interview (1997/4)

コストの適正化、保全対策の推進など課題山積

富士を臨み業務に専心

東京都財務局営繕部長 河野洋司 氏

河野 洋司 こうの・ようじ
昭和14年8月12日生まれ、東京都出身
法政大学工学部建築科卒
昭和38年東京都営繕本部入部
昭和52年文京区営繕課長
昭和61年東京都財務局営繕部建築第二課長
平成元年東京都財務局営繕部技術管理課長
平成 3年文京区建築環境部長
平成 5年東京都財務局参事(国際施設担当)
平成 7年東京都住宅局建設部長
平成 8年東京都財務局営繕部長
東京都庁舎、国際フォーラム、国際展示場と矢継ぎ早に歴史的な大型建築事業をこなしてきた東京都も、近年の不況と財政悪化で7、8年度あたりからは財政規模がバブル景気以前のレベルに逆戻り。このため大型施設の整備も当面は小休止の状態となる。このようになかなか出口の見えないトンネルの中で、公共工事のあり方も転換期を迎えた。都の公共施設整備を担当する財務局営繕部の河野洋司部長は「国際フォーラムも国際展示場も、滑り出しはまず順調なのでホッとしている」と安堵し振り返りつつも、「コスト削減、高齢化対応、省エネ対応などクリアしていくべき課題は大変、多い」と、新たな課題を前に気を引き締めている。河野部長に、営繕事業と施策の今後の方向性を語ってもらった。
――最近は、公共工事のあり方が議論されるようになり、様々な問題点が指摘されるようになりました。
河野
そうですね。都でも公共施設整備については前年から課題があります。その第一点は公共工事のコストの適性化です。
財政情況が好転時期にあっては、建設基金の積み立てなどにより、新都庁舎を始め芸術文化会館、都立大学、医療系短期大学、水族園、武道館、東京体育館、現代美術館など、文化・教育・スポーツ施設、さらには総合病院、地域病院などの医療・福祉施設に至るまで幅広く手懸けてきました。昨年10月には国際展示場(ビックサイト)、本年1月10日には国際フォーラムがオープンし、大規模・高性能施設類の建設は終焉を迎えました。
その後におけるバブル経済の崩壊は景気の低迷を招き、極端な景気の変動は都財政にも極めて厳しい影響を与えています。しかし、財政が厳しい情況にあっても阪神・淡路大震災を教訓とした防災対策や、高齢化社会の到来に合わせて福祉の街づくりなど都政が直面する課題を克服せねばなりません。そして、これらの施設整備にあたっても、必要な機能を満足しつつ最小限の費用で最大限の効果を発揮せねばなりません。
このためには適性なコストの設定が必要となり、工事費算定においては、これまで以上の厳密さが必要となります。そのため、都では「公共建築コスト検討委員会」を設置し、種々の検討を経て昨年3月に答申をいただいたところですが、この趣旨に沿ってコストの適正化を図っていきたいと考えています。
第二点は企画・計画業務の拡充です。今日の公共建築を囲む環境は、極めて多様な条件が課せられており、これまでのように簡便に規模計画や敷地位置・面積などの選定を行なうことはかなり難しくなっています。
例えば、施設計画に際しては建築基準法、都市計画法、安全条令、駐車場条令などの法規制対策、地質・地盤状況に基づく液状化対策、メタンガス対策、太陽電池、太陽熱利用など工ネルギー活用対策、雨水再利用、建設残土処理、コンクリート魁など建設資源の再利用、さらには災害時の一時避難場所など、施設本来の目的に加えて様々な施策が課せられているわけです。
また、高齢化社会の到来に合わせたバリヤ−フリー対策なども、重点施策となっています。この他、緑化対策なども環境保全の観点から充実せねばなりません。
これらの施策を合理的に施設計画に取り込むには、やはり経験を積んだ技術職員の能力活用が必要です。このために、専門的な組織をなんとか確保できないものかと思案しています。
第三点は保全と地震対策です。私たちは先に述べたとおり、この10年間に多数の大規模・高性能の公共施設を建設してきましたが、これらの都市施設を良好な状態で次世代に橋渡しするには、保全技術は不可欠です。ところが、都の営繕部門においては保全機能を持たず、各局に存する維持管理部門に委ねている状況となっています。
この点についても、何とか工夫をしたいと考えていますが、やはり何よりも体制を整備することが必要です。
また、震災対策として耐震診断は計画的に実施することにしていますが、診断結果が「補強必要」と判定された施設については、補強工事を施すべきか、むしろ改築してしまうべきかの判断が必要となります。いずれにしても多大な経費を必要とすることから、保全計画とリンクさせることも一策だろうと思います。
震災の恐ろしさは、時間の経過と共に忘れ去られる傾向にありますが、部としては震災対策を計画的に進めようと心がけています。
――ところで、先の国際展示場や国際フォーラムの利用情況はいかがですか
河野
東京国際展示場や国際フォーラムは、建設時から国内のみならず海外までも情報が広まり、東南アジアを中心に世界各国から視察者が来訪されました。このため、視察者の整理に専属の職員をあてたり、案内用のビデオを8ヵ国語で作成し、対応したことが思い出となっています。国際展示場は規模の壮大さと新交通システム(ゆりかもめ)との組合せで集客機能を発揮しています。
一方、新春にオープンした国際フォーラムも順調に予約も入っているとのことで、安堵したところです。それにしても、この国際フォーラムの工事は離しいものでした。
――この都庁舎も、都民の間では様々な意見もありますが、純粋に建築作品として見るならまさに土地の有効活用のお手本のようなもので、空間の使い方、そして外観デザインにおいても21世紀の未来社会を象徴するにふさわしいものといえますね
河野
そうですね、この上層階から西を見ると富士山を臨むことができます。冬場は朝方に純白の麗峰が見られ、夕刻には朱に染まった麗峰が見られるいわばピクチヤーウインドーとなっています。
私などは特に、朝夕に見る富士山には祈るような気持ちが彷彿し、朝には今日一日の工事現場の安全を願い、夕には一日の無事を感謝することが日課となっています。
――ところで、財政の逼迫状況から都は緊急事態を宣言し、9年度予算を見ても公共事業費は要求段階からすでに1割から3割の減額要求でした。それは営繕事業にも如実に反映してくるものと思われますが
河野
新年度の一般会計の総額は、前年度よりマイナス3.1%の6兆6500億円で、過去に例を見ない超緊縮予算となっています。営繕事業にかかる予算も、厳しい予算になることが予測されるので、いかに効率よく運用していくか、頭が痛いところですね。
――どんな対策を考えていますか
河野
これまでは大規模・高性能施設が集中し、現状組織では企画・計画部門や工事監理部門を手薄にせざるを得ませんでした。しかし、事業量が減少した部分はこれらの業務の充実化や、これまで手懸けてきた多くの都市施設を次世代に引き継ぐため保全業務の開発に取り組みたいと考えています。
いずれにしても、好況期から不況期へアッと言う間に転換してしまった景気の変動にただ流されるのではなく、新たな方針の基に職員に一致協力を求め、多彩な工夫を講じて進むことが職場改善にも連携するものと考え、努力を重ねていきたいと思っています。

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