interview (1996/9)

食糧自給率向上へ国民のコンセンサンスを形成

農業の国際分業論で安定輸入の保証はない

農林水産政務次官  小平忠正 氏

小平 忠正 こだいら・ただまさ
昭和17年3月18日生、39年慶応大学法学部卒、同年米国ジョージタウン大学大学院留学
昭和44年総合商社トーメン入社
昭和47年栗沢町にて牧場経営
昭和55年小平忠事務所所長
平成2年衆議院議員当選、衆議院農林水産委員会委員、衆議院沖縄及び北方問題特別委員会委員、民社党政策審議会副会長
平成4年民社党農林水産局長、民社党北海道連合会執行委員長
平成5年衆議院議員当選(2期)、衆議院地方分権特別委員会委員
平成6年衆議院農林水産委員会理事、衆議院地方行政委員会委員、民社党出版局長、衆議院WHO設置協定等に関する特別委員会理事
平成7年衆議院石炭対策特別委員会委員、新進党北海道連合会副会長、新進党「明日の内閣」農林漁業振興政策副担当、新進党を離党し新党さきがけへ入党、さきがけ北海道代表代行、衆議院石炭対策特別委員会理事
平成8年農林水産政務次官就任
本道の農民代表として活躍した実父の跡を継ぎ政界入りした、さきがけの小平忠正代議士(本道旧4区)が橋本政権の農林水産政務次官に就任して6か月余。WTO体制下で新食糧法がスタートした今年はまさに“農業元年”ともいうべき大競争時代に突入したが、小平次官は『わが国の基幹産業である農業を守り育てることが独立国としての国の主権維持につながる』と強調、安易な国際分業論を警戒する。同次官に自身の専門分野でもある農業に寄せる思いを語ってもらった。
――ガット合意後の農業経営のあり方について伺いたい
小平
ご承知のようにわが国は貿易立国ですから国際社会との協調を図るうえからもWTO体制を承認したわけですが、これを受けて新食糧法がスタートした今年はまさに“農業元年”と位置付けていいと思います。
元来、農業とは採算の合わない産業なのです。それでも国の存続のためには大事に守り育てていくべき基幹の産業だと私は考えています。このことについて国民のコンセンサスを形成しなければなりません。
先日もeuの議員団が来日し懇談する機会がありました。その際、2,500haの農場経営者でもあるイギリスの議員から聞いた話ですが、イギリスも農畜産物の価格が低迷しており、最近の羊の価格は彼の祖父の時代と変わらないそうです。それでも農場を維持していけるのは生産調整に対して所得補償が確立されているからです。アメリカでは不足払い制度があります。日本でも米価、乳価、畑作三品の価格支持がありますが、米、英に比べると微々たるものです。
11月のローマサミットに向けて5月中旬、西サモアでfaoのアジア太平洋会議が開かれ、政府を代表して演説しました。その中で特に私が訴えたのは、農畜産物の国内調整・備蓄・安定的輸入の三つのバランスが取れていなければ独立国としての主権を維持するのは困難であるということです。世界で8億人といわれる飢餓・栄養不良人口のうち5億人がアジア・太平洋に集中しており、国際分業論だけで一部の国に農業生産を任せるのは非常に危険なことです。1億2千万人もの人口を抱えるわが国が食料を海外に頼っていても安定供給を受けられる保証はありません。
――食糧自給率を高めるうえからも基盤整備事業はますます重要になると思いますが
小平
わが国は農業分野ばかりでなく建設の分野においても社会資本の整備はまだまだ不十分です。農業に限っても構造改善は欧米諸国よりかなり遅れていますから、6兆100億円のガット・ウルグァイラウンド対策費を基本に、しっかりと事業展開することが重要です。
しかし、農業は多種多様で地域的条件や気象条件が違うので、地域に適した形で進める、つまりやみくもに経営規模を拡大すればいいというものではない。また、ほ場を大きくしたり、ダムや用排水路などのハード面ばかりでなく、担い手対策、住宅環境、農村のコミュニティーづくりなどのソフト面にも、もっと目を向けなければなりません。
――農水省は『地域農業基盤確立農業構造改善事業』に取り組まれますが、具体的にはどのような内容ですか
小平
平成8年度は全国168地区が新規採択されましたが、事業計画の認定はウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策実施期間の6年間に集中的に実施し、事業効果の早期発現のため各地区の事業期間を2年または3年に短縮する考えです。
