interview (96/2)

釧路、青森、長崎労災病院で大規模増改築工事

アメニティの向上、動線の短縮、耐震設計に配慮

労働福祉事業団営繕部長 平賀芳明 氏

平賀 芳明 ひらが・よしあき
昭和16年9月11日生まれ、東京理科大学工学部建築学科卒
昭和41年建設省近畿地方建設局営繕部建築課採用
昭和42年関東地方建設局営繕部建築第一課
昭和50年官庁営繕部建築課
昭和51年筑波研究学園都市建設本部
昭和56年官庁営繕部営繕計画課
昭和58年沖縄総合事務局営繕課長
昭和60年近畿地方建設局営繕部計画課長
昭和63年官庁営繕部営繕計画課建設専門官
平成元年警視庁理事官
平成4年建設省九州地方建設局営繕部長
平成6年官庁営繕部建築課長
平成7年6月退職
平成7年7月現職
本道の釧路、岩見沢、美唄をはじめ全国39か所で労災病院を設置・運営しているのが、特殊法人の労働福祉事業団。戦後間もない昭和20年代から勤労者のための基幹病院として労災による疾病、外傷などの治療、リハビリテーションに取り組んでおり、最近は地域医療の分野でも中核的な役割を果たしている。半面、労災病院の多くが20年代から40年代初期にかけて開設されたため施設の老朽化が進み、事業団としては全国規模で既存施設の全面改修を推進するなど施設の充実が大きな課題になっている。増改築計画の陣頭指揮に立つ平賀芳明営繕部長に、労災病院の整備状況、現状などを伺った。
――まず労働福祉事業団の事業概要について伺いたい
平賀
労働福祉事業団は昭和32年、労働福祉事業団法に基づいて設立された特殊法人です。
事業目的は、労働者災害補償保険法に規定されている『労働福祉事業』を適切かつ能率的に行い、労働災害の防止に必要な資金を融資して、労働者の福祉の増進に寄与することです。
そのため、労働福祉事業団では勤労者などに対する医療施設である労災病院をはじめ、健康診断施設の健康診断センター、外傷性せき髄損傷者及び両下肢障害者の自立更生を図るための労災リハビリテーション作業所、看護婦養成の看護専門学校、健康確保のための産業保健活動を支援する産業保健推進センター、義肢装具などの研究開発を行う労災リハビリテーション工学センター、宿泊・文化・体育施設の後楽園会館といった各種施設の運営を行っています。
また、倒産企業の労働者に対する未払資金の立替払事業や職場環境改善資金といった融資事業まで、広く勤労者の福祉増進を図るための事業を実施しています。
――多種類にわたる事業の中核になるのが労災病院ですね。現在、全国に何か所ありますか
平賀
全国に39病院で、ベッド総数は約1万5千床を有しています。労災病院は当初、労働災害における被災者の診療を目的として設置されましたが、社会的な要請に応じて労働環境や職業生活を意識した健康障害全般の予防・診療、健康の保持・増進などの保健医療活動を実践しており、地域医療にも大きな役割を果たしています。
専門医療から総合医療へと発展
――労働災害の内容も時代とともに様変わりしているのでは
平賀
そうですね、労災病院の創設期である昭和20年代から30年代は、外科的疾患の対応に集中していましたが、同時に当時、社会的な問題になっていたじん肺症対策にいち早く取り組みました。
昭和40年代に入ると、労働災害の防止対策が格段に充実し、外傷を伴う事故が減少した半面、産業構造の重化学工業化が進み、作業環境の急速の変化によって複雑、多様な健康障害が発生してきました。
これらに対応するため、医療の専門化を進め、内科系をはじめとして多くの診療科を設けるとともに、重症治療部の開設など救急部門の強化を図ってきました。
その後、産業構造の変化、労働力人口の高齢化、技術革新に伴う職場環境、労働態様の変化、女性の進出などに伴って、勤労者の健康問題は新たな局面を迎えるようになりました。そこで、診療機能の強化と診療科の増設による一層の総合化と近代化を進め、健康保持、疾病の予防、治療、社会復帰までを対象とした総合的な勤労者医療を実践しています。
――労災病院は勤労者の社会復帰を目的としたリハビリテーション医療の分野で先駆的な役割を果たしてきたそうですね
平賀
労働災害による被災労働者の治療からリハビリテーションに至る一貫した労災医療に取り組んでいますが、昭和20年代からせき髄損傷などの外傷性の運動障害者に対するリハビリテーション医療を中心に取り組んだのが始まりです。
――そうした変遷に対応した施設整備も重要な課題ですね
平賀
労災病院の多くは昭和20年代から40年代初期に開設されたので、昭和50年代までは増床や診療機能の拡充のため建物の拡張、既存施設の改修を中心に、いわば継ぎ足し的な増改築を進めてきました。しかし、このような部分的な増改築を重ねることによって駐車スペースが不足するようになり、さらに歩行動線が長く複雑になりエネルギー効率も低下するなど多くの問題を抱える施設が多く見られるようになってきました。
そこで昭和60年代からは、施設の老朽化と外来患者の増加に伴う狭あい化を解消するため、既存施設を解体して立体的な建物に改築しています。改築計画の立案に当たっては、アメニティの向上、動線の短縮化による業務の効率化、耐震性の確保などに配慮して全体的な増改築を行っています。
――最近は病院でも免震構法を導入する事例が聞かれ、注目されていますね
平賀
免震構造については現在、前向きに検討しています。建設コストの問題もありますが、工夫次第では、それほどコスト高にならなくてすみます。
特に病院建築では、免震にしますと地震時の揺れが大幅に減少し、大地震後に救急医療施設として機能できる、地震時の居住性が確保される、あるいは地震時に手術部門などの機能が維持できるなどの利点が考えられます。
▲釧路労災病院
▲青森労災病院
▲長崎労災病院
海外での労災医療も充実
――企業の海外進出が進み、労働福祉事業団として海外にも目を向けているのは画期的ですね
平賀
海外で働く勤労者が増えており、現在、アジア、中近東、アフリカ、中南米、東欧の各地に年間延べ13チームの医師団を派遣、無料で在留法人の健康相談に応じています。海外勤務健康管理センターでは赴任前、帰国後の健康診断や海外医療情報の提供、予防接種、健診結果の外国語への翻訳などを行っています。
――最近の大規模な増改築工事の事例は
平賀
山口労災病院が平成3年度から7年度まで5年計画で実施しました。新潟労災病院と関西労災病院1期工事も本年度完成の運びです。3年度に着工した香川労災病院も7年がかりで9年度完成の予定です。
このほか釧路、長崎労災病院、青森労災病院が昨年から、神戸労災病院が本年度から本格的な工事に着手しました。関東、中国労災病院も本年度から増改築工事がスタートし、東京労災病院は現在、設計を進めています。

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