建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年9〜11月号〉

interview

東京の新しい業務核都市を形成

東京都多摩都市整備本部長 中山一郎 氏

中山一郎 なかやま・いちろう
昭和15年2月1日生まれ、東京都出身、早稲田大政経卒。
 39年 中央区
 52年 大田区特別出張所長
 60年 環境保全局緑化推進室副参事
 63年 清掃局主幹(庶務課長)
平成2年 労働経済局工業技術センター事務長
  5年 下水道局経理部長
  6年 下水道局総務部長
  8年 清掃局理事(工場建設推進担当)
  9年 現職

かつて都民への住宅供給を最大の使命として着手された多摩都市開発は、今や曲がり角を向かえ、東京区部依存体質からの脱皮と、業務都市として経済的自立を目指す方向へ向かうことになった。ニュータウンの開発整備、区画整理事業は、それ自体としても困難な課題が付いて回るが、ニュータウン自体の管理・運営にも一筋縄ではいかない難しさがある。新しいコンセプトに基づき、新生多摩ニュータウンの整備・運営に当たる東京都多摩都市整備本部の中山一郎本部長に、事業推進の手法、運営、将来像などについてインタビューし、3回シリーズで紹介する。
――多摩都市整備本部の役割から伺いたい
中山
多摩都市整備本部は、昭和42年から平成2年までは開発面積3,000haに及ぶ「多摩ニュータウン建設事業」の専管組織として位置づけられていました。いわゆる「新都市」の建設がその組織目標で、20年余にわたりその職責を組織として全うしてきました。
その後、平成2年8月の組織改正により、広く「多摩地域の複合的な都市機能を有する市街地の整備とこれに関連する都市施設の整備推進」を目標に、多摩ニュータウン事業に加え、多摩地域の都市整備に係る個別のプロジェクトも所管することになりました。
――現在、どんなプロジェクトや事業が進んでいますか
中山
調布基地跡地内の「武蔵野の森競技場(仮称)」建設関連事業や西国分寺地区整備事業などが施工中となっています。
また、多摩ニュータウン周辺開発の坂浜平尾地区約212haは、昨年8月に土地区画整地事業として都市計画決定されました。
一方、新規事業としては、計画対象面積約3,900haを有する「秋留台地域総合整備事業」、「立川・昭島地区」の土地区画整理事業などを予定しており、調査などを進めているところです。
このように『多摩自立都市圏』の形成に向けて多角的に事業を展開しているところですが、とりわけ多摩ニュータウンと立川・昭島地区については、東京都のまちづくりの目標である多摩の『心』の育成・整備に欠かせない事業です。
その他の地区についても、安全と快適性の確保、スプロール化の防止、豊かな多摩地域の環境と調和した秩序ある市街地の創出や地域の拠点機能の向上に資するなど、様々なテーマに基づいて均衡あるまちづくりに全力を尽くしています。
――どんな手法でそれぞれの事業を進めていますか。事業・計画概要を含めてお聞きしたい
中山
秋留台地域総合整備事業は、多摩西部地域にある、都心からおよそ50km圏に位置する青梅市、あきる野市そして日の出町に跨る約3,900haの整備事業です。
現在、東京都が「多摩自立都市圏の形成」に向けて推進している多摩の5つの心(八王子・立川・青梅・町田・多摩nt)の育成・整備は、多摩地域の自立性を高めるための重要な拠点となるもので、同時に国の施策である業務核都市の一翼を担うものです。
このため、秋留台地域においても、青梅をはじめとする多摩の「心」の育成、研究開発施設など環境順応型の企業誘致を図り、職と住のバランスのとれた自立性の高い、高次なまちの形成を促進するため、本部を中心として全庁的な検討を進めているところです。
この秋留台地域を将来「うるおいと活力のある地域」にすることは、関係市町の長年の悲願でもあります。
平成5年4月にいわゆる「秋留台マスタープラン」が策定されましたが、その後の社会、経済環境の激変、都財政の悪化などにより「秋留台総合整備事業」を取り巻く状況は非常に厳しくなっています。
