〈建設グラフ1999年12月号〉

interview

近畿地方建設局営繕部の取り組み

建設省近畿地方建設局営繕部長 鈴木正男 氏

鈴木正男 すずき・まさお
静岡県出身。昭和46年北大工学部建築工学科卒
関東地建営繕部建築第二課を振り出しに、大臣官房官庁営繕部監督課施設管理官、関東地建営繕部営繕監督室長、警視庁総務部理事官などを経て、現職
大阪、京都、奈良など、深い歴史を持つ古都を所管する近畿地方建設局の営繕部は、近代的な庁舎建築の整備を進める一方、その歴史に恥じない和風の文化財建築の保存改修等も担当しており、多様な業務を行っている。管内の営繕事業を担う鈴木正男営繕部長は、「コスト縮減などの課題に対応しつつ、関西の誇る歴史資源を活用した地域づくりを応援していきたい」と語る。
――政府機関の営繕事業は、単に公務施設や割安な国民サービス施設を建築するだけでなく、営繕行為自体に政策が込められていますね
鈴木
そうです。特に21世紀に向けての近畿圏の社会資本整備の基本方向としては、「安全快適な地域の形成」、「文化・学術の継承と創造」、「環境と調和した地域の形成」、「新たな活力の創出に向けた地域整備」、「多様な連携・交流による活力ある地域の形成」という5つの方向が提唱されています。
平成11年度は、これらの方向に向けての歩みを大きく進める年度といえます。
――近畿地建として現在、進めている建築事業について、個々に特長や詳細をお聞きしたいのですが
鈴木
この夏に神戸防災地方合同庁舎が完成しました。この庁舎は阪神・淡路大震災の復興が進む中、免震構造の採用、防災型太陽光発電システム、海水淡水化装置等の各種防災施設を備えていることで注目されています。また、神戸における震災復興後のシンボルと同時に防災拠点施設ともなります。
一方、兵庫県の三木震災記念公園に整備される、実大三次元振動破壊実験施設の関連施設も実施設計中です。先の大震災の教訓を踏まえた施設整備が着々と進んでいるといえます。
その他、既存施設の耐震レベルの向上、防災拠点施設の整備の促進とともに、危機管理のためのシステムづくりにも取り組んでいきたいと考えています。
――最近、全国の自治体はみな「福祉のまちづくり」を、条例化して進めています。確かに、従来のまちづくりは、健常者や実社会に現役で活躍する人々のためのまちづくりでしたが、国としての取り組みは
鈴木
もちろん、私たちもバリアフリーの実現を目指した施設整備を推進してきているところですが、特に本年は国連・障害者の10年記念施設(仮称)の施工が本格化します。これは「国連障害者の十年にふさわしいシンボル」、「福祉のまちづくりのモデル」として豊かな福祉社会の実現のための拠点施設として整備されます。
――ところで、首都が東京であることから、全てにおいてナショナル・スタンダードを東京に求める傾向がありますが、近畿という地域の歴史性などを考慮した場合、近畿らしさをどう具現しますか
鈴木
歴史文化の集積圏である近畿における各種文化・学術関係の施設整備は営繕部の重要な役割です。京都国立博物館百年記念館(仮称)の実施設計の着手、京博本館の改修のほか、奈良博物館文化財修理所の整備にも着手しています。
また、文化・学術の向上に大きく寄与する事が期待される国立国会図書館関西館(仮称)や国立国際美術館の施工が本格化するほか、奈良国立文化財研究所資料棟の整備も行われ、文化・学術の継承と創造に寄与する施設整備が促進されます。
一方、和風迎賓館の整備は国際交流のシンボルとして今後の着工が期待されており、準備としての埋蔵文化財調査を継続しています。
完成すれば東京・港区の赤坂迎賓館に次ぐ国の迎賓館が誕生するわけですが、京都市内に建設され、国公賓を日本的なしつらいでもてなすことにより、日本文化を国際的に広く紹介する拠点として活用されることが期待されています。
――ところで、地元にとって見逃せないのは、政府機関の地域の拠点化にともなう人口の移動、集中という現象でしょう
鈴木
確かに、官公庁施設は、都市の中核的施設としての街づくりのための重要な要素と言えます。ですから、地方公共団体との連携による街づくりを推進し、地域の活力の創出に寄与していかなければなりません。
