建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1996年6月号〉

interview

さいたま新都心の中核施設 、さいたま広域合同庁舎の建設に着手

シビックコア制度、ハートビル法に基づく新しいイメージの庁舎に

建設省関東地方建設局営繕部長 清水正輝 氏

清水 正輝 しみず・まさてる

昭和19年1月1日生、東京都出身、東京都立大学工学部卒。
昭和42年建設省入省、51年建設省官庁営繕部営繕計画課営繕設計官、53年建設省官庁営繕部建築課営繕設計官、54年建設省東北地方建設局営繕部計画課長補佐、56年建設省東北地方建設局営繕部建築課長、58年建設省官庁営繕部建築課長補佐、61年建設省関東地方建設局東京第3営繕工事事務所長、63年建設省官庁営繕部建築課建設専門官、63年建設省官庁営繕部建築課総理大臣官邸建設準備室次長併任、3年会計検査院事務総長官房技術参事官、5年北海道開発局営繕部長、7年現職

「分散型国土形成促進法」にもとづき、大宮・与野・浦和地区の「さいたま新都心」に集団移転することとなった国の第一次出先機関等の移転整備が活発に進められようとしている。新都心の計画面積は47.4ヘクタールで、その中核施設となるのが埼玉広域合同庁舎だ。31階建てと26階建ての超高層ツインビルと検査棟の3棟建てで、ここに9省庁14機関が集合することになる。21世紀をにらみ質の高い合同庁舎にするとともに、一般市民や高齢者、障害者にも配慮した設計となっている。この施設整備にあたる関東地方建設局の清水正輝営繕部長に整備上の課題、方針などについて語ってもらった。
――東京一極集中から地方分散へという流れに則り政府機関の移転が進められており、その中核機関ともいえる大宮市のさいたま広域合同庁舎の建設がいよいよスタートしましたね
清水
そうですね、各省庁の第一出先機関、研修機関、試験機関などを中心に移転が進められており、全部で79の行政機関が移転することになりました。
関東地方建設局は、そのうち30機関の移転の施設整備を行っており、その目玉となっているのがさいたま広域合同庁舎というわけです。埼玉県の大宮・与野・浦和地区に移転するということで、関東地方建設局、国税局、財務局、通産局などの第一次出先機関を集約的に移転するという大プロジェクトです。関東地建の発注分だけでも1,600億円という、膨大な規模です。
この他にも和光、立川、府中、横浜、柏などに数多くの研究機関や研修機関などの移転整備を担当しています。
――さいたま広域合同庁舎の整備方針は
清水
この庁舎は埼玉の新都心建設構想においても目玉になっており、単に国の庁舎を移転するだけではなく、埼玉県の施設、例えば「アリーナ」や「さいたま広場」、その他民間施設、オフィスビルなどと共に拠点都市を造る、いわゆる地方拠点都市的な考え方で進められているものです。
建設省として進めている「シビック・コア地区整備制度」の地域指定が、北海道の釧路、中部の岡崎とともに第1号として認められ、この制度の主旨にそって施設計画が進められているわけです。
――どの位の規模になりますか
清水
計画ではさいたま新都心全体の計画区域が47.4haで、就業人口は5万7千人、延床面積で180万uとなっています。建設省が担当する合同庁舎は、高層棟の庁舎が2棟と低層棟の検査棟の3棟に分かれており、1棟が地上31階、地下2階で12万u、もう1棟が地上26階、地下3階で10万u、そして検査棟は地上7階、地下3階の3万3千uという内訳で、これら3棟が群として計画されております。
その他のブロックには郵政省の高層庁舎も建設される予定になっています。
――それほどの規模となると、地域に与える効果は計り知れないものがありますね
清水
埼玉県でも期待していると思いますし、我々もこれだけの大きな合同庁舎整備は全国でも初めてなので、21世紀に向けて「相応しいまちづくり」つまり、他の施設、郵政省、民間の建築物それから県の施設などを融合しながら「賑わいと潤いのあるまちづくり」を目指していきたいと思ってます。 また、行政の庁舎ではありますが、できるだけ開放的なものにしたいということで「辻広場」という、広場とデッキを融合させたものを中央に配置したり、市民サービスのためにこれまではなかった「行政情報センター」という市民向けの情報コーナーを設けたりして、一般の市民も十分に利用できるものにしていきたいと考えています。
――行政機関といえば、一方では防災拠点としての使命もありますね
清水
そうです。当然のことながら阪神大震災を踏まえて、東京が有事の際には第2の防災拠点として機能できるよう、屋上にヘリポートを設置したり、通信アンテナを整備するなど通信機能、防災機能、危機管理機能などを十分に検討して、災害応急対策、復旧活動、広域支援活動の指示ができる体制を確立したいと思っています。
