建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年6月号〉

interview

成熟型社会に対応した都市づくりを目指す

環境共生と交流連携がキーワード

神奈川県都市部長 水澤紘之 氏

水澤 紘之 みずさわ・ひろゆき

昭和13年12月19日生まれ、京都府立大学農学部林学科卒。
昭和 62年 相模原土木事務所河川砂防部長
63年 砂防課長
平成 3年 厚木土木事務所長
6年 都市部技監
8年 都市部長

右肩上がりの経済成長期は去り、今後は一層緩やかな経済成長が続くと予想されている。いうなれば、わが国は成熟と安定の時期に入ろうとしている。こうした情勢から、投資余力の低下や維持管理需要の増大など、成熟社会の到来に伴う課題に的確に対応するため、スリムで効果的な都市づくりがますます重要になってきた。『環境共生』と『交流連携』をキーワードに、福祉に配慮しつつ、環境と共生した多様な都市づくりの施策を展開している神奈川県の水澤紘之都市部長にご登場いただき、21世紀に向けた都市行政の針路を聞いた。
――神奈川県の都市をめぐる現状と課題について伺いたい
水澤
誰もが安心して生活できる住みよい都市づくりが求められていますが、その一方でライフスタイルの多様化や産業構造の転換など成熟型社会に対応した都市づくりが必要です。
神奈川県は高度経済成長期を中心に急激な市街化が進み、東京から県中央部にかけてほぼ連担した市街地が形成されています。しかし、道路・公園・下水道などの社会資本整備が追いつかないのが現状ですので、質の高い社会資本整備の推進や既存ストックの有効活用が大きな課題になっています。
さらには、豊かな自然や歴史を生かした『魅力的な環境を有する都市づくり』、県の南北方向や東西方向の交通軸を整備する『交流と連携をめざした都市づくり』も、今後の都市行政を進めるうえでは重要な施策です。
県央・湘南都市圏整備構想を推進
――平成9年度がスタートしましたが、新年度の重点施策は
水澤
私たちは、21世紀に向けた県政運営の総合的な指針となる「かながわ新総合計画21」を策定したところです。その中で都市部が担当する施策の柱としては、「安全で魅力ある都市」をめざすこととしています。
具体的には、「計画的で総合的な都市づくり」「災害に強く安全なまちづくり」「交流と連携による活力あるまちづくり」「快適なくらしを支えるまちづくり」「人と自然にやさしいまちづくり」の5項目に整理して様々な施策・事業を位置づけています。
また、この新総合計画では、「施策の重点的な取組み」として、5つの「県土構想」と8つの「重点政策課題」を位置づけ、それぞれに対応する「重点プロジェクト」を推進することになっていますが、都市部は、県土構想のひとつである「県央・湘南都市圏整備構想」と、その重点プロジェクトである「環境共生モデル都市の形成」に取り組んでいくことにしています。
「県央・湘南都市圏」は、県の中央部の地域で、そこでは首都圏中央連絡自動車道や第二東名高速道路など、首都圏レベルの骨格交通網の整備が開始されています。21世紀初頭には、交通ポテンシャルが飛躍的に向上し、地域の新たな発展が期待されているところです。
今後、地域の長年の夢である東海道新幹線新駅とリニア中央新幹線新駅の誘致により、全国の交流連携の窓口となる二つのゲートを形成していきます。また、これらをつなぐ南北の軸を強化するとともに、環境と都市開発のバランスを図りながら、相模川流域の豊かな自然環境を生かした環境と共生する都市圏の形成をめざしたいと思います。
こうした構想の実現に向けて、地域への影響や事業のタイムスケジュールから、南のゲートつまり東海道新幹線新駅を中心とする「環境共生モデル都市の形成」を重点プロジェクトとして取り組んでいきます。
「環境共生モデル都市」は、新幹線新駅を中心とし、市町村行政のネットワーク化や教育・文化施設とのネットワークを図るといった、既存ストックを有効に活用した都市づくりを進めるとともに、モデル都市の周辺の既存都市や民間プロジェクトとの有機的な連携を図ることにより、エネルギー・物質・生物・水などの循環を推進するものです。
このように、真に豊かさを実感できる神奈川の実現に向けて、『環境共生』と『交流連携』をキーワードに都市づくりを進めたいと考えています。
――そうした構想に基づいて、新年度はどんな主要事業を実施する予定ですか
水澤
