建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年9月号〉

interview

技術力に優れ経営の安定した企業が育つ環境をつくる

新たな視点で国民に分かりやすい建設行政を推進

建設事務次官 橋本鋼太郎 氏

橋本 鋼太郎 はしもと・こうたろう
昭和15年9月11日生まれ、東京都出身、東大(土)卒
昭和39年4月 建設省採用
 49年8月 四国地方建設局道路部道路計画課長
 51年10月 道路局地方道課長補佐
 54年7月 道路局企画課長補佐
 56年9月 関東地方建設局北首都国道工事事務所長
 58年7月 道路局国道第二課建設専門官
 60年11月 道路局企画課道路事業調整官
 62年10月 道路局企画課道路経済調査室長
平成元年9月 道路局高速国道課長
 3年2月 道路局企画課長
 5年6月 近畿地方建設局長
 7年6月 道路局長
 8年7月 建設技監
 10年6月 現職
発足50周年を迎えたこの7月に、建設省技監だった橋本鋼太郎氏が建設事務次官に就任した。道路建設、管理行政に長く携わってきた技術者で、いよいよ建設行政官としてのトップに立った。同次官は「新たな視点で社会資本や住宅整備に取り組み、国民に分かりやすい建設行政を推進する」と強調。建設業界を取り巻く環境が厳しいなかで、「技術と経営に優れた企業が育つ環境づくりが重要だ」と述べるとともに、政府・自民党の金融再生プランに触れ、不良債権を処理していく中で「合併など必要な対応」を念頭に置いていることを示唆した。また、国土交通省への統合を控え、11年度の重点施策については、国土マネジメントに関するものや、景気対策に必要な住宅投資を促進する施策を盛り込むとの考えを述べている。
――いよいよ建設官僚としてトップに立ちましたが、建設行政の遂行にはどんな抱負を持っていますか
橋本

