建設グラフインターネットダイジェスト

<建設グラフ96年8月号>

interview

空港整備5か年計画の投資規模は3兆6千億円

大型機材に対応できる質の高い空港整備を推進 苫小牧港に本格的なコンテナターミナルを建設

北海道開発局港湾部長 井上興治 氏

井上 興治 いのうえ・こうじ

昭和18年11月1日生、40年国家公務員採用上級試験(土木)合格、41年北海道大工卒。41年運輸省第五港湾建設局勤務、47年科学技術庁計画局計画課専門職、49年局港湾部港湾建設課開発専門官、50年4月同港湾計画課開発専門官、50年8月運輸省港湾局計画課専門官、52年秋田県開発局主席参事、54年同環境整備課長、56年庁港政課開発専門官、58年運輸省港湾局環境整備課廃棄物対策室長、61年国土庁大都市圏整備局計画官、63年北九州市港湾局長、平成2年運輸省港湾局付、3年同開発課長、6年道開発庁港政課長、7年6月現職。

国の第7次空港整備5か年計画と第9次港湾整備5年計画が平成8年度からスタートした。道内17空港の乗降客数はすでに2千万人を突破、旅客需要は年々増大しており、地域間交流に果たしている役割は極めて大きい。今年、新千歳空港に3,000m級のb滑走路が完成、アジアのハブ(拠点)空港をめざす国内有数の空港として注目を集めるまでになった。函館、釧路空港では滑走路の延長工事が順調に進んでいる。一方、国際物流の一翼を担う港湾は大型貨物船に対応できる岸壁整備が急務。本道はまだ全国的にも立ち遅れているが、苫小牧港、留萌港では大型岸壁の整備が急ピッチで進められており、地域経済の活性化に地元の期待が高まっている。そこで北海道開発局の井上興治港湾部長にご登場いただき、本道における空港・港湾整備の展望を聞いた。
――空港、港湾の整備状況についてお聞きしたい
井上
空港の整備事業については、国の第7次空港整備5か年計画が今年からスタートしました。この5か年の投資規模は全国ベースで3兆6千億円にのぼります。このうち本道分はこれからヒヤリングを行い、道内の計画が固まります。
こうした中で、新千歳空港のB滑走路が供用開始され、3,000m級滑走路を2本備えるなど利便性の高い空港になりましたが、平成7年の道内空港の乗降客数は前年比3%増の2,155万人に上っています。地域間交流や国際間交流に空港の果たしている役割は大変、大きいと思っています。その中心となっている新千歳空港は国際航路が5路線、旅客も36万人(前年比5%増)を記録するなど、各地域で空港の役割は評価されています。国際線を除く乗降客数は平成6年度で全国のおおむね13%を占めています。
しかし、まだまだ整備していかなければなりません。例えば、新千歳空港でいえば、長距離の国際定期航路の開設、冬季間の安定的な運行確保のためには、滑走路も3,000mから3,500mに延長したい。
また、現在、釧路、函館空港でも滑走路の延長事業に取り組んでいますが、旅客需要の増大に伴い大型機材の利用に適切に対応するうえからも、質の高い空港にすることが、5か年計画で力を入れていかなければならない仕事だと考えています。
――本年度の空港整備費はどのようになっていますか
井上
8年度の北海道空港整備事業費の総額は261億1,600万円で前年度比94%。うち道開発局、東京航空局、気象庁が執行する直轄事業は135億2,600万円(前年度比2%増)となっています。
――港湾整備も今年から国の5か年計画がスタートしましたね
井上
5か年計画の初年度としては、国際貿易および国内流通の拠点を形成し、北海道経済の活性化を図るために港湾機能の充実と、離島などの住民の生活向上に資する港湾施設の整備を進めるほか、地震、津波など災害に強い港湾を目指した港湾施設の整備を推進します。
小樽港−敦賀港に高速フェリー就航
――道内の港湾は貨物の取扱量が順調に伸びていると聞いていますが
井上
港湾の取扱貨物量は平成7年度実績で2億3千万tを記録しました。これは前年度対比で3.7%増です。本州との物流は堅調に推移しています。
この6月には小樽港−敦賀港間に29ノットの高速フェリーが就航しましたが、所要時間がそれまでの29時間から21時間へと8時間短縮されました。この8時間短縮のメリットは非常に大きいものです。例えば、道内の農産物を小樽港経由で敦賀から阪神圏の消費地に輸送するのに4日間もかかっていましたが、高速フェリーの就航に伴って、3日間に短縮されました。生鮮食品の輸送時間が1日短縮されたことで、いままで以上にマーケットが広がり、北海道と本州との交流も盛んになるし、本道の発展に貢献できると思います。
