建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年6月号〉

interview

北海道の自立を目指した施策の展開

北海道開発庁長官 鈴木宗男 氏

鈴木宗男 すずき・むねお
衆議院議員(自由民主党・比例代表北海道ブロック・当選5回)
昭和23年1月北海道足寄郡足寄町生まれ
41年4月拓殖大学政経学部入学(在学中より衆議院議員中川一郎秘書)
52年11月農林水産大臣秘書官
55年7月科学技術庁長官秘書官
58年12月衆議院議員初当選
平成元年6月防衛政務次官
元年8月防衛政務次官再任
2年12月外務政務次官
5年6月防衛政務次官(三度目)
6年9月衆議院 沖縄及び北方問題に関する特別委員長
8年10月自由民主党 副幹事長(三度目)
9年9月国務大臣 北海道開発庁長官、沖縄開発庁長官
(現在)
財政構造改革の厳しい縛りの中で、新年度の政府予算が成立した。北海道の社会基盤整備に充てられる北海道開発予算は、長年の悲願だった1兆円の壁を越えた昨年に比べて9,266億円に止まったが、北海道開発庁の鈴木宗男長官は「それでも第6期計画の執行に必要な予算は、十分に確保できた」と胸を張る。景気低迷も極限状況に達している今日、北海道に必要なものは何か、公共事業は本当にムダなのか、新年度予算のポイント解説を含めて語ってもらった。
――財政構造改革が進められる中で、平成10年度北海道開発予算もやはり緊縮予算となったようですね
鈴木
初めて1兆円を超えた昨年度の当初予算と比較すると、793億円のマイナス、9,266億円という結果となりました。しかし、平成10年度は、第6期北海道総合開発計画のスタートの年です。この計画の理念は、国内外に開かれ、自立し、自然環境や資源を後世へ引き継ぎ、安全でゆとりのある北海道の実現を目指しています。このため、主要施策の積極的な展開を図ることが重要です。
確かに財政構造改革が進められており、財政は限られた厳しい状況にありますが、重要にして必要な予算は確保できたものと確信しています。
――編成に当たってのポイントはどこに置かれたのですか
鈴木
予算編成のポイントは、北海道の自立に向けた産業の振興、これを支える総合物流対策、地方都市の再開発と農山漁村地域の活性化と生活関連施策、北海道の美しさ、雄大さを引き継ぐ環境保全策や災害等に強い地域社会の形成にあります。
――そうしたポイントに基づき、具体的にはどんな事業が行われますか
鈴木
治水事業では、石狩川や十勝川など重要水系において、骨格的な治水施設の整備を図るほか、近年多発している中小河川の出水被害を防止するための改修を実施します。また、石狩川の北村地区では、地域特性に配慮し「水害に強いまちづくり」を幾春別川新水路事業を軸に進めます。さらに、市街化地域や宅地開発地域を流れる都市河川の治水対策は、まちづくりと一体となって進めます。
一方、地震等防災対策の促進としては、北海道南西沖地震で大きな被害を受けた後志と檜山沿岸において、津波災害に対処する河口部の高潮対策を実施するほか、低地盤地帯の堤防の耐震性を向上させます。
このほか、うるおいのある水辺空間の創出を図る「多自然型川づくり事業」をはじめ、「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」などを実施し、北海道らしい河川の自然特性や生物の生息環境に配慮しています。
ダム事業は、洪水防止をはじめ、住民生活に欠かせない都市用水や農業用水などの需要の増大に対処するため、多目的ダムなどの建設を実施しています。特に、都市用水の確保が早期に実現できるダムと生活再建対策中のダムの整備を重点的に実施することとし、滝里ダム、夕張シューパロダム、当別ダムを推進し、札内川ダムはいよいよ完成を迎えます。
砂防・治山事業は、特に駒ヶ岳、樽前山、十勝岳において、火山泥流対策を促進するほか、火山災害から人命を守るため、監視装置などソフト面の整備を駒ヶ岳などの活動的な火山において実施します。
――道路網整備では
鈴木
高速交通から地域交流に至る交通ネットワークを総合的・体系的に整備することで、多様な需要に対応し、機能的で魅力ある地域の実現を目指しています。特に、物流を効率化し、経済構造改革を支援するため、主要な港湾や空港とアクセスする高規格幹線道路などの整備を促進します。
北海道は、高規格幹線道路が5路線17区間で事業が実施されていますが、3月28日の「日高自動車道」に続き、4月11日には「深川留萌自動車道」が、一部ではありますが供用を開始することができました。7月頃には両路線ともさらに供用区間を延ばすことになります。
また、高速自動車国道に並行する一般国道自動車専用道路については、函館新道など既に事業が実施されている区間の整備を促進するほか、根室道路については事業着手に向けた環境アセスメントなどを行います。
さらに、地域の相互交流や交通拠点との連結を図るための道路ネットワークの軸となる「地域高規格道路」については、既に事業が実施されている道央圏連絡道路など4路線6区間で整備を促進します。
一方、一般国道については、拠点都市周辺における交通混雑の緩和や都市の環境保全を図るため、札幌市をはじめ、旭川市、釧路市などでバイパス事業を進めます。このほか、安全で確実な道路交通の確保を図るため、防災・震災対策事業を積極的に進めます。特に、229号において発生した豊浜トンネルと第2白糸トンネルの岩盤崩落を踏まえ、法面防災対策を積極的に促進します。
――物流をスムーズにし、その間口を広げる港湾や空港の整備も大事ですね
鈴木
そうです。四方を海に囲まれた北海道において、港湾・空港は生活必需品の安定的な供給を図るためにも必要不可欠なものの一つです。各産業の国際競争が激しくなるであろう21世紀に向けて、物流の拠点をなす港湾・空港の整備を促進します。物流の効率化と機能向上を図るため、外・内貿ターミナルなどの整備をはじめ、耐震強化岸壁の整備による防災対策も推進します。
