建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年7月号〉

interview

縦軸のさがみ縦貫道路、横軸の第二東名高速道路の整備に全力

都市基盤整備に防災・福祉・環境・維持の四つの視点

神奈川県土木部長 内藤文雄 氏

内藤 文雄 ないとう・ふみお

昭和14年2月20日生まれ、昭和37年千葉大学造園学科卒。
昭和 37年 4月 神奈川県入庁
平成 元年 4月 藤沢土木事務所道路都市部長
3年 6月 都市部都市公園課長
5年 4月 都市部参事兼都市公園課長
6年 4月 横須賀土木事務所長
7年 6月 土木部参事兼検査指導課長
8年 4月 藤沢土木事務所長
9年 4月 土木部長
神奈川県は、これまで建設省出向者が就任していた土木部長に、この4月から藤沢土木事務所長だった内藤文雄氏を抜擢した。一方、21世紀を展望した神奈川県政の指針となる『かながわ新総合計画21』も今年度からスタートし、いよいよまちづくりと土木行政に自力で取り組む体制を築いた。新計画では21世紀の県土を、「少子・高齢化の進展が加速する」「経済は穏やかな成長となる」「地球環境問題が拡大され、持続可能な社会の形成がもとめられる」「情報ネットワーク社会が到来し、“モノ”から“情報”を中心とした知的社会へ移行する」「成熟と安定の時代の到来で県民意識の多様化やライフスタイルの多様化が進み、心の豊かさが求められる」と展望。これに基づき県土木部は、道路、橋の整備を中心とした道路網の再編整備と都市の洪水対策として新たな視点に立った河川整備などを課題に、必要な都市基盤整備の方向を示す「かながわ道路計画」(新みちみらい計画)と「セフティーリバー50」などの個別の事業計画の着実な推進を目指している。
新任の内藤土木部長に今後の取り組みについて語ってもらった。
―新任の抱負は
内藤
新総合計画21のスタートにあたる今年、土木部長という大役を仰せ付かり、責任の重大さを痛感しております。
就任して2ヶ月が経ったわけですが、国、地方とも財政の硬直化が、一段と深刻さを増す中にあって、今後、都市基盤整備の事業の大幅な増が見込めない状況にあります。
従いまして、事業の執行にあたっては、経済性や効率性を十分考慮し、優先順位を決め、着実に効果を上げていくよう工夫していくつもりです。また、地元の要望や意見を十分に反映させ、誠実に対応していきたいと考えております。
―県政における基盤整備の現況と、その政策的課題についてどのようにお考えですか
内藤
政策的課題については、「かながわ新総合計画21」に記されているとおり、「安全で魅力ある都市」をめざし、21世紀の交流と連携による活力ある成熟社会の建設を重要な政策課題に据えています。
中でも、県土の骨格となる自動車専用道路網の整備が、活力ある成熟社会を生む源になります。相模川沿いの県土の縦軸となる「さがみ縦貫道路」と、横軸となる「第二東名高速道路」の整備、そしてそれにアクセスする道路の整備が基本となります。
一方、地域的政策課題については、それぞれ地域固有の事情があります。神奈川県を大きく分類すると、横浜、川崎の2政令指定都市を中心に三浦半島を含めた県東部、相模川流域と丹沢山系東部を中心とした県央部、箱根や酒匂川流域の県西部の3地域で構成されています。
この三つの地域は、地形はもとより都市の構造に差があり、内在する課題も異なっています。県東部では、横浜市、川崎市に代表されるように都市化が著しく、高密度に資産が蓄積されており、それらの資産を守る治水対策や急傾斜地崩壊対策の展開が課題になっています。
治水対策では、平成9年3月に帷子川の分水路が16年の歳月をかけて完成し、横浜駅周辺の治水安全が飛躍的に向上しましたが、鶴見川流域にはまだまた投資を必要とする地域が残っています。
