<建設グラフ1996年12月号>

interview

権威的な厳めしさを排し、「親しみやすい道議会」が設計の理念

北海道庁本庁舎、赤レンガ庁舎復元での実績が生きる

株式会社久米設計取締役札幌支社長 岸 亮二 氏

岸 亮二 きし・りょうじ
1935年生まれ
1955年久米設計札幌支社入社
1962年本社設計室管理室勤務
1974年札幌支社課長
1980年仙台支社副支社長
1990年現職
この9月に行われた北海道議会庁舎設計コンペで、(株)久米設計の作品が入選した。同社は、平成6年に行われた道立体育センターの設計コンペにも入選しており、改めてその実力を証明したことになる。同社の岸亮二支社長は、「当社櫻井社長自身が、かつて北海道庁本庁舎の設計を手がけたので、今回のコンペに対する思い入れはかなりのものだったのです」と語る。同社は道庁のみならず、赤レンガ庁舎の復元を手がけた実績もあり、このため本庁舎、赤レンガの復元、道議会と、道庁構内のほとんどの建築に足跡を残すことになる。同社の岸札幌支社長に、今回の設計に関する基本理念などを語ってもらった。
――貴社の作品が選ばれた要因について、どう考えますか
かつて当社櫻井社長が設計部長当時に、北海道庁本庁舎の設計を手がけており、また、文化庁から重要文化財として指定されている赤レンガ庁舎の復元工事などを担当した実績もあることから、今回の設計コンペは、当社が全社総力を上げて臨んだのです。特に、櫻井社長自らが募集要項や、道から提示された設計の基本条件などについてヒアリングを行うほどの熱の入れようでした。
そうした熱意が、作品に反映され、評価を頂いたものと思います。今回も入選したことにより、私たちは本庁舎、赤レンガ庁舎復元、そして、道議会庁舎と、道庁構内のほとんどの施設を手がけることになり、非常に名誉なことと思っています。
――設計にあたってのポイントは
従来は、道議会庁舎といえば、とかく権威というものを連想していましたが、今回はそうした厳めしいイメージを避け、本庁舎、赤レンガ庁舎との統一性と開放感に重点を置きました。道民のために開かれた議会庁舎を目指すためには、権威的なイメージを極力避けた方が望ましいと考えたのです。
また配置については、札幌の街が「碁盤の目」であり、現場も同じくシンメトリーであるという状況を考慮しました。つまり赤レンガ庁舎の中心は北3条通りと西6丁目通りが交差するところにあるのです。したがって、当初は議会庁舎だけ斜めに構えた構図も検討しましたが、やはりこの交差点を中心とする四方のバランスを崩すべきではないとの結論になったのです。これによって、道庁構内は、すなわち札幌の市街地の構造に合致した構図となります。
しかも、赤レンガ庁舎は北海道の象徴的な建物ですから、構内では最も目立たなければなりません。
そこで、現在の庁舎よりセットバックして、道庁と同じ線上に配置し、そして、高さも道庁とほぼ同じくらいになるよう、9階建てとして統一感を出しました。
また、庁舎の前面左下をさらにセットバックして、多目的会場として利用できるスペースをつくりました。構内では毎年夏に、赤レンガ祭が行われますから、その会場としての利用も視野に入れています。
そして「議会はガラス貼り」という理念を表現するため、庁舎全体をガラス貼りとするほか、7階に配置した本会議場の壁もガラス貼りとしました。
本会議場内は、議会側からの要望もあり従来と同じ馬の蹄鉄型としました。これは、イギリス国会の本会議場と同じ形式で、他府県議会にはあまり見られないものです。また、より多くの道民が議会論議に関心を持ち、傍聴できるよう、傍聴席もこれまでより増やしました。
その他、既存の議会庁舎は地下通路で道庁とつながっているので、これをそのまま活かしながら、新庁舎の地下は、地下室特有の暗いイメージを払拭するため、太陽光を取り入れる構造になっています。
さらに、議会事務局、議員控え室、議長、副議長室の他に、道民が気軽に利用できるよう、1階は開放ホールとして、コンサートなども行える多目的広場とします。以前に本会議場で、音楽を愛好する議員の会の主催でクラシックのコンサートが行われたので、そうした利用も可能です。
ロビーに取り付けられるテレビには、議場内の状況が映し出される構造となります。

▲道議会庁舎等構内整備構想設計競技 入選作品
――設計に当たって苦慮した点は
本庁舎と道議会庁舎が並んだ状況を背面から見た時に、壁のような威圧感を与えてしまいかねないということです。設計の基本理念が、権威的な厳めしさの排除にあったので、そうした印象を持たせたのでは理念に反してしまいます。
しかし、シンメトリーな配置は街全体との整合性を考慮してのものですから、変更するわけにもいきません。今後、どう工夫するかは、道や議会とも協議していこうと思います。
――今後、こうしたコンペの予定は
札幌市が、ホワイトドームの設計コンペを検討していると聞いています。情報によると、それにはアメリカや韓国の設計事務所も参加する予定とのことですから、私たちも外国勢には負けないものをと思っています。

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