〈建設グラフ2001年2月号〉

interview

(後編へジャンプ)

21世紀を展望する

北海道スタンダードの確立(1)

地域に対する道民の誇りと自覚を精神的基盤に

北海道知事 堀 達也 氏

堀 達也 ほり・たつや
昭和 10年 11月 22日生まれ、北海道大学農学部卒
33年 10月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所
34年 11月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所長
35年 9月 北海道林務部林業指導課
37年 5月 北海道林務部造林課
42年 7月 旭川林務署
44年 8月 美深林務署音威子府支署業務第三係長
47年 5月 北海道林務部道有林第1課
49年 5月 北海道大阪事務所主査
52年 9月 北海道林務部道有林第1課販売係長
54年 5月 北海道林務部道有林管理室経営管理課販売係長
54年 8月 北海道林務部林政課
55年 4月 北海道林務部道有林管理室業務課長補佐
56年 4月 北海道林務部林産課長補佐
58年 5月 北海道林務部林産課長
59年 4月 北海道林務部道有林管理室経営管理課長
60年 4月 北海道総務部知事室秘書課長
62年 5月 北海道生活環境部次長
63年 4月 北海道土木部次長
平成 元 年 4月 北海道総務部知事室長
3年 5月 北海道公営企業管理者
5年 6月 北海道副知事(〜平成6年11月)
7年 4月 現職、現在2期目
新しい世紀をついに迎えた。20世紀は激動の世紀だったが、21世紀がどんな時代の幕開けとなるのかは、我々の生き方、生き様にかかっている。グローバルスタンダードのかけ声の下、我が国の政治、行政、経済は、かつての鹿鳴館のごとく、欧米化に向けて一目散に猪突猛進しているが、はたしてそれで良いのか。金融危機、経済危機そして行政の危機にまでも見舞われた北海道の今後はどうあるべきかを、堀達也北海道知事に語ってもらった。
――いよいよ21世紀を迎えましたが、北海道と北海道民の未来像をどう想定していますか
北海道は、まだまだ経済情勢も雇用情勢もともに厳しい情勢にあり、将来展望は見えにくい状況です。しかし、中長期的に見ると、環境問題や食料問題など地球規模の課題への対応といった面で、北海道が持っている可能性は極めて大きいと思います。グローバル社会でも生き残れるような持続的な農林水産業の確立、資源リサイクルシステムの確立、さらには環境保全に貢献する技術開発などによって、自然と調和した循環型社会を実現することは、この北海道でこそ可能だと考えています。
それによって、北海道を心から愛する道民の皆さんも、北の大地に移り住もうというチャレンジ精神を持った人々も、やりがいのある仕事に就きながら、大らかな風土の中で様々な交流の輪を広げ、新鮮で美味しい食べ物や優れた自然環境に囲まれながら、心豊かに暮らせる大地であること。私は、北海道は将来にわたってそうした魅力あふれる地域であり、内外に貢献していけるものと信じています。
そのためにも道民の皆さんと力を合わせて新しい北海道づくりに取り組んでいかなければならないと考えています。
――北海道は、自律の道を目指していますが、現実には予算総額約3兆円のうち、自主財源はおよそ6,000億円程度で、残りは地方交付税や政府補助金に依存しています。まずは経済的、財政的自立が課題ではないかと思いますが、どんな方法、道筋によって実現できていくと考えますか
自律というのは、決して行政が先導するのではありません。まずは道民が自律意識を持つということが前提です。今までのように、何でもかんでも行政が先導し、民間が後からついてきて実現するというわけにはいきません。
長野県や栃木県の知事選の結果を見ても分かるように、今や地域の皆さんの意識は変わっているわけです。地域の皆さんと行政とが一体となって、これからどうしていくのかをまず話し合うことが大切です。
――それを踏まえ、新世紀の北海道の行政と政治システムはどうあるべきと考えますか
今、世界の社会経済システムは、かつてない変革の荒波にさらされています。行政も政治も、わが国と地域の新たな発展の道筋を切り開いていくという歴史的な責務を負っています。したがって、時代の潮流を見極めながら、前例にとらわれない大胆な発想を活かした政策の推進が求められると思います。