しかしながら現実には、無秩序な宅地開発が台地部において随所で見られますし、丘陵部においては墓園、ゴルフ場などの開発・利用が進み、建設残土など産業廃棄物の不法投棄による森林自然環境への浸食が進んでいるのが実態です。
また現在、千葉・埼玉・東京・神奈川を結ぶ『首都圏中央連絡道路(圏央道)』の建設が、中央高速道の八王子JTCに接合すべく急ピッチで進んでいます。特に、秋留台地域内の日の出ICと秋川ICの工事により、秋留台地域全体の開発圧力が急激に高まり、このまま放置しておけば、将来に大きな禍根を残すことになりかねません。
したがって、秋留台地域総合整備事業は、東京都が積極的に関与することによって、個別に開発されることで失う自然、あるいはスプロール化を助長するような個別開発を抑制し、秋留台地域全体が貴重な財産である自然と調和し、均衡のとれた地域として発展するような方向性を与えるという使命もあるのです。
少子・高齢化、地場産業の低迷は、この地区も例外ではありません。また、就業の場を他の地域に依存している現状もあります。それらを踏まえ、良好な自然環境を保全しつつ、地元市町が将来的に安定した「都市経営」が可能になるように進めていきたいと思っています。
一方、6月19日に、東京都は計画立案段階から環境への影響を評価する『総合環境アセスメント』制度を導入することを決定しました。計画立案段階でのアセスメント制度は、全国で初めてのもので、この秋留台地域総合整備事業は、平成12年度の本格導入に先立つ「試行事業」として位置付けられましたから、注目に値するでしょう。
――相原小山地区や西国分寺地区の土地区画整理事業については
中山
相原小山地区は、多摩ニュータウンに隣接した町田市域の約174haを対象とした「開発整備型土地区画整理事業」です。
この事業は現在、東京都唯一の「土地区画整理特別会計」として経理している事業です。事業区域内に先行的に「種地」を買収し、自らが地権者となりながら他の地権者と協力して市街化誘導を図り、複合的な都市機能をもったまちを短期間に形成しようとするものです。
この事業手法は、昨年8月に都市計画決定された、多摩ニュータウンに隣接する稲城市域の「坂浜平尾土地区画整理事業」(面積約212ha)に踏襲されます。また、先に述べた「秋留台地域総合整備事業」の一手法ともなるものです。
宅地造成を目的とした「特別会計」を設置し、経営を行うわけですから、「コスト主義」はここにおいても充分徹底されなくてはなりません。
また、西国分寺地区整備事業は、JR中央線西国分寺駅前にある国鉄清算事業団用地や、その他の大規模跡地の有効活用、利用を目的としたものです。西国分寺住宅市街地総合整備事業約32haにおいて、土地区画整理事業と都立公園整備事業を行っています。
――調布基地跡地では、様々な公共施設が整備され始めましたね
中山
調布基地跡地は、三鷹・府中・調布の三市約204haの面積を有する地区です。土地利用計画の柱として飛行場、総合スポーツ施設、下水道処理施設、社会福祉施設などの他、国の施設として東京外国語大学、警察大学校の建設などが進められています。
本部では最寄り駅の京王線飛田給駅からのアクセス道路整備、跡地内の道路整備など基盤整備を実施しているところです。
一方、跡地利用の大きな柱である総合スポーツ施設のうち、先に触れた「武蔵野の森競技場(仮称)」は、本部が所管する第三セクター「武蔵野の森スタジアム梶vが、平成12年度の完成を目途に、7月から本格的なエ事を開始したところです。
この総合競技場は、5万人収容の国際大会も可能なもので、東京都初のJリーグチーム「FC東京」のホームスタジァムとしても予定されており、大きな期待が寄せられています。
その他、多摩ニュータウン区域内で、本部は既に3地区約455haの土地区画整理事業を終了させましたが、いずれも新住事業と密接不可分な事業で、都道を始めとする幹線街路の先行工事、大規模造成工事に対応した河川の改修工事などを実施しました。