また、急傾斜地崩壊対策は数多くの箇所で実施していますが、まだまだ不安定な崖地が多数あるのも事実で、その対策が急務です。したがって、「かながわ新総合計画21」のスタートに合わせ、県単独事業で実施する急傾斜地崩壊対策事業について、一定要件を満たす特に危険ながけに限って、採択基準を緩和し、より安全な地域づくりに努めることにしています。
県央部においては、急速な都市化に伴い、相模川の渡河に代表されるような交通渋滞の解消と、度々氾濫を繰り返す境川の安全度の向上が大きな課題です。
今後は、さがみ縦貫道路や第二東名高速道路の早期完成に向けて、建設省や道路公団への支援をはじめ、相模川の渡河橋(湘南大橋・湘南新道橋・相模新橋・新小倉橋)の整備推進に努めていかなければなりません。
また、境川については、総合的な流域対策を行ってきましたが、それも限界に達しており、分水路といった抜本的な治水対策も検討する必要があるので、これを視野におきながら調査研究を行います。
県西部においては、地域資源を活用した観光など地域産業の活性化が課題になっており、土木部としても、この課題に対応した施策の展開に積極的に取り組みたいと思います。
かながわ新総計21がスタート
―その新計画21の政策的ポイントについてお聞かせ下さい。
内藤
ハード的政策としては四つの柱があります。一つは防災で、阪神・淡路大震災を教訓に都市の安全性の向上のための橋梁や港湾など土木施設の整備あるいは耐震性の強化や道路法面の落石災害などの防止対策に努めます。
二つ目は福祉です。高齢化やノーマライゼイションの高まりにより、福祉社会に適応した幅の広い歩道や段差のない歩道の整備を行い、バリアフリーのまちづくりに適合した施策の展開です。
三つ目は環境で、環境負荷の小さい土木施設の整備を目指し、多自然型工法による河川の整備や緑を活かしたがけ崩れ対策を進めます。
そして四つ目はメンテナンスです。公共施設の維持管理システムをもう一度見直し、土木施設をつくる段階から維持管理に配慮していくということです。
一方、ソフト面では災害対策が重要です。これまで地震や水害など個別の災害には対応してきましたが、今回の日本海における重油流出のようにこれまで経験のなかった災害や、複合的な災害に対応できるシステムがわが国にはありません。どのような災害にもフレキシブルに対応できる総合的な危機管理システムが必要です。
次は、「人と自然にやさしい土木施設づくり」で、そのための設計指針を2年がかりで策定したところです。
―新計画21に基づき新年度はどんな事業を実施しますか
内藤
昭和61年度から始まった電線の地中化促進事業は県全体で総延長300kmを計画しており、およそ50%が完了しています。新年度は相模原市で1路線の完成を予定しています。
また鎌倉市では、国道134号の下に200台収容できる地下駐車場の整備を進めています。鎌倉を訪れる観光客は年間2,000万人を超えます。これはディズニーランドをしのぐ数です。しかし、夏期や観光シーズンの国道134号沿線では、レジャー客や大型車の通行などで慢性的な渋滞が生じたり、周辺の生活道路に違法駐車が発生するなど、交通事故の原因にもなっています。
そこで、ドライバーのリフレッシュを兼ね備えたフリンジパーキング構想として、単に違法駐車対策、渋滞対策だけでなく、ドライバーの休憩場所として、鎌倉海浜公園と地下駐車場を連絡し、海浜公園との連携を図ります。
県内1時間圏構想を推進
―「新みちみらい計画」も新年度からスタートしますね
内藤
交流と連携を支える県土を形成し、「利便性」「快適性」「安全性」の確保を基本目標に、県内のどこへでも1時間で行ける、また最寄りのインターチェンジまで20分で行けるとの指標を持った道づくりに取り組むというものです。
具体的には、東西の軸となる第二東名高速道路、南北のさがみ縦貫道路(首都圏中央連絡自動車道の一部)など自動車専用道路網の整備、インターへのアクセス道路の整備、エリア相互間の広域交流幹線道路網、あるいはエリア内の地域交流幹線道路網の整備、河川による地域分断や交通のボトルネック(渋滞)の解消などの施策によって、新時代にふさわしい交通環境の実現を図る方針です。
