interview (建設グラフ1997/1)
住民参加の街づくりを推進
特養待機者ゼロ、寝たきりゼロ、ゼロ歳児保育園待機者 福祉対策3ゼロ作戦に3年間で250億円
東京都世田谷区長 大場啓二 氏
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大場 啓二 おおば・けいじ |
大正12年生まれ、日大法学部卒 |
昭和15年東京市経済局に勤務 |
昭和18年世田谷区経済課 |
昭和30年農務係長 |
昭和35年広報係長 |
昭和38年世田谷区議会事務局長 |
昭和50年世田谷区長に当選 |
昭和現在6期目 |
主な兼職 |
特別区区長会会長、エイトライナー促進協議会会長、東京都自然環境保全審議会委員、東京都卸売市場審議会委員 |
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世田谷区は都内でも有数の住宅都市として知られる。現在の人口77万人余は23区のトップを誇る。三軒茶屋に続いて二子玉川でも再開発事業が計画されているほか、私鉄小田急線の高架方式による複々線化が具体化し、駅前広場の整備など都市の再整備が着々と進む。世田谷区といえば住民参加型の街づくりに先駆的な役割を果たしてきており、大場区長の行政手腕は高く評価されているところ。世田谷区の現況と課題、高齢化に対応した福祉対策などを聞いた。
人口77万4千人の住宅都市
- ――世田谷区の現況を伺いたい
大場
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世田谷区は23区中で最も人口が多く、現在、77万4千人を数えます。ピーク時には80万人を記録しましたが、都心部に比べて人口の減少率は低いほうです。
世田谷の特性を簡潔に表現するなら「自然や緑の環境資産に恵まれた住宅都市」で、個性的な商業・文化の拠点が形成されています。行政面積は5,800ha。かつては最大でしたが、羽田空港の沖合展開事業で大田区に抜かれました。
しかし、戦後になって基盤整備が手付かずのまま急速に人口が増大した環状7号線の内側は、住宅が密集していますが、その半面、環状8号線の外側にはいまなお農地が残っていて市街化が進行しているなど、それぞれに際立った特性があります。
特に環状7号線の内側は消防自動車も通れない地域があるため、街づくりの再整備に取り組んでいるところです。
北沢3、4、5丁目や太子堂2、3丁目については、私が区長に就任して間もない昭和50年代前半からスタートしました。この再整備は単なる再開発ではなく、住民参加型の方式を採用しており、関係住民との話し合いを進めながら実施しています。生活道路や公園が整備され、住民から喜ばれており、住民参加型の街づくりとしては先駆的な役割を果たしてきたものと自負しています。
街づくりは、住民との『パートナーシップ』が重要です。世田谷はその点を特に重視していますので、住民との間で大きなトラブルはありません。
二子玉川で再開発事業に着手
- ――太子堂三軒茶屋で再開発が進んでいるほか、二子玉川の再開発も控えているようですが、再開発についての理念をお聞かせください
大場
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拠点開発ですから組合方式で実施することになっています。二子玉川は重要な商業地域で、地理的にも東京と神奈川が一体となって取り組まなければならないと思っています。本年度中に実施に向けての諸手続きが完了する見通しです。
三軒茶屋は東の玄関口であるのに対し、二子玉川は西の玄関口ですから、自立都市をめざす上からも百年の大系に立って取り組む覚悟をしています。
- ――三軒茶屋に区の事業として劇場が完成しましたが、どのような発想で劇場を計画したのですか
大場
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これは、演劇中心の劇場で、600席と200席の二つの劇場と稽古場などからなっています。ただ単に貸しホールとして運営するのではなく、区としても自主事業を積極的に展開していく考えです。
もう、15、6年になりますが、下北沢に本多劇場がオープンしました。この劇場が一つの起爆剤になって下北沢が大いに発展したのは周知の通りです。若い人が集まるようになり、街に活気が出てきたわけです。三軒茶屋についても、そうした街の活性化を狙って劇場を設置したわけです。
- ――文化施設が出来ると街のパワーアップにつながりますね
大場
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そうです。世田谷と隣接している渋谷には訪問客があふれて行き場がない状態なのです。そこで、渋谷から世田谷の246沿いに二子玉川へつなげようという構想なのです。その中継点として三軒茶屋の開発を位置付けています。
