建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年5月号〉

interview

サハリン関係の構築は時間をかけて

定期航路の大幅な増便と航空路の開設に大きな希望

北海道稚内市長 敦賀一夫 氏

敦賀一夫 つるが・かずお

大正11年1月21日生まれ、礼文町出身、札幌逓信講習所卒。
昭和24〜45年日本電信電話公社勤務、34〜38年稚内市議会議員、46年〜平成3年共同ボデー工業株式会社取締役社長、平成3年5月稚内市長に初当選、現在2期目。

わが国の自治体外交を見ると、南は九州・福岡と韓国・ソウルとのインターブロック、北は北海道・稚内とロシア・サハリンとのインターブロックという圏域構成が鮮明化しつつある。そのサハリン交流との窓口となる稚内市も、それを政策の中心に据えるほどの力の入れようだ。だが、旧経済体制の後遺症や地域事情、国民性の違いにより、思わぬ苦労やハプニングもある。そうした壁を乗り越えて、サハリンとの実りのある関係構築に情熱をそそぐ敦賀一夫稚内市長に、今後の戦略などを語ってもらった。
――稚内市内での景況はいかがですか
敦賀
稚内は何でも生産しており、酪農や観光による収入は増えています。とはいえ市としては、昨年の景気動向も踏まえて、平成10年度にどのような対策を講じて行かなければならないか、適切な対策が必要です。
しかし、沿岸漁業については、たとえ魚価が下がったり、収穫量が少なくなっても、次があるという強みがあります。
また利尻・礼文の観光がありますが、これもそう簡単には廃れないでしょう。そのためには、自然を破壊しないよう努めなければならない。こうした要素から観光客からは、「稚内は景気がいい」といわれます。
現在、市のメイン事業として進めているのは「マリンタウンプロジェクト構想」です。これは稚内港を中心にしながら、これと連担する商店街を形成しようというもので、サハリンの地下資源開発に伴う需要を見越してのものです。
――稚内市ではサハリンとの経済圏域の形成に向けて、様々な交流が行われていますが、アメリカをはじめ各国の開発業者などが稚内港へ立ち寄る仕組みを構築してはどうかとの提言がありますね
敦賀
昨年辺りはアメリカ、イギリス、東南アジアの人々が、稚内を経由してサハリンに入っています。稚内-サハリン間の定期航路も、今まではロシアの船舶を使用してきましたが、来年からは日本の船舶が導入されます。
また、昨年11月から東京直行便が通年化されたので、稚内空港とサハリンの空港が直行便で結ばれると、多大な効果が期待できます。
季節運航の関空便のほか、名古屋便の就航も要望しております。
サハリンとの空路実現も視野に、旅客便の増加に対応すべく空港ターミナルビルの増築を行っています。
――報道では、資源開発の主体がアメリカで、日本は商業流通という側面から接点を持つため経済的利益を生み出すにはほど遠いとの論調ですが、市としてはどう考えますか
敦賀
しかし、現地にはすでに日本の商社によってホテルが6軒ほど建てられています。みちのく銀行の社屋も都心部に立っています。
2年前の12月には伊藤忠、日本通運、稚内市の3者で資材輸送会社をつくり、サハリン開発に参入しています。
しかし問題もあり、ノグリキ以北の港湾は浅いために輸送船が入港できません。せいぜい入っても500t〜600tくらいではないでしょうか。そのため輸送船を沖に停泊させ、そこから数隻の小型船に積み替えて港湾までピストン輸送をしています。
――日本側が設備投資として港湾整備を進めることはできないのですか
敦賀
それは無理でしょう。日本は戦時中に、途中まで港湾整備に手を着けましたが、終戦以降はそのままになっています。国家の道路整備でさえ大変なのですから、それは難しい。
――定期便の増便によって、かなり両地域間の人の交流が進みそうですね
敦賀
今年は稚内―サハリン間の定期航路は7便ですが、来年からは5倍くらいに増やす計画です。
昨年、市内へ来たロシア人は7万人を越えています。今年はロシアも政変が起こるなど相当大変なようです。しかし、稚内に来たときの彼らの“買い物”はすごいものがありますね。漁業関係者は比較的富裕のようです。稚内市にくる漁業関係者は、自動車ではトヨタ、日産のメーカー品、電化製品もナショナル、東芝のメーカー品でなくては納得しないようです。
――交流の結果、互いに何らかの変化は見られますか
敦賀
最近では、毛がになどあまり食べなかったロシア人が、日本人に影響を受けて食べるようになったようです。食文化の交流というものでしょうね。
また現地では、商品もかなり店に出回っていますね。韓国製品が多いようです。
漁業関係者と違って地元では、安ければ何でもいいという考え方で、製品への信頼性は、日本製品が最も高いという国際的評価を地元の人も十分に理解してはいますが、それよりも“安さ”が重要だということですね。