第二東名高速道路は県内区間延長約36kmのうち海老名市―秦野市間約21kmが昨年末、整備計画に位置付けられたので、一日も早い着工を期待しています。
さがみ縦貫道路は平成6年6月に都市計画決定され、現在、用地買収が進められています。8年度末には茅ケ崎・寒川地区において、県内のさがみ縦貫道路としては初めて工事に着手しました。
横浜環状道路は、中心市街地の交通混雑の緩和を目的に計画されました。うち圏央道に位置付けられている南側区間は、8年度から用地買収に入っています。
東京湾横断道路の完成記念イベントを計画
―東京湾横断道路がいよいよ完成しますね
内藤
いよいよ完成が迫りました。これを記念して開通前にイベントを実施する予定です。横断道路の利用促進と、空洞化が目立つ川崎・横浜の臨海部の再活性化を図るのがイベントの狙いです。
川崎市川崎区浮島地区と東京湾横断道路などを会場に「神奈川県東京湾横断道路完成記念イベント実行委員会」(神奈川県、横浜市、川崎市ほか民間経済団体で構成)が、東京湾横断道路完成記念シンポジウム、東京湾横断道路完成記念パネル展、海上クルーズなどを計画しています。
―治水事業では、「かながわセーフティ(safety)リバー50」と題された都市河川重点整備計画がありますが、どのような内容ですか
内藤
神奈川県は急激な都市化の進行により、本来流域の持つ保水・遊水機能が急激に低下した結果、短期間に出水する都市型の水害が増加しています。このため、特に過去に大雨で水害が発生した河川や都市化の著しい河川について、平成3年度から県内6地域の15河川について重点的に整備を進めているわけです。
鶴見川では、流域の急激な都市化に対応するため、平成元年度に長期的展望にたった「鶴見川新流域整備計画」を策定し、建設省と県とで河川改修を進めています。
このうち、鶴見川の谷本川では、旧河川敷を利用した恩廻公園の地下に調節池の建設を進めており、その容量は約11万トンに及びます。現在、建設中の立坑が平成9年度に完成し、引続き貯留トンネルの工事に着手する予定です。
―湘南の平塚海岸ではヘッドランド整備に取り組んでいますね
内藤
平塚海岸においては、相模川河口部から約1.5kmにわたり長期的な侵食傾向が現れています。このため、侵食対策としてヘッドランド整備工事に8年度から着手しています。
県の調査では、昭和51年と平成5年との汀線比較で約10mほど、水深‐2mラインでも大きいところは30mほどそれぞれ後退しています。
そこで平成13年度の完成を目標に、工費33億円を投入してヘッドランド1基と横堤300m、縦堤80mを設置する計画です。親水性を持たせるため、法面を階段ブロックにし、スロープを設け水際まで近付けるようにしたり、自然石、擬石などを配置します。
国体開催に向けマリーナを整備
―平成10年に国体が開催されますが、公共マリーナの整備状況は
内藤
現在、県営マリーナである湘南港、葉山港の2港について再整備を実施しています。海洋性レクリエーションの需要の多様化に対応するため、ヨット保管隻数を、湘南港では990から1,700隻に、葉山港は299から489隻に拡大します。あわせて緑地や親水プロムナードも整備しています。
―建設業界への要望をお聞かせください
内藤
「新しい競争の時代」の建設産業を育成するために、県としても「企業体質の強化を行い、エンドユーザーに対して良いものを安く供給」「優れた企業が自由に伸びられる競争環境づくり」「技術に優れた人材が将来を託せる産業づくり」を目標とし、特に技術力の競争を促していきたいと思っています。
県内の景況については、9年度下期には顕著な回復傾向が現れるという予測もありますが、少なくとも当面は厳しい状況が続くと思われます。このような状況のときこそ経営改善を図り、力を蓄えて頂きたいものですね。

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