また、21世紀は知恵の時代だと言われています。地域が独自のカラーを打ち出しながら競い合い、高め合っていくことが大事です。地域が創意工夫をこらしながら、自らの責任で物事を決め、行政と市民とのパートナーシップで個性豊かな地域づくりを進めていくこと。まさに地方分権を本物に仕上げていく時代だと言えます。
ですから、まちづくりにおいても、これから個性がより尊重されるべきだと考えており、そのためには地域ごとの政治、行政、そして市民の力量が問われてくるものと考えています。
――それらを踏まえてみた場合、北海道民の意識には、変化または変化の兆しは見られますか
もちろん、変化はあります。例えば、産業クラスターが20地域にできていますが、これ自体がそもそも意識変化の表れです。問題は、それを私たち行政がどれだけバックアップしていけるか。バックアップというよりは、むしろそうした取り組みをいかに実現していくかが問題です。
これは道内に限った問題ではありませんが、地域の皆さんと、道庁や道内212市町村がいかに協力しあっていくかにかかっています。要するに、“協働−coraboration”ということですね。
現代は、経済のグローバル化や情報ネットワークの発展によって、農林水産業をはじめ、製造、金融、建設などあらゆる産業分野を取り巻く環境が大きく変化しています。したがって、このような中で、北海道経済が将来にわたって健全な発展を実現していくには、活力ある企業活動に支えられた民間主導の自立型経済への転換を、着実に進めていくことが不可欠です。
そのためには、産業クラスターによって、情報通信、食品、住宅、観光関連の産業や、環境・リサイクル、福祉といった、北海道が優位性を持ち、今後成長が期待される分野に重点を置いた展開を図っていくことが必要です。
――具体的には、どんな方法論を考えていますか
こうした重点分野を中心とする新たな展開を促進するためには、産・学・官を結ぶコーディネート機能を強化し、道内企業の競争力向上に直結する研究・技術開発を活発化することや、経済界や大学との連携と適切な役割分担の下で、優れた経営力や技術力を持つ人材の育成、誘致を図るなど、企業の商品やサービスの開発力、販売力の向上を図るための取り組みを積極的に推進していくことです。
――先日、朝日新聞にマハティール・マレーシア首相のインタビュー記事が掲載されましたが、同首相は“LOOK EAST”政策に関するコメントの中で、「日本には失望した。西洋のマネばかりしている。日本独特のやり方で成長してきた、その過程を東南アジアも学んできたのに、それが変わってきている」と発言していました。日本も“国際標準”の主張に押される形で、過度に欧米の基準に合わせようとしている傾向が見られます
グローバルスタンダードとは、要するにアメリカン・スタンダードです。しかし、スタンダードというものは、地域の歴史、風土、伝統によって育まれていくわけです。そういうものが混じり合い、統合された形で、日本のありようというものが決まってくるのではないでしょうか。
したがって、北海道は北海道としてのスタンダードを持てば良いと考えています。
――北海道の成り立ちは本州と違って、歴史が浅いため、日本のアイデンテティーと言える伝統と、アメリカナイズと言えるグローバルスタンダードとの中間にあるように思われます。とするならば、今後、そのスタンスをどこに保っていけばよいのでしょうか
スタンスに拘る必要はないのです。北海道としてのオリジナルなもの、新しいものを作っていけば、それでよいのです。経済基盤も弱いわけですから、それをどうカバーするか。それには、いかに「北海道」にこだわるか、という視点が重要です。
今や、中央(政府)を見ていれば仕事ができる時代ではありません。北海道でまずやろうと、足下から考えていかなければなりません。
農産物でも工業品でも何でもそうですが、地域にあるものに対して、地域の皆さんが誇りを持つことから始めることです。
――「サッポロビール」や「カナモト」のように、北海道で育ちながらも一度、成長軌道に乗ると、大市場を求めて道外へ出てしまう企業もあります
それはそれで良いのです。ただし、営業拠点を北海道にしっかりと置いてもらうことが大事です。業績が上がったら、途端に東京へ出てしまい、北海道は単なる出稼ぎの場と考えてしまうようでは困ります。
――北海道への赴任と言えば、「官」の場合は出世コースとして扱われ、「民」の場合は左遷のように見られています。しかし、地元北海道民が、北海道らしさ、北海道のアイデンテティーを深く自覚し、常にそれを意識しながら行動することで、そうした偏見を払拭できるのでは 
そうです。私たちが主張する“北海道スタンダード”とは、まさにそれを指して言うのです。