武蔵野の森競技場
――開発・整備において地域的な偏りの心配はありませんか
中山
確かに『多摩地域内格差』と言う論議があります。とりわけ埼玉県に境を接する北多摩北部地域は、都区部への近接性という立地条件から急激にベッドタウン化とスプロール化が進み、自立性の低い区部依存型の地域構造が形成されてしまいました。
住環境の悪化、就業機能や日常的なサービス機能の低下、緊急車輛などの交通阻害などの特有の都市問題を抱えており、都市基盤の再整備を優先的に施策の中で実現していかなければならない地域です。
再開発、あるいは土地区画整理事業の整備手法はどうあれ、都民の生命・財産の保全を担保することは行政の責務ですから、多摩地域全体のまちづくりを専管する本部としては、多摩都民の大きな期待に応えるべく職員が一丸となって対策に取り組んでいるところです。
――多摩ニュータウンの住宅販売が伸び悩み、先に住都公団の廉売に反対する住民が集団訴訟を起こすなど、苦戦を強いられているようです。そこで、今日までの経緯を含め、多摩ニュータウンの置かれている現況と問題点について伺いたい
中山
多摩ニュータウンは昭和42年12月に「新住宅市街地開発事業」(新住事業)の認可を受けてから30年余が経過しました。昭和46年3月の第1期入居から数えて27年が過ぎ、いわゆるニュータウン市民も三世代を形成するまでに成長しました。周辺部を含め我々が想像した以上に大きな変貌を、今も遂げつつあります。
事業開始当時は、住宅戸数の絶対的な不足を短期間で解消することが住宅政策の基本姿勢でした。しかし、こうした「質より量の時代」にあっても多摩ニュータウンは、時代を先取りしたまちづくりを進めてきたと自負しています。
当時、多摩ニュータウンを評して「ゆりかごから墓場までのまちづくり」と言われたものです。これは、本部のまちづくりの理念である「住み・働き・学び・憩う」の下に、多摩ニュータウンの一貫した都市施設や環境の整備を行うことの証しでもありました。特に「公的住宅供給」事業を通じて、マイホームを夢見る都民の方々に、低廉で良質な住宅と環境を提供してきました。同時に、全国の新市街地のモデルとして、また住宅政策の先導役としての自負もあります。
昭和61年8月には、ベッドタウンと呼ばれるだけの無機質なまちにしない、させないという我々の熱意が実を結び、新住法が改正されました。
複合的な機能を有するニュータウン開発を通じて、居住者の雇用確保やまちの賑わいの創設など、高度化・多様化している住民二一ズに応えつつ、真に時代の要請に対応した活力あるまちづくりが名実ともに出来るようになりました。都や地元市はもとより住民の方々にとっても、これは画期的なことでした。
しかし、事業開始以来30年余の年月経過による「まち自体の高齢化」、「住む人びとの高齢化」は、初期建設住宅のリニューアル、建替え問題など大きな課題を生じさせています。
また、住区商業サービス施設の沈滞化、宅地処分の鈍化、住宅入居率の低下、民間住宅との価格格差、あるいは商業・業務施設の誘致の先行き不透明感など、課題が山積していることも事実です。
――本部としては、どんな対策を行っていますか
中山
本部としてはこれらの課題に対応すべく、昨年12月に近隣センター内住区商店街の活性化対策や、今年の4月には、より快適な住環境が担保されるように「集合住宅の建て替えに係わる指針」を策定するなど、精力的に課題解決に向かって取り組んでいるところです。
一方、国と東京都の住宅政策それ自体も転換期を向かえています。周知の通り、これまでの新住法は「良好で低廉且つ大規模な住宅地を、関連する公共公益施設を整備して、住宅に困窮する国民に提供する」ことを目的としているので、これを担保する形で「公的住宅供給」を是として事業を進めてきたわけです。
しかしながら、住宅・都市整備公団の分譲部門からの撤退や、東京都の住宅施策、例えば都営・公社住宅の新規建設の見直しなどにより、公団をはじめとする公的住宅建設事業者への宅地処分の途が事実上、閉ざされるなど、新住事業は厳しい局面を向かえています。これは「新住事業」の根幹を揺るがすものです。