シビックコア制度を活用した整備や中心市街地活性化に寄与する官庁施設の整備を積極的に進める必要があります。このため、市町村の街づくり委員会などへの参加を一層推進し、地域との連携を図っていかなければなりません。
――地球温暖化の危機が叫ばれ、環境問題への関心が急速に高まっています。地球温暖化に関する建築関連分野の影響は非常に大きいと言われていますが
鈴木
現在、建築が進んでいる敦賀第2合同庁舎は、建築分野における環境保全対策の模範を目指す環境配慮型官庁施設(グリーン庁舎)のモデル庁舎とされています。グリーン改修の促進と共に環境の保全・向上を図っています。
現在、わが国では地球温暖化防止に向け、官民をあげてその対策に取り組んでいるところです。その一環で、昨年に建設省官庁営繕部では環境負荷の少ない官庁施設の整備を目指して「環境配慮型官庁施設計画指針」(「グリーン庁舎計画指針」)を策定しました。この「グリーン庁舎計画指針」に基づいて設計された官庁施設は、現行の技術基準に基づいた場合に比べ、地球温暖化の主原因であるco,排出量を最大30%削減させることが可能とされています。
――営繕にかかる業務の合理化に向けては、どんな工夫をしていますか
鈴木
大阪第5地方合同・法務総合庁舎新築工事では、実証フィールド実験も行われており、現場における「情報の共有」を情報の電子化で試行するという、従来の工事には無かった難しい課題もあります。
現状では、提出書類の多くは監督職員の押印が必要であり、検査時の対応も工事検査官との協議が必要です。発注者としては押印の省略を念頭に入れ、実施規定などの見直しを検討し、将来の建設cals本格導入に備えるべきだと考えています。
電子メールの利用も、一対一もしくは一対多の比較的データ量の少ない情報交換では有効ですが、会議の議題の事前検討など、多対多の情報交換には、インターネットでの仮想事務所の利用も検討していく方針です。
cadデータの相互利用については、市場を考えるとソフトウェアの限定は難題であり、将来にわたって陳腐化しない標準形式の開発が待たれるが、現場内では更新データを常に共有し、情報の最新化を心掛ける必要があります。
デジタルカメラによる工事写真管理についても、その証拠性の担保を確立し、写真管理ソフトを活用してディスプレイによる検索、確認を試行したいと思っています。
近年は全産業が情報化を推し進めており、この流れに建設産業も遅れずに乗っていかなければなりません。現場では試行錯誤しながらも、現実的に出来るものから電子情報化し、関係者全員がスキルアップを目指しています。そしてこの経験が2002(平成14)年からのフェーズ3で、他の現場へ水平展開できれば十分に意義あるものと考えています。
――官庁施設は各地で整備されていますが、地方自治体との連携等、地建としての取り組みは
鈴木
官庁施設整備において、社会的要請への対応、都市特性、地域要素などを把握し、計画に反映させるとともに、地方自治体の行う街づくりをはじめとする行政施策・事業計画との調整・連携を図り、地域や住民の視点にたった効率的・効果的な整備が求められています。
このため、第一段階として、地域の実態調査を、庁舎整備計画作成の基礎データとして活用するため、広範囲の市町村を対象に実施しているところです。
――現在、地建では営繕事業の長期計画を策定中でしたね。主要なテーマはどんな項目となりますか
鈴木
新しい長期営繕計画では、近畿圏における施設整備の需要把握、整備方針の確立と、まちづくりの観点からの見直しや再評価を行い、今後10ヵ年の整備計画を策定することとしています。確固とした方針のもとに、長期的見通しに立った営繕業務を確立していきたいと考えています。
また、営繕業務の基本課題として施設整備の合理的・効率的な実施に対する取り組みがあるわけですが、コスト縮減に効果が期待される設計veの積極的な導入を図ると共に、建設リサイクルの推進、入札・契約手続きの透明性・公共性の確保、アカウンタビリティーの向上など社会の要請に応えた営繕事業を今年度も一層、推進していくことにしています。

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