<建設グラフ1996年1月号>

interview

多角化する農業基盤整備

北海道開発局農業水産部長 近藤勝英 氏

近藤勝英 こんどう・かつひで
昭和17年、東京都生まれ
昭和42年3月東京大学農学部卒
昭和42年4月農林省九州農政局勤務
昭和51年4月農林省東海農政局名古屋施工調査事務所システム開発課長
昭和52年9月国土庁地方振興局東北開発室課長補佐
昭和54年4月農林水産省経済局国際部国際協力課海外技術協力官
昭和56年4月農林省構造改善局建設部整備課長補佐
昭和59年4月青森県農林部土地改良第一課長
昭和62年4月農林水産省構造改善局建設部設計課農業土木専門官
昭和62年6月農林水産省中国四国農政局建設部設計課長
昭和63年4月農林水産省中国四国農政局建設部次長
平成元年4月農用地整備公団海外事業室長
平成 2年6月農用地整備公団海外事業部長
平成 3年4月新潟県農地部長
平成 5年9月農林水産省構造改善局建設部水利課長
平成 6年10月現職
北海道は積雪寒冷地だが、耕地面積は全国一という、本州とは異なる状況に置かれている。このため通年型の営農は無理なので、スケールメリットで補う格好になるが、それを支援する上では営農技術や品種改良もさることながら、やはり農地、畑地の整備と関連施設の充実が要めだ。いかに品種が優れていても、また営農が巧みであっても、田畑がやせていたり、付帯施設が不十分なのでは、効果は発揮できない。本道の農業基盤整備を担う北海道開発局農水部は、明日の農家経営を強力に支える農業基盤整備を目指すと同時に、今後は資材のリサイクル、環境保全、親水性など多方面に配慮しながら、事業のグレードアップを図る方針だ。同部の近藤勝英部長に、今後の事業の実施方針や新年度の構想などを語ってもらった。
――ガット合意により、農業も国際競争力を高める必要が高くなりました。そのためにも基盤整備は一層、重要になりますね。
近藤
ウルグァイ・ランド農業合意をはじめとする農業の国際的競争が強まる今日、我が国が国民に良質・安全かつ低廉な食糧・食品の供給を維持していくためには、最もスケールメリットを生かせる北海道が食料供給の最重要拠点としての役割を果たしていかなければならないと思います。そのためには、多収性・耐病性・耐候性などに優れた品種の開発やコスト低減、作業性の優れた栽培技術の取り組みなども重要ですが、その成果を上げるには長い期間を必要とするため、それらと併せて、経営規模拡大や作業条件の効率化が顕著となるような生産基盤の整備を加速的に推進していくことが必要です。
――事業実施にはどんな配慮や工夫がされますか
近藤
生産基盤の整備は、営農形態の異なるそれぞれの地域で、その事情に応じた取り組み方が必要です。例えば、水田地帯では農地の集団化、ほ場の大区画化、土層改良による品質・生産性の向上を図るとともに、平成5年の冷害でその効果が改めて認識された「浸水かんがい」などに対応するほ場条件や水利施設をらに整備していく方針です。
また、畑作・酪農地帯においては、高収益性作物の導入やその品質の向上を図るため、畑作かんがい施設の整備や土層改良を推進するとともに、家畜糞尿の処理と併せて牧草の品質向上を図る肥培かんがいを行っていきます。
一方、心のゆとりが強く求められている現代社会において、自然の豊富な農村の地位は次第に高まりつつあることから、農村の環境を魅力あるものとして維持していかなければなりません。そのため用排水路の構造や農道の線形なども周辺環境との調和に配慮するとともに、小動物の生存環境を傷つけないよう「自然との共生」を図るようにしています。
――本道の農業基盤整備の現況はどのくらい進んでいますか
近藤
北海道の水田整備は、30年代後半から本格化し、道央の稲作地帯を中心としてほ場区面の整理・拡大や用排水の分離改良などが総合的に進められてきました。そしてこれらの整備とともに、農作業の機械化が急速に進んだことなどにより、本道の稲作の生産性は大きく向上しました。
しかし、区画整理や用排水の整備などを終えた水田はまだ全体の49%に止まっており、生産性の向上とともに冷害にも対応できるほ場整備の一層の促進が必要となっています。また、農業後継者の減少や高齢化が進む中で、担い手の育成と地域への定着が大きな課題となっています。
畑地帯には、重粘土や火山灰、泥炭などの特殊土壌地帯が広く分布しているため、明渠、暗渠による排水対策や客土などの土地改良が進められてきましたが、40年代からは複数の工種を総合的に行う総合土地改良事業が創設され、整備が本格化しました。
