interview (96/10)

活力ある緑と文化のまちをめざして健康福祉都市を宣言

災害、環境対策で新機軸打ち出す

東京都板橋区長 石塚輝雄 氏

石塚 輝雄 いしづか・てるお
昭和3年生まれ、茨城県出身、28年中央大法学部卒
昭和23年東京都民生局総務課
昭和37年東京都杉並福祉事務所庶務課庶務係長
昭和39年東京都大田児童学園長
昭和41年東京都精神薄弱者更正相談所長
昭和42年東京都総務局行政部災害対策課長
昭和44年東京都総務局行政部指導課長
昭和47年東京都板橋区総務部長
昭和50年東京都総務局同和対策部長
昭和52年東京都中央卸売市場管理部長
昭和54年東京都総務局理事
昭和同年東京都板橋区助役
平成3年東京都板橋区長
現在2期目
『区役所は区民のための最大のサービス産業』が持論の石塚輝雄・板橋区長にご登場いただいた。50万区民が住む板橋区の目指す都市像は『活力ある緑と文化のまち』。災害対策では防災ひろば、防災大学などハード・ソフト両面で新機軸を打ち出し、全区でリサイクルを推進するなど『環境との共生』にも目配りが行き届いている。今年、健康と福祉のまちづくりを区と区民が一体となって進めていく『健康福祉都市宣言』をした石塚区長に都市経営の理念を聞いた。

