建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年5〜6月号〉

interview

北の理想都市サッポロの実現に向けて

札幌市長 桂 信雄 氏

桂 信雄 かつら・のぶお

昭和5年生まれ、札幌市出身、北大法経卒。
昭和28年市役所入庁
47年北区長
50年企画調整局長
54年教育長
58年助役
平成3年4月札幌市長に初当選
7年4月2選を果たす

北の理想都市・サッポロを目指す桂信雄市長も、2期目の仕上げに入っている。財政状況が厳しい情勢にあるため、その舵取はなかなか難しいものがあるが、新しい長期総合計画の策定に入り、桂カラーは鮮明になりつつある。財政上の制約と戦いながら、低迷する景気への対策と独自のまちづくりの理念をどう実現するのか。桂市長にその戦略を伺った。
――「北の理想都市サッポロ」を初当選以来のまちづくりの理念としてきましたが、財政健全化の取り組みが壁となっているのでは
必ずしもそうとは言えません。最近は、地方分権の流れがあり、地方自治体が自らの責任において自立、活性化を図っていかなければならなくなりつつあります。そうした情勢下にあって、確かに定数削減などを具体的な目標値に基づいて行う「行財政改革推進計画」を確実に進めなければなりませんが、一方では「北の理想都市サッポロ」を実現させる新規の長期総合計画の策定も着実に進めています。
――問題は、それを裏付ける財政の動向がどうなっていくかという点になると思いますが、10年度の予算はどのように編成されましたか
確かに財政状況は厳しい見通しで、10年度も市税などの一般財源の伸びは低いものになると思われます。一方、市債の償還はこれから本格化してきます。にもかかわらず社会は高齢化が進行し、財政需要はさらに増えることになりますから、より一層、効率的な行財政運営に努めなければなりません。
10年度予算は、一般会計では8,473億円で、前年度比は1.3%、特別会計は3,364億円で0.8%、企業会計は3,369億円で▲2.7%の伸びに止まりましたが、普通建設事業に係る単独事業については、縮減率の緩和を図るとともに、福祉・保健医療施策の充実など、財源の重点的配分に意を用いたところです。
具体的には、経済動向を踏まえつつ地域経済対策や中長期的な市債残高を注視しながら、政策には6本の柱を立て、それに基づく施策に財源の重点的な配分を行いました。
――どのような政策体系と施策が予定されていますか
私は「自然と調和するさわやかなまちサッポロ」を提唱し、理念のひとつとしています。最近は、地球環境保全が国際的に重視され、その対策の重要さが強調されています。
そのため、フロン回収の推進や、ダイオキシンの測定調査など積極的に環境保全推進事業を展開するとともに、新たなごみ処理体制の確立を図るなど、リサイクル社会の構築を一層推進します。
特に、今年度は、ビン、缶及びペットボトルの分別収集を10月から本格化すると同時に、ごみ処理体制の充実に向けて第5清掃工場の建設を進めています。また、発寒破砕工場も重要な拠点で、10月にいよいよ稼働できる見込みです。
これと同時に、都市緑化の推進も重要です。75ヶ所の公園造成をはじめ、川下公園には温泉を利用した健康施設もつくります。
水道事業としては、第3次施設整備計画の3年目を迎えましたが、災害に強いより信頼性の高いシステムを目指して施設整備を進めたいと思います。
――緊急時といえば、阪神・淡路大震災以降、時間の経過とともに防災意識が薄れつつあるのではという指摘も聞かれますね
防災対策は、その時だけ万全なら良いというものではありません。私は「ともに支えあうあたたかなまちサッポロ」をスローガンに、手抜かりのない防災対策に努めています。
地域防災計画はもとより、地区別の防災カルテをつくり、地域住民による自主的な防災活動を支援できるものにしたいと考えています。ハード面でも公共施設や道路、橋梁、地下鉄などの耐震強化をはかることも重要です。このため、10年度の防災関連予算は、全会計あわせて63%も増加させました。
