<建設グラフ1997年4月号>

interview

建設コスト削減や環境に配慮した新技術を研究開発

災害対策用ヘリコプターを導入し、防災活動にも対応

北海道開発局建設機械工作所長 熊井敬明 氏

熊井 敬明 くまい・のりあき
昭和16年10月24日生、41年武蔵工大工卒
昭和48年機械工務課試験係長
昭和51年建機建設監督官
昭和53年帯建企画課長補佐
昭和54年帯建機械通信課長
昭和55年札建機械通信課長
昭和58年局機械課長補佐
昭和61年建設省建設経済局建設機械課付
平成元年建機建設監督官
平成 3年建機次長
平成 5年局機械課長
平成 7年6月現職
「開発事業に対する社会的要求は複雑化・多様化・高度化しており、新技術のさらなる研究開発は必要不可欠」と北海道開発局建設機械工作所長・熊井敬明(くまい・のりあき)氏は語る。「生産性の向上や建設コストの縮減が最重要課題」と長引く不況や財政危機などに伴い、コスト削減のための技術開発が最も建設業界において必要だと指摘している。地球環境保全にも配慮した技術開発を推進し、建設業界をサポートする立場から現在取り組んでいるテーマなどについて聞いた。
――技術開発促進の意義について伺いたい
熊井
開発事業の推進にあたっての社会的要求は複雑化・多様化・高度化しており、新技術のさらなる研究開発が不可欠となってきています。そのため、建設工事の生産性の向上や建設コストの縮減が最重要課題であると同時に、地球環境保全にも配慮した建設技術の開発が急務となっています。
そこで、工作所では「建設施工・維持管理の効率化や安全性の向上」「環境保全としての資源の再生・循環や新エネルギーの活用」「積雪寒冷地における風雨害・雪害等への防災」「高度情報通信システムの整備」の4点に重点を置いて技術開発に取り組んでいます。
――これまでに開発されたものや現在、研究中のテーマなどについてお聞きします。まず、道路の維持管理と除雪機械などについては
熊井
現在、道路側溝清掃作業により発生した汚泥を車両に積み込み、管理型処分場に輸送して全てを産業廃棄物として処分しています。しかし、これでは遠距離輸送となり、効率が非常に悪いので、その汚泥を現場で無機凝集剤を添加し、特殊ネットで簡易的に重力脱水して再資源化する移動型の汚泥処理車を開発しました。これが「清掃汚泥簡易処理システム」です。
この汚泥処理車は、現状の側溝清掃車の5回分に相当する1日に12.5tの処理能力を持っています。汚泥の80%は水として側溝に戻し、残土は他の土砂と混合させて再利用することも可能となります。このシステムにより処理費用は従来と比較して約40%の節減となります。
除雪については、「流雪溝閉塞解除機械」があります。昨年、旭川市で例年より降雪量が多く流雪溝に大量に投雪したため、内部に雪や氷が詰まり、水があふれ出たというケースがありました。これを踏まえて迅速且つ容易に流雪溝の復旧を行えるものとしたのです。高圧蒸気噴出ノズルを有し、ccdカメラを搭載した自走式の閉塞解除機械です。
試験的に使用した蒸気発生ユニットでは1時間に、3mの解除能力でしたが、さらに容量の大きい高温高圧蒸気発生ユニットを採用させることで能力の向上を図っています。
「除雪機械」については、本格的なスタッドレスタイヤ時代を迎え、道路の安全管理にはより高速化・高能力化・高操縦安定化・イージーオペレーティング化した性能が求められています。
そこで、次世代型除雪トラック、高速型除雪ドーザ、高速型ロータリー除雪車をはじめ、室蘭市で建設されている長大橋「白鳥大橋」に対応した除雪車や昨今の凍結路面、いわゆる「つるつる路面」を解消させるための凍結防止剤自動散布システムとして開発しています。
次世代型除雪トラックは、スタッドレスタイヤを装着しても除雪抵抗に対しての横滑りを抑制し、安定した操縦で除雪ができる前輪2軸、後輪2軸の総輪駆動型で25t、500ps(1ps=7.5kgm/s)のものを開発しました。
