建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年6月号〉

interview

本道農業の体質強化に向けて道も全力投球

北海道農政部長 村本 進 氏

村本 進 むらもと・すすむ
昭和14年10月1日生まれ、厚田村出身、小樽緑陵高、山形大農学部農学科卒
昭和38年入庁
60年農務部農業対策室主幹
61年同農政課長補佐
62年同農業対策室参事
63年農政部農業企画室参事
平成元年同酪農畜産課長
3年同農政課長
5年同部次長
7年空知支庁長
9年現職
北海道の基幹産業といえば農業であり、その生産額は全国でもナンバー1を誇る。北海道米のレベルは本州ブランド米に決して劣らぬまでに向上し、花き・野菜なども大きく成長。経済界が提唱する産業クラスター構想では、その核となる産業として「農業」に熱い視線が注がれている。一方、農村は、ストレス社会を生きる都会人のオアシスとしても注目され、自然の中での営みにロマンを見出す風潮も見られ始めた。だが、産業として安定的な発展を遂げて行くには、まだまだ解決しなければならない課題もある。本道農業の舵取り役である北海道の村本農政部長に、今後の方向性と道の取組みなど語ってもらった。
――国では新しい基本法の制定に向けて検討を進めていますが、北海道としてはどう対応していきますか
村本
新しい基本法の制定は、国内における当面の大きな農政課題です。昨年4月に内閣総理大臣の諮問機関として「食料・農業・農村基本問題調査会」が設置され、12月にその「中間取りまとめ」が公表されました。その中では、「食料自給率を政策目標とすべきか」「株式会社の農地取得を認めるか」など数点について重要な論議を残していますが、今夏ごろまでには調査会の「最終答申」が出されることになっています。
この調査会の「最終答申」は、今後のわが国農政の基本的な方向性を示すもので、当然、本道の農業・農村の未来にも大きな影響を与えます。
道としては農業団体、経済界、消費者団体などとともに昨年11月に設置した「北海道農業・農村確立連絡会議」を中心に、引き続き本道の実情に沿った基本政策について検討を深め、本道の農業・農村の振興に向けて必要な事項を、関係機関・団体と―体になって、国や調査会に対して要請していきたいと考えています。
――北海道経済が極めて厳しい中で、広大な土地資源を持つ北海道は、スケールメリットの面ではどの他府県にも負けないものがあります。それを最も生かせる分野が農業であり、北海道の農業は大きな可能性を持っていると期待していますが、そのためにも解決すべき課題は
村本
そうですね。現在、北海道が置かれている状況は、国の財政構造改革に伴う公共投資予算の縮減,北海道開発庁の統合・再編の決定、さらには北海道拓殖銀行の経営破綻など、大変厳しいものがあり、これまでの本道の発展を支えてきた枠組みが大きく変容しています。
しかし、こうした厳しい現状を、むしろ北海道が地域的に自立する飛躍の第一歩であると受け止め、道では、本年を北海道の自主・自立化に向けた「北海道構造改革元年」と位置付け、変革の時代に立ち向かうべく取組みを進めることとしています。
こうした中で、本道の農業・農村の現状をみると、農家戸数の減少や後継者不足、就業者の高齢化など、生産構造の脆弱化や、過疎化の進行など、農村地域の活力の低下が大きな課題となっています。
また、米価の大幅な下落など農産物価格の低迷や輪入農産物との競合、産地間競争の激化、さらには環境問題や食品の安全性に対する関心の高まりなど、農業をめぐる情勢は厳しさを増すとともに、大きく変化しています。
こうした状況を踏まえ、道では昨年4月に、約2年間の検討を経て、全国で初めての「農業・農村振興条例」を制定しました。この条例は、本道の豊かな大地と美しい農村を道民全体の貴重な財産として育み、将来に引き継いでいくことを基本理念としたものです。この条例に基づいて、道としての取組み方向を明らかにした「北海道農業・農村振興推進計画」を昨年10月に策定したところです。
農政部としては、この推進計画を着実に推進するとともに、稲作・米生産調整対策など、当面の重要課題にも適切に対処しながら、本道農業の健全な発展と豊かで住み良い農村づくりに向けて、施策の積極的な推進に努めることとしています。
――北海道の農業は、わが国における食料供給基地として大きな役割を担うとともに、地域社会を支える基幹産業と言えますが、今後の展望についてはどう考えていますか
村本
農業や農村は、食料供給や就業の場の提供といった本来的な役割に加えて、国土や自然環境の保全、緑豊かな景観の維持、教育機能などの多面的な機能を有しています。
道が行った調査では、本道の農業・農村が持つ多面的機能の外部経済効果は、1兆2,581億円と、農業生産を上回る規模であるという試算結果が出ました。
また、本道においては、新たに道外や農業以外の職業から新規参入したいとする若い方々が大勢いますし、農業者自らがファームイン、ファームレストランや、農産加工、産直に取り組むなど、創意や工夫をこらした活動も各地で活発化してきています。
