建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年6月号〉

interview

全国で初めて中小企業以外にも特別融資

北海道経済部長 山口博司 氏

山口博司 やまぐち・ひろし

昭和16年10月25日生まれ、札幌市出身、北大経済学部卒
昭和46年北海道庁入庁
60年厚生省大臣官房政策課長補佐
61年同健康政策局計画課長補佐(61.11医事課長補佐併任)
62年商工観光部工業課長
63年 商工労働観光部工業振興課長
平成元年同商業流通課長
3年同商業貿易振興室長
5年同部次長
7年総務部知事室長
8年現職

拓銀の倒産ショックも冷めやらぬ間に、金融ビッグバンがいよいよスタートし、その波紋は道内金融界にも大きく押し寄せている。金融機関は、生き残りを賭けて貸し渋り、途方に暮れた中小企業経営者が自ら生命を断つという悲劇も起こっている。その上に財政構造改革で当初予算は公共事業費が抑制され、公共投資依存度の高い北海道経済は脅威にさらされている。まさにサバイバルゲームの様相を呈する情勢下で、経済をどう建て直し、安定化させるか。北海道経済部の山口博司部長に聞いた。
――わが国は省庁再編やビッグバンも本格化するなど激動していますが、本道を取り巻く環境も大きく変化していますね
山口
今日の北海道は、行財政構造改革が進む中、北海道開発庁や北海道東北開発公庫(北東公庫)の統合再編の方針が決定したのをはじめ、国の公共投資予算の縮減、北海道拓殖銀行(拓銀)の経営破綻など、長い間本道の開発と発展を支えてきたシステムが大きく変化する出来事が続いています。
また、長引く景気低迷の中で、金融環境の変動も加わり、中小企業がその大半を占める地場企業の経営環境や雇用情勢は、一段と厳しさを増してきています。
本道の行政投資は、全国の6%を超えているほか、公共事業についても全国の10%を超えています。これらのことから、道内の総支出に占める公的支出の割合は、29.5%となっており、全国の18.6%を大きく上回っています。
ところが、民間企業の設備投資は2兆1,036億円で、北海道シェアは3%と低くなっています。つまり、本道経済は、国内の他地域に比べ、公的支出に大きく依存していることになります。
――政府も自治体も、今年度の当初予算は財政構造改革を主軸としたため、公共投資をかなり抑制してしまいました。その影響は大きいのでは
山口
そうですね、公共投資予算の削減は、本道が公共事業に依存する割合が高いことから、今後の経済と道民の生活に大きな影響を及ぼすことが懸念されます。
また、今後の金融システムの変革、いわゆる『日本版ビッグバン』により、企業の事業展開に伴う資金調達の面などに様々な影響が出てくると思いますが、こうした厳しい現実を直視し、必要な対策を北海道庁として早期に講じていく必要があると考えています。
――どんな対策が有効だと思いますか
山口
特効薬というものはなかなか見つからないものですが、道経済部としては、金融環境の変動や雇用情勢の変化に十分配慮しながら、全庁的に取り組む「経済活力の創出に向けた総合経済対策」を踏まえ、広く地場企業を対象とする融資枠2,500億円の「金融変動対象融資制度」の創設などによる「金融支援強化」や、中高年齢者を雇用した事業主に対する奨励金の交付などにより、「雇用の安定」に早急に対応していきます。
また、地域特性を活かした新産業づくりへの取り組みを支援するなど、新たな産業の創出や創造的中小企業の育成、さらには、経済活動の国際化や多様な観光資源の開発などに積極的に取り組み、21世紀に向けた経済活力の基礎づくりを進めることにしています。
――外為法改正などによって、いよいよ金融ビッグバンが本格的に始まり、道内の地銀、信組など地元金融機関のあり方が関心の的となっています。とりわけ金融機関の貸し渋りが、経営者の生存すら脅かすまでの深刻な問題となっています
山口
確かに貸し渋りの問題もありますが、やはり本道の中心的金融機関としての役割を果たしてきた拓銀の経営破綻は、本道の経済や道民生活全体に大きな影響を及ぼすのではないかと懸念しています。したがって、取引先企業の経営安定が、まず緊急の課題になります。
そこで、中小企業の融資などの相談に応じるため、本庁内に「緊急経営相談室」を設置したほか、地域では、「移動中小企業経営相談」を延べ42箇所で開催してきました。また、各支庁をはじめ、地域の商工会議所・商工会などでも相談窓口を設置していただき、その対応をしています。
具体的な融資制度としては、中小企業に対する緊急融資制度を平成9年12月の創設し、金融変動緊急対策特別資金として融資枠1,000億円を確保し、全道の市中金融機関を窓口に融資を実施しています。平成10年度からは、これをさらに拡大し、融資枠を2,500億円とするほか、中小企業以外であっても地域経済への影響が大きい企業は対象に含め、金融変動対策特別資金として融資枠1,200億円を準備しています。