新住会計は、宅地を売却することによってこそ、その経営が成り立っているわけですから、私たちにとってはその兵糧を断たれたようなものです。原資を起債により充当し、住宅都市整備公団など公的住宅建設事業者への売却収入により起債償還してきたものが、その売却先を都民や民間事業者へと大転換を余儀なくされるわけです。
このため、本部では現在、職員全員が一丸となって「販売促進」に努めているところです。
――そこで『ウリウリ本部』を設置して、職員自らが販売セールスに乗り出し、自力で分譲業務に当たるという全国でも珍しい取り組みとなったのですね
中山
そうです。このニュータウン事業に対する「大きな逆風」に対して、多少乱暴な言い回しではありますが、『何でもやれ、考えたことは行動に移せ』ということで「多摩ニュータウン宅地販売促進対策本部」、通称「ウリウリ本部」を昨年10月に発足させました。
先に申し上げたように新住事業は、税金を原資としている一般的な道路、河川、公園などの公共事業とは全く異なる『企業会計』で、土地の売却収入により収支を均衡させている事業です。土地の安定供給先を失った今、これまでとは全く異なる視点でので取り組みが必要であり、先ずは「職員の意識改革」が必要でした。
銀行、証券会社などは「倒産」しないものだということが神話に過ぎず、「絶対大丈夫」ということが全てにおいて通用しない時代に突入しています。「ウリウリ本部」の発足は、厳しい現実を直視し、本部においては「宅地販売」の促進が当面、全てに優先するということを内外に示したものです。
事業の推進に当たって『コスト主義』の周知徹底が事業存立の絶対要件です。バブルによって生じた贅肉を削ぎ落とすことに、些かのためらいも躊躇も許されません。必要なのは「目に見える結果」です。最小経費で最大効果を上げるよう、職員一丸となって邁進しているところです。
――そのウリウリ本部の具体的な業務内容は
中山
民間事業者への宅地の販売(民卸)、未売却地の暫定利用化、事業用地の定期借地、土地の短期的貸し出し、土地利用計画変更の是非、集合住宅用地から一戸建住宅用地への変更、投資効果の徹底的な検証、職員による宅地直販体制の確立などですが、ここ半年の聞に何が可能か、どのようにすれば可能になるかを検討し、実施可能なものから速やかに行っているところです。
――ところで、ニュータウン開発は他の様々な地域でも見られますが、中には人工的で無機的なイメージの払拭できないところも見かけます。より人間的なまちとするには何が重要だと考えますか
中山
まちづくりをするということは、単に物理的に事業を終えることではなく、それに携わる本部職員全員が「わがまちをつくる」という意識を持つことです。これが本部としての「まちづくりにおける理念」と言っても過言ではありません。
とかく都市計画事業あるいは公共事業となると、どうしても「事業の手法」や「施設の規模」などの方法論、実施手段などに意識が集中する傾向があります。しかし、そうした「役人特有の意識」を払拭し、そこで日々生活をする都民の気持ちを我々が常に持ち続けて行くこと。それが結果としてまちづくりに「魂」を込めることなのだと思います。
――ウリウリ本部を設置して職員自らが分譲(宅地処分)に乗り出す姿勢は、評価に値します。問題は分譲の進捗状況ですが
中山
現在、多摩二ュータウン区域の新住事業と、多摩NT(ニュータウン)に隣接している町田市域に約174haの事業区域を有する相原小山土地区画整理事業において宅地処分を進めています。
新住事業の宅地処分状況についてですが、多摩ntの新住事業認可・承認面積は約2,226haあり、うち東京都が新住事業者として約738haの土地を造成しています。その中には、宅地等の有償処分地と公共施設用地の処分地があります。宅地等とは住宅用地、教育施設用地、利便・公益的施設用地に大別できます。全体で約437haの有償宅地があり平成9年度末で約319haが処分済みとなっています。したがって、今後は差引118haの宅地処分を行う必要があります。
