建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年7月号〉

interview〈スペシャルと〜く〉

全国区・丘のまちに年間100万人の観光客

北海道上川管内・美瑛町長 水上 博 氏

水上 博 みずかみ・ひろし

昭和7年2月22日生まれ、美瑛町出身、庁立旭川中学校中退。
昭和49年美瑛町商工観光課長、52年美瑛町農務課長、53年美瑛町農林課長、58年美瑛町収入役、62年美瑛町長に初当選、平成7年統一地方選挙で無投票3選目、現在に至る。

――美瑛町の現状沿革をお聞きしたい
水上
美瑛町に開拓のクワが入ったのは明治27年です。100年が過ぎましたが、神楽村より分村してから、平成11年に開基百年を迎えます。農業を基幹産業にここまできましたが、戦前より、美瑛川から南西方向の丘陵地帯(丘のまちのシンボル)は陸軍の演習場でした。それが戦後の緊急開拓ということで旧軍人や樺太などから来た人たちが入植しました。稜線に水路が走っていまして、食糧増産のため丘陵地帯に水田を造りました。
人口がピークの昭和35年当時は農家戸数も2,200戸を数えましたが、それが今では800戸にまで減っています。人口も12,600人とピーク時に比べて約1万人は減少しています。
昭和40年代に入ると水田の生産調整が始まり、丘陵地帯の畦(あぜ)をとりはらって、畑作に切り替えたことで、『丘のまち』と評される素晴らしい農村景観が生まれたわけです。戦後52年の中で農業や町の移り変りは目まぐるしいですね。
――最近の情勢は
水上
今日の農業は厳しい環境に置かれていますが、丘陵地帯で営まれている生産活動は美瑛町独特のものです。ほ場が非常に広大で輪作体系が確立されているので、麦、ばれいしょ、ビート、豆類など多彩な作物が作付けされており、その素晴らしい“モザイク模様”が都会の人を感動させているようです。
私たちは美瑛の農村景観がこれほど高く評価されるとは想像もしていませんでしたが、最近は年間100万人を超える観光客が訪問しています。
したがって農業生産の場で生まれる農村景観と、多くの観光客との共生をいかに図るかが町として大きな課題になっています。
写真集やテレビのコマーシャルで「丘のまち・びえい」が宣伝されるにつれて、観光客がどんどん来られて畑に入ったり、農作業の最盛期に町内の案内を求めたりしますから、生産者にすればありがた迷惑な一面もあります。その意味からも美瑛の素晴らしい景観を守りながら、どのような町づくりを進めるかが大きな課題といえます。
十勝岳や旭岳、富良野岳などを一望できる場所にはトイレを併設した駐車公園を設置するなど、生産者と観光客とのトラブルを防ぐ事業を毎年実施していかなければならないのが現状です。
いまや美瑛は全国区となりました。仕事柄よく東京へ行きますが、中央省庁を回っても美瑛といえば「丘のまち」を連想していただけるようになりました。
――昭和63年の十勝岳噴火以降、防災対策は進んでいますか
水上
災害に強いまちづくりも行政の重要な柱です。十勝岳は大正15年の噴火で144人が亡くなりましたが、その後、昭和37年にも大噴火があり、30年〜40年周期で起きていますから、火山対策は避けて通れない問題です。前回は昭和63年12月16日から平成元年3月5日まで21回噴火し、ふもとの白金温泉は127日間閉鎖されました。
当時、火山砂防は制度化されていませんでしたが、十勝岳噴火を機に透過型ダム、避難橋、避難階段(286段)、流路溝、ヘリポート、泥流をキャッチするセンサー、火山情報センターなど防災施設の整備が進み、これまでの投資額は国費、道費、町費を合わせて270億円になります。今後も災害に強いまちづくりにはしっかり取り組みます。
――新年度予算のポイントは
水上
平成9年度は一般会計が113億5千万円(前年度当初比1.2%増)、特別会計と企業会計を合わせると181億2千万円(同2.5%増)の予算規模になりました。
まず『活力ある産業の振興』は前年度の1億8千万円に対して本年度は3億4千万円計上しました。これは相当な伸びです。町単独の新規事業である高生産農業奨励推進(3,259万円)はばれいしょ、ビート、豆類など主要作物の生産奨励のため施設整備を助成します。
商工業の振興事業としては、駅前に『四季の情報館』が今年7月にオープンします。商工会や観光協会が入るほか、ハイビジョンも置き、多目的な利用を期待しています。
『快適な住みよいまちづくり』の街路事業では、白金美瑛線が平成11年度に完成します。南町公営住宅建替事業は今年1棟が完成しますが、さらに9、10年度の2年計画で3階建て18戸エレベーター付き1棟を建てます。
土地区画整理事業は本通、鉄西とも13年度完了の予定です。この本通土地区画整理事業は建設省のふるさとの顔モデル事業に指定していただき、共同溝を設置して電柱の地中化を進めます。延長1100mのうち対象は500mですが、残りの電柱は中通りに移設するので、表通りから電柱が姿を消します。
簡易水洗専用受入設備整備事業も新規の取り組みです。美瑛町内は主要な場所に公衆トイレを設置していますが、観光客の入り込み数が増加してし尿処理場の処理能力をオーバーする勢いなので、前処理して下水道管につなげる計画で10年度に完成します。
地域医療対策では病院に一般会計から年間6億2千万円繰り出しています。町立病院(内科・外科)の改築は来年度完成の予定です。また町民の健康づくりを考えて今回、町立病院に初めて保健婦を配置しました。
また、住民サイドに立った保健・医療・福祉の連携を図るため福祉関係の総合相談窓口促進事業を実施するのをはじめ、推進会議を設置してサービスの充実、安心して暮らせるまちづくりを推進します。さらに、お年寄りのための訪問歯科、人工透析の通院に交通費の助成を始めるほか、老人保健施設(定員60名)は2か年計画で今年から着工します。
――地方分権の議論が盛んですが、どのようにお考えですか
水上
自治体としての政策立案能力や情報収集力が問われると思います。どれだけ優秀な職員を抱えているかがポイントになるのではないでしょうか。
将来の地方分権をにらみ、町では現在、道、開発局、町村会、道銀に合わせて4人の職員を派遣しています。また、広域行政については今後も積極的に取り組んでいくつもりです。
――国への要望は
水上
美瑛は農業が基幹産業ですが、画一的な政策ではなく専業農家も生き残れる制度や政策展開を期待したい。農業を経営効率の面だけでとらえるのではなく、国土保全に果たしている役割にもっと目を向けてほしいと思います。

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