建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年8月号〉

interview

安心を未来へつなぐ東京水道の実現に向けて

東京都水道局長 川北和徳氏 氏

川北 和徳 かわきた・かずのり
昭和14年生まれ、北海道大学卒。
昭和 37年 入都。水道局建設部計画課勤務。
45年 建設局江東治水事務所第二工区長
48年 総務局小笠原支庁上下水道課長
60年 水道局主幹 経営計画部計画課長事務取扱>
平成 3年 水道局給水部長
5年 水道局多摩水道対策本部長
7年 水道局長(公営企業管理者)
来る平成10年には、近代水道創設100周年を迎える東京水道。この間、東京水道は増え続ける水道需要に追いつくため、水源確保や施設整備に邁進してきた。近年、東京はかつてのような急激な水道需要の増加への対応は一段落したものの、施設の老朽化や、原水水質の悪化に伴い、より安全でおいしい水へのニーズの高まりなど、これまでとは異なる課題も生じている。
今回は、これらの対応の舵取りを担っている東京都の川北和コ水道局長に、現在推進している事業や将来への水道づくりについて伺った。
――まず東京水道の特徴について伺いたい
川北
東京水道は、給水人口約1,100万人、普及率は100%になっており、多摩地区の一部には、分水も行っています。施設能力は、696万F/日で、水源量は、602万F/日を確保しています。近年の一日最大配水量は、概ね600万F/日前後で推移していますので、需要相当分の施設を保有していることになります。
導送配水管の延長は、22,000kmに達し、地球を約半周する距離に相当しています。
現在、事故時などにおいてバックアップを可能とするため、施設を相互融通ができるよう整備しています。
――東京水道はすでに万全の施設を整備し終えているようですね
川北
整備をすすめてきましたが、まだ、万全と言える状態ではありません。
具体的には、水源施設が未完成のまま取水している不安定な水源が多い一方、原水水質は悪化しており、これは早急な改善が期待できません。また、既存施設の中には、老朽化したものもあり、耐震性を向上させなければならないといった課題もあります。
特に、ここ数年毎年のように発生している渇水は大きな課題です。
――今年の夏季給水はどのような見通しですか
川北
今年は、利根川上流域の積雪量が平年並以下であり、融雪も早くこれによる回復はあまり期待できません。このため、利根川水系のダムの貯水量が回復しないまま、農業用水の取水が増大する需要期を迎えることも想定されます。
一方、多摩川水系には、降雪がほとんどありませんので、雪どけ水による貯水量の回復は期待できません。
また、梅雨の前期は小雨傾向との気象庁の予報もあり、今年も夏季給水が厳しくなることが考えられます。
――渇水対策としてどのような事業を行っているのでしようか
川北
利根川の流況が良好なときには、利根川の水源を極力活用して給水し、多摩川水系の水源の貯水に努め、渇水時などに活用できるように備えています。また、利根川水系の原水を最大限に活用するため、送配水ポンプの整備を進めていきます。
――原水水質が依然として良くならない中で、より安全でおいしい水を供給するための対策としては、どのような施策を考えていますか
川北
金町浄水場にオゾンと生物活性炭処理を組み合わせた高度浄水処理を導入しています。導入は、平成4年度と8年度の二度にわたって行い、現在、浄水場の配水量の約半分が高度浄水処理されています。これによってニオイの苦情がなくなりました。現在、金町浄水場と同じ江戸川水系から取水している三郷浄水場に高度浄水処理施設の整備を進めています。
将来は朝霞、東村山など利根川水系浄水場の全量を対象に高度浄水処理施設を導入したいと考えています。
――震災対策としては、どのような施策を考えているのでしょうか
川北
一昨年の阪神淡路大震災の経験を踏まえて、昨年度に震災対策を見直しました。送配水管の重要路線の耐震化を進め、配水小管の一般路線についても新型耐震管を本格的に導入していきます。
また、山口貯水池堤体に近接して市街化がすすみ住宅が広がっていますので、堤体の耐震性強化を実施します。
さらに、震災時の飲用水確保対策として、従来より整備を進めてきている容量1,500Fの応急給水槽や新たな施策として震災時に避難所となる都立高校に容量100Fの小規模応急給水槽の整備を進めていきます。
――将来像としては、どのような水道をめざして施設整備を進めているのですか
川北
現在、東京水道では、概ね四半世紀の間に行うべき施策の方向を示した東京都水道局施設整備長期構想の策定を進めています。
策定に先だちまして、昨年5月に「生活都市東京の水道システムを考える会」を設置し、幅広い知識をもつ学識経験者の方や毎日水道を使用している都民の方に活発に審議して頂きました。この結果は、11月に「安心を未来へつなぐ東京水道」と副題を付けた報告書にまとめて頂き、束京水道がめざすべき基本的な方向が示されました。
――「安心を未来へつなぐ東京水道」の主な内容はどんなものなのでしょうか
川北
水道がめざすべき方向としては、水道をとりまく環境を踏まえ使用者が必要な時に、必要な量の安全でおいしい水を供給する「安心できる水道」が求められているとされました。
安心できる水道を考える基本的な視点を渇水、断減水、地震に「強い水道」、環境に配慮し、公平で効率的、安全でおいしい水の供給、わかりやすく親しまれる水道をめざすことから「やさしい水道」とし、それぞれの要件を満たす水道システムの構築を目標としています。
――報告書の内容は、長期構想にどのように反映されているのですか
川北
長期構想では、東京水道100年の歩みを振り返った上で、現状と課題を整理しています。
この上で、考える会の報告で示された「安心できる水道」を実現するために、「安定した水源の確保」「ゆとりある施設能力の確保」「公平で効率的な送配水システムの構築」「安全でおいしい水の供給」「生活に密着した水道サービス」の5つの基本施策を実施することとし、長期構想の中で主な施策を示しています。
――ところで、いよいよ来年は東京近代水道通水100周年という節目の年を迎え記念事業を開催するそうですが、基本的な考え方をお聞かせ下さい
川北
記念事業は、今日の水道を築き上げた先人に敬意を表し、この貴重な財産を次世代に引き継ぐとともに、これまでの理解と協力を都民に感謝し、より一層信頼され、親しまれる水道をめざすという趣旨で行われます。さらに、現在及び将来の水道事業の課題を都民に示した上で、今後も理解を求めるといった考え方に基づいて展開していきます。
――具体的な記念事業の内容は
川北
都民が水や水道に親しんでもらえる参加体験型の展示pr施設を、臨海副都心の有明給水所と小河内ダムサイトに整備します。
また、生活者の視点を重視し、水道の最新技術をわかりやすく都民に紹介する展示会も開催したいと考えています。
その他、都民からのメッセージとして、水に因んた作品募集や施設見学会などの都民参加事業についても企画検討中です。
私たちは、東京水道の100年の歴史を振り返り、都民に愛され、親しまれ、都民が誇れる水道を今後も構築していきたいと思っています。 (6月9日インタビュー)

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