建設グラフインターネットダイジェスト

<建設グラフ96年7月号>

interview

ウルグァイ・ラウンド合意を受け効率的な生産基盤整備を図る

平成8年度から新規モデル事業「みどりの工房」づくり事業を実施

北海道開発局農業水産部長 橋本 正 氏

橋本 正 はしもと・ただし

昭和21年生まれ、東京都出身、東京大学農学部卒。 43年農林省入省、52年国土庁計画・調整局調整課専門調査官、54年中国四国農政局吉井川農業水利事業所工事第二課長、55年同工事第一課長、57年近畿農政局建設部設計課農業土木専門官、59年構造改善局建設部整備課課長補佐、60年構造改善局建設部整備課課長補佐、61年徳島県農林水産部耕地課長、63年東海農政局建設部設計課長、平成元年同次長、2年構造改善局建設部防災課災害対策室長、4年同設計課主席農業土木専門官、5年同整備課長、8年現職。

北海道の農業農村整備事業を実施している北海道開発局農業水産部は、ウルグァイ・ラウンド農業合意を受け、厳しくなりつつある北海道農業に効率的な生産基盤整備を図り、多様化するニーズに応えるべく、今年度から新規モデル事業として「みどりの工房」づくり事業を実施するなど注目を浴びている。今年4月に農林水産省構造改善局整備課長から道開発局農業水産部長に就任した橋本正(はしもと・ただし)氏に、北海道農業の現況や課題、農業農村整備事業の重要性などについて尋ねた。
――ガット合意を受けて、今後の農業農村整備事業の展開は
橋本
農業従事者の高齢化、農家子弟の農業就業の減少、更に農産物価格の低迷等の多くの課題を抱えている中、平成5年12月のウルグァイ・ラウンド農業交渉の受入れにより、我が国農業も自由化、国際化という時代を迎えることになりました。
政府はこれを受け、6年10月に「ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策大綱」を発表し、ウルグァイ・ラウンド農業合意の実施期間中に取り組むべき農業施策を打ち出しました。その対策費6兆100億円の中に、新たな土地改良負担金対策と併せて高生産性農業の確立と中山間地域の活性化のための農業農村整備事業費3兆5,500億円が計上され、平成6年度補正予算から執行されています。
農林水産省では、農業農村整備事業の具体的な執行方針として、担い手がより多く存在する地域において、事業効果の早期実現とほ場整備などを核とした関連事業の有機的連携による集中的実施にねらいを置いた「ウルグァイ・ラウンド関連農業農村整備緊急特別対策」の実施に向けて取り組んでいるところです。
北海道開発局としては、ウルグァイ・ラウンド農業合意の受入れによる新たな国境措置への移行等に対応して、効率的な農業生産体制の整備を図るとともに、大規模土地利用型農業の推進、農用地の保全及び土地改良施設の整備・管理体制の強化を7年度に引き続き行うことにしています。
――8年度予算の主要事業や新規制度について
橋本
平成8年度に実施する主な事業としては、水田地帯では、高品質で低コスト生産を可能にし、冷害対策に寄与する国営かんがい排水事業27万haを計画的に推進し、新たに3地区に着手します。
畑地帯では、安定生産や品質向上を実現するため用水施設や農地を畑地帯総合土地改良パイロット事業5万6,000haにより総合的に整備するほか、農業経営の規模拡大を図るため、国営農地開発事業及び国営草地開発事業を推進します。
さらに、農地の再編により美しい農村づくりを実現する国営農地再編整備事業を積極的に推進し、新たに1地区に着手します。
また、緊急かつ大規模で高度な技術を要する地すべり対策として、直轄地すべり対策事業を推進するとともに、排水機能の低下や埋木の隆起により農作業に支障となっている泥炭地帯の農地や農業用施設の機能回復のため、国営総合農地防災事業を推進します。
そのほか、農業農村整備事業調査として、21世紀の地球環境の創造に向け、農業生産の地球環境への負荷の軽減と、環境の良好な維持・増進へのアプローチを模索した「地球環境貢献型農業農村整備事業計画調査」も昨年に引き続き推進します。
――都府県と比較して北海道の農業農村整備事業の状況は
橋本
北海道経済の中で農業の占める割合は、全国的な動向と同様に徐々に低下の傾向にはありますが、都府県との比較、また地場の農業関連産業としての食品産業をも含めると大きなウェイトを占めています。北海道の農業は、地域経済を支える地場の基幹産業として、また我が国の食糧基地として、今後とも維持・発展していくことが望まれています。
しかし、北海道経済、地域経済への農業が占める比率が高いためウルグァイ・ラウンド農業合意の受入れによる経済的な負の影響は、都府県に比較して大きいことが予想されます。
