interview (96/3)

区の理念は「心のふれあう緑豊かな 文化の香り高いまち」

「学長懇」論議が区政に反映

東京都文京区長 遠藤正則 氏

遠藤正則 えんどう・まさのり
大正3年6月30日生まれ、茨城県水戸市出身、中央大学商学部卒
昭和8年7月東京市本郷区勤務
昭和34年4月文京区教育委員会学務課長
昭和40年4月文京区総務部長
昭和43年7月文京区助役
昭和48年12月文京区長就任(選任)
昭和50年4月文京区長就任(公選1期)
現在公選6期目
平成3〜7年まで特別区長会会長
東京都文京区は、東大、お茶の水女子大といった有名大学を筆頭に、大学の数が23区の中で最も多い区で、教育・文化のメッカとなっている。それだけに、毎年行われる全大学の学長との懇談会では衛生、防災、生涯学習、国際交流など年毎に多岐にわたるテーマが論議され、それが区政にも反映されるという実にアカデミックな区政運営が行われている。同区の遠藤正則区長に完成して1年余りの新庁舎・シビックセンターで、区の現況とまちづくりについて語ってもらった。
――文京区は、文化レベルが高いとされますが、区内の現況はどんな状況でしょうか
遠藤
文京区は、23区のほぼ中央にあり、面積が約11kuで、人口は約16万7,000人ですから23区の中で面積は20番目、人口は19番目になります。
区内の地形は起伏に富んでおり、5つの台地とその間に谷があるので、非常に坂が多く、名称のある坂だけでも104もあるのです。
歴史を見ると、江戸時代には大名屋敷、武家屋敷、寺社などがこの地域に集中し、現在もその伝統を伝える雰囲気が色濃く残っています。江戸文化の核となるまちだったと言えるでしょう。大名屋敷や武家屋敷の跡地には東大、お茶の水女子大ができたのをはじめ、現在区内には大学と短大があわせて16校もあり、まさに区名の由来である「文教のまち」というイメージが、古くから形成されています。
実際に明治以来、森鴎外、夏目漱石、石川啄木、樋口一葉など、多くの著名な文人が住み、文京区を舞台とする文学作品もたくさん生まれています。このように文京区には、文人・文豪と言われる人々がおよそ180人も移り住んでいたといわれています。
また、文化的には山の手と下町の接点にあたり、両方の文化が混在した独特の文化を形成しているまちと言えるでしょう。

[文京シビックセンター]

