〈建設グラフ2000年1月号〜2月号〉

interview

環日本海交流の拠点に相応しい県土整備

新潟県土木部長 長澤利夫 氏

長澤利夫 ながさわ・としお
昭和21年12月8日生まれ、北海道出身、東京大学工学部卒
昭和44年 7月 建設省入省
昭和49年 5月 建設省都市局街路課係長
昭和55年 2月 建設省計画局計画官
昭和57年 4月 建設省都市局都市計画課長補佐
昭和63年11月 北陸地方建設局金沢工事事務所長
平成 5年 4月 建築研究所第六研究部都市施設研究室長
平成 7年 4月 建築研究所第六研究部長
平成 9年 4月 現職
新潟県は、越後山脈を背骨に南北に長い地形で、前面には日本海が広がる。国の出先機関が集中する、北陸の中心県で、海を隔ててロシア、韓国に最も近いことから環日本海交流の拠点として期待される。そうした交流拠点に相応しい県土づくりはどのように行われているのか、県の長澤利夫土木部長に、基盤整備や社会資本整備の基本姿勢や現況などを伺った。
――北陸の中心県とも言える新潟では、どのような基本方針で社会資本整備と土木行政を行っていますか
長澤
新潟県では、21世紀の日本海交流の拠点として、県民一人一人が、ゆとりと真の豊かさを実感できる“やさしさと活力に満ちた「ニューにいがた」”の実現に向けて県土の整備を進めているところです。
そのため、活力ある地域社会を形成する道路網の整備や、県民が安全で安心して暮らせる治水対策などの根幹的な社会基盤の整備を進めることを基本としながら、快適で潤いのある都市空間や生活空間を創造するために、公園・下水道・住宅などの整備を進めると同時に、新潟は豪雪地域ですから雪に強いまちづくりを進めています。
特に、21世紀における環日本海交流の拠点として、空港や港とのアクセス道路やそれぞれの地域を結ぶ道路ネットワークの整備を積極的に進めています。
また、インターネットの活用などでアカウンタビリティーの向上を図るとともに、県民ニーズや地域の実情を反映させるため、コミュニケーシヨンを重視した行政を積極的に展開しています。
――最近は都市基盤にも福祉政策が求められるようになりましたね
長澤
平成8年に制定された「新潟県福祉のまちづくり条例」に基づき、高齢者や障害者などが安全かつ快適に地域で生活できるような環境の整備を進めています。
具体的には、段差のない広い歩道の整備や公共建築物のバリアフリー化などの取り組みを進めており、高齢者や地域住民の方々と一緒に街を歩き、交通弱者の視点での道路施設の点検を行うなど、利用者の立場での施設整備に努めています。
――新潟県は災害が多いと聞いておりますが、河川の整備状況はどうですか
長澤
新潟県は海・山・川など、豊かな自然に恵まれている反面、融雪・梅雨前線豪雨・台風などによって多くの災害が毎年のように発生しておりますので、住民が安全で安心して暮らせる地域を造るための「治水」に力を入れておりますが、生活に水を利用する「利水」、人と、自然の調和した「環境」の3つを柱に、総合的な河川整備を進めています。
県内の一級河川は、我が国最長の信濃川をはじめ荒川・阿賀野川・関川・姫川の5水系764河川があり、その総延長は3,628qです。また、二級河川は三面川・加治川・鯖石川・国府川などの143水系394河川があり、総延長は1,538qです。一級河川と二級河川を合わせた総延長は5,166qですが、そのうち県管理の河川延長は4,856qで全国第2位となつています。
これらの河川は、山間地では流れが急で、平野部では人口や資産の集中した低平地が多いことなどから、雪解け梅雨の時期などに洪水が発生しやすく、毎年のように多くの災害が発生しています。
このような洪水による被害を防止するため、福島潟に新たな放水路を建設したり、保倉川・国府川をはじめ各河川では堤防の強化や川幅を広げるなどの事業を実施しており、安全で安心して暮らせる地域のための川づくりを計画的に進めています
また、河川は水と緑にあふれ、多くの動植物が生息・生育しており、人々が自然とふれあえる貴重な空間でもあります。そして、河川は昔から人々に親しまれ、その地域の特色ある豊かな風土と文化を育んできました。
そのため、県では安全な川の機能を確保するとともに、河川が本来持っている生物の成育しやすい環境に配慮して、豊かな自然環境と美しい自然景観を保全・創出するため、「多自然型川づくり」などの事業を進めています。
また、都市河川の水質汚濁対策として、底泥の浚渫や水のきれいな河川からの浄化用水導入など、河川環境の改善に努めています。
――新潟県の海の玄関といえば日本海ですが、海岸線の整備状況は
長澤
新潟県の海岸延長は、北は山形県境から南は富山県境までの340.4qと、佐渡島264.1q、粟島22.3qをあわせて総延長は626.8qになります。
冬季には北西の季節風が吹き続け、日本海側持有の冬季風浪が南北に長い海岸を直撃するため、民家や田畑の流出や鉄道・道路の通行止めなどの災害が発生して、県民の生活が脅かされてきました。また、かつては人々の生活や憩いの場として利用されてきた 砂浜が消失しています。
そこで、海岸護岸や人工リーフなどの海岸保全施設の新設や改良を効率的・効果的に進めています。特に、人工リーフは水面下に石材などで人工的に浅瀬をつくり、波の力を弱める施設ですが、そうした機能だけではなく海岸の環境や景観にも配慮しながら事業を進めています。