今秋、十勝港にフェリー岸壁が供用を開始し、十勝−東京港間に新しい航路が開設する予定です。また、ホクレンは釧路港からホクレン丸を走らせ、1日おきに生乳を首都圏に輸送していますが、来年からもう一隻投入し、毎日、北海道の新鮮な牛乳を売り込むことが可能になります。
このように港湾の整備によって北海道の素晴らしい食べ物や商品を大消費地に届けられる基盤が出来つつありますが、今後とも国内の物流をもっと円滑にするため、ユニットロードターミナルの整備が求められています。
――国際物流の面で日本の港湾整備は立ち遅れが指摘されていますが、今後の展望は
井上
国際物流を見ると、最近、日本は韓国、シンガポールに追い越され、国際競争力が非常に落ちている、との指摘があるほどです。道内の港湾も5万t級の大型船が入港できる公共ふ頭がまだないため、大型船はきっ水調整して入港しているのが実状です。
北海道で唯一のコンテナターミナルの苫小牧港勇払ふ頭も水深が12m岸壁ですから、せいぜい2〜3万tどまり。世界のすう勢は14〜5m岸壁ですから、これでは心細い。苫小牧港はコンテナ貨物量がものすごい勢いで増加していて、平成6年から7年で45%増、年間の取扱量が70万tと手いっぱいの状態です。大型貨物船がいつでも入港できる状況を早くつくらないと、国際競争にとどまらず、国内でも取り残されかねません。
したがって、第9次港湾整備5か年計画(平成8年−12年)の中では、室蘭、函館、小樽等の各港湾に水深12〜14m級の大型岸壁の整備を推進し、3〜5万t級の貨物船に対応できる港づくりを最重点に取り組む方針です。また、苫小牧港で北海道では初めて本格的な水深14m級のコンテナターミナルを建設中で、岸壁は8年度中に完成の予定です。
短期間の統計ですが、本道のコンテナ貨物(輸出入)は39%が苫小牧港、残りは東京、横浜港を利用しています。海外から直接、苫小牧港に入れば、こんな好都合なことはありません。例えば、ヨーロッパのハンブルグから苫小牧港までコンテナ1本の輸送費が20万円です。ところが東京港から苫小牧港までの国内転送に25〜40万円かかります。それだけ無駄なコストがかかるわけです。
本道の産業基盤の足腰を強くし、消費者に少しでも価格の安い商品を提供するためには流通コストを下げることが大事でしょう。その意味でも港湾は大切な役割を担っていると思います。機会あるごとに港湾整備の必要性を道内のいろいろな有識者の方々にお話させていただき、理解を求めているところです。
港湾整備には広域的な連携が必要
――港湾機能の向上には地元の協力が欠かせませんね
井上
そうです。ところで道内の特定重要港湾と重要港湾を合わせると全部で12港ありますが、北海道の面積約82,000kuを単純に12港で割ると、1港当たりの背後圏は平均約6,800kuになります。現在、全国の重要港湾以上の港は133港あり、道内の港を除くと、1港の背後圏は約2,400kuです。つまり、本道の港の背後地は、他府県に比べて3倍の面積を持っているわけです。
エリアがあまりにも広いので実感がわかない面はありますが、広域的な連携をますます深める、第一次産業からが第三次産業の方まで多重・多層的なかかわりを持ってもらうことが必要かと考えています。
一例をあげると、留萌港の整備促進に向け留萌市は、旭川や道北経済圏の人たちと期成会を結成しました。これなども広域的・多層的な連携の好例です。今後、留萌以外でもこうした試みが展開することを期待しています。
――最後になりますが、港湾関係で重点的に取り組む事業の内容を伺いたい
井上
先の苫小牧港東水路地区の12m岸壁のほか、新規事業では留萌港三泊地区において同じく水深12mの岸壁整備に着手しました。大型貨物船の留萌港への入港が実現すれば、留萌地域のみならず旭川市など上川地域についてもより低減な大型貨物輸送が可能となり、地域経済の活性化に波及効果が期待できます。
留萌港の岸壁整備では大規模地震が発生した際の避難者や緊急物資の海上輸送を確保するため、耐震性を強化します。耐震バースの整備は奥尻港本港地区でも6年度から継続事業として取り組んでいるところです。

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