<建設グラフ96年8月号>

interview

全国に波及する北海道開発の意義と重要性

豊浜トンネル事故の経験を活かし、強力な防災体制を確立

北海道開発局長  北條紘次 氏

北條 紘次 ほうじょう・こうじ
昭和16年9月11日生、39年北海道大工卒
昭和43年旭川開建大雪ダム建設調査設計班計画係長
昭和45年局河川計画課計画第2係長
昭和46年建設省土木研究所
昭和52年建設省土木研究所ダム部フィルダム研究室長
昭和54年帯広開建帯広河川所長
昭和56年局河川工事課長補佐
昭和57年局河川計画課長補佐
昭和58年室蘭開建沙流川ダム建設所長
昭和59年局河川計画課河川企画官
昭和61年函館開建次長
昭和63年局河川計画課長
平成 2年庁水政課長
平成 4年石狩川開建部長
平成 5年6月局官房次長
平成 6年11月局建設部長
平成 7年11月現職
7月1日付で北海道開発局の大幅な人事異動が発令され、新しいメンバーが出揃った。豊浜トンネル崩落事故の対応では、さまざまな指摘も受けたが、これを教訓に同局では防災業務計画、防災対策事務規定を制定するなど、今後の防災体制の見直しを迅速に行った。同局の北條紘次局長は「さらに、大規模事故対策の要綱を策定することとしており、暫定マニュアルをその試案として策定中である」として、事故・災害に対する局としての体制向上に全力を挙げている。9月は防災の日、関東大震災記念日があり、一方、各省庁にとっては大蔵省への概算要求を終える時期で、今後の予算折衝に向けて理論をさらに強化していかなければならない時期でもある。北條局長に防災体制、北海道開発の重要性、そして事業実施についての執行方針などを語ってもらった。
――豊浜トンネル事故は救助活動の難しいケースでしたが、その教訓と、今後の体制についてどう考えていますか
北條
この事故は、極めて厳しい現場状況の下で、局としても関係機関との連携を図りつつ、全局的な対応体制をとるなど最大限の努力をしてきましたが、被災者のご家族への対応や報道機関に対する説明のあり方など、種々の厳しい批判、ご指摘がありました。局としては、それらを真摯に受け止め事故への対応状況全般についての改善課題について検討を行っているところです。
対応状況についての反省点は、まずこの事故のような、人命救助を目的に他機関と連携して一体的に行う作業を想定した組織体制やマニュアル、行動指針が整備されていなかったこと。そして、救出活動が難航するに伴いご家族の心労が高まりましたが、ご家族に親身な対応をもって行える体制が必ずしも十分ではなかったことなどがあります。
これらを踏まえ、今後の体制について鋭意検討を進めているところです。そこで、局内に防災対策室を設置し、防災業務計画の作成や災害応急対策要綱の見直しを進め、この4月には「北海道開発局防災業務計画」や「北海道開発局防災対策事務規定」を制定し、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び大規模事故対策などに適切に対処していく方針です。
さらに、内部体制の整備を図るため、大規模事故対策の要綱を策定することにしており、「大規模事故対策暫定マニュアル(案)」(別表)はこの策定に向けた試案として、当面、北海道開発局における対応の基本方針となるものです。