さらに、経済界が中心となって、北海道が競争優位を持つ産業を核に、多様な産業群を育て、本道経済の自立化を図っていこうという「産業クラスター」構想が推進されていますが、その核となる産業として、農業に対する期待が高まっています。
本道の存立基盤をより確かなものとし、北海道の未来を切り開いていくためには、農業とその関連産業の健全な発展こそが、その基本となるものと考えています。
「本道の農業・農村を道民全体の貴重な財産として育み、将来に引き継いでいく」という条例の基本理念を実現させ、北海道の農業・農村の持つ大きな発展の可能性をしっかりと花開かせることが、我々の責務だと思っています。
――10年度の予算編成の基本的な考え方は
村本
本年度の予算編成に当たっては、「北海道農業・農村振興推進計画」の着実な推進を基本において、各般の施策を措置したところです。
農政部関係の予算総額は2,680億円で、国の予算状況や制度改正などの影響により減額となったものの、道の一般財源については、前年並みの817億円を確保しました。
特に、当面する重点課題である「稲作・米生産調整対策」「農業と関連産業との連携強化」「農産物の流通対策」「畜産環境の保全」などについて、施策の―層の拡充を図るとともに、関係者の皆様と連携を図りながら、全力をあげてその積極的な推進に努めていきます。
――そのうち、稲作・米生産調整には具体的にどう対処しますか
村本
米価の大幅な下落と販売競争の激化、さらには生産調整面積の拡大など、本道の稲作を取り巻く環境は、かつてない厳しい状況にあります。
こうした中で、産地間競争に打ち勝つ商品性の高い米づくりを進めることや、転作の定着化による安定した複合経営を育成することが重要となっています。
このため、10年度予算においては、国の施策を効果的に活用することに加え、生産から販売にいたる北海道米の競争力の強化や、地域の特色を活かした水田農業の確立を図ることを目的に総額約15億円という、前年度比で5割増の道独自の対策を措置し、取組みを進めることにしています。
――先に産業クラスター構想についてのお話しがありましたが、農業と関連産業との連携強化についてはどう考えていますか
村本
本道における農業は、生産資材や農業機械、加工・流通などの関連産業と密接なつながりを持っており、地域経済を支える基幹産業として重要な位置を占めています。
道としても、農業と関連産業が共同して取り組む新技術開発や民間のノウハウを活用した商品づくりなどに対し支援を行うなど、農業と関連産業の連携による新しい「ビジネス起こし」に積極的に取り組み、新しい可能性の芽を育てていきたいと思っています。
――北海道の農産物の販売力の強化や流通対策にはどう取り組みますか
村本
食糧法の施行や輸入農産物の増加などにより、産地間競走が激化している中で、本道農業の発展を図るためには、道産農畜産物の一層の需要拡大を図ることが重要となっています。
昨年8月に、道と農業団体、経済団体、消費者団体などによる「北の大地のめぐみ愛食会議」を発足し、できる限り道内・地域で生産されたものを食べようという「愛食運動」を進めています。
10年度には、さらに取り組みを強化し、関係者の皆さんと連携を図りながら、全道、支庁段階で積極的に展開していきます。
また、本道では、広大な農地や冷涼な気候を活かし、クリーン農業の取組みを進めていますが、近年の有機農産物に対する需要の高まりなどに対応して、有機農産物の認証制度の創設に向けた検討を始めます。
――最近は環境の保全があらゆる分野に求められるようになりましたが、畜産業に関連する環境問題にどう対処しますか
村本
酪農・畜産は、本道農業の重要な柱として発展してきましたが、その一方で、飼養頭数規模の拡大により、家畜ふん尿の適切な処理・利用が緊急の課題となっています。
このため、家畜ふん尿による水質汚濁など畜産経営に起因する環境汚染の防止とふん尿の有効活用を促進するため、道単独施策である「畜産クリーンアップ促進事業」の予算枠を大幅に拡充するとともに、地域段階における指導活動の強化を図っていきます。
――生産基盤の強化は生産性向上に欠かせず、生産者の生活環境の整備も大きな課題であるので、農業農村整備事業の推進も重要ですね
村本
財政構造改革の推進に伴い、国の公共投資予算の縮減とur関連対策の見直しにより、農業農村整備事業予算の北海道補助分は前年比86.9%と極めて厳しい結果となりました。
しかし、農家の皆さんからの要望が強い21世紀農地パワーアップ関連事業については、重点的な配分に努め、前年比93.8%を確保しました。
体質の強い地域農業を確立する上で、土地基盤の整備はその基本となるものであり、地元の意向に十分配慮しながら計画的・効率的な実施に努めるとともに、今後とも必要な予算の確保に全力を上げていきたいと思います。
また、限られた財源を有効に活用し、農業農村整備事業を一層効率的に推進していくためには、建設工事のコスト縮減に計画的に取り組んでいくことが必要であり、コスト縮減事例の収集や、開発・改良の対象となる技術の選定など、具体的な検討を進めていくことにしています。

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