建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年8月号〉

interview

福祉のまちづくり条例がスタート

北海道保健福祉部長 田村正秀 氏

田村正秀 たむら・まさひで
昭和12年11月6日生まれ、札幌市出身、北海道大学医学部大学院修了
昭和46年 北海道大学医学部第二外科講座助手
51年 旭川医科大学付属病院第一外科講師
63年 旭川医科大学医学部第一外科講座助教授
平成3年 北海道庁入庁、美唄保健所長
7年 保健環境部技監
9年 保健福祉部長
高齢者や障害者が、健常者と平等に生活し、社会活動するノーマライゼーションを実現するには、それを可能にする環境整備が必要だ。これまでは経済性と生産効率性だけを重視した産業国家の視点でまちづくりが行われてきたが、今後は福祉国家としての施設整備を急がなければならない。そこで北海道は、昨年「福祉のまちづくり条例」を制定し、今年4月からスタートさせた。また、今年度は「道民福祉の日」を制定し、活発に福祉のまちづくりに乗り出した。その旗振り役となる北海道保健福祉部の田村正秀部長に条例の運用や今後の施策、そして建設関係者に対する要望などを伺った。
――まず、福祉のまちづくり条例制定の目的と趣旨についてお聞きします
田村
ご存じのとおり北海道の人口の高齢化率は、全国を上回る速度で進み、21世紀初頭には、4人に1人が65歳以上と予測されており、本格的な高齢社会を迎えようとしています。
―方、ノーマライゼーションの理念の浸透にともない、障害のある人もない人も、お年寄りも子どもも、誰もが地域社会を構成する一員として尊重され、安心して快適に暮らすことができ、社会活動にも自由に参加できるような環境の整備が必要となってきています。
これまで「北海道福祉環境整備要綱」や、いわゆる「ハートビル法」などにより福祉環境の整備の促進に努めてきたのですが、さらに道民の福祉のまちづくりへの理解を深め、多くの人が利用する建築物や道路、公園などの公共的施設や交通機関には、障害のある人やお年寄りなどに配慮した施設整備をより一層進めなければなりません。そこで、人と人とが支えあう地域社会づくりに向けて道民の総意による福祉のまちづくりに対する取組みを促進する目的で、昨年10月23日に「北海道福祉のまちづくり条例」を公布し、この4月1日から施行しました。
――どんな規定が定められましたか
田村
公共的施設の整備を総合的に進めるため、その取り組み主体となる道、市町村、事業者及び道民の責務を明らかにするとともに、基本的施策のほか、公共的施設の整備に関する基準の遵守、整備の届出とこれに伴う指導、指示や公表制度などについて規定しています。
公共的施設の整備基準としては、福祉的な配慮が行き届いた社会として整備されていなければならないレベル、いわゆる最低基準ともいえる「基礎的基準」と、それを超えてより質の高いレベルとして期待される「誘導的基準」を設定し、基準の遵守を義務づけています。また、事業者には、新築などの際には届出を義務づけています。
この届出に対しては必要に応じて指導・助言、指示、報告聴取、立入調査、公表などを行うことで公共的施設の整備促進を図ることにしており、「誘導的基準」を満たした場合には認定証を交付して、より質の高い福祉環境の整備を誘導していく方針です。
――設計段階で目安となるような数値基準はあるのですか
田村
例えば、多くの人が出入りするデパート、スーパー、病院などの出入口は、基礎的基準として、幅を80cm以上とすることや、段差を設けず、車いすが通過できる構造にすることとなっています。
また、より質の高いレベルの誘導的基準としては、車いすが通過しやすい幅として90cm以上の広さを取ることなどを定めています。
公共的施設については、出入口のほか廊下、トイレ、階段など個々に具体的に規定しています。
――これを定着するために、どのように運用していく考えですか
田村
道としては、すべての道民が自主的かつ積極的に福祉のまちづくりに取り組む気運の醸成が必要だと考えています。したがって、「道、市町村、事業者そして道民の有機的連携の下に福祉のまちづくりを推進する」という基本方針に基づき、啓発活動を行う一方で、財政上の措置などの施策を実施することとしています。
また条例制定後、これまで14支庁単位の条例説明会、条例の基準を図表などで分かりやすく解説した施設整備マニュアル、ポスター、パンフレットの配布、新聞などの媒体を活用した周知などを図ってきていますが、福祉のまちづくりに対する理解をもっと深めていくため、引き続きあらゆる機会を捉えて普及啓発を図っていくことにしています。
――今年度はどんな施策を行いますか
田村
まず、推進体制を整備するため、本庁各部の横断的な推進体制、あるいは民間事業者を含めた関係機関などで構成する推進協議会を設置したところです。
また、道、市町村、事業者そして道民が取り組むべき手立てを示す指針の策定や小学校高学年を対象に福祉のまちづくりの理解を深めるための福祉読本を作成したり、先駆的な取り組みや福祉的配慮を行い、他の模範となる公共的施設などを選定するコンクールを実施する予定です。
施設の整備に係る専門的指導助言を行う、福祉環境アドバイザーを3人から7人に増やし、引き続き派遣事業行うことにしています。
この他に市町村が行う図書館、公民館などの段差解消、自動ドアの整備などを支援する補助事業も行うことにしており、これだけでなく、民間が行う公共的施設の整備を対象に、必要な資金を利率1.5%で貸付ける「福祉のまちづくり資金」を創設しましたので、積極的に利用してもらいたいと思います。
――福祉の日という記念日も設けるとのこですか
田村
そうです。今年度から、道民一人ひとりが地域社会に対する関心と理解を深めるとともに、福祉活動に積極的に参加するための気運を高めるため、北海道福祉のまちづくり条例が誕生した日である10月23日を「道民福祉の日」として制定しました。
制定にあたっては、広く道内・外からアイデアを募集したりもしました。この日は、「人にやさしい北海道づくり」を推進していくためには、最もふさわしい日であり、この「道民福祉の日」を契機として、すべての道民にとって福祉への理解と関心が高まり、福祉のまちづくりに関するボランティア活動など各種の福祉活動への参加の促進を図っていきたいと考えています。
――福祉の視点に沿った施設づくりを定着させるには、建設事業主はもちろん、それを形として作り上げていく建設業界にも理解が必要だと思いますが
田村
その通りです。事業主や業界の皆様は、平成6年にハートビル法が施行されており、その目的などについては、すでにご存じのことと思いますが、福祉のまちづくり条例は、ハートビル法において対象としていない学校などの公共的施設についても対象としており、対象範囲を広げています。
道立施設については、率先してこれを整備していくことにしていますが、地域における公共的施設の圧倒的多数は商業施設やホテル、病院などの民間施設で、利用しやすい福祉のまちづくりを進める上では重要な位置を占めており、社会的な貢献が求められているのです。
これら民間施設を含む公共的施設の社会的な役割は非常に大きいことから、新築などの際に建設事業主や建設業界の理解をいただければ、この施策は格段に進むものと考えていますので、業界の皆様については、ご理解ご協力についてよろしくお願いしたいと思います。
また、公共的施設の整備基準の内容などについては理解をより深めていただけるよう図表などを用いながら分かりやすく解説した施設整備マニュアルを作成していますので、設計の際には大いに活用いただくとともに周知についてもご協カ願いたいと思います。

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