――昨年には、本格的な音楽ホール「キタラ」が完成しました。これをステップに、市民の文化レベルも相乗的にレベルアップしていくのでは
そうですね。私は「市民の個性が輝くまちサッポロ」を目指していますが、音楽ホールは自慢できる施設です。本格的な最高級のパイプオルガンとともに、プロの専属のオルガン奏者にも来ていただきました。もちろん施設的にも、優れた音響効果の得られるホールとなっています。
市民の文化・芸術は音楽だけではありません。芸術文化都市・札幌のシンボルとしては芸術の森があります。第3期整備事業として、現在、野外美術館を拡充しています。
――長野五輪やパラリンピックでの日本選手の活躍は、大いに活気と勇気を与えてくれるものとなりました。札幌市では、そうしたスポーツのフィールドともなるべき札幌ドームの完成が待たれていますが 
札幌ドームは、いよいよ今年着工となります。「2002年のワールドカップサッカー開催に向けて」という当面の目標もありますが、私は、札幌市のスポーツイベント施設の核として、プロ野球などにも対応できるものにしたいと考えています。
また、オリンピックといえば、かつて札幌五輪で活躍の舞台となった大倉山ジャンプ台も、忘れるわけにはいきません。ここでは現在、市民の利用に結びつくような、また、観光拠点として魅力を高めるよう再整備事業に着手しています。具体的には、まだ仮称ですがウィンタースポーツミュージアムなどの建設に着手する予定です。
――ところで、市民の個性とはいうものの、次代を担う子どもたちの様子が最近は妙です。陰湿で粗暴な犯罪のニュースが後を絶たず、建設的な個性とは全く異なる方向へ特化しているようにも思われます。心理学的なアプローチももちろんですが、施設的なアプローチも必要なのでは
確かに驚愕すべきニュースが多く、憂うべき事態です。私自身もかつては教育長を経験しているので、私なりの持論もありますが、「良好な教育環境の整備」に尽きるでしょう。
そのため、今年度は、中学校1校を新築し、旭丘高校の改築基本設計、学校プールや格技場の計画的な整備を行うほか、相談体制の充実などにも力を入れていきたいと考えています。
――高齢化社会を迎えつつある中で、札幌市民は比較的生涯教育に熱心だと聞きましたが
文化教室のようなものばかりでなく、コンピュータについて習得したいという要望や、また職業的技術を求める声もあり、市民の要望は多様化しています。
したがって、市民のそうした自主的で主体的な学習活動を行うための全市的な拠点施設を設けようと思います。構想では生涯学習センター、新青少年センター、リサイクルプラザ、そして教育研究所らによる複合施設となっており、10年度から着工します。
――最近の厳しい経済情勢には、絶望的な観測も聞かれ、様々な分野において外圧も高まっています。特に、諸外国への市場開放などは、時代の要請であり趨勢でもあるのでしょうが、それに伴い経済界には将来への不安があります。市としてはどんな景気対策を行う考えですか
経済情勢が厳しいのは事実ですが、まず、企業経営の安定を図らなければなりません。そのために、私は「未来へはばたく活力あふれるまちサッポロ」と銘打って、市としてできる限りの対策を打つ考えです。
そこで、景気の影響を受けやすい中小企業の経営安定化を図るため、中小企業金融対策資金貸付を、前年度当初予算よりも46億円増やし、融資枠は約86億円を増加するとともに、融資期間を延長し、融資限度額を引き上げるなど、融資条件を大幅に緩和することにしました。
一方、新しい産業分野の開拓も必要です。第3次産業の比率が高い札幌の経済構造に相応しい、いわば「新札幌型産業」を起こすため、産学官の連携を促進するモデル事業として、北海道大学に技術開発の基礎研究を委託することにしました。
――これまで財政政策は、構造改革を取るか、景気対策を取るかの二者択一の中で、どちらかといえば構造改革に主軸が置かれていましたが、アメリカを中心に諸外国からの要請もあって、景気対策へとシフトが移ってきました。その景気対策の一つとして行われる公共事業については、どんな施策を考えていますか
