<建設グラフ96年10月号>

interview

交通アクセスの整備が最重点課題

管内市町村の見地に立った行政を

北海道開発局函館開発建設部長 渡辺栄一 氏

渡辺 栄一 わたなべ・えいいち
昭和19年5月27日生
昭和43年室蘭工大卒
昭和46年道開発局稚内開発建設部築港課計画係長
昭和48年道開発局室蘭開発建設部苫小牧港湾第2計画課設計係長
昭和49年道開発局港湾建設課災害係長
昭和51年道開発局港湾計画課開発専門官
昭和52年道開発局小樽開発建設部小樽港湾第1工事課長
昭和54年道開発局土木試験所水産土木研究室副室長
昭和58年4月道開発局土木試験所水産土木研究室長
昭和58年11月インドネシア国運輸省海運総局
昭和61年道開発局水産課長補佐
昭和62年道開発局港湾計画課長補佐
昭和63年道開発局室蘭開発建設部苫小牧港湾所長
平成 2年道開発局留萌開発建設部次長
平成 4年道開発局函館開発建設部次長
平成 6年7月道開発局空港課長
平成 7年6月道開発局港湾計画課長
平成 8年7月現職
渡辺栄一・函館開発建設部長にご登場いただいた。函館地方は本道で最初に開けた地域で、歴史的な息吹が随所に見られる半面、社会基盤の整備が立ち遅れているのも事実。このため新任の渡辺部長は地元要望が最も強い交通アクセスの整備に一層力を入れる方針だ。しかし、国の財政事情は一段と厳しさを増しており、この点を踏まえて渡辺部長は『優先度、緊急度に応じて中・長期的な取り組みが必要』とし、管内市町村のバランスにも配慮しつつ広域的な視野に立った開発行政の推進を強調した。以下、平成8年度の主な事業を聞いた。
――就任の抱負から伺いたい
渡辺
南西沖地震や駒ケ岳の噴火などにみられるよう、いつ災害が発生しても即適切に対応できるようにふだんから気持ちを引き締めることが大切ですし、職員にもそのように訓示したところです。
また、管内の市町村長と意見交換すると、地元の要望はかなり多岐にわたっていることが分かりました。したがって、各層の地元の声を聴くためにも日頃からアンテナを伸ばしておきたいと思っています。

――着任後の管内視察はすでに終えたかと思いますが、どのような感想を持たれましたか。
渡辺
開発建設部は地域の活性化、産業を支える社会の基盤整備事業を推進していますが、各首長との意見交換では道路、交通アクセスの整備に対する要望が一番でした。管内の国道は9路線、総延長は650kmに及んでいますが、とにかく国道の整備を皆さん望まれています。
ただ、1町だけで要望するのではなく、広域的にとらえ幅広い形で検討し、優先度や緊急度に応じて取り組むことが必要ではないでしょうか。
――管内の概況は
渡辺
管内の総面積は6,565kuで全道の7.9%を占めています。これは栃木県よりやや広い面積ですが、耕地面積は8%に過ぎません。全体の57%を山林が占めています。
管内の人口は昭和30年には59万8千人を記録しましたが、55年以降減少傾向が続いており、現在は54万人です。産業面では全道に比べて農業のウエイトが低く、漁業のウエイトが高いのが一つの特色です。
平成5年のデータですが漁業生産高は645億円。管内27市町村のうち23市町村が漁港を有しており、漁家は全道の3割強を占めますが、中小零細漁家が大多数です。
年間2千万人を超えていた観光客の入り込みは南西沖地震の影響で大幅に落ち込みましたが、その後、除々に盛り返しています。
――平成8年度の事業費規模は
渡辺
総事業費は618億1,500万円。国の厳しい財政事情の中で前年度当初対比4.4%の伸びとなり、函館開発建設部として初めて600億の大台に乗りました。
長万部町バイパスが供用開始
――事業内容について具体的にお聞きしますが、まず一番要望の多い道路整備はどのように取り組まれていますか。
渡辺
8年度は道路整備に329億円の事業費を投入します。半島を横断する道路の改良が遅れているほか、人口が集中している函館圏へ向かう道路は渋滞が目立っており、現在、高規格幹線道路の函館・江差自動車道については函館茂辺地道路(延長18km)の桔梗高架橋の整備を促進するともに、茂辺地木古内道路(延長16km)も早期着工に向けて環境アセスメントを実施しています。
地域高規格道路の渡島半島横断道路は整備区間である国道230号花石道路の整備を促進し、高規格幹線道路と一体となった高速交通網の整備を図ります。
また、都市周辺の交通混雑を緩和するため、国道5号函館新道では大沼トンネルの巻立、昭和高架橋の上下部工事の整備を促進しています。このほか、国道6路線10か所において、危険か所の解消、一次改築などを進めていますが、本年度中に国道227号中山登坂と278号戸井市街の2か所、国道長万部バイパスの供用開始を予定しています。