大規模事故対策暫定マニュアル(案)の概要について

  • 適用範囲について 北海道開発局が管理する道路において発生し、又は発生するおそれのある大規模事故等に適用。
  • 大規模事故に備えての措置 事故等の発生の防止
    所管施設の巡回・点検等の実施と安全性向上のための対策を実施。 体制の整備
    救出関係機関との協力体制を確立するとともに、情報収集・通信・連絡等の体制整備、職員の参集体制・部局間も含めた応援体制等について整備。
  • 事故発生時における措置について 大規模事故発生時における情報の伝達等
    事故発生時の迅速な情報伝達や勤務時間外における通報・参集等について確実に実施。 事故対策本部の設置
    広範な応援体制の確立
    本局職員の派遣、他の地方部局の職員の応援や資機材の増派等について実施。 通信手段の緊急整備
    衛生移動局や多重無線の緊急整備を行うとともに、NTT公衆回線の緊急増設の要請。 情報連絡の徹底
    情報は一元的に集約し、伝達・共有化することとし、迅速かつ確実に行う。 二次災害の防止
    交通事故の防止・過労による労働災害の防止に努めるとともに、一般住民等が二次災害にあわないよう所要の対策を実施。 被災関係者に対する援助
    被災関係者への援助にあたっては、関係機関等の連携を図り、迅速かつ遺漏のない対応に努め、また、迅速かつ的確な情報提供に努めることとし、わかりやすい説明を行うなど体制の整備。 報道機関への広報
    現地の広報体制は、本局の広報室等からの派遣職員を含めた広報専担者が行うこととし、わかりやすい説明を行うなど広報体制の整備。
  • ――概算要求の時期ですが、集積度の低さが指摘される北海道開発の重要性について、どう主張していきますか
    北條
    北海道は、国土面積の22%、平地面積の26%を占め、豊かな自然環境にも恵まれているなど、国内では最も広大なゆとりある国土空間を有しています。これを活用することによって、わが国が国土の均衡ある発展や、豊かで安心できる経済社会の実現を図る上で、今後ますます重要な役割を果たすことが期待されています。特に、広大な空間を活用した産業立地や先端技術産業、研究型産業などの展開が期待されるとともに、わが国において唯一の国際的な水準の農業生産が展開できる地域です。
    また北海道は、豊かな自然と雄大な北方的景観に恵まれているので、国民のニーズに対応した質の高い生活空間や、自由時間の増加に伴う新しい余暇・レジャー活動の展開の場の提供など、豊かさとゆとりを実感できる国民生活の実現に大きく寄与できます。
    国際的な視点から見ると、北海道はアジア地域と北方圏などの接点に位置しており、わが国の北の国際交流拠点としての発展が期待されます。そして、北方領土返還をめぐる国際情勢も変化しているが、分権化が進むとされるロシアと北海道との地域間交流は、両国の信頼関係醸成のためにも今後一層重要になっています。さらには、北方領土返還施策を進める上で、これに隣接する北海道の開発は極めて重要な意味を持つものとなっています。
    しかし、開発の歴史が浅く、広大な面積を有し、寒冷な気候の北海道は、全国に比べて国土保全施設などの基幹的な社会資本の整備が低い水準にとどまっており、なお一層、生活や地域の発展の基盤となる基盤整備の推進が求められているとともに、北海道の内外にわたる交流の促進や産業の振興を積極的に推進していく必要があります。
    このように、北海道の総合開発は、北海道の持つポテンシャルを十分生かして、21世紀に至るわが国が経済社会の安定的発展に寄与するという基本的課題に照らし、今後とも重要な国の施策として推進する必要があります。
    現在、第5期北海道総合開発計画に基づき、わが国の長期的発展に貢献する力強い北海道の形成に努めているところであり、今後とも北海道開発のための総合的行政を着実に進めていきます。

    ――平成8年度の予算と事業はどこにポイントが置かれていますか
    北條
    今年度の北海道予算についてみると、前年度に比べて354億円、3.7%増の9,986億円で、このうち一般公共事業費である北海道開発事業費は、前年度に比べ354億円、3.7%増の9,800億円となりました。これに地元負担などを含めた総事業費は、同じく522億円、3.4%増の1兆5,860億円に上っています。
    事業別に見ると、住宅対策、下水道環境衛生など国民生活の質の向上に資する分野に重点を置いた配分となっており、環境衛生施設整備を筆頭に高い伸びを確保したほか、治水、道路、農業農村整備など基幹的な基盤の整備についても、必要な予算規模が確保されるなど、メリハリのきいた内容となっています。
    主要な事業は、多発する大規模地震災害などを踏まえた防災対策の促進を図るための留萌港三泊地区岸壁などにおける耐震強化岸壁の整備着手、高度な交通体系の拡充に資する高規格幹線道路の新規区間の整備として、深川・留萌自動車道の幌糠留萌道路の建設着手、多目的国際ターミナルの苫小牧港東港区岸壁などの整備着手、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策に沿った農業経営の体質強化を図るため、農業農村整備事業直轄15地区の新規採択などです。
    このように、北海道の自然や社会の特性に応じた質の高い生活空間の形成に資する生活関連分野の事業、環境整備型の事業、各事業の連携による総合事業など主要事項がほとんど盛り込まれたところであり、道民の皆様の期待に応えられるものと考えています。
    開発事業の実施に際しては、基幹的な公共施設のグレードアップを図り、「ふゆトピア」事業や「ニューカントリー事業」などのソフト化事業を充実させます。また、自然との共生に向けた事業の展開をさらに推進していくとともに、この平成8年度予算と平成7年度補正予算と一体となった切れ目のない執行を図り、北海道の直面する緊急の課題に的確に対応するとともに、第5期北海道総合開発計画の円滑な推進を図っていきます。

    ――7月1日付の人事異動は、11開発建設部のうち10カ所で部長が交代するなど大規模なものとなりましたが、いわば新体制をどのように機能させていく考えですか
    北條
    これまでもそうでしたが、開発行政は地域の振興策と歩調を合わせていくことが大事です。国の公共事業を最優先させるのではなく、地域市町村の振興計画に合わせて、国としてどんな事業が必要であり、有益であるか、どんな側面から支援できるかを念頭に置きながら進めることが重要です。
    第一線の現場となる各開発建設部も、これを十分に心懸けて施策を進めていって欲しいと思っています。


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