<建設グラフ96年11月号>

interview

公共事業に必要なのは複眼思考合わせ技で地元要望を取り込む

災害に強い地域づくりを推進

北海道開発局室蘭開発建設部長 平野道夫 氏

平野 道夫 ひらの・みちお
昭和20年12月3日生,45年北海道大工卒
昭和48年北海道開発局石狩川開発建設部第1課河川調査第1係長
昭和49年建設省河川局治水課直轄総括係長
昭和52年北海道開発局石狩川開発建設部札幌河川第1工務課長
昭和53年北海道開発局河川計画課開発専門官
昭和54年建設省計画局国際課長補佐
昭和55年サウジアラビア日本国大使館一等書記官
昭和58年北海道開発局石狩川開発建設部工務第1課長
昭和61年北海道開発庁水政課開発専門官
昭和63年北海道開発局河川計画課河川企画官
平成 2年北海道開発局旭川開発建設部次長
平成 3年北海道開発局石狩川開発建設部次長
平成 5年6月北海道開発局河川計画課長
平成 7年6月北海道開発庁水政課長
平成 8年7月現職
この7月の人事異動で開発庁水政課長から室蘭開発建設部長に就任した平野道夫氏は河川畑の出身だが、外務省に出向し在サウジ・アラビア日本大使館一等書記官を務めるなどのキャリアの持ち主。公共事業の目的をしっかりと踏まえたうえで専門分野にとどまらず幅広い視野に立って開発行政に取り組むのが持論で、職員にも地元の声に目配りするよう訓示したという。白鳥大橋、千歳川放水路などのビッグプロジェクトを抱えている同開発建設部の事業概要のポイント、公共事業の在り方などを中心に話を聞いた。

地域との距離を縮める
――まず就任の抱負からお聞きしたい。
平野
部長になったからというよりも、これは私の従来からの考えなのですが、私たちの仕事は公共事業の実施です。その公共事業の目的とは単に構造物を造るというのではなく、困っていることを解決し将来、子孫のために良いものを残すということです。公共事業は国だけではなく、道も市町村も行っています。そして目的も同じです。その意味で国と道、市町村との壁を取り払い、地域との距離を少しでも縮めたいと思っています。そのためにはお互いに自由に意見を出すことが大事で、これを職員にも訓示しています。
ところが、こうした壁は職員の中にもあるのです。私としては道路屋だとか河川屋だとか、そんな壁は取り払って、他人の仕事にどしどし首を突っ込んでもらいたい。自分の仕事だけに凝り固まってはほしくないですね。自分の殻に閉じこもってしまうと考えが狭くなります。私自身、この部屋にこもるのではなく、積極的に時間を作って現場を踏むつもりで、管内24市町村はすべて回りました。

――ところで日高町の国道245号の拡幅事業に伴って沿線の商店が開発建設部や町と連携して町並み整備に取り組んでいますが、こうした動きにはどのような印象をお持ちですか
平野
大賛成です。本来あるべき姿です。共同事業というのか、私は“合わせ技”と呼んでいますが、どうせなら単一目的ではなく、複眼的に事業の幅を広げるのが良いと思っています。日高町にとって道路は町の施設そのものですから、地元の人の意見をよく聴くことが大事です。
北海道のまちづくりも第二世代に入っていますから、景観に配慮し建物自体が自己主張するなど、ようやく脱皮が始まったところじゃないでしょうか。
苫小牧西港に−15m岸壁
――本年度の事業概要を伺いたい
平野
港湾は苫小牧西港、東港の整備が重要です。ご承知のように阪神・淡路大震災で外国貿易の拠点が神戸港から韓国に移ったといわれていますが、外国貿易に対応できるよう施設整備を急ぎたい。西港は−15m岸壁、いまは暫定で平成7年から−14m岸壁の整備に入っています。−15m岸壁は道内では初めてです。
東港はまだ立地企業が72社しかありません。なおかつ西港がそばにあり、荷役施設も整備されていないので、資材なども東港を経由しませんが、今後も背後地と連携を取りながら整備は進めていきたいと思います。
漁港については産業と直接結び付いた施設整備なので手は抜きたくないと思っています。マリノベーションといえば格好よすぎるかもしれませんが、漁業関係者以外の人たちが楽しめる施設整備にも取り組んでいるところです。
三石ダム周辺で地滑り対策事業
次に農業ですが、三石町にピラシケ地区という調査地区があります。ここでは、三石ダムのダム湖周辺で、地すべり対策のための調査をしています。
三石ダムは平成4年に完成しましたが、その前後にかけて大規模な地震が多く発生したことや、この地域が多雨であることから地すべり箇所がいくつかあり、平成6年からダム堤体への影響や下流への地すべり洪水を未然に防止するために農地防災事業の「地すべり対策事業」を実施しているものです。
対策の内容は80cm以上の太い管を地中に埋め込んで地すべりを防止することと、井戸を掘って集水した水を地中の排水口により速やかに排出することが2本柱となっています。
この調査は平成9年秋までに終え、秋からは着工して平成16年の完成を予定しています。
苫東道路は9年度に供用開始
――道路整備では一般国道の自動車専用道路の整備が進んでいますね
平野
日高自動車道120kmについては、既に着手しています。苫東道路19.7kmについては工事の最盛期を迎えており、平成9年度中には供用開始の予定です。その先の厚真門別道路20kmは現在用地買収を主体として事業を進めるとともに、一部、試験盛土工事を進めているところであり、早く本格的な工事に入りたいと思っています。
礼文華トンネルの防災対策に万全
道路整備で忘れてはならないのが防災対策です。平成3年度の安全点検で危険が指摘された礼文華トンネルは現在、新たなトンネルを掘削工事中で、今年度中に開通したいと思っています。
また、不通区間の開削や交通あい路区間の解消を行うため、浦河町から広尾町に抜ける236号上杵臼道路の9年度開通を目指します。災害に強い地域づくりにつながるわけですから、こうした事業は地味ではあっても重点的に取り組む方針です。
白鳥大橋は平成10年春頃に供用開始の見通しです。
漁業者の要望強い人工リーフ