「文京シビックセンター」はまちづくりの核
1日3,000人が訪れる

――まちづくりの課題として重点的に取り組んでいる政策は
遠藤
本区では、人口定住対策と災害対策が最大課題です。区内の人口は、昭和35年がピークで約25万3,000人でしたが、バブルの最盛期には3,000人台の大幅な減少が続きました。平成3年からは1年に2,000人台と減少がゆるやかになり、この1年間では約1,000人余りの減少にとどまりましたので沈静化してきているといえるでしょう。
しかし、若年層の転出により、人口構成は65歳以上の高齢者人口が約17%と23区中3番目で、平成2年に高齢者人口と15歳未満の年少者人口が逆転して以来、その差は開くばかりです。そのため、まちの活力の減退や、コミュニティの維持の上で問題が出ています。
そこで、平成4年に住宅マスタープラン、住宅基本条例を策定し、良質な住宅と良好な住環境の創出に向けて、借上げ区民住宅や家賃助成など、中堅ファミリー層を中心とした住宅対策に全力をあげています。
一方、災害対策は、戦災や震災で焼け残った木造家屋が密集する市街地や住工混在地区の面的な基盤整備、延焼遮断帯となる幹線道路沿道の不燃化、耐震化など阪神・淡路大震災の教訓をふまえた災害対策が必要となっています。
このため、長期的な視点に立って災害に強いまちづくりを計画的に進めることが必要で、木造賃貸住宅地区再生事業、市街地再開発事業、都市防災不燃化促進事業などを積極的に推進しています。
また、シビックセンターの15階には防災センターを設け、110倍の高倍率の高所カメラにより、被災状況を詳細に把握できるようになっています。また「ゼンリン」作成の詳細な地図やその他のデータを蓄積したコンピュータが整備され、迅速に防災関係機関に情報を提供する体制ができています。
その他、区民施設の耐震診断や、備蓄物資の充実、区内各家庭に「地震対策読本」や防災地図の配布などは、すでに行いましたが、平成8年度には、引き続き、区立の小中学校すべてに備蓄倉庫を整備し、橋梁の耐震補強対策、防災生活圏の促進事業、民間建築物に対する耐震診断助成制度、災害時の活動マニュアルの作成などを行いさらに充実させていく方針です。
――まちづくりの理念や区の将来像は、どのように描かれていますか
遠藤
文京区のまちづくりは、昭和53年に策定したまちづくりの憲法ともいえる「文京区基本構想(心のふれあう緑豊かな文化の香り高いまち)」をキャッチフレーズとして、この理念に基づいて進められています。
その後、昭和62年に「アメニティ・ルネッサンス」という副題を持つ「文京区まちづくり指針」を策定し、ソフト面との調和を図りながら土地利用や都市施設などの整備を進めてきました。また、指針策定以前の、昭和46年以来、全国に先駆けて市街地再開発事業に取り組み、これまでに7地区が完了しています。
――このシビックセンターはかなり高層で新しく大胆なデザインですが、基本構想における位置づけは
遠藤
文京区内には地下鉄が4線あり、この3月に1線、平成12年にさらに1線が新設されますが、jrの駅が一つもなく、区内の中心と呼べるところがありませんでした。そこで「文京区まちづくり指針」では、区を3地区に区分しそれぞれにまちづくりの核となる拠点を設けることにしましたが、その中でもこの区役所の周辺を区の中心となるシンボルゾーンとして位置づけました。
その中心施設として、平成6年12月にこの区庁舎とシルバーセンター、生涯学習センターなど7つの区民施設を併せ持つ、27階建ての文京シビックセンター(T期)を開設しました。区民はもちろん、マスコミや情報誌でも評判で、午後9時30分まで 開放しているため25階のラウンジや展望レストランをはじめ、各種施設の利用者は、毎日約3,000人います。現在、シビックセンターのA期工事として、T期施設の隣地に、区民からの要望の高い公会堂、リサイクルセンター、区民広場などの建設を準備しており、平成12年1月の完成を目指しています。ところで、このシビックセンターの敷地も、実は水戸藩の上屋敷だったのです。

区民需要に応え精力的に建設事業を推進

[昭和小学校老朽鉄筋校舎全面改築(高齢者在宅サービスセンターへ移設)]

――今後の整備事業の予定、実施方針と新年度予算のポイントは
遠藤
平成4年の都市計画法の改正に伴い策定が義務づけられた、市町村の都市計画に関する基本的な方針、いわゆる「都市マスタープラン」を学識経験者や区民の代表からなる検討委員会で検討中です。
先の昭和62年のまちづくり指針の基本的な考え方を継承したうえで20年後を見据え、部門別と地域別の整備方針などを定め、安全で快適なまちづくりを目指し、基盤整備や公共施設を推進して行きたいと考えています。
昨年10月に素案をまとめ、全区民に区報や説明会などでお知らせするとともに、意見をいただき、現在最終案を作成中です。
新年度予算では、公会堂のほか、急速に進展する高齢社会に対応するため、小学校の全面改築にあわせて高齢者在宅サービスセンターを併設して建設し、また、都営住宅に併設したサービスセンターの建設、区立で3つ目の特別養護老人ホームが平成8年度に竣工し、4ヶ所目の設計にも着手するなど、地域の介護サービスの拠点になる高齢者施設を区内にバランスよく早期に整備すべく取り組んでいきます。
さらに、下町文化や地域産業育成・振興などを目的とした根津地域拠点施設の新設、出張所やリサイクルセンターなどを中心とした駒込地域拠点施設など地域の核となる施設の基本設計に入ります。他にも、耐震調査により補強工事が必要とされた橋梁の設備など災害対策も強化します。
住宅対策としては、国の特定優良賃貸住宅供給促進事業と、都の優良民間賃貸住宅制度により建設された住宅を区が借上げる「特優賃区民住宅借上げ事業」、大都市法による「都心共同住宅供給事業」などを積極的に推進します。
そして、良好な景観の形成を図るために、景観基本計画を策定し、ガイドライン、デザインマニュアルなどを作成し、平成9年度からの事業展開に備えることにしています。
その他、今後、大きな課題になると予測されるのは都区制度改革で、中でも都からの清掃事業の移管です。現在、その前提となる車庫の整備と清掃工場の用地の選定に苦慮しているところです。
私は、昨年まで特別区長会の会長として、長く都区制度改革の実現に全力を注いできたこともあり、区民の理解と協力をいただきながら、今後も推進していきたいと考えています。

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