建設グラフインターネットダイジェスト

<建設グラフ97年2月号>

interview

北海道開発は国家的プロジェクト

農業を核に関連の産業興しを

北海道開発局次長 近藤和廣 氏

近藤 和廣 こんどう・かずひろ

昭和21年生まれ、東京都出身、東京大学経済学部卒。
昭和45年、農林水産省入省、54年3月在カナダ日本国大使館二等書記官、55年4月同一等書記官、57年6月経済局国際部国際協力課海外技術協力官、57年9月食品流通局砂糖類課課長補佐(総括及び総務班担当)、58年4月同総務課長補佐(総括)、59年8月秋田県農政部次長、62年6月構造改善局農政部管理課長、平成元年7月農蚕園芸局繭糸課長、3年8月食品流通局市場課長、5年8月農林水産省技術会議事務局総務課長、6年4月北陸農政局次長、7年7月現職。

8年7月の人事異動で、農林水産省大臣官房審議官から北海道開発局次長に就任した近藤和廣氏にご登場いただいた。近藤次長は入省以来、カナダ大使館をはじめ秋田県、北陸など地方勤務の経験もあり、幅広い知識、識見を備えている。中でも専門の農業問題については『北海道は日本の食糧基地として発展の可能性を秘めており、北海道開発は国家的大事業。農産物の加工、流通など関連産業を新たに興すなど官民がもっと知恵を出すべきだ』と、示唆に富む持論を展開している。

黒沢酉蔵の思想は今も生きている
――北海道の新しい総合開発計画の策定作業が進められていますが、本道の将来の方向性についてはどのように考えていますか
近藤
現在、次期の北海道総合開発計画の策定に向けて、北海道開発審議会で検討していただいているところで、去る8月には中間報告として「北海道開発の基本方向」を審議会でご了承いただいたところです。
かつて北海道開発審議会の会長、委員を20年も経験した黒沢酉蔵氏(故人)は、『北海道の開発は国自らが一貫した理想と強固な信念を持って強力に実施する価値のある国家的な大事業と考えてきた。北海道の広さは欧州の一国、米国の一州に匹敵し、有用豊富な海洋資源、地下資源を考え合わせると、この地に人類の一大理想郷を建設したという願望、また必ず達成しなければならないという使命感、やれば必ずできるという信念が、何かこう私の体内に渾然一体となって沸き起こってくるのです』と自著に書いています。
これは私も同感で、深い感銘を覚えました。このような思いを込めて新しい計画を作っているわけです。
食糧自給率の低下に歯止め
――中間報告のポイントは
近藤
北海道開発をめぐる潮流の変化と21世紀に向けた北海道開発の課題を整理して、中長期的視点からの北海道総合開発の基本理念、新計画の目指すべき基本的目標が提起されています。その中で農業の基本的目標については「地球規模に視点を置いた食糧基地の実現」を挙げています。
このため自給率の低下に歯止めをかけ、農業生産の維持・拡大を図ることが必要で、広大な農地面積と層の厚い大規模な専業農家を抱える北海道農業の位置付けがこれまで以上に高まることになります。
――農業農村整備には今後、どう取り組みますか
近藤
今後、北海道農業は生産性の高い大規模土地利用型農業の特質を一層発揮し、品質向上とコスト低減に努め、地域特性を生かした多様な農業生産を行い、国際化時代にふさわしい農業を確立していく必要があります。しかし、そのためには効率的で安定的な経営体の育成などを通じた農業構造が実現されるよう、農家負担に配慮しつつ、生産基盤の重点的な整備が必要です。
特に水田については、担い手の農家への農地集積のための施策や生産組織のシステム化と連携させながら、コスト低減に向けた大区画ほ場の整備が急がれ、冷害対策としての深水かんがい用水の確保・供給とともに、良食味米の安定的な生産のために今まで以上に周到な水管理や肥培管理が要求されます。そこで、それらを可能とする用水施設の整備やほ場の整備が急がれます。
また畑については、排水改良、土層改良などに加え、生産性の向上と作物選択の自由度を高めるための畑地かんがい施設の整備を進めることが必要です。
さらに生産性の向上と併せて、環境への負荷の軽減を図ると共に安全で良質な農産物を生産するためにクリーン農業の推進が必要ですが、そのための合理的な輪作体系の確立や家畜糞尿の有効活用などにも積極的な対応が必要と思われます。