「計画的で総合的な都市づくり」に向けて、「県央・湘南都市圏整備構想」を推進するため、東海道新幹線新駅やリニア中央新幹線停車駅の誘致をさらに推進します。また、県西地域の活性化を図るため、「緑住快適交流都市圏」の骨格となる酒匂連携軸の総合整備構想を策定する予定です。
「災害に強く安全なまちづくり」については、既存建築物の耐震診断・改修を促進するための技術者の養成や普及啓発を行うとともに、「神奈川県都市防災基本計画」を改定することにしています。
「交流と連携による活力あるまちづくり」では、京浜臨海部の再生などを図るため、、みなとみらい21線や首都高速道路などの交通網整備に対する財政支援を行います。
「快適なくらしを支えるまちづくり」については、中堅所得者などに適正な家賃負担で優良な住宅を供給するため、特定優良賃貸住宅を新たに1,500戸認定するほか、低額所得者、高齢者向けの県営住宅2,016戸の建設を進めます。
「人と自然にやさしいまちづくり」については、秦野戸川公園ほか14か所の県立都市公園の整備を推進するとともに、公園施設における段差の解消など福祉のまちづくりを推進します。
防災と環境に配慮した都市づくり
――安全や環境に配慮した都市づくりは全国共通の課題ですね。県ではどんな具体策を考えていますか
水澤
阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて、神奈川県の地域防災計画も昨年3月に改定されましたが、都市部としても、もちろん新しい地域防災計画に基づき、これまで以上に地震防災対策を充実強化して取り組んでいます。
そこで具体的には、市町村都市防災基本計画の策定の支援や防火地域の的確な指定、市街地再開発や住環境整備の促進により、計画的な土地利用と市街地整備を推進します。
また、都市公園の整備や保全緑地の拡大など防災空間の確保を図るとともに、下水道施設の耐震補強や処理場間のバックアップ体制の整備などライフラインの安全対策にも力を入れます。
さらに先にも触れましたが、既存建築物の耐震診断・改修を促進するための技術者の養成や耐震診断セミナーの実施と、県営住宅の耐震化を進めるほか、応急仮設住宅の的確かつ迅速な供給に向けた建設可能地調査や建築物の応急危険度判定制度の充実を図っていきます。
「復旧・復興対策」にあたっては、速やかな復興に向けたマニュアル作成や、復興過程における市街地整備などの的確な実施に向けた準備を進めます。
――平成5年1月に神奈川県では、県民、企業、行政の分野で地球環境保全行動を提案する「アジェンダ21かながわ」を策定しましたが、都市部はどのような施策を展開していますか
水澤
都市づくりの分野においても、「持続可能な開発」を基調とし、地球環境に配慮した整備手法が求められています。平成7年3月に、そのためのガイドラインとして、「地球にやさしい都市づくり〜エコロジカルな都市づくりガイド〜」を作成しました。
「自然の持つ機能を生かした都市づくり」「環境負荷の少ない都市づくり」「環境とのバランスのとれたモビリティの確保」を基本目標に、地球環境も視野に入れた都市づくりを進めることが重要と考えています。
具体の事業としては、県立都市公園や流域下水道処理場で、太陽光等のクリーンエネルギーの活用などに取り組んでいきます。
――建設業界への提言、要望を
水澤
これからの都市づくりに向けて、建設業界も安全はもとより福祉や環境、ゆとりやうるおいを主眼とした建設活動に努めていただきたいと考えています。
特に地球環境問題が深刻化し、環境と調和した都市づくりが求められている中で、建設業界も環境保全型社会の一員として、また、企業の社会的貢献という観点からも、環境との調和を大前提として、副産物の発生を抑制し、リサイクルなどの推進を積極的に図ってほしいものです。
現在、下水汚泥有効利用をめざして、再資源化(高品質溶融スラグの製造)の実証実験に取り組んでいますが、建設資材(路盤材や埋戻し材等)として実用化した場合には、積極的に活用していただきたいと思います。
また、これからの建設業には、新しい技術開発への挑戦、伝統技術の継承つまり特色ある地域づくりへの貢献、若手人材の育成と確保を求めたいところです。
さらに公共工事のコスト縮減対策が大きな課題になっています。必要な品質の確保を図ることを前提に、設計、発注、施工、維持管理を含めたトータルなコスト縮減に取り組む必要があると考えています。県としてもコスト縮減の行動計画を策定する方針ですので、建設業界の方々にもご理解とご協力をお願いしたいと考えています。

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