――基盤整備のための建設資材なども、やはり韓国製が主流なのでしょうか
敦賀
だいたいそうです。最近ではユジノサハリンスクに、大規模なホテルが建っていますが、これも韓国系です。
――日本がサハリン市場で勝ち残っていけるものは、何だと思いますか
敦賀
野菜の供給という面では、我々にも分があります。また、サハリンには牛が少なく山羊・羊が大変多く、牛乳もありますがこれは高価なものです。日本の牛の様に自然の草を食べさせて育てていくことが難しい環境なのでしょう。肥料を食べさせるわけにはいきませんし。
――対サハリン関係において、稚内市の今後の戦略は
敦賀
やはりまずは交流することから始まって、そこから日本の経済とサハリン経済とを比較し、互いに努力することにより関係は変わってくるものではないかと思います。
――サハリン側からの要望は
敦賀
例えば、中古の機械や道路補修への要望はありました。関係業者がサハリンに赴き、ビジネスに結びつけているようです。
――サハリン開発を考える上では、最近の東南アジアへの海外投資の動きは参考になるのでは
敦賀
サハリンでは、まだ東南アジアほどの急激な投資が行われているわけではないので、その点はどうでしょうか。海外投資について日本人は、慎重に考えていきますから、いきなりロシア人を相手に儲けようとは思わないでしょうね。
――市としても、自治体同士の交流を図っており、職員も派遣しておりますが、独自の現地事務所を建設する考えは
敦賀
それはとても不安です。開発する土地がないわけではないのですが、現地では5階建てくらいのアパートの建設に着手しながら、途中で中止しているという状況があります。
建てる際にきちんと契約をしておかなければ、建設費を支払ったのに途中で放置される危険性があります。契約の概念が希薄なことと、労働者があまり勤勉ではないという特性によるもので、途中まで建てて後は手付かずという高層建築物もたくさんあります。だから、北海道の出先機関でもみなアパートを賃貸しています。
契約の問題ですが、ロシア人は「そっちが駄目ならこっちに」という具合で、いとも簡単にすり替えを平気で行ってしまいます。それを怒ったところでどうにもならない。したがって、契約行為を行うときは、必ず現地で力のある企業と結ぶのがベターといえるでしょう。
この点を、日本のメジャーな企業はみな理解しています。なにしろ船が座礁しても、何事もなかったかのように去っていく。向こうは何とも思わない国民性がありますから。
――国際社会では、受け入れられない側面ですね。稚内市では、現地からの研修生を受け入れたり、市内からも人材派遣して資本主義経済のルールを理解してもらう方法をとっていますが、成果は
敦賀
サハリンからの研究生を4回迎え入れていますが、誰でもというわけにはいかず、経済交流会会長が現地で面接をし、研究生を選出します。
市役所をはじめホテルや銀行などで研修してもらっていますが、現地では研修生たちが会をつくっていました。そして、戻ってからもきちんと自分たちの役目を全うしているようです。
――そうした人材が各界のリーダーへと成長していけば、かなり状況は変わってくるかも知れませんね
敦賀
一方、こちらからも、現地できちんと仕事をしてくると、日本のイメージはこういうものだと理解し付いてきてくれます。この制度はとても大事です。時間をかけてお互いの認識を改革していくと、必ず変わってきますから、今のままで続けていきたいものです。
――ロシアに限らず、経済システムの異なる社会が資本主義化していく過程のなかでどうしても避けられないのが、マフィアなど地下組織の介入、伸張となりますが、この浄化がある程度進まなければ、合法的で正当なルートによる取引き関係を築きあげるのは難しいのでは
敦賀
確かに非合法の組織は、サハリンにもあるようです。詳論は避けますが、国外勢力のようです。
――両地域間で、それぞれの政府に要望しなければならない共通の課題はありますか
敦賀
今年の2月にユジノサハリンスク市長を招待し、港湾や税関の問題について会議の場を持ちました。何度かそういう機会が設けられています。
――税関手続きを、もう少し簡略化すべきという主張がよく聞かれますが
敦賀
どうも、ロシア政府側とサハリン州知事との連携の問題のようです。本来は魚を獲るにも、許認可のためにモスクワには行くものですが…。
――国レベルの段階で考えると、ロシア政府はサハリン-稚内・北海道との交流をどう見ているのでしょうか
敦賀
そうですね、北方領土との関係もあり、政治的なものが絡んでいますから微妙です。
しかし、稚内市の主要政策は、観光と水産、そしてサハリンとの交流です。このなかでも、今はサハリン問題を中心にして、これからどのような方向で進んでいくのかが一番大事なことです。サハリンには、今やアメリカのメジャーなども進出しているのです。

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