建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年5・6月号〉

interview

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拠点空港の整備に伴い、充実しつつある日本のゲートウェイ機能

利用促進をどう図るかが課題

国土交通省航空局長 深谷 憲一 氏

深谷 憲一 ふかや・けんいち
昭和22年5月29日生
本 籍 群馬県
昭和 46年 3月 京都大学法学部卒業
4月 運輸省に入る
55年 4月 在タイ日本国大使館書記官
62年 8月 大臣官房国有鉄道改革推進部清算業務指導課
再就職対策室長
平成 元年 4月 秋田県企画調整部長
4年 4月 海上交通局海事産業課長
6年 7月 海上技術安全局総務課長
8年 7月 大臣官房文書課長
9年 7月 大臣官房審議官(国会・広報担当)
11年 7月 航空局次長
12年 6月 航空局長
(※ 13年 1月 中央省庁再編により運輸省から国土交通省に省名変更)
現在、国土交通省は、旧運輸相時代から引き継いだ第七次空整に基づき、成田、羽田、中部、関西で拠点空港の整備に全力を挙げている。これらの拠点空港整備が完成すれば、わが国の国際社会へのゲートウェイは完備することになる。しかし、空港整備の目的はこれで終わりではない。整備後の利用促進が課題となる。わが国の空港整備と航空政策を担う航空局の深谷憲一局長に、拠点空港整備の現況と航空行政について伺った。
──拠点空港整備の概況は
深谷
現在、第7次空港整備5ヶ年計画が、平成14年度で最終年度を迎えますが、その最終年度における政府の予算原案が決定しました。現在の空港の整備については、基本的には大都市拠点空港、つまり首都圏、中部圏、近畿圏の国際拠点空港の整備に力点をおいています。
成田空港は開港以来20数年が経過していますが、今なお滑走路が1本しか供用されていない状況ですから、何としても早く2本目の並行滑走路を整備するべく、取り組んでいます。おかげさまで、暫定とはいえ2,200m平行滑走路の工事も順調に進み、4月18日に供用開始します。首都圏国際拠点空港の歴史の中では、画期的な時期を迎えたと思います。
しかし、2,200mはあくまで、暫定です。一つの通過点です。成田空港については、完全空港化に向けての整備を着実に進めていくことと、首都圏・東京へのアクセスを改善する必要もあり、14年度には、鉄道のアクセスルートも新規に着手します。これが完成すれば、成田空港と都心とを片道30分台で往復することができます。将来的には、既存の地下鉄などを利用して、東京駅との直結や、羽田空港への乗り入れなどのアクセスも改善されます。
他方で、羽田空港は国内線の需要に対応しています。これも沖合展開事業が進んできて、滑走路も3本が新しくなりましたが、今の状態ではいずれ処理容量の限界に達してしまいます。したがって、これも容量を拡大するため、昨年末に羽田空港の4本目の滑走路位置を決定しました。
 多摩川など河川との関係、船舶との関係、あるいは港湾との関係、廃棄場処分場予定地との関係など、考慮すべき課題はいろいろありますが、いずれにしても関係者の皆様のご理解をいただきました。14年度は調査を進め、早期事業着手に持っていきたいと思います。
──中部国際空港も、PFIによって整備が進んでいますね
深谷
中部圏については、中部国際空港を2005年の供用開始に向けて整備中です。現在、名古屋空港そのものが手狭になってきており、一部で二重駐機もしなければならない状況の中で、拡張の余地はありません。中部国際空港を新しく国際拠点空港として整備し、2005年の供用開始の際には名古屋空港の定期便を中部国際空港へ一元化するという構想で、これもまさに整備途上にあり、来年度には事業のピークを迎えるという状況です。
関西・近畿圏については、関西国際空港が24時間運用の海上空港として供用されていますが、滑走路はわずか1本のみです。成田、中部と共に我が国の国際拠点空港の一翼を担う関空は、国際的にも、また将来の需要を見ても、2本目の滑走路を整備することによって初めて十分に機能していくものと考えています。
2007年の2本目の滑走路の供用開始に向けて、着々と工事を進めています。この関空の2期事業については、13年度で埋め立ては約6割の進捗に達します。14年度も2007年の供用開始に向けて、用地造成事業を進めていきます。
これら都市拠点空港としての成田、羽田、中部、関西空港は、いずれも政府の都市再生プロジェクトに認定されており、これらを社会インフラとして着実に整備していくことが、将来の、日本の経済社会活動の基盤をつくっていくことになると思います。
──航空ネットワークは、着実に充実しつつありますね
深谷
国内空港全体としては、羽田空港などは、国内航空ネットワークのまさに大きなポイントです。将来の羽田の空港容量を拡大することは、日本の国内航空ネットワークの充実に繋がると思います。
また一方で、地方のネットワークとしては、これまでの空港整備計画の中で、地方の空港、一般空港についても整備を進めてきており、ネットワークとしてはかなり完成してきていると思います。
 これからは、必要に応じ機材の大型化や運用時間の延長など、既存の地方空港の質の高度化を図っていかなければなりません。
──どのような地方空港の高度化が必要でしょうか
深谷
先に述べた通り、滑走路や運用時間の延長など使い勝手の良さを上げていくことによって、インフラ利用を高度化することです。もちろん、現在も静岡や神戸、能登、百里などの空港については、新規供用に向けて継続事業として進めています。しかし他方で、公共事業のあり方そのものの議論もあり、私たちとしては、投資の重点化が当然必要と考えています。
 近隣のアジア諸国を見ても分かるように、日本の玄関口としての国際拠点空港の整備は遅れています。今は、国際拠点空港を含め大都市拠点空港の整備に重点を置いています。
──空港の整備に伴い、地元では周辺整備も合わせて進め、産業施設の誘致などによって活性化を図ろうとしています。ところが、現実には、なかなか展開が思わしくないところが多いようです
深谷
空港は、一つの交通インフラです。交通インフラは、整備すること自体が最終目的ではありませんから、空港ができればそれで全ての目的が達成されるというわけではありません。空港は人の流れ、物の流れ、交流を支えるための基礎インフラなのです。
その意味で、空港整備とともにそれをどう利活用していくのかを考えなければなりません。特に地方においては、空港整備ももちろん大事ですが、整備後にどう空港を活かして、それを地域の活力、活性化に結びつけていくかが大事な視点です。その視点に立って、地域がいろいろな取り組みをしているところもあります。
 そこで、私たちとしては、例えば運用時間を延長することによって、空港をより使いやすくしたり、あるいは路線別免許という制度はなくなりましたが、使い勝手の良いダイヤをエアラインに設定してもらうようにする。エアラインの使い勝手がよくなれば乗客も増え、地域の人にとっても、その地域へ訪ねていく人にとっても便利になります。
──成田空港は多年にわたって、いろいろと難しい状況におかれてきましたが、情勢はもう大分落ち着いたのでしょうか
深谷
成田空港につきましては、先程申し上げましたように、開港以来、滑走路1本で何とか今までやってきたわけですけれども、平行滑走路が是が非でも必要です。そういう意味で、今回の暫定滑走路の供用は大きな意味があります。
 しかし、まだ暫定ということもあり、また、ご理解のいただけない地権者もいらっしゃいますので、そうした方々との話し合いをこれからも懸命に進めていきたいと思います。それによって、成田空港が日本の玄関口として立派に機能していけるようにしていきたいですね。そういう意味では、まだ道なかば、通過点であります。

