interview (建設グラフ1996/3)

人々が「ともに生き、集う」生活都市・新宿

摩天楼と繁華街で人が住む都市づくりに奮闘

東京都新宿区長 小野田 驕@氏

小野田 驕@おのだ・たかし
大正12年生まれ、千葉県出身
昭和24年慶応大経済学部卒
昭和24年第一信託銀行(現・第一勧業銀行)入社
昭和26年小野田石油(株)に入社
昭和27年有限会社天春代表取締役就任
昭和32年小野田石油株式会社代表取締役就任
昭和52年東京都議会議員初当選
昭和56年東京都議会議員2期目
昭和60年東京都議会議員3期目
平成元年東京都議会議員4期目
平成3年東京都議会議員辞職、この間、東京都監査委員、全国監査委員協議会会長、都議会財務主税委員長、自民党副幹事長、政調会長代行等歴任
平成3年4月東京都新宿区長初当選、小野田石油株式会社代表取締役退任
平成7年東京都新宿区長2期目
その他、昭和30年東京都石油商業共同組合理事就任、その後副理事長を歴任、現在顧問
新宿といえば、思い出すのは東京都庁舎に象徴される西口の超高層ビル群か、歌舞伎町の歓楽街だ。大都会の冷たいイメージとネオン街の誘惑に満ちたイメージが先行する。だが、それは一部のことで実際には住宅地も多く、地場産業の中心となっているのは染色業、印刷製本業で、また、文豪・夏目漱石に代表される近代日本文学の発祥の地でもあり、文化性の極めて高い地域だ。小野田隆区長に、地域の特色とまちづくりの理念、地域の整備事業などについて語ってもらっ
――新宿区は大都会のイメージが強いのですが、意外な顔もあるようですね
小野田
新宿区は、新宿駅西口の都庁舎を中心とした超高層ビル群のイメージで語られることが多いと思います。時代の先端を駆け抜けてはいますが、よそよそしくて冷たいコンクリートジャングルの都会というとらえ方をされるのかもしれません。確かにこの区は、80万人を越える昼間人口を擁し、新都心の区域には100メートル以上の超高層ビルが23棟もあり、そのスカイラインは日本を代表する景観になっています。しかし、その足元には27万人もの多様な人々が生活するまちが広がっているのです。
新宿区は、実は住居系の用途地域が60%を占める区で、落合地域では、第1種住居専用地域が指定されており、新都心から3、4キロも離れれば良好な低層住宅地が展開されています。落合の低層住宅街は、昭和の初期から林芙美子や佐伯祐三など作家や画家が多く居住し「落合文士村」と呼ばれた文化の香り高いまちです。また、豊島台地の斜面には、牡丹の花で有名な「薬王院」など、多くのみどりによる斜面緑地が残されており、現在でも緑の多いアメニティ豊かな住宅街です。
また、新宿は近代文学発祥の地と言われるように、怪談の小泉八雲、文豪・夏目漱石や寛一・お宮の「金色夜叉」で知られる尾崎紅葉、「高野聖」、「天守物語」など美文で知られる泉鏡花、その他、坪内逍遥、島崎藤村、永井荷風、北原白秋などの多くの作家が住んでいたまちで、淀橋台地の端にある神楽坂は、山の手の繁華街として賑わったところですが、現在でも路地や街並みのたたずまいに、江戸から受け継がれた雰囲気、気配が残っており、ヒューマンスケールな職・住・遊のまちになっています。
その他にも、新宿御苑などの大規模公園や国立競技場、神宮球場のある神宮外苑も新宿区です。
――これだけ密集した地域では、反面、地域の整備事業や再開発事業が進めづらいなど大都市特有の課題もあるのでは
小野田
新都心としての繁栄の影の部分といってもよいかもしれませんが、オフィスなどの業務系施設の住宅地への浸食による定住人口の減少が大きな課題となっています。また、新都心の周辺やjr山手線沿いに道路基盤が弱く、平均敷地規模の小さい地区が連たんしていて、まちづくりの必要性の高い地域が広がっていますが、バブル経済の崩壊に伴うオフィス需要の減退や地価の下落は、区が支援しているまちづくりにも深刻な影響を与えており、再開発事業などの進捗が阻害されているのが現状です。