区役所は最大のサービス産業
――板橋区の現況と課題からお聞かせ下さい
石塚
板橋はバランスの取れた街です。というのは昼間人口と夜間人口に大きな差がないのです。板橋区の人口は現在51万人ですが、昼間人口は46万人です。
もう一つは産業と区民の生活が融合しているということです。
東京23区はいずれも人口が減少傾向をたどっていますが、板橋区の場合は5年前に比べ、7,500人余の減少にとどまっており、今後ともおおむね横ばいで推移すると見ています。区の10か年計画では目標人口を50万人と想定しています。
心配なのは少子化の問題です。区内には小中学校が81校ありますが、児童・生徒の減少で余裕(空き)教室が520教室にも上っています。子供の減少は地域の発展に大きな影響を与えますので、非常に危ぐしています。区としてもいろいろな手立てを講じていますが、こればかりは国の抜本的な対策を期待しているところです。
他にも課題はたくさんあります。工場の地方移転が進み、跡地利用が大きな問題になっています。環境の問題もかなり深刻です。かつて工場は公害のチャンピオンとまで言われましたが、公害防止対策には各企業ともかなり努力されており、いまでは車の排気ガス公害のほうが問題です。次に区民の年齢構成ですが、わが区も高齢化が進んでいます。
阪神・淡路大震災の教訓を生かして、災害対策はハード、ソフト両面に力を入れています。実は、私は都庁の災害対策課長を経験しており、災害対策は最重点で取り組んでいるところです。
災害に強い区民を養成
――災害対策のハード面は具体的にはどのように取り組んでいますか
石塚
災害に強いまちづくりにはハード面とソフト面の二つがあります。ハード面としては災害が発生しても被害を受けないまち、受けても拡大しないまち、ソフト面は災害に強い区民になってもらうことです。日頃から防災に関心を持ち、災害時には沈着冷静に行動できることを期待しています。
このため、今年3月に区内初の『防災ひろば』を弥生町に設置しました。ふだんは区民の憩いの場に利用してもらいますが、災害時には消火・救助・救護活動の拠点となります。
地下に100トンの防火水槽と容量10トンの雨水貯留槽を埋設しており、雨水貯留槽の上には手押し井戸が設けてあります。また、炊き出し用のかまどとしても使えるベンチ、ソーラー電池で作動する時計や照明などの設備、放水マトを兼ねた防災倉庫にはミニ消火ポンプ、組立式のトイレが入れてあります。
さらに、環状7、8号、川越街道の不燃化促進事業に取り組んでいます。最も進んでいる環7(環状7号線)の不燃化率は61%に達しています。
また、区内を走る高速道路は延長8キロになりますが、阪神大震災の教訓を生かして1本足の橋脚98本の補強工事が実施されています。
ソフト面では防災大学を開設し、区民120人に1人の割合でリーダーを養成しています。防災訓練は毎年18か所で実施しています。特別養護老人ホームに入所しているお年寄りのような弱者の救護活動は、地域住民と協定を結んでいます。
板橋区と交流のある8つの市町村や地元の農協とも協定を結び、物資供給や避難先の確保を協定に盛り込みました。農協とこうした協定を締結したのは全国でも初めてです。
このほか非常食は50万区民で72万食、水は1日の消費量が区民1人3lとして1か月分備蓄しています。災害対策には予防、応急、復旧がありますが、予防対策に全力を挙げているところです。
国際色豊かな板橋
――国際交流にも熱心に取り組んでいるとのことですが
石塚
板橋区は現在6か国と交流しています。モンゴルはその一つですが、自治体の国際交流は有事の協力体制の確立も必要と考え、山火事で大きな被害を受けたモンゴルにはノートや鉛筆、辞書などを贈っています。この秋にはモンゴルと文化交流の協定を締結する予定です。マレーシアのペナンとは緑の交流を進めており、カナダのバーリントン、イタリアのボローニア、中国の北京市、ギリシャとも交流が続いています。
現在、区内在住の外国人は11,400人で10年前の倍に増えています。また、昨年1年間に板橋区を公式訪問した外国の方は9か国、191人を数えます。区の窓口を訪れる外国人は一日120-130人になります。
―コンピューターを使った新しい情報手段が急速に普及していますが、区が企画した経営コミュニケーション講座はユニークな取り組みですね
石塚 情報化の波は経済システムや個人の価値観に影響を与え、ビジネスやライフスタイルに多様な変化を引き起こしています。
経営コミュニケーション講座は、区内にある淑徳大学国際コミュニケーション学部と共催で開催しました。高度情報化社会の中で企業やビジネスマンに求められている今日的課題について考える内容で、大変好評でした。
三つの理念と五つの施策
――先に災害に強いまちづくりへの取り組みをお聞きしましたが、区長の都市経営の理念について伺いたい
石塚
『活力ある緑と文化のまち』が21世紀に向けた板橋区の将来像です。その実現のためにさまざまな事業を実施しているわけですが、それには三つの基本理念があります。一つは「人間性を尊重する明るいまちづくり」次に「地域性を尊重したまちづくり」そして、「環境との調和を図る共生のまちづくり」です。それら三つの理念を肉付けして、安心で快適なまちづくり、ともに支えあうあたたかいまちづくり、こころ豊かなふれあいのあるまちづくり、いきいきとした活気あふれるまちづくり、うるおいのあるみどり豊かなまちづくり−と、五つの方向を示しました。
ある新聞社のアンケート調査によると、板橋区は物価の満足度が首都圏でNo.1でした。日用品などが安く、『住みやすい』との評価をいただいています。福祉施設、医療機関の充実度も東京23区のトップクラスといえます。
環境面では、リサイクルの推進に力を入れており、今年から空き瓶、空き缶の回収を区内全世帯に拡大します。リサイクル工場が間もなく完成します。1年間で区民が集める空き缶は2トン車で455台、空き瓶は920台になります。また、古紙は直径16センチの立ち木に換算して20万本、紙パックは2千本相当になります。
成功した成増駅北口再開発事業
――都内は各区とも再開発事業が盛んですが、板橋区では
石塚
具体的な成功例があります。昭和61年に事業開始した成増駅北口の再開発は、平成2年に完成するまでに時間がかかりましたが、それまで土地の起伏が7−8メートルもあったのが、見違えるような駅前に生まれ変りました。ここに成増区民センター(アクトホール)を建てましたが、4階のホールはフル回転の人気ぶりです。
消防車の入れない地域が区内にはまだありますので、まちづくりの根底をなす再開発は今後も積極的に取り組みたいと思っているのですが、現実には財政状況が足かせになっています。
氷河期の女子学生就職を支援
――8年度の新規事業で何か目新しいものは
石塚
いじめ対策を主要事業に組み込みました。子供達の目安箱、地区別協議会を設置したほか、老朽施設の再活用でフレンドセンターを3か所に開設したところ、今年3月までの5か月間で延べ1,400人以上が利用しました。しかし、学校に行かずにフレンドセンターに来る生徒が多く、新たな問題も提起されました。
一方、女子学生を対象にした就職活動支援事業も新しい試みです。女子学生と企業との交流パーティーも企画したところ、マスコミの注目を集めました。今後もこうした新しい試みには積極的に取り組んでいこうと思っています。

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