interview <建設グラフ1997/2>

生活都市・東京の実現に向けて「住宅マスタープラン」を改訂

高齢社会・木造住宅密集地の再整備が課題

東京都住宅局長 篠木昭夫 氏

篠木 昭夫 しのぎ・てるお
昭和年12生まれ、群馬県出身、東京都立大法学部卒
昭和31年東京都主税局墨田都税事務所
昭和38年人事委員会
昭和44年文京区
昭和46年総務局副主幹
昭和48年清掃局副主幹
昭和54年人事委員会任用公平部試験課長
昭和58年企画報道室報道部庶務課長
昭和59年同主幹
昭和63年港湾局開発部長
平成 2年住宅局総務部長
平成 4年清掃局理事
平成 6年都立大事務局長
平成 7年情報連絡室長
平成 8年現職
バブル経済崩壊後の現在でも、狭い、長時間の通勤、高い住居負担と、東京の住宅事情は依然として厳しい状態が続いている。都職員の居住分布も「局長級は環七の内側、部長級は環八の内外、それ以下は環八の外側に居住している」といった興味深い指摘があるほどだ。これは政策として「生活都市東京」を謳っても、現実には都心居住が困難である実体を物語っている。生活都市を実現するには、まず、住宅事情の改善を図らねばならず、その責務を負っている住宅局の使命は重い。加えて、昨年1月の阪神・淡路大震災での教訓を踏まえた防災性の向上や、高齢社会に対応した「住まいづくり」なども強く求められている。東京都住宅局の篠木昭夫局長に、東京都の住宅政策について語ってもらった。
――東京都内の住宅事情の悪さは、残念ながら全国的に有名ですが、東京の住まいの現状についてお話ください
篠木
「ゆとりある住まいで快適に暮らしたい」。これは、すべての都民の皆さんの切実な願いだと思います。しかし、東京の住まいの現状は、狭い住宅、長時間の通勤、高い住居費負担と依然と厳しい状態にあります。
東京の世帯数は約470万戸で、これに対して、住宅総数は約530万戸。単純な数の面では住宅は充足されていると言えますが、最低居住水準(4人世帯で3DK、50m2)を満たさない住宅が15.5%にも達しており、居住水準は全国で最も低く、質の面での充実が強く求められています。
しかも、バブル経済崩壊後の経済環境の変化、高齢少子化の進展、都心地域を中心として区部での人口減少など、東京の住まいを取り巻く状況は大きな曲がり角に来ており、こうした状況の変化を踏まえながら、いかに良質な住宅の供給を促進していくかが住宅局の最大の課題となっています。
ともかく住宅の問題は、「生活都市東京」の実現を目指す都政の中で避けては通れない最重要課題の一つであり、少しでも都民の住宅事情がよくなるよう全力を傾けて取り組んでいきたいと思っています。
最低住居水準5割を目標に
――どんな施策を考えていますか
篠木
良質な住宅の供給促進を進めていくことが必要です。
まず、最低居住水準を満たさない世帯を、できるだけ早期に解消したい。併せて、21世紀の初頭までに、誘導居住水準を超える世帯の割合を5割程度まで持っていきたいと考えています。
そのため、現在、都内には25万戸を越える都営住宅があり、約70万人が入居していますが、今後とも都営住宅や都民住宅といった公営住宅の供給の円滑な供給を図っていきたい。
また、東京の住宅の9割を占める民間住宅に対する建設助成など、良質な民間住宅の供給支援などの施策も行っていく方針です。
――高齢者への対策も必要ですね
篠木
そうです。高齢化といった問題は無視できません。
東京における高齢化は、全国を上回る速度で進行しており、2015年には、4人に1人が65歳以上の高齢者になる超高齢者社会を迎えると予測されています。
こうした超高齢者社会を迎えるに当たって、高齢者や障害者の人々が住み慣れた地域で安心して暮らしていけるような住宅を確保していくことが重要になります。
そのために、東京都では、シルバーピアの建設を積極的に進めるとともに、終身利用権付きケア付き住宅の供給なども行っています。また、住宅のバリアフリー化について、「加齢対応型住宅ガイドブック」の作成、住宅建設資金の融資あっせんなどを行い、その普及に努めているところです。
しかし、現在の住宅ストックはまだ十分とは言えず、今後、より強力に高齢社会に向けた住宅政策を推進していく考えです。
――都心部における人口の減少に対しては
篠木
地価の高騰などによる影響で、区部における人口は減少傾向にあります。特に、ファミリー世帯は、最近の10年間で約1割が減少しています。
特に、都心においては、人口の減少が顕著であり、高齢者に偏った人口構成、地域の活力の低下、コミュニティの崩壊などが深刻な問題となっています。
都心居住の推進ということは、今後の東京の均衡ある発展を確保していくためにも必要であり、都心居住の実現が重要であると考えています。
昨年7月には「大都市法」が改正され、都心地域に「良質な中高層の共同住宅を供給」することを目的とする「都心共同住宅供給事業」が創設されました。東京都では、環状7号線の内側を「都心居住推進地域」として、「都心共同住宅供給事業」の推進を図っているところです。
今後とも、都心共同住宅供給事業を中心に、地区計画制度・総合設計制度などの活用、都営住宅や都民住宅の重点的な供給などにより、都心居住の推進を図っていきたいと考えています。
――臨海部の開発については
篠木
はい、臨海副都心開発においても、潤いと快適性に満ちた都市型居住の場の創造を目指した住宅供給を進めています。
都、東京都住宅供給公社、住宅・都市整備公団の三者が臨海部のお台場に建設した住宅は、利便性と快適性を兼ね備えた未来型の住宅と言えると思います。
木造住宅密集地域の整備プログラムを策定
――防災面については
篠木
先の阪神・淡路大震災では、老朽化した木造住宅が倒壊し、多くの生命と財産が失われました。東京においても、山の手線の外側、また中央線沿線を中心に約70万戸の木造賃貸住宅が建てられており、防災上の問題となっています。
東京都地域防災計画では、関東大震災級の地震により、木造住宅密集地域を中心に延焼が広がり、区部では、約4分の1が焼失すると予測されています。
これまでも、災害に強いまちづくりを目指して、木造住宅密集地域の整備促進を図ってきたところですが、木造住宅密集地域の整備は、複雑な権利関係の調整、地権者の高齢化など、事業を進めていく上での困難な点も多く、必ずしも順調には進んでいないというのが現状です。
こうした中、昨年9月には、関係局と関係区市により「防災都市づくり・木造住宅密集地域整備促進協議会」が発足し、3月には、「防災都市づくり(基本計画)」を策定しました。
現在、木造住宅密集地域の具体的な整備プログラムを策定中ですが、いずれにせよこの事業は緊急を要する問題であり、都としては、関係区市や国と十分に協議しながら、住民の方々と一体になって事業の促進を強力に進めていきたいと考えています。
――今後の住宅政策の長期計画と進め方については
篠木
東京都では、住宅マスタープランに基づき、総合的な住宅政策を行ってきていますが、本年度がマスタープランの改定年度に当たっています。この間、バブル経済の崩壊、阪神・淡路大地震の発生など社会経済情勢も大きく変化しました。
現在、改訂作業を進めていますが、改定にあたっては、良質な住宅の着実な供給を確保することと併せて、これまで述べてきた高齢社会対応、都心居住の推進、木造住宅密集地域の整備といった課題を、東京という地域の中でどのように解決していけばいいのか、その道筋を明らかにしていきたいと考えています。

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