この防災拠点はここだけではなく、西側にも霞ヶ関の各省庁や総理官邸に代わるものとして立川の防災基地、そして、南側には横浜に海上の防災基地、北側にはこの大宮の防災基地という配置で、ネットワークを結び防災対策を強化するという体系になっています。
また、インテリジェント化、情報化の推進に向けて施設内にlanを構築し情報網を強化する予定です。同時に、潤いもあるものにしたいので、アトリウム空間などを十分に設けており、また障害者や高齢者のための「ハートビル法」に則った設計ですから、21世紀に向けて官庁施設が進むべき道の最先端を切っているものと自負しています。
――耐震度でいうなら、震度7以上に耐えれる構造になるのですか
清水
そうですね。仕上材等については一部壊れたりするところはありますが、基本的に構造体本体は健全な状態に保てるように設計されています。さらに、防災拠点ですから一般の施設よりも割り増しの強度を確保しています。
また、制震構造といって、高層庁舎ですから頑丈というより、地震の揺れに柔軟に対応し、地震波を制御するという構造になっています。
――耐用年数はどのくらいですか
清水
耐用年数には法的な耐用年数と、物理的なものと、社会的なものと3通りの捉え方があるのですが、基本的には100年間は持つと考えていいのではないかと思います。
――その他の主要事業は
清水
柏地区に科学警察研究所や運輸研修所、府中に警察大学校と警察学校、西新宿に新国立劇場、上野地区では東京国立博物館の中に「平成館」、「法隆寺宝物館」、科学博物館の「たんけん館」、文化財研究所、さらには西洋美術館の「21世紀ギャラリー」の増築も行っており、上野地区だけで5つの施設整備が進んでいます。その他、代々木に「国立オリンピック記念青少年総合センター」、また全国的にも1ヶ所しかない施設では、例えば点字図書館もあり、青島知事の政策を通じて話題になった臨海副都心地区には東京港湾合同庁舎という、5万u規模の合同庁舎も計画しています。
――守備範囲が広いですね
清水
建設省の営繕というのは各省庁の所管する施設を横断的に整備しているので非常に幅が広くなっています。合同庁舎から試験研究施設、特殊な施設、福祉施設も含め、数多くの施設建設を担当しますが、それだけにやり甲斐もあります。
――整備に当たって検討すべき事項は
清水
一般的な合同庁舎の建築については、すでにノウハウがありますが、実験施設や博物館、国立劇場など、大型の特殊施設については、これまでは自前設計を原則にしていたものの、民間に優秀な設計事務所が育ってきたので、それらを活用するケースが増えており、今後もその方向に進まざるを得ないと思います。
そこで、それらの設計事務所を指導する上では、職員一人一人のレベルアップを図らなければ、指導しきれない状況になります。したがって、我々も内容について相当、理解しながら設計外注していくという態勢を確立しておかなければならないでしょう。
官庁施設の場合、一方には「横並び」という考え方もありますから、一定のレベルを揃えたり、一定の質を確保するために担当技術者が自分でも設計できるぐらいの技術力を持っている必要があると私は考えています。
――施設も大きければメンテナンスも重要になりますね
清水
ライフサイクル構想つまり、lccの考え方に基づけば、ランニングコストはイニシャルコスト即ち建設コストの何倍かが、その建物の機能を終えるまでにかかると分析されているわけですが、官庁施設はメンテナンス費用を財政的にかなり圧縮しているのです。ですから傷みも早くなる傾向にあり、周期的に修繕などをやらざるを得ないという格好になっています。
しかし、今後は物理的な耐久性だけではなくて、社会的な耐久性も考えるべきだと思います。例えば、霞ヶ関ビルは建設後20年以上も経過していますが、物理的には十分もっているものの、機能的にインテリジェント化、情報化対応の必要に迫られ、リニューアルをしました。ところが、それだけで投入した資金は100億円を超えているときいております。
今後はそうしたリニューアルやリノベーションのための経費が、十分見込まれるものと思います。単にスクラップしてしまうのではなく、どう生かしていくかが問題で、物理的にはまだもつ建物を、リニューアルして新しい機能に生まれ変わらせるという考え方を積極的に取り入れつつ、そういう手法を活用していかなければならない時代が来ると思います。もちろん省資源の意味からも、それは必要になるでしょう。そして、それに関わる市場も大きな市場になっていくのではないかと、考えられます。
これは、土木構築物でも同様で、高速道路などは何年もたせるかということが問題です。例えば、あの首都高を建て替えるなどといったら大変な話です。したがって、これをできるだけ長持ちさせて使っていくというのがひとつの方向であり、これは建築物についてもこのような発想が求められる時代だと思います。

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