当初予算では、公共事業における補助事業の割合が大きく減少しています。これを考慮して、市の単独事業の確保に努めたいと思います。
また、既存の施設の修繕、改修などの少額工事についても、なるべく積極的に予算化して前年度より増額させるよう努めています。
――どんな建設事業に着手しますか
「世界と結ぶ心ときめくまちサッポロ」の実現に向けて、国際都市・札幌の玄関口にふさわしい風格ある都市空間をつくりたいと考えており、そこで今年度は、jr札幌駅南口駅前広場の造成工事にいよいよ着手します。
また、留学生の受入促進と市民との交流促進のための拠点として、留学生交流センターの整備にもとりかかります。
交通機関では、11年3月の開業を目指し、現在進めている地下鉄東西線延長工事や宮の沢駅のバスターミナル、連絡公共通路の建設を継続します。
なお、交通事業会計の健全化も着実に推進するため、一般会計から交通事業会計に3億1,500万円、高速電車事業会計に97億円を繰り入れます。
一方、地域コミュニティーの形成を促すため、菊水元町地区と東月寒地区に地区センターを建設し、既存の八軒連絡所・地区会館は健康づくりセンターとの複合施設として改築することにしています。
現在、南区内で、札幌市としては初めてのトンネルを整備しています。八剣山トンネルで、国道230号線のバイパスとなります。重要路線である市道砥山豊平川沿線と豊滝砥山連絡線は、2カ所が不通区間となっているため、八剣山を760メートル掘削してトンネルを通すことにしました。このトンネルは、国道の渋滞対策と同時に、災害対策としても重要です。
――初めてのトンネルとなると、技術的な課題もあるのでは
その心配はありません。すでに地下鉄トンネルや河川トンネルを施工した経験と実績があります。
私としては、そうした技術力を活かして、自然の豊かな現地の環境に違和感が生じないよう、安全、快適、そして景観と調和したトンネルを造る方針です。
――住宅対策は、景気対策にもなる重要な施策と考えますが、市営住宅に関して進めている新たな施策は何かありますか
今年度は新たに借上市営住宅制度を導入します。
これは一定の整備基準に適合する住宅を建設する事業者を認定し、建設費の一部を助成して市営住宅と同じ入居基準と家賃を設定するものです。
これによって、入居者は従来の市営住宅と同じく低廉な家賃で、交通の利便性の高い所に入居できるし、一方、土地所有者にとっては建設費の補助のみならず、入居者の募集や管理など経営にともなう煩雑な手間が省け、空き家の心配もなく経営が安定します。そして、遊休地の有効活用と良質の資産づくりもできます。また、市営住宅の建設についても、今年度は120億円の予算を計上しており、西宮の沢、美しが丘などに新規349戸、北郷、平岡3条など継続分497戸を予定しています。
――最後になりますが、21世紀の到来を目前に控え、少子高齢化の急激な進展、地球環境問題への関心の高まり、更には中央省庁再編の動きや財政構造改革の推進など、我が国の政治、経済、社会は大きな転換期のさなかにあると思います。また本格的な地方分権の時代を迎え、これからは地方自らの責任の下でその自立、活性化を図っていくことが求められています。市長の今後の取組について伺います
ご指摘のあった状況に的確に対応するため、本市では、21世紀のまちづくりの指針となる新たな長期総合計画の策定を進める一方、冒頭にも少しお話ししましたが、これまでの「事業再評価プログラム」の取り組みなどを基礎として、新たに、職員数などについての数値目標を掲げる「行財政改革推進計画」を策定いたしました。
今後は、これに基づき更なる改革を進め、一層効率的な行財政運営に努めると同時に、現行の第3次5年計画を着実に推進することにより、市民一人ひとりが将来に夢や希望を抱きながら、愛着を持って暮らすことができる「北の理想都市サッポロ」の実現に向けて努力していきます。

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