一口に118haといっても、集合住宅用地もあり戸建分譲地もあり、地区センターの商業・業務用地などがあります。この中で、集合住宅用地は、公団住宅、公社住宅あるいは都営住宅用地として、住宅建設計画に基づき処分してきたところです。
しかしながら、バブル崩壊に端を発した構造的な不況が出口の見えないまま続き、追い打ちをかけるように、住宅・都市整備公団の分譲部門からの撤退、東京都の住宅施策の見直しなどにより、大口需要先の公的住宅建設部門への宅地処分の途が事実上閉ざされてしまいました。このため、住宅・都市整備公団など公的住宅建設事業者に処分を予定していた集合住宅用地の売却先を早急に決める必要があります。
と同時に、南大沢駅周辺の地区センター、特定業務施設用地の処分を急がなければなりません。駅周辺の賑わいの創設は、東京都が所管している多摩ニュータウン西部地区の今後の大きな発展に不可欠な要素だからです。
――気になるのは、資産デフレによる価格の下落ですね
中山
新住事業は、「原価」で収支を均衡させている事業ですから、売却宅地の平均価格が原価を割り込むようでは事業経営ができなくなります。特に宅地の民卸は、時価を基準として売却するわけで、右上がりの時代は既に過去のものですから、新住原価と時価が逆転する事態もあり得るわけです。時価は需給バランスの関係で成立する価格ですから、投資額を回収するために事業者が設定した収支上の原価とは無関係に成立しています。
事業を終了させるために原価を無視した処分は、事業者として厳に慎まなければなりません。その反面、在庫を抱え統けることは利子償還金を膨らますことになります。土地処分の停滞によるここ数年間のダメージは、決して小さいものではありません。この状況を打開するために、先に述べたように「ウリウリ本部」を中核として、売れる商品としての宅地、需要に直結する体制とその方策を、経営会議をもって進行管理しているところです。
一方の「相原小山土地区画整理事業」は、事業の種地として東京都が先行買収し、事業主体者と同時に地権者としての両面をもった形で昭和63年から事業を行っているところです
この事業は保留地処分金が原資となるものですから、保留地処分を事業期間内に終えなければなりません。保留地は地権者の方々の共有財産です。地権者の方々の協力により事業化したこの事業が、収支を割り込むような結果になれば、今後東京都が進めるまちづくりの計画に大きな影響を及ぼすことになります。
この保留地と、種地として買収した都有地の売却についても「ウリウリ本部」が主体となって、新住地区と区画整理区域が整合性の取れたまちになるよう、また、土地区画整理事業の利点を活かした方法により、処分がなされるよう鋭意調整中です。
――都は大幅な組織改正に向けての準備を進めているようですが、今後の多摩地域整備はどうなっていくのか、将来像や今後の戦略を含めてお聞きします
中山
都財政も国や他の地方公共団体と同様に極めて厳しい状況下にありますが、都民の安全を確保し、豊かで文化的な『生活都市東京』を構築するために、行財政改革の実現に向けて全力をあげて取り組んでいます。東京都自ら、時代の要請に対応し、将来に向かって効率的な行政・財政運営ができるようにと、産みの苦しみを味わっています。ひるがえって言えば、改革の痛みは都民の痛みでもあるのです。
近い将来において、東京都の組織がダイナミックに改編されることになろうとも、いま本部が所掌している「多摩地域のまちづくり」は、東京都が所管する広域的行政事務として継続していかなければなりません。
現時点で本部が所管している『多摩自立都市圏形成』のための施策の実現、多摩の『心』の育成・整備は、多摩地域の未来のために不可欠なものです。現に380万都民が多摩地域に生活しており、近い将来には400万人に達することになります。そして、23区とは歴史的にも経済的にも、各々異なった文化もあります。