事業内容としては、経営基盤確立農業構造改善事業(土地基盤、農業機械、土づくり施設、流通加工施設等の重点的整備)、地域連携確立農業構造改善事業(流通加工施設、未利用資源活用施設、情報通信施設等の重点的整備)、農村資源活用農業構造改善事業(農産物等展示・販売施設、農業・農村体験拠点交流施設等の重点的整備)、地域農業気象情報施設整備事業(気象観測ロボット、地域データ解析コンピュータ、観測データ受発信装置等)の四つがあり、市町村、農協などが事業実施主体となります。
――農業従事者の平均年齢も上がっていますね
小平
高齢化が進む中で、子どもに農業を継がせる自信がないという話をよく聞きます。農業以外の道に進ませる傾向が強いのは、農業の将来性に不安があるからでしょう。そこで国民の総意のもとに農業を守り育てるコンセンサスがなければならないと思います。
――次に林野行政の課題についてお聞きしたい
小平
緑が国土保全に果たしている要素は非常に大きいと思います。林野行政がうまくいっていれば沿岸漁業にもいい影響を及ぼすはずです。
――北海道の網走地方で漁協組合員が山の植林にも取り組んでいるというケースもありますね
小平
それは大事なことです。林野には国有林と民有林がありますが、本州府県ではかつて農業と林業がオーバーラップしていました。農業者であり、かつ林業従事者でもあった。親子3代、4代にわたり農業者を中心に多くの人が山を守ってきました。しかし、農業者の減少などによって山を守り育てる人が少なくなり、さらに外材に押されて日本の林業の衰退につながった。民有林の維持管理も人手不足で厳しい状況です。
――先の国会で林野三法が可決されましたね
小平
三法は、『林業経営基盤の強化等の促進のための資金の融通に関する暫定措置法』(経営基盤強化による林業経営の安定化)、『木材の安定供給の確保に関する特別措置法』(木材供給体制の整備と需要拡大)、『林業労働力の確保の促進に関する法律』(林業事業体の育成と林業労働力の確保)です。
経営規模の拡大、森林事業の受託促進などによって経営基盤の強化を図ろうとする林業経営体に対して公的資金の償還期限の延長、固定資産の特別償却などの支援措置を講じます。林業労働力の確保に関しては労働省との共管ですが、機械や公的資金の貸付、林業労働者への研修などの支援を行います。
木材の安定供給については、安定供給確保支援法人(指定法人)による木材買受代金などの債務保証、木材に関する情報提供などを行い、安定供給の確保を支援する方針です。
――水産行政もさまざまな課題を抱えていると思いますが
小平
わが国は世界でも有数の水産国であり、国民に良質の動物性たんぱく質を提供していますが、公海漁業の規制強化、資源の悪化、水揚げの減少、輸入の増大、漁村における活力の低下など厳しい状況にあります。先の国会において海洋法各条約関連法の一環として、漁獲可能量に関し新しい管理制度が導入されましたが、わが国としては一つの環境整備ができたと思います。新海洋秩序に対応して、適切な資源管理を行いつつ沿岸漁業などの振興を図ることが重要です。また、生産基盤となる漁港等の緊急整備を推進する必要があります。
特に200カイリは、面積にすればわが国の7倍に匹敵しますが、この広い面積での漁業資源管理のためには、今までにも増して、漁業環境の保全や、海洋汚染防止のための対策を積極的に講じていく必要があると思います。
――最後に行政改革についてのお考えをお聞かせください
小平
どのような制度、仕組みでも長年の間に“制度疲労”をきたす恐れがあります。わが国も時代の変化に応じて、いまの省庁でいいのか、行政機関の在り方にはメスを入れるべきだと思っています。ただ、ここで主張したいことは“トカゲのシッポ切り”のように地方の弱い部分を切り捨てる行政改革には反対です。行革を断行するなら、まず大蔵省を筆頭に抜本的にやる必要がある。
例えば北海道開発庁や沖縄開発庁の統廃合論がこれまでも何度か俎上にのぼっていますが、一部の手直しは混乱を招くだけです。開発庁を廃止して新たに北海道農政局とか北海道建設局、北海道運輸局などをつくるとすれば、その反面、行政機関が細分化するという矛盾をはらむことになります。したがって安直な手法での行革には、私としては賛同しかねますね

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