(後編)

成田空港の暫定滑走路が供用開始し、国内の国際拠点空港の整備は着実に進んでいる。国策としての考え方は、成田空港や羽田空港を核とする東京、千葉周辺を含む関東圏域、中部空港を核とする名古屋市域を中心とした中部圏域、関西空港を核とする大阪市を中心とした関西圏域それぞれに、日本のゲートウェイとしての機能を持たせることにある。つまり日本は、4つのゲートウェイを持つに足る経済力を有しており、それをさらに発展させる上でも、航空ポテンシャルを高めていく必要がある。
──アジア諸国でも、国策としてハブ空港を整備していますが、日本においては、関東、中部、近畿それぞれの圏域の空港を機能的に分けているのでしょうか。
深谷
日本の場合は、国内に一ヶ所、大きな国際拠点空港を作り、国内は全てそこからフィーダーで行くという考え方ではありません。首都圏、中部圏、関西圏といった一つの社会経済の人口規模、経済規模を背景に、そこにダイレクトに来てもらい、そこからダイレクトに出て行くという考え方です。
ですから、国際拠点空港として私たちが考えているのは、あくまでも成田、中部、そして関西国際空港の三つの玄関口を整備することにより、日本の国際拠点空港、玄関口として個別に対応していくことです。例えば近隣諸国、韓国や東南アジアのように、大きな拠点空港を一つ作り、全てそこで賄うという方針ではありません。
 日本に用事のある利用客は、日本に来て、そして日本から世界に行く人は必ず日本から出て行くわけです。上海や韓国、香港に行く人達にとっても、韓国だけで用事が済むというわけではないでしょうから、今後も日本の経済や社会活動が、世界の中でそれなりの役割を果たしていくとするなら、そういう人達との交流、それなりの規模がある物流などの視点を複眼的に持って、空港の整備が可能となるようにしていきたいですね。
──その意味では、難しい情勢に置かれてきた成田空港の整備について、逆に利用者からの要望としては、どんな声が上がってきていますか
深谷
何と言っても、早期の完全空港化とアクセスの改善ですね。それから、成田空港は内陸空港ですので、騒音等の環境対策と地域との共生。とにかく内陸空港として使い勝手の良い空港にして欲しいとの強い要請があります。
 もちろん、この他にもいろいろなご意見があります。
──成田空港は東京から少し遠いこともあるので、羽田空港を拡張し、そちらに機能を集約してはどうかという意見も聞かれました
深谷
成田空港の機能を、全て羽田空港で代替するということは不可能です。現在、成田空港では23時から6時までの間は、飛行機を離発着させていませんが、それでも年間の発着回数は13万5,000回。これはもう限界状態ですから、今回の暫定滑走路の供用開始により、これを20万回に増やします。
こうした措置により、国際拠点空港、国際線の基幹空港としての機能を果たさなければなりません。
一方、羽田空港は現在、3本の滑走路がありますが、これをフルに活用しても発着回数は27万回程度。今度の再拡張で4本目の滑走路が我々の決定案通り整備されれば、整備後は40万回を超える処理能力を持つことになります。
しかし、羽田空港と成田空港の関係を考える際には、地理的に置かれている状況の違いを考慮しなければなりません。そういう意味では、将来とも羽田の国内需要を成田に代替していくことは難しい。羽田は、これからも首都圏における国内線需要に対応できるようにしていかなければなりません。
 羽田の再拡張後の処理能力が40万回を超える状態になれば、その際の国内需要を充分見極めた上ですが、その時点では処理能力にゆとりが出てくるでしょう。それを睨みながら、日中の昼間時間帯の国際定期便の就航も視野に入れて考えることが出来ると思います。ただ、現在の羽田においては、日中時間帯は国内線で満杯状態ですから、現時点ではこれに国際定期便を乗り入れることは考えられません。
──一時期は、横浜市・金沢付近に第3空港を整備するという構想も聞かれましたね
深谷