これまでに420psの改造車を試験してみましたが、20tスパイクタイヤ装着の現行車と比較して、操縦安定性で約1.6倍、牽引力で約1.4倍の除雪性能の向上が確認されています。
高速型除雪ドーザは、作業効率の向上や交通障害の解消を目的として開発されました。
性能・機構は、現行型除雪ドーザの馬力比1.8倍の314psの高出力エンジンを搭載し、センターピンをロックして前輪での操舵機構を有し、サスペンションもスプリング懸架を採用して、スタッドレスタイヤを装着し最高速度70km/hの高速走行が可能となっています。
高速型ロータリー除雪車は、主に高機動性を要求される高規格幹線道路用として開発されました。高速作業、高速回送及び側方通過の安全を考慮し、サスペンション機構の採用により除雪速度20km/h、回送速度70km/hを可能にし、車幅を従来より20cm縮小させました。これによって、対向路線や側方路線の車両通過を容易にし、すれ違いの際の危険不安を和らげています。
――災害対策機械の開発や管理運営については
熊井
台風や異常降雨による洪水、突発的に発生する地震による災害は、尊い人命を奪うと共に、都市生活に欠かせないライフラインや住宅、道路、鉄道、港湾施設、田畑などの社会・生活・産業基盤を根こそぎ破壊し、地域住民の生命財産に多大な被害をもたらす恐れがあります。
まず、災害発生時の初期対応として、円滑な水防活動と災害復旧活動を支援するため、迅速かつ円滑な災害応急対策に必要な被災状況の情報収集を速やかに展開し、その情報を災害対策本部などに的確に伝達・交換できるシステムの構築が必要不可欠であります。
平成9年1月には、災害対策用ヘリコプターが当所に配備され、ヘリコプターテレビシステムや監視カメラなどによる画像情報の収集・伝達システムの装備により、衛星通信、パソコン通信、地域防災無線などの通信媒体を通して、災害情報の伝達・交換を円滑に行える万全な体制が確保できるようになりました。
更に、災害情報を迅速かつ的確に収集・伝達する情報端末装置として、rcモータパラグライダー・飛行船型バルーン・rcヘリコプターによる空中撮影、ミリ波無線映像による動画伝送・衛星携帯電話による静止画像伝送の開発や、その最適化の運用基準の作成を進めています。
また、道路上の瓦礫や地割れをものともしないで走行できる啓開車などの開発の検討も行っています。
北海道開発局では、災害時に備え、災害対策用機械として一覧表に示す13機種50台を保有し、定期的に機械の出動、運転操作などの防災訓練や研修を行っています。これらの災害対策用機械は、地方公共団体に無償での貸付も行っていますので、必要時には出動要請をして頂ければと思います。
――建設機械工作所では国際交流も行われていると聞いていますが
熊井
世界の動きとしては、温暖化・酸性雨・熱帯雨林の消失などの地球環境問題、エネルギー問題、貧困、人口増加と食料問題と多くの難題を抱えていますし、グローバルな課題として世界の国々の人達と一緒に協力して解決していく必要があると思います。
工作所では、開発途上国の国づくりを担う人材の育成に協力し、建設に関わる技術協力や技術指導を推進するとともに、途上国からの研修員を受け入れています。
また、建設工事の生産性向上や省力化技術の高度化、除排雪機械技術の高度化を推進するため、国際会議での技術論文の発表、海外の技術者との国際交流も推進しています。
――民間企業の技術開発についての提言や助言などをお聞きしたい
熊井
北海道経済は補助金や公共事業に大きく依存し、自分で苦労し、リスクを冒さなくても行政が何とかしてくれると言う体質があると思います。
また、従来から道内の経済界や行政機関においても産業振興の政策として、道外から企業を誘致することが手っ取り早く容易と言うような風潮があり、自前で新技術を育て、新産業を興そうと言う気構えに欠如しているきらいがあります。
今後は、経済のグローバル化、ボーダレス化の波を受け、メガコンペティションの時代に巻き込まれ、価格破壊や産業の空洞化が進行している中での本道の産業立地の優位性が失われています。また、日本の高物価・高コスト体質では道外からも海外からも企業の誘致は望めそうもありません。
