<建設グラフ1996年2月号>

interview

トータルコストの低廉化で「使いやすい港」

年間取扱い貨物量も堅調な伸び

横浜市港湾局長 小池 博 氏

小池  博 こいけ・ひろし
昭和13年生
昭和38年関東学院大学工学部卒
昭和38年4月横浜市入庁
昭和55年4月港湾局副主幹(国際協力事業団よりコスタリカ共和国)
昭和58年8月港湾局副主幹(みなとみらい21担当)
平成元年1月港湾局みなとみらい21担当部長
平成 4年6月港湾局港湾整備部長
平成 5年5月港湾局企画調整担当部長
平成 6年7月都市計画局みなとみらい21担当理事
平成 7年6月都筑区長
平成 8年4月港湾局長
わが国を代表する国際貿易港として発展を続ける横浜港。増大するコンテナ貨物と船舶の大型化に対応し新しい南本牧ふ頭の建設、大さん橋のリニューアル、21世紀の情報都市を目指す『みなとみらい21事業』の推進など、活発に整備が進められている。だが、外国港湾との競争においては、まだまだ改善すべき課題も多く、小池博港湾局長は「横浜港のセールスポイントは使いやすさ。そのために24時間体制の確立、料金の改定など、一層の効率的な運営体制を確立し、アピールしていきたい」と語る。同局長に、多彩な顔を持つ横浜港の課題と将来展望などを語ってもらった。

コンテナ貨物の取扱世界8位にランキング
――横浜港といえば古くから知名度の高い港ですが、その現況からお聞かせ下さい
小池
平成7年のデータですが、横浜港に入港した外国航路の船舶は12,000隻で、外国貿易貨物は7,741万トンを記録しました。
輸出入の内訳を見ると、輸出が3,391万トン、輸入が4,350万トンとなっています。横浜港の貿易額は全国比の13.5%で、成田に次いで全国2位をキープしており、取扱量は順調に推移しています。
港勢は、コンテナ貨物の取扱個数が世界的な目安になりますが、取引相手国は今では150か国を超え、7年の取扱量は輸出入合計で4,058万トン、20フィート型に換算すると273万個で過去最高を記録しました。これは世界の港で8番目にランキングされます。
――主要な貨物の内訳は
小池
輸出では自動車、電気製品、産業用機械、鉄鋼など付加価値の高い工業製品が目立ちます。一方、輸入では原油、非鉄金属、製造食品、日用品となっています。
――記録更新の要因について、どう分析していますか
小池
一つには、阪神大震災で甚大な被害を受けた神戸港からの受け入れがあり、プラスの要因となりました。平成8年上半期の伸び率は前年度を下回ったものの前々年度と比較すると増加しており、経年的に長いスパンで見ると着実に上昇しているものと考えられます。
ただ、香港やシンガポールは1,200万トンのラインを超え、世界で1、2位のしのぎを削っており、日本の港湾とは比較にならない勢いです。
これは国内の港湾すべてに共通していることですが、円高による港湾施設や港湾荷役料金の割高感、コンテナ船の大型化に対応した施設整備などの面で、相対的に国際競争力が弱いことが原因といえます。
東南アジアにポートセールス
――昨年末、東南アジア方面にポートセールスに行かれましたが、現地での反応は
小池
これまで、ポートセールスといえば船会社の誘致が大きな目的でした。しかし、今回は荷主にも重点をおきました。
生産拠点の海外移転に伴い、例えば家電製品などは、輸入品であっても現実には日本企業の製品である場合が多い。それならば、香港や韓国を経由せず直接、日本国内に入ってきた方がコストダウンになります。そこで、これらの企業に横浜港の利用促進を働きかけることも重要になってきています。
そのため今回のポートセールスでは、われわれ港湾管理者だけでなく民間の倉庫業者や船会社の方にも今まで以上に主体的に参加していただき、それぞれの立場からユーザー側に検討の素材を提供しました。みな高い関心を示していただき反応は良好でした。
ただ、半面では、日本の港は料金が高いという苦情も多く聞かれましたので、施設の使いやすさなどをアピールしてきました。
――確かに輸送コストは、船会社にとっても最大の関心事といえますね。横浜港としては使いやすさももちろん、他にもセールスポイントがあるのでは
小池
横浜港では、「使いやすい港づくり」の一環として、港湾関係業界のトップ、埠頭公社理事長と私とで、構成する懇談会を設置し、「コンテナターミナルの365日、24時間オープン」、「港湾利用に関わるトータルコストの低廉化」、「港湾施設の効率的な運営」、「港湾諸手続きの簡素化と港湾物流ediの早期導入」について協議をすすめています。早急に実行プランを作成し、行政と民間のそれぞれの役割の中で順次可能な施策から実施することが必要であると考えております。
トータルコストを削減
――コスト削減に向けての対策にはどう取り組んでいますか
小池
例えば、現行の港湾荷役料金を見ると、日曜日が通常の10割増し、平日でも夜間は6割増しになっています。この料金体系を見直すことも必要ですね。
しかも、大型コンテナ船は、岸壁に10時間から12時間係留していれば荷役作業が終了するのですが、現行の使用料金は24時間単位になっています。このため、半日しか使用しないのに24時間分請求されることになるので、12時間単位に切り替える必要があります。
また、外国船は入港、出港に際しての安全対策を独自で行うという考え方があります。しかし、日本では水先法の規定により管理が厳格で、規模が規定基準を超える船には、必ずパイロットが安全誘導しなければなりません。これをもっと効率化し、料金を安くする工夫が必要です。
ソフト面では、手続きの煩雑さが問題です。日本の港湾行政は縦割りで、一つの荷物を通過させるのに運輸省や港湾管理者、税関など各種の機関にそれぞれ書類を提出しなければなりません。外国では一元化されているわけですから、日本でも手続き窓口を一つにするなど、簡素化するよう検討すべきでしょう。
港湾施設の効率的な運用についても、工夫すべきです。例えば、埠頭間で荷物を移動する際には通行料が課せられていますが、費用のかからない効率的な荷さばき施設が必要で、港湾施設を有効に利用できることが重要です。
横浜港はこれらの問題をいち早くクリアできるよう、改善策を検討し進めています。

