウェアを’93年に設置しました。これを核にして各種事業が行われています。
今年度からはNTTの光ファイバーを無償で借り受け、高速ネットワークの応用をさぐるという実験プロジェクトも始まっていますし、8月にはインターネット上の仮想都市「oroppass」をスタートさせました。このプロジェクトには画家、写真家、学校、出版社など400人以上の幅広い層から情報が提供され、世界に向けた情報発進を行っています。
――テクノパークに立地している企業とは違う業界、業種の方との交流が盛んになっているのですね。
鈴木
エレクトロニクスセンターは、発足当初はソフト開発会社への指導助言などを行うのが主業務でしたが、最近はそれ以外の業界の方に対するコンサルタントのような業務が増えてきました。新聞、雑誌、出版、印刷など異業種の方がコンピュータの有効な活用法を模索するという動きが活発になってきたからです。
こうした動きの中では、インターネットも情報の基盤のひとつになりつつあるといえるでしょう。

HOME