しかし、4年度までに排水条件の整備を終えた畑は52%に止まっており、さらに生産性の高い畑作農業を確立していくためには、排水改良や農道整備などを一層進めていく必要があります。
酪農地帯においては、経営規模拡大のため、直轄・補助合わせて年間1,000ha以上もの草地開発を行っているが、近年、家畜糞尿の河川への流出などによる環境汚染問題が顕在化してきており、これの処理を兼ねた生産基盤によるリサイクル利用の取り組みが今後の課題となっています。また、緩衝林などによる河川水質の改善の措置を図ることも肝要です。
――今回の大型補正、新年度予算では、それらが重点項目になりますか
近藤
農林水産省では、平成6年度補正予算から高生産性農業の確立と生産基盤の整備を通じた中山間地域の活性化を図るめ、ウルグァイ・ラウンド関連農業農村整備緊急特別対策に取り組んでいます。これに伴い、私たちも平成7年度2次補正までで当初予算比23.8%の304億円の事業費を確保し、特に道内随一の米生産地帯である空知、上川地方の大規模なかんがい排水事業と網走、十勝地方の大規模畑作地帯の畑地かんがいなど、農地開発事業を推進するために努力しているところです。
また、平成8年度予算については、前述のような地帯別取り組みをさらに推進していくため、1,171億円の事業費を要求しているところです。特に制度関連では、浸食を受けやすい火山性土壌地帯における農用地と農業用施設の機能回復や、災害未然防止対策を行う事業として、国営総合農地防災事業制度の拡充を要求しているところであり「網走川上流」地区に取り組む方針です。
さらに、一般的にわかりやすいイメージをもってもらうため、新たに2つのモデル的な事業に取り組む予定です。1つは「みどり工房づくり」推進事業で、農地の利用集積を農地整備と一体的に実施し、関連施策とも連携して農業施設の建設や環境整備を図り、農業生産基地としての一大拠点を創造していくものです。最初は斜里地域の「以久科」地区で展開する予定です。
もう1つは「みちくさらんど」推進事業といい、農村の自然と食料生産の場しとての調和のとれた情緒ある景観を、住民はもちろん訪れる人にも享受できるようにルーラルパスの整備をはじめ、自然との共生が可能な環境の整備を計画的に取り組んでいくものです。
その他、新規着工地区として、水田地帯では「新雨竜(二期)」地区、畑地帯では「札内川第2(一期)」地区、その他6地区のかんがい排水事業を要求しています。
――工法・資材などは今後、改変される可能性はありますか
近藤
先にも述べましたが、現代社会における国民の環境問題への関心と認識は非常に高く、農業農村整備事業としても環境に配慮した施行や資材の導入を図っていかなければならなりません。例えば、明渠排水路工事では、魚類生息のため、河床に砂利や石を配置したり、自然の材料を利用した丸田柵渠の譲岸や排水路沿いの並木植樹などを行っています。
また、公園のような人の集まる場所には、水に直接触れることができるよう工夫した親水性のある工法・資材を取り入れています。
道路施工においては舗装に必要なアスファルトに再生材を用いたり、現地の発生材を使うなど、できるだけ資源の無駄遣いがないような施工計画に心がけています。
農地造成においても、抜根物の処理に経費がかかるため、農家の負担軽減を図るためにもチップ化し、推肥や他の資材として有効利用することを検討しているところです。従来砂利を利用していた暗渠の被覆材には、漁業組合で処理に困っているホタテの貝殻を代用するなど、環境問題の解消と合わせてより経済的な工法や資材の導入に取り組んでいるところです。
――基盤整備を今後の営農に活かすためのアドバイスを
近藤
農業の国際化の進展に伴い、今後はますます安全で食味の良い食料素材を志向することになるものと思われます。それに加えて、より廉価であれば、なお申し分ないところです。
それに応えるためには、米、畑作物、野菜を問わず、それを生産する環境の整備が重要で、その大きな要素は土と水です。土づくりにおいては、土壌微生物が繁殖しやすい環境づくりが必要であり、基盤整備としてはその土地に合った土層の改良を行っていくべきです。また、作物の生育条件に最もあった水の供給がその品質に大きく影響するため、水の供給パターンを検討しながらかんがい施設の投入を図っていくことが必要です。
価格問題の面では、やはり正攻法として、農地面積を増やし区画規模を広げ、農地利用の集積を図る農地再編整備による経営規模の拡大と作業性の効率化を図るより他はないでしょうね。

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