建設グラフインターネットダイジェスト

<建設グラフ96年9月号>

interview

自立の道歩む十勝圏の発展を後押し

札内川ダム、来春から試験湛水 十勝港のフェリー埠頭も完成へ

北海道開発局帯広開発建設部長 金子正之 氏

金子 正之 かねこ・まさゆき

昭和16年生。43年北海道大農卒。 52年道開発局帯広開発建設部河川第1工務課長、53年道開発局石狩川開発建設部工務第1課長補佐、54年道開発局石狩川開発建設部滝里ダム調査所長、57年道開発局石狩川開発建設部工務第1課長、58年道開発局河川計画課長補佐、61年道開発局函館開発建設部美利河ダム建設所長、62年道開発局河川計画課河川企画官、63年道開発局函館開発建設次長、平成元年道開発局室蘭開発建設部次長、2年道開発局石狩川開発建設部次長、3年道開発局河川管理課長、5年6月道開発局河川工事課長、8年7月現職。

『十勝は民間の人たちがとてもエネルギッシュ。進取の気性というのか、自立の精神に富んでいる。あらゆる分野でさらに発展する潜在力を秘めている』。この6月の人事異動で帯広開発建設部長に就任した金子正之氏は、十勝の風土に魅せられたようだ。開発面でも札内川ダムが完成に近付いているほか、帯広空港の本州各地への相次ぐ就航に伴う、人・物の交流の増大、十勝港のフェリー航路開設、大型岸壁の建設、高規格幹線道路の整備など活発だ。十勝圏の展望を就任間もない金子部長に語ってもらった。
――十勝の印象から伺いたい
金子
農産物の国際化に伴って基幹産業である農業に先行き不安感がありますが、十勝管内は明るい雰囲気があります。自由化を逆手にとって、国際競争に勝てる農業をいかに展開するかが重要です。
具体的な手立てとして、海外から輸入している飼料が非常に高いので、飼料がコストダウンを図る上での最大のポイントなのです。品質を確保して、いかにコストダウンを図るかが十勝の役割だと思っています。最近は畑作5品目とは別に野菜づくりも盛んになっていますが、この10年、2,000億円台の農業生産額を維持しているのは自立の精神に富んでいるからでしょう。民間で十勝ブランドのマーケット開発にも取り組んでいるようです。
もう一つは緑あふれる大地を観光資源に活用しようという動きが出てきたことです。昔のように馬を育てる農家が増えつつあり、ホーストレッキングの人気が高まっています。
――進取の気性に富んでいるというわけですね
金子
民間ベースで生産と観光とを結び付けた活性化の動きが見られるのは頼もしい限りです。
十勝圏全体の底上げを図ろうという動きも活発ですね。例えば、十勝川の中流部にサケを捕獲している千代田えん堤がありますが、あそこは河川としては狭窄部になっていて、流下能力を確保するために昨年からツーウェー方式の改修計画に取り組んでいますが、改修後は十勝圏のシンボルにふさわしい広域公園にしようという声が経済団体やJCなど民間団体から上がっていることも評価したい。
こうした農村の活性化や十勝川のエコパーク構想、農業気象など情報化への取り組み、「十勝21の会」のような異業種交流など民間サイドの自主的な活動に対して北海道開発局がどのような支援ができるかを探ることもわれわれの役割だと思っています。地元の夢を公共事業に絡めて実現させることが本当のソフト化路線じゃないでしょうか。
――本年度の事業概要を詳しくお聞きしたい
金子
『豊かな田園を実現する十勝地域』をテーマに、基幹的な公共施設のグレードアップに取り組んでいますが、本年度の予算額は前年度当初比9億円(1.5%)増の約649億円です。治水、道路整備、農業農村整備、港湾整備、漁港整備事業とも継続事業の促進が主体となっていますが、新規事業としては国営かんがい排水事業の「札内川第2地区」と国営造成土地改良施設整備事業「西士幌地区」の2地区を着手します。
流下能力の確保対策として十勝川の改修は上流部の十勝大橋で引堤事業を促進しています。当面は千代田えん堤付近の改修が目玉事業になります。当然、下流部においても浚渫、掘削などの計画的な施行に取り組みます。
多目的ダムとして洪水調節、水資源確保を目的としている「札内川ダム」はいよいよ本年度、本体工事、補償工事などが完成します。来年春からの試験湛水に向けての整備を進めており終盤に向かっているところです。この次のダム建設は十勝川の工事実施基本計画において、利別川水系に位置付けられている「足寄ダム」が課題として残っています。
国営かんがい排水事業は札内川第1地区は1期工事が間もなく完成、美生ダムや頭首工などの基幹的な施設が出来上がります。9年度からの2期工事で配水網を整備し、早期に事業効果を上げていきたい。
砂防事業は戸蔦別川第五号ダムと戸蔦別川床固工群の継続事業を促進します。
――港湾整備については
金子
十勝港をどう利用していくかは、これから十勝農業をどう展開していくかに大きくかかわっていくと思います。
十勝圏と首都圏を結ぶフェリー航路が今秋開設するのに対応して水深8mの岸壁を整備していますが、このほか米穀類や原木の輸入に対応できる水深13m、12m岸壁の第4埠頭は引き続き推進していきます。こうした整備に合わせて十勝農業の新たな展開を考えて、十勝港の利用促進を図るとともに、背後地をどう整備していくかがポイントになります。
十勝の発展は十勝港の利用促進と切っても切れない関係にあるのです。帯広開発建設部長が数代前から『十勝港利用促進協議会長』を務めているのも、そうした発想からです。
――それには流通機能の強化が重要ですね
金子
道東自動車道(清水−池田間)にドッキングする夕張−清水間の整備計画への昇格というハードルがありますが、帯広は道東と道央を結ぶ中継点なのです。また、帯広空港と十勝港をつなぐ高規格幹線道路の帯広・広尾自動車道(帯広−広尾間)の帯広・川西道路建設を促進しているところです。これは十勝管内の将来交通網の骨格になります。
さらに、高規格幹線道路ネットワークによる時間短縮などのメリットをどう生かすか。道路整備に合わせて十勝のあらゆる産業を発展させなければ、せっかく造っても宝の持ちぐされになりかねません。有効利用を促す先行的な基盤整備もこれからは必要でしょう。

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