建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年7月号〉

interview

付加価値の高い商品開発に道もバックアップ

公共事業依存体質から脱却し、産業クラスターで活路を

北海道経済部長 山口博司 氏

山口 博司 やまぐち・ひろし

昭和16年10月25日生まれ、札幌市出身、北大経済学部卒。
昭和 46年 北海道庁入庁
60年 厚生省大臣官房政策課長補佐
61年 同健康政策局計画課長補佐(61.11医事課長補佐併任)
62年 商工観光部工業課長
63年 商工労働観光部工業振興課長
平成 元年 同商業流通課長
3年 同商業貿易振興室長
5年 同部次長
7年 総務部知事室長
8年 現職
9年 6月 組織改編
北海道商工労働観光部はこの6月から経済部として生まれ変わり、さらに政策をパワーアップさせた。国内の景気は回復基調といわれているが、北海道の経済界は依然として冷え込んだままだ。特に本道は公共事業への依存体質が強く、経済基盤がぜい弱なため、中小企業にとっては新しい分野の開拓や技術力のワンランクアップが急がれている。そこで道内経済界の最近の動向、道の支援策などを初代経済部長となった山口部長に聞いた。
―本道は景気回復の足取りが依然として鈍いようです。行政の立場で本道の経済構造をどうとらえていますか
山口
景気の面に関して全国と北海道はいろいろな意味で違いますが、金融機関が予測している9年度の北海道の経済成長率論議は0.7〜1.3%つまり1%前後のようです。しかし、実際の景況感となると成長率だけでなく企業経営者が利益を上げて再投資していかなければ景気回復は有効なものとなりません。
経済成長率論議は数量だけを捉えているところに問題があります。製品の価格が据え置かれたままで、企業側にすれば利益率が除々に減っているため、いつまで経っても景気の回復感がないのだろうと思います。そのため、私は中小企業の経営者には『そういう時代になった』ことを機会あるごとに話しています。
ですから人件費が高い分、付加価値の高い商品をつくっていくことがポイントだと思います。その点、本道の企業は本州に比べて遅れていますから、付加価値の高い商品開発、新分野への進出に向けて道としても後押ししていきたい。
産業クラスター(英語で房、群の意)など、民間でもそうした取り組みを始めています。例えば、農業クラスターは農産物の加工、農業機械の製作、バイオ研究など農業を核にして周辺の産業を育てていくのが狙いで、現在、道経連が推進しています。道もそれにタイアップしてクラスターを増やしていきたいと考えています
―最近の価格競争には企業としてコストダウンを図ることで対応せざるを得ないでしょうが、リストラや在庫調整は一段落したと言われます。
山口
道内の中小企業の場合は、ほとんど在庫がないので、全国ベースで比較すると実態がやや違います。そのため、リストラは本州の大企業ほど進んでいないと思います。実際、バブル期にもそれほど人は増やしていませんが、賃金水準は上がっているわけです。したがって、付加価値の高い商品開発、新規市場の開拓の方向しかないと思うのです。
しかし、本州企業との競争はもとより現在は外国企業との競争になっていますから、賃金の安い所でつくられた製品が自由に入ってくれば、日本のように世界一賃金水準の高い所でいかに安いものをつくったところで、とうてい間に合いません。
イノベーションという方向性も考えられますが、道内の製造業はもともと大手から受注生産が主流でしたから、独自の技術開拓や販路拡大の努力はそれほど必要がなかったという歴史的背景があります。ですから、本州の大手やそれを支える中小企業が海外へ進出すれば、間接的な影響を受けることになります。さりとて道内企業は、自ら新規市場へ参入して競争しようという意識もまだ低いわけです。
やはり、道としては産業クラスターの形成を後押しし、商談会や首都圏での見本市などを通じて技術開発や販路拡大につながる支援策を行うのが政策としては適切でしょう。
―シンガポールに事務所を開設しましたが、手ごたえは
山口
まだビジネス面の成果は出ていませんが、2月に開設して以来、道内企業の関係者が現地に出向いた際、事務所に立ち寄って情報交換したなどの動きは出ています。