私の基本的な考えは、成田空港を完全空港化し、日本の国際拠点空港として機能させることです。もちろん、乗り継ぎの利便性などもありますので、国内線も、成田空港の暫定滑走路供用後は、路線を充実する必要はありますが、基本的には国際線です。
羽田については、昨年2月より、深夜早朝に国際チャーター便が飛んでいますが、こちらは基本的には国内線です。
ただ先に述べた通り、再拡張後、40万回程度の処理能力が期待できます。
しかし、それでも未来永劫、首都圏の空港容量に問題がなくなるのかと言えば、やはり長期的には新空港も視野に入れていかなければなりません。
平成12年の秋から、首都圏第3空港の検討委員会を航空局で開催し、そこで首都圏の空港容量や、将来的にどう整備・対応していくのかを検討してきました。その議論の中で、かつては羽田の再拡張が難しいので、首都圏での第3の新空港の整備を考えたときもあったのです。
羽田の再拡張は、河川や航路の問題があり、なかなか難しいと考えられたのです。ただ、利便性、既存ストックの有効活用、あるいは多重投資が避けられる等の観点から、羽田の再拡張が可能ならば、それを優先して考えようということになりました。
 定期航空協会や東京都からのご提案もあり、関係分野、すなわち河川や港湾、海事関係者らといろいろ相談した結果、昨年末にお示ししたように4本目の滑走路の位置を決めることができました。これは、扇大臣もよくおっしゃる通り、国土交通省となり、河川についても同じ省の所管となりましたので、海事関係も含め、総合的に一つの省の中で、率直な検討を進められたことによる成果だと思いますね。
──拠点空港の24時間運用も、是非実現したいところですね
深谷
成田空港については、内陸空港で騒音問題もありますから、23時から6時の間は飛ばせないという制約があります。他方、羽田空港については、沖合展開したこともあり、24時間化が可能となりました。そこで羽田では、成田空港が運用できない23時から6時の時間帯に、国際線のチャーター便に限って使ってもらえるようにしようと、昨年の2月からスタートしました。
 ただ、ciqや、国際線ターミナルなどの制約要因があり、多くの便を飛ばせるような状況ではありません。しかし、新年度からはこの制約がかなり緩和できる見通しですから、深夜早朝という時間帯ではありますが、これも社会資本の有効活用ということで、かなりの需要に応えられると思います。
──関西・中部の両国際空港の将来については
深谷
成田空港につきましては、先程申し上げましたように、開港以来、滑走路1本で何とか今までやってきたわけですけれども、平行滑走路が是が非でも必要です。そういう意味で、今回の暫定滑走路の供用は大きな意味があります。
 しかし、まだ暫定ということもあり、また、ご理解のいただけない地権者もいらっしゃいますので、そうした方々との話し合いをこれからも懸命に進めていきたいと思います。それによって、成田空港が日本の玄関口として立派に機能していけるようにしていきたいですね。そういう意味では、まだ道なかば、通過点であります。
──地方空港も含め、最近は社会資本を歓迎しない風潮があります
深谷
公共事業は、メリハリをつけながら進めていくことが必要です。その意味では、公共事業全体を指して批判するのは、少し短絡的ではないかと思います。必要な公共事業というのは、これからもしっかりと進めていかなければなりません。
例えば空港にしても、整備をして供用したとたんに飛行機で満杯になるということは、整備のあり方としては本来の姿ではないと思います。したがって、長期的な視点を持ちながら、整備を進めていくことが必要ですね。
その時その時においていろいろなご意見はありますが、私たちとしては、国家的に必要なもの、あるいは地域経済社会的にとって必要なものについては、できるだけしっかりと整備していくことが、将来の経済発展、社会発展の礎になるという信念で取り組んでいきたいと思います。

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