滑走路延長の早期完成へ
――函館空港は滑走路の延長に取り組んでいますね。
渡辺
現行の2,500mから3,000mへの滑走路延長は航空機の冬期間の安全運航確保と大型ジェット機の通年運航化を図るのが最大の狙いです。本年度も延長に伴う用地造成工事を継続実施するほか、誘導路新設に着手します。

函館港に大型公共岸壁
――函館港では大型岸壁の整備が急がれていると思いますが
渡辺
そうです。これまでは臨港道路の整備に重点を置いてきたので、港の中の整備は必ずしも十分ではありませんでした。函館港は開港137年を迎えますが、1万tクラスに対応できる水深10mの岸壁が1バースしかないなど、先発後進港に甘んじているのが現状です。
そこで港町地区で5万t級の大型船に対応できる−14m岸壁の整備に着手しました。さらに−12m、−10mの岸壁があって初めて一体化した埠頭になるので、今後の大型化、国際化に対応した港湾施設の実現に全力を上げたいと思っています。
また、いまは落ち着いていますが、管内は地震や噴火などの災害は油断できませんので、地震に強い港づくりとして液状化対策を念頭に置いた耐震強化岸壁を函館港、奥尻港で進めています。瀬棚港では津波対策を考慮した外郭施設を整備しています。

漁港でも福島、青苗漁港、さらに今年3月の駒ケ岳噴火を受けて砂原漁港を防災強化拠点岸壁として災害緊急時に人員、物資の輸送に対応する水深5mの岸壁整備を緊急に実施します。青苗港は地震・津波の防災に対応し、緊急避難広場を兼ねた用地(人工地盤)造成に着手します。
その他、地域産業振興のため地方港湾を整備するのも重要な視点です。特に瀬棚港においては産業振興ゾーンや観光レクリエーションゾーンの港湾空間の創出を図るため、マリン・タウンプロジェクト関連の多目的防波堤の整備を促進します。

砂原港に防災強化拠点岸壁
――福島港と青森県三厩村とのフェリー就航が再開するるそうですね
渡辺
平成10年を予定しています。フェリー就航に向けて水深5mの岸壁を整備します。

――ところで、治水事業に目を向けると、最近は単に水害対策の視点だけではなく、水と緑あふれる個性的な地域づくりに治水事業が重要な役割を担っていますね
渡辺
そうです。後志利別川の治水事業では掘削(2万u)、築堤(0.4km)の施行によって流下能力を拡大し河岸保護と内水対策を図るとともに、自然と共生するアクア・グリーン・ストラテジー(魚・鳥・人による水辺づくり)を推進しています。

――農業農村整備事業について
渡辺
ご承知のようにガット・ウルグァイ・ラウンド農業合意の受け入れによる国内農業への影響を極力緩和するとともに、道南地域の生産・流通の特性を生かして良質・安全・低廉な農畜産物を生産する条件を整備し、生産の中核となる経営体の育成に努めます。
前年度に駒ケ岳、五厘沢の2地区が完了したこともあって本年度の農業農村整備事業費は2.2%減の70億円にとどまりましたが、国営かんがい排水事業は知内地区、渡島中央地区、利別川地区、厚沢部川地区の整備を継続します。
土地改良調査計画では、農産物の流通改善と農地の整備を一体的に行う特定地域農用地総合整備基本調査を新規に内浦南部地区で取り組みます。


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