interview(建設グラフ1996/3)

地域密着性が高まる郵便局、建築技術も多様化

建築技術のトータルコーディネーター養成が課題

郵政省官房建築部長 野々村 俊夫 氏

野々村 俊夫 ののむら・としお
昭和16年6月27日、東京都出身、東京理科大学工学部建設学科
昭和41年郵政省入省
昭和49年簡易保険事業団課長補佐(出向)
昭和53年近畿郵政局建設部設計課長
昭和56年大臣官房建設部設計課主任建築技術官
昭和59年吸収郵政局建築部長
昭和61年近畿郵政局建築部長
平成元年大臣官房建設部設計課設計企画室長
平成 4年同設計課長
平成 6年同参事官
平成 7年大臣官房建築部長
郵政省の末端にあり、貯金の出納、郵便物の受け出しなど郵政事業の現業部門をあずかる郵便局は、古くから地域住民の拠り所として親しまれてきた。全国どこの市町村にもあり、気軽に利用できる利便さはまさに空気や水のようにいわばライフラインとして国民の生活に根付いている。今後は地域のコミュニティーセンターとして、あらゆる機能の多角化と同時に一層、地域との密着度が高まっていくことが予想される。しかも最近では、各地域自治体の首長が地域特性を生かしたまちづくりを目指し、都市景観にもかなり配慮するようになった。これに合わせて局庁舎の建築工法も多様になってきており、地域から歓迎されている。だが、全国郵便局の設計・建築を担う郵政省の野々村俊夫建築部長は、「行政機関の庁舎は業務を象徴するもの」として、安易な地域政策の追従には警鐘を鳴らしており、また建築技術の高度化は同時に技術の細分化ももたらし、このため技術のコーディネーターという新しい専門職を必要とする時代に入った。これに合わせて同部長は組織の見直しにより、全ての建築技術を統合的に監理できる人材の養成に着手する考えだ。今後ますます多様化していく地域の要望にどう対応していくか、野々村部長に郵便局のあり方とそれに対応した建築技術などについて語ってもらった。
――郵便局の建築工法の変遷などについてお聞かせ下さい。
野々村
郵便局は昭和40年代までほとんど庇つきの新壁構造のデザインでした。当時は近代建築の真っ盛りで、全国の郵便局は一律に同じ手法で同じデザインで建設していたのです。これは、地方都市で市庁舎や県庁舎、町役場などを作る場合も同じでした。いわばシビルミニマムといって現代のように豊かな時代ではありませんでしたから、最小限度の投資で、装飾のない、打ち放しの建物が作られてきたわけですが、郵政省の建築も事情は同じだったのです。
それが、昭和50年代に入って庇がなくなってきました。これは、アルミサッシが発達し、庇がなくても、あまりサッシが腐らなくなってきたことや、土地の取得が非常に難しくなり、敷地の境界線まで建てなければ所期の面積がとれないため庇がつけられなくなってきたといった、様々な理由があったのです。しかし、反面では、全国一律に類似の庁舎を作って郵政事業を展開していくという従来の姿勢が、少しづつ変わってきていたことも反映しているのだと思います。
安易な地域特性への追従は疑問
――最近は、各市町村とも個性的なまちづくりをしており、地元自治体の庁舎もかなり独創的になっています。そこで、郵便局の設計においても特別に留意していることは
野々村
確かに最近では、全国各地でまちづくり、村おこしが盛んで、ローカル・アイデンティティーという言葉がありますが、各地の市町村が地元の風土や歴史、個性などを育んでいこうという気運が盛り上がっています。このため地域性がまちづくりの前面に出てきているのです。
また、昔に比べて内装材、外装材とも色、形、材質など種類が豊富になり、非常に多様化しています。従ってそれだけ表現方法も多様になってきました。
このため郵政省の建築も、そうした地域事情などに歩調を合わせ、地域のルーツをどのように地元と協力して育んでいくかをテーマに考える郵便局がでてきました。
しかし、私としてはこの傾向について若干、懸念していることもあるのです。例えば、「蔵づくりの家」をまちづくりのキャッチフレーズにした地方都市があります。そこでは歴史的に蔵づくりの建築様式が特徴的だったので、新しく建てる建物は全てそれをテーマにし、それをデザインのコンセプトとしていました。そのため、郵便局も同様に蔵づくりにしてほしいとの要望を地元から受けたので、その様式にしたがって建てたのです。
ところが、その結果、郵便局もパチンコ店もゲームセンターも全てが蔵づくりという様式が貫かれ、非常にフラットで画一的なまちの景観となっているのです。このため建て替えられた郵便局を訪れた人が、てっきり郵便局が廃止されて違う店舗ができたものと勘違いしたというエピソードがあるのです。
現行の街造りは、場合によっては街全体を一つの色に染め上げてしまう、全くフラットな街をつくってしまう方向に傾いていると思います。都市には自らヒエラルキーがあってよいのであって、公共サービス施設の郵便局のあり方も一律に民間の建物と同じでよいとは考えていません。
――施工方法についてはどうでしょうか
野々村
最近は施工にかかる業務も細分化されており、しかも、個々の技術が高度化しています。
一つの組織で、建物を造り上げる全ての技術を持っているような組織には考えにくい。
これは官庁営繕も同じで、かつては官庁営繕があらゆる技術について高いレベルにあったと言ってよいが、現在では個々のテクノロジーは、我々の組織の外側にあります。我々の持つべき技術は、個々に分散し高度化し複雑化している技術をコントロールして総合化することだと考えています。そこで、今後は管理課、設計課、設備課、施工課と分かれている部内の機構を統廃合し、設計から施工までを一貫して把握し調整する組織の再編を考えています。

地域のコミュニティーセンター情報センターとして
――今後、郵便局が地域のコミュニティーセンターとして機能が多角化されることは考えられますか
野々村
郵便局はたとえ他の行政機関がなくても全国どの市町村にもあり、全国的なネットワークになっています。郵便局の基本的役割は物流・情報・ストックの3つですが、これらの機能は地域の人々にとってはコミュニティーセンターの役割と言ってもいいものです。しかも、最近では地域自治体に代わって住民票などの送付サービスを扱うところもあります。従って、今後は郵便局のスペースをオープンにし、多様なサービスを提供していくコミュニティセンターあるいは情報センターとして機能していくことも考えられるかもしれません。今後の機能の多角化については、業務担当課で検討すべき課題ですが、地域のコミュニティーセンターとの合築や、他の機能を併設するために必要な建築上の技術的な対応も可能です。
――この数年は大規模な地震が相次ぎ、建築物の耐震性や、防災体制がとかく話題になりますね
野々村
阪神大震災では昭和56年の建築基準法施行以後に建築された建物はほとんど損壊しませんでしたが、郵便局は緊急時の通信機能を持っており、庶民の物流を預かるのですから、十分な耐震性能を持っていなくてはならないと考えています。全国に2万4000の局がありますが、そのうち昭和56年の建築基準法施行以前に建てられたものについては耐震点検をする必要があり、補強を行うことが課題です。点検と補強については数年前から行ってきていまして、国費のものはほとんど終わっています。今後は特定郵便局が問題です。
また、阪神大震災では地域の学校などが避難所として機能しましたが、今後、郵便局もそうした災害時の防災拠点として機能することが求められることも考えられます。そのため、局の地下には貯水施設を設けるなどの新たな工夫も必要になってくるでしょう。

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