特定重要港湾である苫小牧港は、国際海上コンテナターミナル関連の航路などを整備し、北海道における国際交流拠点としての発展を目指します。また、輸入物資の増大に伴う船舶の大型化に対応するため、多目的国際ターミナルとしての大型岸壁の整備を重要港湾である釧路港と函館港等で実施します。
このほか、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備を釧路港等で行います。
地方港湾は、地域開発の中核的な基盤であると同時に地域の生活基盤として、重要な役割を担っています。特に、奥尻島をはじめ、利尻島、礼文島などの離島においては、他の地域以上に住民生活に必要不可欠なものとなっています。このため、より使いやすい港湾の実現を目指し、岩内港や白老港、天塩港などで、港内の静穏度を高めるため、防波堤の整備などを実施するほか、近年における活魚等の需要の高まりに対応するため、えりも港や岩内港などで、活魚等の荷さばき、一時保管をする水中荷さばき場の整備を進めます。
また、留萌港や根室港などでは、地震が発生した際の緊急避難や物資の輸送路を確保するため、耐震強化岸壁の整備を促進し、奥尻港では津波対策にも配慮した防波堤の整備を進めます。地震時の災害には、津波のほか、岸壁における液状化があります。この対策を石狩湾新港で進めるほか、小樽港では完成を図ります。
一方、空港整備事業は、年々増大する航空需要に対応し、冬期間における航空機の安定運航を図るため、滑走路や航空保安施設整備などを実施します。新千歳空港においては、人流・物流の効率化を図る道路・エプロンなどの整備を重点的に進めます。また、滑走路の延長などを進めてきた函館、旭川、女満別、釧路空港の内、函館と旭川空港の事業を完成させます。さらに、航空機のジェット化を図るため進めてきた利尻空港の滑走路延長事業を完成させるほか、新紋別空港の建設を進めます。
――食料基地を自認する北海道にとっては、第一次産業の生産基盤強化も不可欠ですね
鈴木
国際化が進み、農産物の消費が多様化している今日、農業を取り巻く環境も、非常に厳しいものになっています。
しかし、日本における食料基地として、その機能の強化を図り、良質・安全かつ低廉な食料を生産・出荷するという、我が国にとって極めて重要な役割を担っています。また、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策を含めた事業を着実に推進し、実効性を確保することにより、生産の中核となる経営体の育成に努め、効率的な農業生産体制の整備を積極的に進めます。
農業生産の基盤整備は、水田地帯において、担い手への農地の集積をはじめ、ほ場の大区画化、土層改良による品質・生産性の向上を図ります。また、冷害に強く、安定的な生産を確保するため、「深水かんがい」などに対応するほ場条件や水利施設の整備を『国営かんがい排水事業』や『担い手育成型ほ場整備事業』などにより、積極的に促進します。
畑作・酪農地帯においては、畑作物の生産性の向上と低コスト化を図るため、離農跡地等の再編を実施するとともに、担い手への農地集積を促進する『担い手育成型畑地帯総合整備事業』や『国営農地再編整備事業』などを積極的に進めます。このほか、収益性の高い野菜を導入するなどの経営転換や経営複合化を実施するため、関連事業との調整を図りながら、畑地かんがいや農地排水にかかる基幹水利施設の整備を進め、事業効果の早期発現を図ります。
農村地帯の定住性を向上させるため、生活環境改善を図る農業集落排水事業を進めます。また、畜産環境問題に対処する家畜排泄物の処理施設や還元用草地の整備を行う『畜産環境総合整備事業』も進めます。このほか、農産物の流通を向上させるほか、大型化する農業機械の円滑な移動や農村における生活環境の向上に対応する農道の整備も進めます。
水産業関連では、本道の水産業を支える漁港の整備はもちろん、漁村の生活環境を向上させる事業も重点的に進めます。特に、国連海洋法条約に基づく新たな海洋秩序の下では、沿岸漁業などの振興の重要性が増大することになるため、沿岸域の管理上、重要となる漁港は重点的に整備を実施します。
また、北海道マリンビジョン21推進モデル構想策定事業を追直漁港や宇登呂漁港などで実施し、漁村地域の総合的な開発と活性化を目指します。
――公共事業が批判の的となっていますが、景気対策としての意義を見直す論調も見られ始めましたね
鈴木
公共事業は、我が国の国民生活を支える社会基盤を整備しているものです。生活水準の上昇に併せて、社会基盤の水準も上昇していかなければならず、安全で効率的な生活を支える重要な役割を果たしています。
我が国の社会基盤は、欧米諸国に比べ、かなり低い水準となっているのはご承知の通りですが、特に北海道は、我が国の中でも低くなっています。国土の均衡ある発展を目指し、昭和25年6月1日に北海道開発庁が設置されて以来、48年にわたり、北海道の社会基盤を整備してきましたが、まだまだ欧米諸国の水準はおろか、全国水準にも至っていない北海道の整備水準を上げていかなければならないという使命があります。
残念なことに最近は、公共事業だけでなく、その整備を担う建設業界までもが批判の対象となっています。社会基盤整備は、『国づくり』とも言えます。この『国づくり』を使命として進めているにもかかわらず、批判を受けているのは、非常に残念なことだと思います。
今日の経済情勢は、未曾有の不景気となっていますが、政府としてもできる限りの経済対策を実施していきます。社会基盤整備を担い、未来の日本をつくる建設業界の皆様には、是非とも現在の試練を乗り越え、誇りと自信を持って『国づくり』に邁進していただきたいと思います。

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