(後編)

――北海道は、ミレニアム事業を展開していますが、自立に向けての効果は期待できますか
もちろんです。「ミレニアムプロジェクト」は、新たな千年紀を迎える歴史的な節目にあたって、将来の北海道の発展の基礎となる施策として取り組んでいるのです。
私たちはこれまでも、たくましい産業の展開や、環境重視型社会の実現などに向けて、様々な施策を進めてきましたが、これまでの成果を踏まえながら、より戦略的な観点から、新しい時代を拓く大きな流れをつくり出していく必要があると考えています。
その対象として、「情報通信」、「技術開発」、「自然環境」、「人材育成」の4つをテーマとしたプロジェクトを、道独自の取り組みとして進めているところです。
――確かに、最近の情報通信技術の革新が、あらゆる産業の生産性をドラスティックに向上させると期待する声もありますが、どう考えますか
情報通信の分野は、現在、国を挙げた政策展開が進められ、次代をリードする産業として一層の成長が期待されています。また、こうした技術を活用することが、農業や製造業、流通、観光など、本道の既存産業の付加価値を高めていく上では非常に重要です。
幸いなことに、本道の情報通信産業の人材供給力などに着目し、最近コールセンターなどのit関連企業の本道への進出が活発化してきています。このようなitをめぐる速い動きに機敏に対応し、道としても迅速で効果的な施策展開を図っていく必要があります。
とりわけ、技術革新によって急速に普及率が高まっているインターネットは、優れた情報通信手段として、電子商取引をはじめ幅広い経済活動を支える社会基盤となりつつあります。
いわゆるIT革命は、暮らしと産業に大きな変化をもたらしていることから、日進月歩で進む情報通信分野の展開に乗り遅れることなく、インターネット利用環境の整備や関連産業の振興に向けた取り組みを進めることが、いま直面している課題だと思います。
――一方、世界でも例の少ない積雪寒冷都市を抱える北海道は、寒地住宅都市研究所の建て替えと、研究システムやサービスのリニューアルに着手していますね
はい。現在、平成14年度のオープンをめざして旭川リサーチパーク内で建設を行っています。
新施設では、これまでの研究成果を反映した、環境との共生を重視する、「パッシブ換気」(建物内外の温度差を利用した自然換気システム)や「自然光照明」、また、「氷冷房」(地下ピットにアイスシェルターを設置し外気を通し建物内に入れる)などの設備を取り入れ、21世紀の寒冷地施設のパイロットモデルを目指しています。
また、新施設は、道民に開かれた新しいタイプの研究所を目指しており、研究内容やその成果に関する情報を、展示や画面で皆様に見ていただけるようにするとともに、大学や企業、さらに、他の研究機関や市町村との連携を密にし、建築に関する技術開発や環境・防災に関する研究をより進めていきたいと考えています。
――そうした技術開発についてお聞きしますが、ある雑誌では、世界中の人間が日本人と同じライフスタイルで暮らしたなら、地球があと2つは必要になると報じていました
これからの科学技術には、環境にやさしい素材や新エネルギーの開発など、人と自然が無理なく共存できる社会を支えるものとなることが期待されます。北海道が公的需要に依存した体質から自立型の経済構造への転換を図るためにも、道内に蓄積されつつある技術を開花させるとともに、道外から積極的に知恵を集めていくことが重要な課題です。
こうしたことから、北海道の発展を牽引する未来型産業を創造していくための実用化・事業化に対する支援を行うとともに、本道の産業技術の高度化や、新規事業の創造を促進するための人材誘致の仕組みづくりを進めています。
そして、自然環境とライフスタイルの調和も大事です。21世紀は「環境の世紀」とも言われています。北海道にかつて広がっていた豊かな自然を蘇らせるとともに、環境と調和した持続可能なライフスタイルを実現すれば、北海道が循環型社会の世界的なモデルとなることが可能であり、北海道の価値を一層高めていくものと期待されます。こうしたことから、みどりの環境づくりの推進や、北海道に生息する希少動植物の保護の取り組みを進めています。
――北海道スタンダードの確立を担う人材として、どんな道民像が理想であり、そのためにどんな教育が必要だと考えていますか
グローバル化が急速に進展する中で、次世代の北海道人には、外国人とのコミニュケーション能力や国際的な視野が求められます。北海道の未来は、こうした人材の育成・確保にかかっているといっても過言ではありません。
こうしたことから、小学生の頃から生きた英会話に親しめる環境づくりや、優れた国際感覚や高水準の知識を備えた人材養成のための仕組みづくりに取り組んでいます。
――最近、議会論議となった46協定が、正常な教育環境の維持を阻害しているのではないかと思いますが、知事の所感をお聞かせ下さい
協定書は、昭和46年に給特条例の施行に当たって、道教委と教職員団体との間で交渉を経て締結されたものでありますが、その後、道議会などで様々な議論がなされてきたことは承知しております。
今後、道教委において、本道教育の振興のため、適切に対応していただけるものと考えております。

HOME