――胆振海岸(苫小牧〜白老)で人工リーフの整備が2基目に入っていますが、効果のほどは
平野
人工リーフ(潜堤)は沖合の海面下に設置します。自然の力をうまく吸収し波の力を弱めることで、陸地との間に『静穏域』ができます。その結果、プランクトンが多く集まり、人工リーフのブロック肌に海草が付着するなど魚介類の成育に効果が確認されています。
昭和63年に海岸事業が始まった当初は『漁場が荒れる』と漁民から猛反発を受けたのですが、その後は関係者の努力もあって地元の認識が高まり、今では促進の陳情があるほどです。苫小牧工区、白老工区ともそれぞれ本年度から2基目に入っています。一基の長さは150mあります。
二風谷ダムの役割大きい
――複雑な事情を抱えてスタートした二風谷ダムが再び話題になっていますね
平野
二風谷ダムはとかく一方的な報道をされていますが、洪水調節で自然災害から守ると同時に苫小牧東部工業基地への工業用水、また、門別、平取両町への水道水、農業用水の確保を目的としています。
苫東の見直しで工業用水はもう必要ないのではという意見が一部にありますが、現在も一日12,000トンの水を立地企業が苫小牧西部から借りているのが現状で、その返済義務がありますから、少なくとも12,000トンの工業用水が必要なのです。
苫東の新しい計画に基づき北海道企業局が工業基地の水需要を見直ししています。それが確立すれば二風谷ダムの位置付けがもう少しはっきりすると思います。ダムの周辺整備も進んでおり、地域の新たな魅力に育ってほしいと思っています。
鵡川、沙流川は洪水対策と合わせて、護岸工事のコンクリートブロックの表面を土や岩、緑で覆い、水性生物の環境にやさしい対策を講じ、もっと魚の上れる川にしたいものです。
樽前砂防事業に公共事業の真髄
自然災害対応でいえば平成6年度から着手している樽前の火山砂防事業が特筆できると思います。全国的には噴火が発生してから対応していますが、道内で火山砂防は十勝岳と樽前だけなのです。
樽前はいつ噴火しても不思議ではないと地震学者は指摘していますが、実際に噴火前から砂防事業を手掛けており、これこそが真の公共事業といえるでしょう。私は予防砂防は胸を張れる事業だと思っています。樽前の山麓から海岸線まで直線距離では13kmしかありません。しかし、この間に鉄道、国道、高速道路が走っており、爆発すれば苫小牧市を直撃しかねません。噴火を防ぐわけにはいきませんから、時速80kmともいわれる泥流のコースをあらかじめ決めておいて、所々貯めるように工夫しています。
建設業界は社会還元に配慮を
――最後に建設業界への要望やご意見をお聞かせ下さい。
平野
冒頭に地域との距離を縮めることを話しましたが、建設業はそれぞれの地域で主要産業になっている所が多いのですから、ぜひとも社会貢献を考えてほしい。例えば、社屋の回りをきれいにしたり、施設の一部を地域住民に開放するとか、出来るところからやって頂きたいものですね。

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