――たびたび大雨による被害が発生しているとなると、砂防事業も重要ですね
長澤
新潟県は、地形・地質・気象条件により、土砂災害や雪崩などの災害が起きやすい環境にあります。平成10年8月4日の豪雨による土砂災害は記憶に新しいところですが、平成7年の7・8月の豪雨による大災害をはじめ、過去に大きな土砂災害が多数発生しています。
そのため、砂防・地すべり対策、急傾斜地崩壊対策、雪崩対策を4本の柱として積極的に事業を展開しており、砂防関係の事業費は全国で最も大きくなっています。
県内の砂防指定地は2,351箇所、面積は32,230.5haで、県土の2.6%を占めており、土石流危険渓流は2,548ヶ所となっています。荒廃山地や火山区域からの土砂の流出を防ぎ、土石流災害から人命・財産を守るための砂防施設の整備を積極的に進めています。
また、地すべり危険区域は860ヶ所、面積は58,770haで、県土の4.7%を占めており、そのうち地すべり防止区域は419ヶ所、面積は22,622haとなっています。地すべりは主として新第三紀層が分布する上越・中越地方に集中しており、4・5月の融雪期や7月の梅雨期に地すべりが多く発生しています。そこで、地すべり災害の未然防止を図るため、人家や公共施設に直接被害を及ぼす恐れのある箇所を重点に対策工事を実施しています。
それから、急傾斜地崩壊危険区域は341ヶ所、面積で443haですが、その中で急傾斜地崩壊危険個所は1,615ヶ所で、佐渡・中越地方を中心に広く分布しています。豪雨などに起因する崖崩れを未然に防止するため、人家が多く緊急度の高い箇所を重点に整備を進めています。
雪崩危険個所は1,421ヶ所で全国1位となっています。その対策としては、昭和60年に創設された建設省所管の雪崩対策事業を活用し、警戒避難体制の整備などのソフト対策と併せて対策工事を実施しています。
――ところで、県民生活はもとより経済活動に欠かせない道路網の整備は
長澤
日本海側のゲートウェイとして、その機能を高めるために空港・港湾などの交流拠点と内陸部の主要地域を連絡する高速道路や地域高規格道路などのサ―ビスレベルの高い道づくりを積極的に進めています。
県内の高速道路は、北陸自動車道、関越自動車道新潟線、上越線、東北横断自動車道いわき新潟線、日本海沿岸東北自動車道の5路線があり、その供用延長は平成11年11月現在、383qとなっています。
また、高速道路網と一体となって高速交通ネットワークを構成する地域高規格道路は、現在8路線が指定されております。
一方、県民の生活を支える道路整備としては、個性豊かな地域づくりのための産業・観光を支える道路や中山間地と中心都市の連絡道路など、地域全体の活性化に向けた道路整備を進めています。また、地域が持っている自然・歴史・文化などを活かしながら、花や木を植栽した、潤いと季節感あふれる道づくりを進めています。
――都市施設としては、下水道もいまや欠かせないものですが、整備状況は
長澤
平成10年度の時点で、県内の96市町村が下水道事業に着手し、下水道普及率は平成10年度末段階で39%となっており、県民の約4割が下水道を利用できるようになっています。しかし、古くから農業を中心に発展してきたという歴史性から、下水道の着手が遅れたこともあって、平成10年度の全国平均が58%であるのに比べるとまだ大きく下回っています。
このような現状を踏まえ、下水道の早期普及拡大を進めるため、現在、平成12年度の下水道普及率42%を目標に整備を進めています。
また、近年は環境に対する意識が高まっていますから、処理水を消融雪用水に利用したり、下水処理場から出る汚泥を肥料の原料にするなど、環境への負荷の少ない循環型社会実現への取り組みを進めています。
――雪対策にはどう取り組んでいますか
長澤
冬期における安全で円滑な道路交通の確保は、県民の日常生活や社会経済活動を維持する上で、とりわけ重要です。対策としては、機械除雪を主体に車道及び歩道の交通確保を図るとともに、防雪施設や消融雪施設、流雪溝などの施設整備を積極的に進めています。特に、歩道除雪については、各地域で歩行者ネットワークを設定し、安全な冬季歩行者空間を確保するパイロット事業を実施しており、平成10年度時点で66市町村が取り組んでいます。
また、住宅の屋根雪処理工法や雪に強い市街地のあり方などを盛り込んだ多雪地域住宅計画(克雪タウン計画)を策定し、この計画に基づく克雪住宅共同整備事業を支援しています。特に、雪下ろしからの解放と危険防止に寄与する克雪住宅の普及促進を図るため、特別豪雪地域の53市町村を対象に「克雪住宅普及促進事業」を実施し、克雪住宅の建設に一定の支援を行っています。
――県民のための公共施設は
長澤
教育・文化・スポーツ施設や庁舎など、公共施設の建設に際しては、高度情報化・国際化や高齢化などの社会情勢や地域の歴史・文化に配慮した施設づくりを目指しています。
これまで、新潟高校、長岡運転免許センター、新潟県総合スタジアム(仮称)、県立植物園、県立教育センター情報棟など200件を超える施設整備を実施しており、一部は完成しています。

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