この中小企業以外の企業を対象とした特別融資制度は、全国的に例がありませんが、28万を超える事業所が活動を行っている道内には、こうした中小企業以外の企業が約1,000社もあるのです。これらの企業は、本道経済の基幹的な役割を果たしており、拓銀問題の発生による影響が少なくないことが予想されるため、創設したものです。
この考え方に基づき、国に対しても、北東公庫と開発銀行における運転資金融資制度の創設と、信用保証協会における補償対象範囲を中小企業以外の地場企業にも拡大するよう強く要望しています。
――一方、労働市場も厳しいようですね。山一も拓銀も、倒産後の従業員の処遇は、人によって様々なドラマがありますが、着実に再雇用は進んでいるようです。とはいえ、これは山一、拓銀のブランドがあればこそ。新卒者も含め一般的なリストラによる解雇者などの吸収は、想像を絶するほどに困難と言われています
山口
本道における最近の雇用失業情勢は、有効求人倍率が平成9年秋以降に急激に低下し、平成10年2月には0.39倍となり、全国の0.64倍を大きく下回っています。前年の同月と比較しても、低下の幅は拡大傾向で推移しています。この有効求人倍率が、0.3台になったのは、昭和63年1月以来、10年ぶりのことです。
新規の求職申込件数は、前年の同月に比べ大幅に増加しており、離職者の中でも倒産など事業主の都合による離職者が特に増加しています。
このため、平成10年度においては「経済活力の創出のための総合経済対策」の中で、特に再就職が困難な中高年齢者の雇用機会を確保するため、国の助成対象になっていない45歳から54歳までの人々を雇用した事業主への奨励制度などをはじめとする「緊急雇用対策事業」を実施します。
また、企業の倒産状況も依然として高い水準にあり、新規学卒者の就職状況も芳しくありません。こうした厳しい雇用状況については、きめの細かい対応が必要である一方、「新しい産業づくり」を積極的に進めるなどして、道内における雇用機会の拡大も肝要だと考えています。
――新しい産業づくりといえば、道経連(北海道経済団体連合会)の戸田会長が、産業クラスターによる経済的自立を訴えていますが、実りは期待できるのでしょうか
山口
今日のように厳しい経済環境の中であっても、環境や健康・福祉、住宅・都市などの分野で、新たな製品やサービスを開発し、提供する意欲的な企業活動が出てきています。こうした取り組みを全道的なうねりとして、自立的な成長軌道に乗せていくことが必要です。
近い将来、市場が急速に広がると考えられる新規成長分野を中心とする新しい産業を育成するためには、産業クラスターの形成に向けた取り組みなどとも連携しながら、「農林水産業や製造業、流通・サービス業など産業間や産学官の幅広い連携」、「産業横断的な研究開発」、「新分野を担う人材の育成・誘致や市場の開拓」などに対する支援を、行政や経済界などが一体となって進めていくことが必要です。
そのため、私たちは今年度から、地域の特性や産業集積などを活かした新しい産業づくりに向けた取り組みに対する資金面、技術面からの支援などを行う新産業創造活動を推進するための事業を実施します。
これにより、起業家精神あふれる企業の取り組みを加速し、数多く事業化に結びつけて新しい産業を創出していきたいと思います。
――北海道は「観光立県宣言」を公にし、観光振興による増収を目指しましたが、それはバブル景気の最中のことで、今日のように個人消費が伸び悩んでいる状況では、その理念もかなり遠のいたのでは。特に今後、所得税減税が行われても、単に個人ローンの支払いや、利回りの良い金融商品に投入されるだけとの見方もできそうですが
山口
しかし観光は、経済対策として即効性が高く、やはりその振興は重要です。
より多くの方々に来道していただき、四季それぞれの自然の魅力や地域の個性あふれる文化、その土地ならではの味覚など北海道の素晴らしさを満喫していただくためにも、強力な観光振興の取り組みは必要です。
――どんな施策を実施しますか
山口
10年度は「観光の魅力づくりの促進」として、地域が広域的に連携して行う「テーマ性のある広域観光ルート」の形成や交通アクセスの改善による周遊性の向上などを図る事業などに対して支援していきます。
また、「北のたびづくりの促進」として、1次産業と連携した滞在型、体験型のいわゆる「北のたび」を創造し、地域産業の活性化を図るため、その受け皿づくりと体験プログラムの開発、さらにはモデルプロジェクトの地域選定を行います。
――規制緩和と国際競争、ビッグバンと再構築、国際標準への適応など、道民としてもこれまで未経験のことが多く、将来への不安感が払拭できない。行政としてどんな基本姿勢で施策に臨みますか
山口
近年は、地域重視の基本姿勢がますます重要となってきています。地域の自主性と創意ある取り組みが活かされるよう、地域の情勢ニーズの把握に十分配慮しながら、施策の展開に努めていきたいと思っています。

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