夏秋野菜の伸びに期待
――他府県と北海道農業との際立った相違点はどんなところにありますか
近藤
本道の農地面積は約120万haとわが国の24%を占め、米、麦、生乳など、土地利用型作物を中心にわが国第一位の生産をあげるなど、国内最大の食料生産基地として重要な役割を担っています。
府県農業と比べて北海道農業の際立った特色は、一戸当り耕地面積が約13haと府県の約14倍という規模の大きさにあります。生産費も主要農産物では府県に比べ70〜80%と規模の経済性を生かした生産性の高い農業が展開されています。農業を主たる収入源とする専業率も府県の24%に比べ75%と極めて高く、戸当り農業所得も府県の150万円に比べ、462万円と3.1倍に達しており、府県が兼業零細経営が中心であるのに対して北海道は大規模専業経営が主体となっています。
今後、海外農産物との競合が強まることが想定され、一層のコスト低減が求められています。また、近年、府県の野菜産地が連作障害の多発や高齢化などで弱体化してきており、今後は夏秋野菜を中心に府県の代替産地としての伸びが期待されています。
経営主の高齢化や後継者不足などは府県に比べてその程度は低いものの、北海道でも深刻化しており、平成6年の離農理由の77%が労力不足及び後継者不在となっており、新規参入社の確保など、担い手対策が緊急の課題となっています。
――ウルグァイ・ラウンド関連対策が関心の的になっています
近藤
北海道農業は、ウルグァイ・ラウンドによる新たな税関化対象作物(麦、雑豆、でんぷん、乳製品)の作付けが多いほか、家計費の大部分を農業所得に依存する主業農家の割合が府県に対して高く、ウルグァイ・ラウンドの影響をわが国で最も強く受けることが想定されます。
本道におけるウルグァイ・ラウンド関連対策の平成7年度末までの実績は事業費ベースで約2,600億円にのぼり、全国の14%程度を占めています。対策別には農業農村整備が約1,600億円、農家負債対策が約400億円、非公共事業の施設整備が約400億円と、この3事業で全体の92%を占めています。
消費者ニーズに対応
――北海道農業の今後の展望についてお聞きしたい
近藤
わが国の農地面積が減少傾向を続けているのに対し、北海道は増加傾向がやや鈍り、ここ数年は横ばいの傾向にありますが、全国に占める農地面積のシェアは確実に増加しています。また、北海道では大規模で生産性の高い農家も順調に増加しており、今後とも北海道農業は我が国の食糧供給の太宗を担う役割を果たすことが期待されていると思うし、またそれが可能と思います。
今後、海外農産物との競合はますます激化していくことが予想され、消費者ニーズの多様化も考え合わせると、これまでとひと味違った攻めの姿勢をとることが重要です。
農産物の生産に当たっても、内外価格差を縮小して消費者の納得する価格での提供に努めるために、一層のコスト低減を図ることはもちろんですが、必ずしも大量生産方式にとらわれず、消費者ニーズに合わせた多様な生産方式や、加工・流通を含めて消費者ニーズを確実にとらえ、そのニーズを実現する農業の展開も必要です。
特に安全、新鮮、良食味を消費者は求める方向にありますが、北海道は気候条件、土地条件あるいは近年の品種、農業技術の改善などによってこれらに十分応えることが可能と思われます。
近年、酸性雨問題や地球の温暖化問題など、地球規模での環境問題が注目され、各国が環境問題に積極的に取り組み始め、21世紀は環境の世紀ともいわれています。
農業は自然環境の保全に大きく貢献していますが、一方で環境に負荷を与えている面もあります。特に大規模な畜産経営では畜産糞尿の処理問題が顕在化してきている例も見られます。今後、このような農業から出される環境負荷要因を、農業内で循環利用、あるいは低減する環境保全型農業の推進も必要となってくると思われます。
北海道の雄大な農村景観はわが国では特異なものであり、そこを訪れる人の評価も高く、ファームインなどの施設も増加傾向にあります。今後、環境保全型農業の推進と併せ、農村景観、農村環境を活用した、都市に開かれた農村づくりもますます重要になってくると思います。
北欧の産業クラスターに学べ
――加工、流通面での工夫も重要ですね
近藤
フードシステムという考え方があります。これは食糧供給は農業以外の流通や食品産業などみんなが協力しているので、全体を見なければならないというものです。フードシステムについては、学会も最近できましたが、これは、北海道の産業クラスター論と共通するものがあると思っています。産業クラスターは、農業の分野でいえば加工産業、農業機械の研究開発など次々と関連付けていく。
つまり現在、強い農業、これから強くなる農業を核にして、さらに産業を発達させていくことです。まだまだ工夫する余地があります。みんなが知恵を出す時期ですね。
――農業基本法の見直しについては開発局としても検討していますか
近藤
平成6年10月のウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策大綱を機に、農林水産省は8年9月に提出された研究会報告を基に新基本法検討本部を設置し、基本法の見直しについて鋭意検討しているところです。
新基本法の制定が北海道農業に大きな影響を及ぼすことが想定されますので、開発局も10月に「北海道開発局新基本法検討会議」を設置、検討に着手しました。

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