シンガポールを中心に中国、インドネシア、マレーシア、タイを活動範囲とし、道産品のprや売買の仲介役をしたいと考えています。一刻も早く有力なタマとなる商品が開発されてほしいものです。
―行政の支援策としては低利融資も代表的な施策ですが、最近の傾向はメニューの拡充ですか、それとも融資枠を増やす方向でしょうか
山口
それには二つの方向性があります。平成9年度は商店街振興や週40時間労働制対応のための新規メニューをつくり、古いものは一般枠に振り向けて統合するなどの措置を取りました。
―利用状況は
山口
「経営合理化資金」は融資枠をほぼ満度に活用されていますが、工場などの新規立地を誘導する「産業立地資金」は、設備投資にまで踏み切る企業マインドがまだ弱いため満度に活用されていません。経営者は利益率の動向を慎重に見ている段階だと思います。
反面、行政としての課題は手続きの簡便化で、民間金融機関のプロパー融合に比べて手続きが煩雑だと指摘されています。しかし、道の施策誘導を目的とした資金であることなどから、できるだけの簡素化を図っておりますが、ご理解いただきたいと思います。
―道内経済の最近の動きとしては拓銀と道銀の合併劇は衝撃的なニュースでしたね
山口
合併の背景には両行とも大なり小なり不良債務を抱えており、2001年の日本版ビッグバンという金融改革を控え、自己資本比率を高め経営の安定を図ることを考えたのだと思います。いずれにしろ道内1、2位の銀行ですから経営体質を強化して北海道の中小企業の発展のために機能強化してほしいと願っています。
特に拓銀は借り手が乏しかったためか、どちらかといえば、道内で集めた預金を本州企業に融資する傾向がありました。しかし、今後は道内中心に営業展開するということですから道としても期待しています。
―動燃の原発事故がありましたが、安全対策には道としても無関心ではいられませんね
山口
泊村に北電の原発1号機、2号機が設置されていますが、動燃東海事業所の事故後、北電との安全協定に基づき道と周辺町村で立ち入り調査を実施しました。東海と同じようにアスファルト固化していますが、システムが違いますし、特に問題はありませんでした。
しかし、原発については国民全体が神経質になっていますので、動燃の事故後の対応は遺憾と言わざるを得ません。国民が原発の安全性に高い関心を持っていることを十分認識し、安全性へのチェックは、社会、道民が行うのだという意識に立たなければなりません。このことは北電も真摯に受け止めていると思います。
―「発電と送電の分離」が論議され始めましたが、これをバネにして規制緩和が進み、他業界でもせめて民生用電気の供給を行うことができるようなシステムができ上がるのは理想的だと思うのですが
山口
確かに電気事業法の改正で、電気事業者でなくても自家発電した電力を卸売りすることができるようになりました。しかし、直接、消費者に供給するには、まだコストや安定供給の可能性など、個別に検討されなければならない課題もあります。したがって、当面は卸売りの自由化という方向で進むでしょう。
ただ、発送電分離の方向性については、今後の論議の動向を見なければ、何とも言えない段階です。
ところで、家電の普及発達で今やどの家庭でもたくさんの家電が使用されています。これは私の私見ですが、各家庭が待電カットに努めると大規模な電力の節約が可能になります。例えば、リモコン始動を待つテレビ、ステレオ、vtr、またタイマー始動を待つ暖房器や調理器などは、機能を停止していても電力を消費しています。
北電にとっては、年間総収益の5%を占めているというので影響が出ますが、これを抑制することは、反面、安定供給に寄与することにもなるのではないでしょうか。
―経済界にアドバイスは
山口
いま盛んに議論されていますが、国の財政再建の中で公共事業などに対する国の予算付けがかなりシビアになっています。特に北海道は公共事業への依存度が高い経済体質になっていますが、これまでと同じ期待は持てません。
自分の力で新しい分野の仕事をつくったり、より価値のある仕事に取り組んでいただきたい。そのために道としても出来る限りの応援をしたいと思っています。

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