建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年7月号〉

interview

順調な滑り出し、南部工業団地分譲

高速交通体系の整備で地域的ハンディなし

新潟県企業局長 池 政男 氏

池 政男 いけ・まさお

昭和37年新潟県庁に入庁、以来、自治研修所次長、文書学事課長、東京事務所長、病院局次長を経て平成7年4月から現職。

日本海沿岸地域の中心に位置する新潟県は、日本海大交流時代のゲートウェイとして整備が進む中核国際港湾の新潟港、地域拠点空港として位置付けられた新潟空港などをテコに企業誘致が活発だ。関越自動車道や北陸自動車道が関東・関西方面と直結、今年の10月には磐越自動車道、平成12年には上信越自動車道の開通も予定されており、上越新幹線と併せ、高速交通体系網は完成しつつある。また、進出企業に対しては、最大3億円の県営工業団地等企業立地促進事業補助金も誘致の呼び水になって、工場立地件数は全国1を誇る。現在、南部工業団地を分譲中だが、不況下でも順調な滑り出しという。工業団地造成や工業用水の供給など、進出企業の受け皿づくりを手掛けている企業局の池政男局長に現状などを聞いた。
―企業局の収支はどんな状況ですか
民間企業でいう損益計算では平成8年度収入で75億円、支出で65億円で黒字です。電気事業の純利益が9億円、工業用水が9千万円程度です。
――一般会計から繰り入れを受けているわけではないのですね
電気事業では繰り入れは全くありません。過去には、むしろこちらから一般会計に繰り出していました。総額で16億を超えています。これが、県立自然科学館や社会文化施設の整備に役立っているのです。
現在も黒字を計上し、それを発電所の建設等に投資していますが、余裕ができれば再び一般会計への繰り出しを復活したいと思っています。
――企業局として手掛けているのは電気と工業用水道事業だけですか
企業局は昭和28年に電気局としてスタートしたのが始まりで、『三面』の発電所が第一号です。その後、33年からは産業振興と地域の地盤沈下対策として、工業用水の供給に着手しました。
工業団地は平成4年から企業局が所管していますが、事業全体の中では工業団地の造成は臨時的な事業です。現在、上越市・頸城村の南部工業団地、見附市の中部工業団地、安田町・水原町の東部工業団地の3か所で事業を展開しています。
――規制緩和がいわれていますが、電気事業は設備投資がばく大なので民間企業の参入、競争は難しいのでは
しかし、最近、電気事業法の改正に伴って入札制度が導入されました。民間企業が発電所を建設し、電力を電力各社に売電できるようになりましたので、必ずしも民間企業が電力事業に参入できないわけではありません。これも規制緩和の一環といえるでしょう。
――企業局の電気事業は水力発電と聞いていますが、発電所は何か所あるのですか
10か所です。発電能力は最大出力97,800kwです。河川総合開発計画の一環で、現在、11か所目の奥三面発電所を建設中です。
局としては火力発電所の計画は現在ありませんが、東北電力と中部電力が共同で上越市に火力発電所の建設を計画しているようです。
――新潟県全体で必要な電力量はどの程度ですか
平成7年度の県内の使用電力量は自家発電分も含め165億kwhです。このうち東北電力分は141.5億kwhになっています。
人口規模にもよるのでしょうが、新潟県での消費量は東北電力管内のトップで22.2%を占めており、次いで宮城県が18.6%となっています。
――今後、水力発電所の建設構想は
具体的にはなっていませんが、胎内第四発電所などの構想があります。また、流量調査を行っているところもあります。ただし、造っても採算がとれないようでは困るので、さらに詳細に調査したいと思っています。
――規制緩和が進めば、県域を越えて隣接県でも電力の供給が可能になるのでは
現実には電力会社同士で売電をやっています。県として他県への電力供給は法的には可能ですが、送電線がありません。県が送電線を設置していたのでは採算がとれないからですが、本県の場合は、もらうより出す方が多いようです。
国の指導に基づき公営企業水力発電の電力料金は総括原価方式で、かかるコストを売電の量で割って出すので、県によってそれぞれ売電の価格は違います。
本県企業局の場合は東北電力に8円85銭/kwhで売っています。東北電力から一般家庭には19円強で売られていますが、これからの電源開発は自然環境との兼ね合いや建設コストなどとを考えると、だんだん難しくなるでしょう。
その半面、規制緩和で電力料金引き下げへの世論の風圧が強まっています。そうなると採算が合わなくなってきます。しかし、公営企業としては赤字になったからといって税金で補てんするわけにもいきませんね。
――ところで、工業用水の経営状況はいかがですか
これも、4年続けて黒字ですが、黒字幅は電気事業よりも小さいです。しかし、累積赤字が、8年度決算の見通しでは解消されそうです。
工業用水は、新潟臨海工業用水道、上越工業用水道及び栃尾工業用水道の3ヶ所ありますが、新潟臨海では日量13万トンの能力に対し、10万トン程度しか売れていません。工業用水道事業は企業の需要を見越して先行投資になるのですが、最近は立地企業が環境問題や経費の効率化から工業用水をリサイクルする形に転換してきており、当初の需要見通しとの乖離が出てきています。上越も13万トンの能力がありますが、現状は8万トン程度にとどまっています。
織物のまちである栃尾の工業用水道は、沈殿させた水を送る原水供給をしていますが、3万トンのうち実際に使ってもらっているのは半分程度の1万3千トンなのです。工業用水は景気の動向に左右されますから、民間企業では参入できないでしょう。
――工業団地の売れ行きは
現在、県が分譲中の南部工業団地に企業を誘致すべく、知事部局のスタッフと協力して企業訪問を行っています。
南部工業団地は第一期で32.4ha造成しましたが、すでに11社に9.5haを分譲しました。三分の一が売れた状況です。
――新潟県に対する企業サイドの反応はいかがですか
一時期は「首都圏から遠い積雪地」が企業誘致の上でマイナス要因になっていましたが、最近は降雪量が少なくなっていますし、新幹線や高速道路の開通に伴って、以前のようなハンディはなくなりました。
新潟は農業県とはいえ、企業誘致が進めば人口の定住化が図れますから、工業振興には県としても重点的に取り組むべき課題だと思います。
私たちの工業団地は、山の中に造成したわけではありませんから、周囲には人口の集積も見られます。
――ところで企業会計による駐車場の経営など新規事業などは検討されていますか
いろいろ検討はしています。クルマ社会ですから駐車場経営の必要性はよく分かりますが、新たに用地を取得してからでは採算が取れません。霊園やゴルフ練習場経営などのアイデアもありましたが、やはり採算性の維持が難しい。
かつて企業局で越後七浦シーサイドラインなどの有料道路を経営していた時期がありましたが、結局、採算が合わなかったのです。ところが、無料にしたら利用者がどんどん増えまして、何とも皮肉な話です。
したがって、公営企業の経営は堅実でなければならないと思っています。県の事業ですから投機的なことは慎むべきでしょう。
企業局は県の産業施策、産業高度化の政策に対する補完的な役割、受け皿を担っているわけですが、投下資本は回収しなければなりません。
かといって、あまり儲けすぎては民業圧迫になりかねませんからね。赤字では困るが、企業会計は結局、収支トントンでいいわけです。
――局全体としての長期計画は
先に触れた発電所の建設が長期計画になります。あとは施設管理運用が課題ですね。既存の施設をどううまく運転管理するかです。施設はいずれ老朽化しますから、メンテナンスも重要な仕事です。最小の費用で最大の効果を上げることを常に心がけています。

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