都市基盤の関係では、新宿駅は1日に300万人を越える乗降客数があり、ラッシュ時の混雑は激しく施設的にも限界といってよい状態だと考えています。また、区内には、バスしか利用できない交通利用の不便な区域も存在しています。新宿駅の混雑を緩和し、交通利用不便地域を解消する公共交通の整備が必要です。
質の高い風格ある成熟のまちづくりへ
――まちづくりにはどんな理念を持っていますか
小野田
まちづくりの目標は現在、見直し中ですが、新宿区基本構想には「新宿ともに生き、集うまち」というキャッチフレーズがあり、これをまちづくりの面から表現したものとして、現在策定中の新宿都市マスタープランに「生活都市=新宿」というコンセプトがあります。
生活都市といえば、青島都知事も先頃まちづくりの基本として、「生活都市・東京」を打ち出しましたが、区では昭和63年10月に策定した「新宿区都市整備方針」で「生活都市=新宿」を掲げ、まちづくりを進めてきたところであり、現在策定中の「都市マスタープラン」でもその考えを継承していく方針です。
この「ともに生き、集うまち」、「生活都市」を実現するためには、バブル経済の崩壊でまちづくりには逆風が吹いてはいますが、この機会に従来の右肩上がりの成長型まちづくりから“質の高い風格ある成熟型のまちづくり”へと転換していきたいと考えています。そして、定住とやさしさをその基調にしていきたいと考えています。新宿区を将来的にも業務中心の都市ではなく、人が住む都市としての都市構造を維持発展させ、高齢者や障害者をはじめとするすべての人にやさしいまちをつくっていくという、身近な生活を優先させるまちづくりを進めていきたいと考えています。
また、まちづくりの主人公は地域に住んでいる区民であることを理念にしたいと思います。地域に住んでいる一人ひとりの区民に参加と責任が求められており、区民と事業者と行政の三者の協働によりまちづくりを進めていくという、地域参加のまちづくりを重視していきたいと考えています。
地下鉄12号線新設で利便性向上豊島・渋谷と手を組み13号線実現へ
――その理念に基づき、地域の再開発はどのように行われていますか
小野田
再開発事業は、新宿駅周辺の新都心地域に多くありますが、現在、「西新宿六丁目西第一地区」で再開発事業が行われています。この計画は「みんなが住みつづける街をめざして新都心にふさわしい都市環境の創出を図ること」を目標に実施されているもので、高さ80メートルの住居棟と高さ130メートルの事務所棟や区画街路、公開公園などの公共施設を整備しています。
また、特定街区制度を利用し「東京オペラシティ・新国立劇場」の整備が進められています。新国立劇場と東京オペラシティを一体的に整備することにより、「舞台を中心とした芸術文化のセンター」を創造しようというもので、新国立劇場とともに、高さ239メートルの事務所棟も整備しています。
さらに、新宿駅南口周辺では、渋谷区が大部分となりますが「jr・小田急共同ビル」が、高さ150メートルのビルを整備中で、「新南口rcビル」は超高層ではありませんが、高島屋を主要テナントとして整備中です。
都市計画決定段階のものでは、「西新宿六丁目南地区」と「北新宿地区」があり、事業化へ向けて推進中です。「北新宿地区」は、都市計画道路との一体的整備を図る東京都施工の第2種市街地再開発事業で、新都心周辺の交通渋滞を解消するとともに、複合的な市街地整備を図るというものです。
また、「北新宿地区」に隣接する「西新宿8丁目成子地区」では、再開発の準備組合が設立され、都市計画決定へ向けて活動中です。「西新宿五丁目中央地区」や「西新宿三丁目西地区」でも再開発へ向けて検討されています。