多摩ニュータウンが昭和の時代を象徴する「国家規模の大プロジェクト」であるとすれば、秋留台地域総合整備事業は21世紀への「都民の英知による総合的なまちづくり」として事業が開始されるであろうと確信しています。
――そこで本部が果たすべき役割は
中山
本部はご案内のように「開発と整備」を目的として組織運営されています。建設局が道路、河川を中心とする「線」の整備をしたり、住宅局が都営住宅を建設するような「点」の整備をするのとは大きな違いがあります。「面」の整備をすることにより、公共の福祉を向上させることが本部に課せられた命題なのです。
とりわけ、東京で「面」の開発・整備を施策の中で実現することは、「線」、「点」の事業に比べて及ぼす影響が小さくありません。
この影響のバランスを総合的に調整する、いわゆる「ゼネラル・マネージャー」が必要であり、悪影響を未然に防止するために「プレーイング・マネージヤー」として、事業を先導する役割、組織が必要です。
その意味では、まさしく本部はこの多摩地域のまちづくりにおける「G・M」と「P・M」の役割を、都庁内だけでなく、多摩地域全体の市町村からも大きな期待を寄せられているわけです。
面の開発と整備は、「保全・環境・自然」という一方における都民の財産との摩擦を、事業の計画段階からあるいは事業終了に至るまで生じさせてしまいます。「開発と整備」、「保全」という相対する都民要望に対してどのようにして整合性を持たせ、「まちづくり」が行われていくのかが問われています。
『CIVIL』には「市民(住民)」という意味と「土木(開発)」という意味があります。本部の仕事の核心とはこの一言に尽きるわけです。
住み、慕らしやすいまちというものは、施設が立派であれば、また投資額が多ければ多いほど良いというものではありません。行政サービスの原点は「最小費用で最大効果」を上げることです。先に私が述べた「コスト意識」の原点がここにあるわけです。
――理想的なまちづくりとは、どんなものだと考えますか
中山
私は、全ての施設を「事業期間」の中で完成させることが行政のまちづくりの原点という考え方を、改める時期が到来したと痛感しています。確かに多摩ニュータウンは、道路、公園を始めとして全ての施設が完成の域に達しており、我々もこれを目標に邁進してきました。
しかしながら、そこに慕らす人々には「事業期間」などというものは存在しないわけで、「住み・働き・学び・憩う」という無限の時があるだけだと思います。
例えば、公園を整備する場合には、我々は「最低限のスケルトンの公園」を提供するに止め、その後は地元自治体に任せる、ひいてはそこに暮らす住民の方々が時間をかけながら「自分たちの公園」を創っていく。そこに、「コミュニティー」が醸成され、定住意識、ふるさと意識が生まれ、各市町村の都市経営が成り立っていくことになるのだと思います。
一方において面的な開発は、その大きな事業効果として短期的にも長期的にも「開発利益」を産み出すことができます。特に、開発を抑制されてきた地域、新たに大規模な整備が為される地域においては顕著です。
この「果実」を将来にわたって収穫できる者、いわゆる「受益者」に対して、事業を開始する段階から、「負担金」として財源の中に組み込んで事業化することが、今後の公的開発の基本ルールとなり得ると確信しています。
東京都が事業主体者として事業化し、その事業により関係市町村なりの税収増加が明らかになるのであれば、応分の負担をお願いする。また、民間開発事業者が、開発の利益を受けるのであれば、企業進出の意欲を削がない形で、あるいは企業の社会的責任においても受益の範囲内で応分の負担をしていただく。
このことが、今後の急激な少子・高齢化社会の税収不足を補填し、継続的なまちづくりのための貴重な「財源」となり、そして、まちづくりの基本的なルールとなるものだと、私は思います。

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