――人件費の抑制も問題になりますね
小池
ロッテルダムを見ると、ターミナルのガントリークレーンやトランステナーは全て自動化されています。そこでは、人間は監視装置を見ているだけで、場内は無人です。聞けば、それだけでも約40%のコストが削減できたとのことです。
もっとも、広大な土地があるからオートメ化がしやすかったといえますが、日本もこれからはその方向を目指すことが必要だと思います。価格競争になると、いかに人件費を抑制するかにかかってきます。
南本牧に−15m以上のコンテナバース
――施設整備の現況は
小池
横浜港は、コンテナふ頭として本牧ふ頭と大黒ふ頭、在来型では山下、新港、出田町、山内、金沢木材ふ頭など、さらに大型客船が係留できる大さん橋ふ頭の合わせて8ふ頭が稼動しています。
増大するコンテナ貨物や船舶の大型化に対応するため、南本牧ふ頭の埋め立てを行っており、水深が15〜16m級と、わが国最大級のコンテナバースを4バース整備しています。合わせて、複合物流ターミナルの整備を進め、横浜港における21世紀の新たな物流拠点を目指しています。
また、横浜港で最初に建設されたのは、大さん橋ふ頭ですが、国際港都横浜の海の玄関にふさわしい客船ターミナルとして再整備を進めています。さん橋の幅を約2倍の100mに拡幅し、新たなシンボルとなるターミナルビルを建設します。
その他、大部分を米軍が使用している瑞穂ふ頭では、7年度から埋め立て工事に着手し、建材取扱ふ頭と小型船の船だまりを整備しています。
――『みなとみらい21事業』の進捗状況は
小池
『みなとみらい21構想』の目的は、「横浜の自立性の強化」、「港湾機能の質的な転換」、「首都圏の業務機能の分担」の三つです。
そこで描かれている都市像は、『24時間活動する国際文化都市』、『21世紀の情報都市』、『水と緑と歴史に囲まれた人間環境都市』です。
この理念に基づき、コンベンション都市・横浜の中核機能として、すでに国立横浜国際会議場、会議センター、展示ホール、ホテルなどが完成し、また業務・商業・文化機能としてランドマークタワーが完成しています。
今年は24街区にクイーンズスクエア横浜、30街区にRC横浜ビル、27街区に桜木郵便局が完成する予定となっており、一方、私たちは交通の動脈となる臨港幹線道路を整備しています。
――横浜港の10年後の将来像についてはどう考えますか
小池
現在、2005年を目標とした整備計画である「横浜港港湾計画」の改訂作業を行っています。この中で、国際競争力の強化を図るための、大水深コンテナバースの増設とともに、大規模な地震災害への対応などを位置づけていく予定です。

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