その他の地域でも様々なまちづくりが行われており、推進地区として位置づけられている地区が実に22もあるわけです。実際にまちづくりが着手されている地域としては、地域プロジェクト的なものとして、「百人町三・四丁目地区」があります。この地区は広域避難場所を含む地区で、いつ新宿を直下型地震が襲うとも限らないので、災害時には57,000人の避難を想定し、防災拠点として都市防災不燃化促進事業により、建築研究所跡地を中心に公園や道路、住宅の整備を進めています。
また、国の「密集住宅市街地整備促進事業」を6地区で実施していますが、特に「若葉・須賀町地区」については再開発地区計画により、公共施設整備と共同化を位置づけ、まちづくりを実施中です。
――区で進めている基盤、公共施設などの整備事業では
小野田
現在、着手しているものとしては、「補助72号線」があります。この路線は、jr山手線沿いに新宿と高田馬場を結ぶ路線であり、「アーバン・プロムナード」として、ゆったりとした歩道や、豊かな緑を配置し、区内の南北交通を補完する道路として、魅力ある歩行者空間をもった整備を考えています。
ただ、この「アーバン・プロムナード」という名称については、区民から横文字でどういう意味なのか分からないとの苦情があり、これに代わる適切な日本語名を検討しているところです。
公共施設では、特別出張所が区内に10ヶ所あり、それらを区民センターとして順次整備中です。現在は「四谷」「若松」「落合第一」がそれぞれ整備中で、地域のコミュニティ活動の拠点として位置づけています。
また、東京都では都営地下鉄12号線を整備中で、これは練馬区の「光が丘」から新宿までの放射部と地下の山手線とでも呼ぶべき環状部で構成されているものです。区内には駅が12ヶ所も整備され、これまでjr新宿駅へのアクセスが不便だった地域に整備が進められており、これら地域の利便性向上に大きく寄与するものと考えています。
さらに、営団地下鉄丸の内線の新宿駅と中野坂上駅の中間に新駅として「西新宿駅」が整備されます。新都心地域の交通の利便性を向上させ、新宿駅の混雑を緩和するものと期待しています。
今後の整備を予定しているものとしては、一つは「営団地下鉄13号線」があります。これは計画路線としては埼玉県志木から池袋、新宿、渋谷を結ぶ路線で、新宿区内は、明治通りの下を通る路線です。現在は志木から池袋までの区間しか運行されていません。池袋、新宿、渋谷間については、運輸省の認可が得られないのです。新宿区としては、新宿駅の混雑緩和のためにもその早期の建設を目指して、豊島区、渋谷区と連携して運動しているところです。
もう一つは、「新宿駅東西自由通路」です。新宿駅には、地下鉄のメトロ・プロムナードを除くと小規模な地下道が1ヶ所あるだけであり、駅による東西の分断を解消し、新宿駅周辺の回遊性を確保するため、地下及びデッキレベルでの歩行者通路の整備を促進していきたいと考えています。現在、実現へ向けた調査・検討を実施中です。
――最近、まちづくりの手法は、どこの自治体でも首長がリーダーシップを発揮し個人的な理想像を具体化すべく行政主導型で、というパターンから「地域参加」、「住民参加」、「住民との対話重視」といった民意をかなり尊重した手法へと変わってきましたね
小野田
まちづくりの現実は、難しい問題をたくさん抱えていると私は考えています。まちづくりの計画に対しては、どうしても総論賛成、各論反対という現象があると思います。住民合意をどうやってつくっていくのか。非常に時間と手間のかかる仕事であるわけです。
私としては、手続きを大事にして、労を厭わずに、住民の方と一緒に汗をかき、知恵をだしあってまちづくりを進めていきたいと考えています。

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