その他、高架化方式で小田急線の複々線化が予定されていますが、世田谷区内に6駅があるので、駅前広場の整備が大きな仕事になります。10ヶ年くらいの事業になるでしょう。
寝たきり防止対策にデイ・ホーム30か所設置
- ――高齢化対策も重要では
大場
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現在、特別養護老人ホームの待機者が400人いますが、待たずに入所できるように3年計画で待機者ゼロ作戦を始めたところです。最近、100人定員の特別養護老人ホームが完成しましたが、この3年間に区の特養をさらに2つ設置する予定です。
一方、寝たきりゼロ作戦にも取り組んでいます。区内に30か所のデイ・ホームを設置しますが、弱りかけたお年寄りをバスで送り迎えし、一日ホームでゆっくりと過ごしてもらい、仲間づくりを進めています。現在、建設中も含め25か所のデイ・ホームが出来つつあります。
さらに女性の社会進出が進み、子どもを生みたくても生めない状況があるので、ゼロ歳児保育園待機者ゼロを目指して、整備を進めています。
これらの三つのゼロ作戦では平成8、9、10年度の3年間に、合わせて250億円の予算を措置するつもりです。うち、本年度はゼロ作戦に80億円を計上しました。
- ――福祉にはやはりそれほどの力を入れていかなければならないのですね
大場
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最近も豊島区で病弱の母子が餓死して発見されたケースがありましたが、福祉の分野は放っておくわけにはいかない現実があるのです。その意味で、職員の意識改革も進み、積極的に対応してもらっています。
また、一人暮らしのお年寄りに対する給食サービスを昨年から始めましたが、現在、ボランティアの協力を得て毎日900食を配給しています。これは、人口80万人規模の都市では画期的な試みと自負しています。
- ――人口80万人の都市となると、政策課題も多岐にわたりますね
大場
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政令指定都市に負けないくらいの仕組みを考える必要がありますので、地域を五つに分けて、地域行政制度を設けています。つまり、区役所を五つ設置したようなもので、ほとんどの仕事は支所で対応できるよう権限を委譲しています。
住民に『打てば響く行政』を目指しているところですが、『安心して相談できる』と住民からも好評です。これはいわば、『内なる地方分権』といえるでしょう。
被災者救出に工具類を配布
- ――ところで防災対策にはどのように取り組んでいますか
大場
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阪神・淡路大震災の生々しい教訓を生かし、まず住民の防災意識を高めることが大切です。啓発という意味では、被災した際の避難生活を実際に体験してもらったり、区内27出張所ごとに防災訓練を実施しています。
戦時中の隣組制度はイメージがあまりよくないのですが、隣り近所同士で助け合う気持ちが必要だと思います。そこで被災者を助け出すのに欠かせない道具としてジャッキやノコギリ、バール、可搬ポンプなどを地域単位に配布しています。
飲み水については十分に備蓄しています。現在、2か所に1,500トンの貯水槽を設置しているほか、約100か所の小・中学校のプールにろ過器を配置しています。今後は区内の大学にも呼び掛けてキャパシティーを高めようと考えています。井戸についても『契約井戸』として区が所有者と協定を結んでいます。
エイトライナー構想の口火を切る
- ――最後にエイトライナー(環状地下鉄)の取り組み状況を聞かせてください
大場
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エイトライナーの口火を切ったのは世田谷区なのです。都内の交通網は都心部から放射状に広がっており、南北の路線がないのです。
最初はモノレールを考えていました。沿線5区(大田、杉並、練馬、板橋、北)に働きかけ調査・研究を進めてきた結果、地下鉄がいいということになり、平成5年に沿線6区で、羽田空港から赤羽駅を結ぶ環状鉄道として「エイトライナー構想」を発表しました。
8年度中に東京都の調査結果がまとまるので、国の運輸政策審議会に向けて誘致運動がいよいよ本格化するところです。
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