――今、企業に求められるものは何でしょうか
熊井
まず起業経営者は旺盛な「アントプレナーシップ」を持って新しい事業に挑戦する自主独立の精神を養うことが肝要ではないでしょうか。何もしなければ何も生まれないのですから。
市場自由化の荒波が押し寄せる中、日本経済は、今、歴史的転換期に差し掛かっています。国家の構造改革なくしては、この転換期を乗り切ることができないとして、政府は規制緩和、行政改革、経済構造改革、情報公開などに取り組み、2001年までの5年間で内外価格差を解消し、高コスト構造を是正すると言っています。
この激動の変化は、日本経済を市場経済に移行させていく政策となり、市場経済の移行とともに、起業家の創意と工夫によってはビジネスチャンスを幾らでも何処にでも発掘できるチャンスであり、新規産業の創出のチャンスであると考えて良いでしょう。
――本道第2の基幹産業とも言える建設業は、公共投資批判にさらされています。
熊井
最近の傾向では、日本の財政赤字の増大に伴い、北海道の風向きが悪くなってきています。北海道は他府県に比べても遜色のないほどインフラ整備が行き届き、特別扱いする必要性は失われたとして、北海道開発予算の公共事業に占める全国比率が年々低下してきています。この成り行きは、公共事業依存度の高い北海道経済にとって由々しき事態です。
まだ公共事業が高い比率で確保され、投資余力が残っている期間に、公共事業による波及効果を最大限に活用し、公共事業依存の経済体質から早急に脱皮した経済構造に変革していく必要があります。
産業の国際競争力の向上に寄与し、良質な社会資本ストックを重点に投資し、効率的に充実していくためには、建設コストの縮減を促す生産性の向上や技術開発を積極的に推進していく必要があります。
地域企業としても、建設工事における設計施工から維持管理まで一連の建設生産システム全体プロセスの最適化の技術検討に直接参画し、技術の向上・普及・蓄積を踏まえ、地域に根差した新しい独創的な技術の創出に汗をかく必要があります。
――確かに建設コストを抑制すべきだとの考えが主流になってきましたが、道内企業はどう対処すればよいでしょうか
熊井
建設コストの構成として、製造産業から購入する費用は建設機械が約20%、建設資材が約40%で、その大部分の製品が本州から移入されています。この実態を認識し、地場の製造業は建設産業の施工現場に参入し、そのユーザーニーズの発掘に努力を惜しむことなく、道内総生産の比重の高い身近な建設産業からも、起業家の「やる気」さえあれば新技術の創出につながるビジネスチャンスを掴むことが可能であると思います。そして、そのことが民間設備投資の拡大を促し、社会資本ストックの稼働率向上という相乗効果が生み出されます。
今や、道内のミクロ的な視点ではなく、グローバルなマクロ的な視点に立って解決しなければならない課題が山積していますので、世界に通用する魅力の溢れたアイデアで打って出ていくアントプレーナシップを磨くべきではないでしょうか。
――どんな分野の技術を開発するのが有効でしょうか
熊井
地球環境の保全・再生技術、産業廃棄物の処理・再利用技術、自然エネルギーやローカルエネルギーの利用技術、情報収集提供システム技術、安全・低コストな農産物生産技術、防災システム技術などが挙げられます。
そのためには、今から未来に遭遇するであろう未知の問題を解くための「知恵」を生み出すことができる「人材」や「技術開発研究の環境」に対する未来の可能性に賭けた投資を行うべきでしょう。
新たに創出された技術の情報提供・活用・普及を促進することが、更なる新技術創出のカンフル剤となりますので、各行政機関・大学試験研究機関・建設業界・製造業界などとの連携の基に、建設機械技術交流会を設置することが必要であると思います。
今後、工作所としてもこれに類する交流会を設置すべく検討しているところです。

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