このため、北海道農業が、良質・安全にして低廉な食糧・食品の供給基地として国際化及び農産物消費の多様化に対応できるよう、また、生産の中核となる優良な経営体が形成できるように、効率的な農業生産体制の整備を図る必要があります。したがって、北海道の農業農村整備事業は、生産基盤整備への投資が大きいことが特徴です。
また、北海道の農業は道南、道央、道東北に分かれ、地域ごとに特色のある農業が展開されており、特に、道東北は広大な地域に、我が国で唯一の大規模化された畑作経営や酪農経営がなどが行われています。このようなことから、農業農村整備事業も水田の整備とならんで畑作・酪農の整備への予算も多く配分されており、畑地かんがい肥培かんがいなどの特色ある事業が展開されています。
――今後実施される新規モデル事業については
橋本
北海道開発庁は、平成8年度より『みどり工房』づくり事業を実施することになりました。これは、直轄・補助の農業農村整備事業による生産基盤の整備や非公共事業等の各種の関連する事業が連携した、総合的な生産体制を整備することができる事業といえます。
21世紀には安全で低廉な、もしくは高価でも高品質というように農作物や食品に対する消費者のニーズが分化する中、より一層の国際競争が強まることから、生産者は消費者との接触や創意工夫を生かした多様な農業の展開が必要となってくることが予想されます。行政側としてもこの動きを支援するとともに、農業農村の持つ多面的な機能を有効に活用した事業展開や、農村・都市の住民交流の推進を図る必要があります。
このため、事業主体を市町村とし、対象地域は直轄・補助の農業農村整備事業が実施中、または実施予定の地域で、これに非公共事業などを含む各種事業を連携させることにより、21世紀に向けた農業生産拠点と地域活性化の北海道のモデルとなるような地域とされています。
――農業農村整備事業の波及効果については、どう考えますか
橋本
農業農村整備事業は、農村地域の農業生産から農村生活、さらには地域の防災保全まで様々な対象に事業は及んでいます。そのため、さまざまな効果が考えられ、その発現の形態は、農家レベル、地域社会レベル、国家レベルにわたるもので、事業参加の農家のみならず広く非農家部門にまで不可避的に及び多面性を有しています。
農業農村整備事業は、農業の発展は農業に対する効果のみでなく、農業の安定生産を通じて農村の生活環境の改善、農村地域社会の維持管理、就業・所得機会の確保のための条件整備、農村住民の定住の促進・担い手の確保、都市住民の多様なニーズへの対応などに寄与しています。
また、農業農村整備事業が実施される場合、その必要とする労働力や原材料は、地域内外から供給されることにより直接、間接の効果があります。このように、公共事業は雇用吸収力が高く、関連する産業分野が広いという性格から、景気浮揚や雇用吸収などの需要創出効果が大きいことが特徴です。特に、農業農村整備事業は、他の公共事業と比較して地域経済への波及効果、生産誘発効果が大きいという特質があります。
北海道では、地域経済に占める農業の割合が全国より高く、また、農業は広範な関連作業と密接なつながりを持っており、農産物を原料とする食料品の構成割合が非常に高いという産業の特色を持っており、北海道の農業農村整備事業によるさまざまな効果は、北海道経済によって非常に重要だといえます。
――工法・資材など今後改善されるべき課題は
橋本
公共事業では、建設費の縮減が求められており、加えて農業農村整備事業では受益者負担を前提としていることから、新技術の導入とともに、工法・資材の低廉化が常に望まれています。農業農村整備事業を含む公共事業では、規格品でなく特殊な製品が多用されるケースもあり、大量生産による低廉化への道が狭いものもあると思いますが、技術革新に期待をしています。また、高い技術、磨かれた技術は常に求められています。
一方、環境や景観への関心の高まりから、明渠排水路工事や公園の工事では、近自然工法を取り入れている地域、また、環境への配慮と併せて経済的な工法・資材の導入としては、ホタテ貝殻を暗渠透水材として使用している地域もあります。さらに、建設副産物の有効利用という観点から、アスファルト再生材を使用した舗装、抜根物のチップ化・堆肥化を実施しています。このように、環境・景観という面では、アイディア次第で用いられる工法、資材もあります。
今後とも、農業農村整備事業の推進に当たりましては、皆様方のご支援をお願いする次第であります。

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