建設行政は戦前から戦後50年にかけて、内務省だった当時からずっと道路、河川整備に取り組んできました。特に戦後はわが国の高度成長期を支えてきましたが、社会資本や、特に住宅の整備は今なお十分ではありません。
今後、21世紀に向けては、これまでの経験を生かしながら、さらに国民のためになる社会資本や住宅整備を総合的に推進していくことが重要で、新たな視点を持ちながら、国民に分かりやすい建設行政に取り組んでいきたいと思います。
これまでの建設行政は国土建設、施設の整備・建設に力点があったのは周知の通りですが、これからは国土全体の整備、管理、保全の目で見て、なおかつ国だけではなく、地方公共団体、民間との役割分担にも十分配慮していきたいと思います。
――公共投資というと、世論は悪意の目でしか見ようとしない傾向がありますね
橋本
不愉快な風潮ですね。実は7月に、前経団連会長だった豊田さんにお会いしましたが、「景気対策をしっかりやってほしい」と励まされました。例えば、「中部国際空港など大きなプロジェクトに関連するプロジェクトを集中的にやってはどうか」とのお話がありました。
確かに、一般世論には、大きなプロジェクトに対する一種の拒否反応がありますが、どうせ何兆円も投資するなら、将来に残るようなものを、長期的な見通しを立てながら投資していくことが必要です。
私は、期間を長くした景気対策があって良いと思います。
――建設省は、今後は国土交通省へと変身しますが、どのような体制づくりに取り組んでいく方針ですか
橋本
先般、中央省庁再編の基本法が成立したので基本法の趣旨にのっとって省庁再編を進めていきます。
その中で、国土交通省は建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁の 4省庁が一体となるわけですが、目的は明記されているとおり国土の総合的、体系的な開発、及び利用ということです。整備あるいは管理、保全の幅広い観点からの行政を推進することにより社会資本整備の総合化が重要なのです。その意義を、十分に発揮できる体制づくりに努力したいと思います。
一部には、巨大化することへの批判もありますが、縦割り行政の弊害をなくし、業務をスリム化することに意義があるわけです。したがって、多少は巨大化しても、統合したほうが結局は国民のためにはなるのだと思っています。
そのためにも規制緩和、地方分権、地方支分局への権限委譲を推進していくので、方向としてはスリム化に向かい、国民のためになると思います。合わせて事業の透明化、事業の評価の適正化も大きな課題で、それらはすでに取り組んでいますが、なお一層進めていく方針です。
ちょうど7月14日に建設省発足50周年の式典を行いましたが、これを契機に新たな気持ちで次の世代のための国家組織を作り上げたいと思っています。いずれにしても職員全体が一致団結することが必要であり、関係省庁で十分な連携を保つことが大切ですから、その点で十分に配慮していきたい。
――金融界ではビッグバンがスタートしていますが、金融界のみならずあらゆる業界でのビッグバンが必要だとの意見もあります。そこで、大手ゼネコン、民間デベロッパーなど業界の再編・合理化、または経営の健全化、安定化策などについてはどう考えていますか
橋本
そうですね、あらゆる産業の中で、最も業界規模が大きいのが建設業界です。従来から業者数がどんどん増えていく傾向にありましたが、ここにきて就業者数は頭打ちになり、若干減る傾向も出てきています。建設業界を取り巻く環境は大変厳しい状況ですが、技術力に優れた、あるいは経営の安定した会社が今後とも育っていく環境をつくることが重要だと思います。
合わせて今日の金融不安により、様々に影響を受けている会社がありますから、これについては抜本的に金融再生のトータルプランを推し進めていただき、その中で建設業にも必要な融資が回るよう、もし不十分であるなら政府系金融機関もあるので、ぜひ中小の建設業にも必要な資金が回るような措置を建設省としてもお願いし、施策を講じていきたい。
金融再生のトータルプランは、日本経済を立て直すためにはどうしても必要ですし、不良債券の処理を迅速に行うとともに健全な融資を続けていくことは歓迎すべきことです。建設業がどんな影響を受けるのか、予測は容易ではありませんが、抜本的な改革が行われる中で、合併その他の必要な対応を考えていかなければならなくなるでしょう。全体のスキームはこれからですが、建設省が考える前にまずは各企業が考えるべき問題です。 一方、不動産業は本来、建設省としてはあまり関与していない業界です。とはいえ、消費者保護の観点が大事ですから、不動産行政の施策については手を抜きません。
特に最近、最も重要な問題となっているのは住宅投資です。若干、頭打ちまたは減少気味の状態ですから、住宅投資がさらに上向きになるような施策が必要です。これについては、税の改正を含めて検討しなければなりません。
住宅の質や、量は、ある程度のレベルに達していると思いますが、本当に必要な家庭に必要なだけの住宅があるのかといえば、疑問が残ります。それが今後の課題だと思いますので、住宅行政も新たな展開が必要な時期に来ていると思います。景気を上向きにしていくには、住宅投資を本格化することが最も大事だと思います。
しかし住宅税制を充実させる上では、これからマイホームを建てる国民の所得分布や資金の借り入れ先のこともあるので、現行の住宅促進税制がいいのか、アメリカ型のローン減税がいいのか、一概には判断できず難しいところです。個人的には既存の日本の住宅税制も良いとは思いますが、だから税制論議に反対するという考えは全くありません。
――公共事業の減少が建設業界の業況悪化に拍車をかけているとの意見が業界側にあるようですが、現状の景気、経済情勢と今後の動向について、どう見ていますか
橋本
最近の経済指標を見ると、例えば失業率4.1%が2か月続くなど、確かに大変厳しい状況だと思います。しかし、政府としては総額16兆円の総合経済対策を決定し、すでに当初予算の早期発注、補正予算についても円滑な早期執行の方針を打ち出しており、平成10年度は公共事業の前倒し効果を含めて相当な効果が期待できると思っています。
ただ、中期的には、ここ2、3年を見極めて経済運営をぜひやっていただきたいものです。これは建設省だけで出来ることではないので、政府全体にお願いしたい。財政構造改革を進めるにしても、適切な経済成長が前提になると思いますから、ある程度の景気を確保しながら財政や金融の問題を進めていく必要があります。そして、その中で公共事業として果たすべき役割をしっかりと果たしていくことが大切でしょう。
――雇用問題はどのようにお考えですか
橋本
雇用については雇用問題全体としてとらえ、対策を打つべきです。公共事業だけで吸収する必要はないので、労働省の統計も分析しながら全体で対処するのが良いと思います。
私自身は、日本の社会で 4% 以上の失業率が続くことは決して良いことだとは思いません。したがって、もう少し雇用機会を拡大しなければなりません。しかし、これだけ景気が悪いと、他へ転換することが難しい。サービス業はそれなりの健闘が見られますが、第一次産業の構造改善は一朝一夕で進むものではないでしょう。そのため当分の間は、公共事業に受け皿はあると思いますが、そのうち景気が回復すれば、経済全体の構造改革も進み、そちらへシフトしていくと思います。
経済成長にしても2%程度は伸ばしていかなければなりません。政府も1.9%から2.7%くらいの成長率を確保しようとしていますが、財政改革も構造改革もそういう状況にあってこそ可能になるのです。
――平成11年度の重点施策の方向性は、どのように考えていますか
橋本
11年度施策について、私としては、国土行政全体について国土のマネジメントが必要だとの認識に立った施策を推進していきたいと思います。
合わせて住宅事情がさらに改善されていくような何らかの施策が必要と感じていますので、その辺を重点にしたいと考えています。
そういう中で安全、環境も大きな柱になりますので、ぜひ取り上げていきたいと個人的に思っています。環境に十分配慮しつつも安全の確保を図っていくことが大切です。両方から見て妥当な計画をつくり、みなさんの理解を得ることがこれからの建設行政には大事だと思います。

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