<建設グラフ96年1月号>

interview

緊急保全整備事業から総合整備事業へ

農用地整備公団北海道支社長 葛西 勤 氏

葛西 勤 かさい・つとむ
昭和19年生まれ、昭和42年岩手大農卒
昭和47年網走開建北見地域農業第3工務係長
昭和48年網走開建北見農業第2工事課第1建設係長
昭和49年農水省構造改善局建設部防災課特殊防災班特殊防災第1係長
昭和51年札幌野花南えん堤副長
昭和53年局農業設計課開発専門官
昭和58年旭川開建農用地開発課長
昭和59年農水省構造改善局建設部開発課長補佐
昭和61年局土地改良課長補佐
昭和61年函館開建函館農業所長
昭和63年稚内開建次長
平成元年網走開建次長
平成 3年局開発調査課長
平成 6年局農業水産部調整官
平成 7年10月現職
――農用地整備公団北海道支社長としての抱負について
葛西
公団の行っている業務は、内水排除を主目的として排水機上とそれに接続する集水路の整備を行う「農用地等緊急保全整備事業」や、近代的な農業経営のために地域内の農産物の輸送路を確保する基幹農道の建設とそれに一体となった区画整理等を合わせて行う「農用地総合整備事業」の2事業を行っています。
これらの事業は、国で進めている農業農村整備事業の一翼を担っている重要な事業で、ご存じの通り昨年のガット・ウルグアイラウンド交渉の合意による農業対策にも位置付けされている事業です。 また、昨年の11月から新食管法がスタートし、いよいよ本格的な農産物競争時代を迎えるので、私としてはガット対策費を効率よく執行し、一日でも早くより良質で安全な農産物を消費者の皆様にお届けできるよう、これらの事業を通じて努力していきたいと考えています。
――公団事業の重要性について
葛西
公団の事業は、国費については国の特別会計制度から、補助残については国の財政投融資金を活用して運営されており、このため短期間に集中して事業を施行することができます。地元からの要望を短期間に実現し、効用発現が早い、というのが私たちの事業の特徴です。
今の農業情勢から見ると、まさに時代にあった事業ではないかと思いますね。
――公団事業の現状と課題について
葛西
昭和63年度より石狩川下流左岸区域に代表される緊急保全整備事業を継続実施してきました。そして平成2年度、3年度に着工した第2区域及び第3区域が平成6年度に完成し、下流左岸区域も本年度で完了する予定です。去る10月26日に関係各位のご賛同を得て、竣工式を盛大に江別市民会館で執り行いました。今後は残された第4区域の早期完成に向けて全力投球するつもりです。
また、同じ事業として本年度から石狩川雨竜区域が平成11年度完成を目指して、新たに着工します。この区域は、石狩川の支流雨竜川と大鳳川に囲まれた3,710haの農用地を対象とし、排水機場4か所と集水路20条29.3kmを整備するもので、関係市町村は深川市、妹背牛町、秩父別町です。
これら緊急保全整備事業は、昭和56年と63年に石狩川とその支流に起きた大洪水を契機に計画されたもので、内水排除を主目的にしていることから一日でも早い完成が求められています。しかしながら地域内は、泥炭土等の軟弱地盤が広く分布していることから、工事は細心の注意が必要です。良い施設をより早く、より経済的に施工するよう、職員とともに一丸となって対応していく方針です。
それから北海道では初の総合整備事業となる幕別区域が本年度より着工となりました。場所は十勝支庁管内の幕別町で,10,720haの農用地を対象とし、農業道路13.9kmの新設と、暗渠排水等の面整備を行うもので、平成12年度に完成させる予定です。特に面整備については、ガット対策上、早急に整備しなければなりませんので、平成10年には終わらせたいと考えています。
今後は、この区域に代表される総合整備事業が支社の事業の中心となるため、他地域の模範となるよう、万全を期したいと考えています。
――新年度の計画について
葛西
現在、平成8年度予算については、大蔵省に概算要求中ですが、緊急保全整備事業と総合整備事業を合わせて70億円強を要求しています。緊急保全整備事業の内、石狩川下流左岸第4区域では、上美唄等3か所の排水機場と集水路の整備を計ります。
また、石狩川雨竜区域では、新千代など2ヶ所の排水機場と集水路の新規着手、総合整備事業では幕別区域が、農業用道路と区画整理等の面的整備を新たに着手するための予算を要求中です。
――地域に密着した事業について具体的に
葛西
公団で実施している事業は全て地元からの申請事業です。事業による地元負担もあることから、事業開始には、農家から同意を得ることが必要です。また、事業実施中でも、関係市町村を初めとする地元期成会からの要望を逐次聞き取りながら、事業効果の発現に常に配慮しています。
お陰様で、事業については、毎年要望が多く早期完成についていつも陳情を受けており、地元に密着したやりがいのある事業であると思います。
――環境に配慮した新工法について
葛西
今年度の集水路工事の施工箇所で、平家ホタルが生息しているのが発見されました。この工事は、未整備の農業用排水路を軽量鋼矢板で護岸するものでしたが、地元の「ホタルの会」から是非ともホタルが繁殖できるような工法で工事を行ってほしいと要請があり、現場事務所の担当技術者が中心となって検討を重ねてきました。
最終的には、全て軽量鋼矢板で護岸するのではなく、所々木杭による護岸を行い、ホタルが繁殖のため岸に上がれるよう配慮しました。また、排水路断面で余裕のある箇所には中島を設け、生息環境を良くしました。この場所については、ホタルを保護する意味で詳細は公表できませんが、地元の人たちに大変喜ばれまして、いつかは大繁殖して多くの人たちの目を楽しましてくれるのではないかと期待しているところです。
――公団の今後の展望について
葛西
今までは、緊急保全整備事業を中心に事業を展開してきましたが、これからは総合整備事業へと移行していきます。総合整備事業の新規地区については、現在北海道開発局で基本調査及び地区調査を行っているので、私からは詳しく述べられませんが、構想として聞いている範囲では、まず調査地区の根室東部地区は、中標津町と別海町を対象とし、順調にいけば平成9年度に着工となります。
基本調査地区の上川当麻地区は、上川町と当麻町を受益地とし、平成10年度に着工予定です。
さらに、現在平成8年度新規基本調査地区として大野町と森町と七飯町を対象とする内浦南部地区を要求しています。
これら以外にも構想として、まだいくつかの地区が候補に挙がっていますが、いずれにせよ全て総合整備事業ですので、支社としては早い時期から技術力を高め、どこでも様々な要望に的確に対応できるように準備していきたいと考えているところです。

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