建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年6〜7月号〉

interview

世界の国際交流センターを目指す

岐阜県知事 梶原 拓 氏

梶原 拓 かじわら・たく
昭和8年11月14日岐阜県生まれ、京都大学法学部卒
昭和31年4月建設省入省(道路局路政課)
38年10月福島県厚生部婦人児童課長
45年5月 鳥取県企画部次長
49年4月 建設省計画局宅地企画室長
50年7月 建設省計画局公共用地課長
51年6月 建設省計画局宅地開発課長
52年5月 岐阜県企画部長
54年7月 建設省道路局道路総務課長
56年6月 建設大臣官房会計課長
57年6月 建設省道路局次長
59年6月 建設省都市局長
60年4月 岐阜県副知事
平成元年2月岐阜県知事就任(現在3期目)
【役職】
全国知事会建設運輸調査委員会委員長
日本下水道事業団評議委員会委員長
社会資本整備推進地方連合座長
地方の拠点まちづくり協議会会長
ハイビジョン・ミュージアム推進協議会会長
インテリジェント・シティ整備推進協議会総合委員会委員長
東京工業大学工学部非常勤講師
岐阜県庁に梶原拓知事を訪ねた。梶原知事は岐阜県出身で京都大学法学部から建設省に入り、大臣官房会計課長、道路局次長、都市局長を歴任。岐阜県副知事から平成元年、知事に初当選し現在3期目。日本の真ん中に位置している立地条件を生かして首都機能の岐阜移転を訴えているほか、東京からの自主・自立の下、独自の海外戦略で県政に新風をもたらすなどユニークな地方政治を展開している。

リニア中央新幹線の実現で東京、大阪へ30分

――岐阜県が目指す将来像と地域的な特性からお伺いしたい。
梶原
岐阜県は、経緯度において日本の最中心部に位置していることが大きな特徴だと思います。中部9県においても真ん中で、人口重心という計算方法に基づけば、岐阜は日本の総人口の重心でもあります。岐阜県の長良川上流にある美並村に、日本に住んでいる人の総重量を一点で支えられる地点として人口重心碑が建てられています。歴史的にも縄文土器の東西の紋様がここで交錯しています。関西弁と関東弁の接点でもあり、畳も京間と江戸間が入り交じっているなど、東西文化の交流点になっています。『美濃を制する者は天下を制する』といわれたように、岐阜県は古くから東西交通・軍事の要衝になっていて、慶長5年(1600年)に天下分け目の関ケ原の合戦が行われました。
このように東西の接点として、その役割を果たすことが要求されていますが、残念ながら交通の条件が悪く、明治以来、その役割を果たしていないのが現状です。鉄道や自動車交通の時代になりましたが、中心にありながら陸の孤島のような存在になっています。
――それほどの要素がありながら整備が遅れた原因は
梶原
岐阜県は、ほとんどが山と川で構成された地形なのです。しかし最近では、ようやく高速道路が出来つつあり、すでに長野県、福井県とは中部縦貫道で結ばれています。福井方面では来年、油坂峠部が開通します。東海環状自動車道も建設が進められており、愛知県と滋賀県に結ばれます。
富山県との間には現在、東海北陸縦貫道が建設されています。これは名神高速道路の一宮ジャンクションを起点に、中部南北を貫き、小矢部市で北陸自動車道と接続する約185キロの高速道路です。すでに一宮木曽川から白鳥までは営業中で、現在は白鳥から合掌づくりで有名な白川郷のある白川までの約100キロが建設中です。
一方、全国総合開発計画に基づき21世紀早期完成をめざすリニア中央新幹線は本県の東部を通りますが、ここに駅が出来ると、東京と大阪へはそれぞれ30分で結ばれます。
このように、日本の中心地として東西交流や、日本海と太平洋との交流の接点としての役割を果たすべきだと考えています。そのために重要なのが、首都機能の移転という課題です。リニア中央新幹線が通過する地域周辺は、首都機能の移転には最も適切な地域です。
――それが東濃(とうのう)という地域なのですね
梶原
『東京から東濃へ』というキャッチフレーズで運動を展開しています。
国土庁が新しい全国総合開発計画で提唱する、4つの国土軸の接点はこの地域に当たります。しかし、その接点で何をするのかは、全総の中では提示されていません。
そこでわれわれとしては、新しい首都機能を移転して東西南北の交流センターにし、中部新国際空港も出来るのですから、さらには地球的規模の東西交流センターに発展させていこうと訴えています。特に大阪や福岡に近く、日本海地域に近接していますから、アジアとの交流センターとしても考えていかなければなりません。
今までは交通問題が隘路になっていましたから、日本の中心地という地の利を十分に生かすことができませんでしたが、空、陸の交通網が整備されれば、大きな意味で東西南北の交流センターとしての役割を果たしていけると考えています。
――県内においては、どんな基盤整備を行っていますか
梶原
県道整備においては、高速道路を幹に「県土1時間交通圏構想」、「高速icアクセス30分交通構想」、「地域中心都市30分交通構想」という3つの構想に準じて進めています。県民を対象にした世論調査では、道路整備に関する意見、要望が36パーセントも占めていました。
ただし、道路整備は単に交通網として整備するだけでなく、私は歩行者、自転車に対する「安全への配慮」、高齢者、身体障害者に対する「福祉のまちづくりの配慮」、構造物のデザイン、都市景観との調和、歴史性を損なわないための「文化性への配慮」、花や緑のみちづくりや、道の駅を多用した「やすらぎへの配慮」を重視したいと考えています。
もちろん広域農道や大規模林道などの産業道路も、これは産業振興には欠かせません。
治水については、氾濫などの災害に対する安全性はもちろんですが、それだけではなく日本一の清流を目指したり、元気な地域づくりに役立つ整備を行いたいと考えています。先の世論調査で、河川整備で力を入れるべきこととして県民が第1位に挙げたのは「雑草やゴミのない川」でした。続いて、「水質保全」、「氾濫防止」という順でした。
――長良川河口堰は、かなり論議の的となりましたね
梶原
岐阜市より下流の長良川は、水位が居住地よりも高いため、地域住民は常に洪水の危険にさらされていました。このため、その対策としては川底を大規模に掘り下げる浚渫の必要があったのです。
しかし、それによって塩水が上流に流れ込んで地下水や田畑に浸透する可能性もありました。それによる塩害を防ぐためには河口堰が必要なのです。
――県内は山間部が多いので、ダム建設も盛んなようですね
梶原
水資源公団が徳山ダムを建設していますが、県としても5つのダム建設に着手しています。このうち、丹生川ダム、内ヶ谷ダム、大ヶ洞ダムは建設中で、大島ダム、中野方ダムは調査に入っています。
ダム建設にともない水没する地域の住民には、生活再建のためにも貯水池周辺の整備を行い活性化を図っています。

昨年は海外6か国と提携

――そうした県内基盤を整える一方で、諸外国との交流センターとしての下地は、どのくらいできていますか
梶原
岐阜県の経済力を国際比較すると、シンガポールやマレーシアと同じくらいです。つまり、国連に加盟している一国に匹敵する実力を十分に兼ね備えています。ですからいつまでも東京にぶら下がるという形ではなく、自主・自立の精神で国際社会の中でも一つの役割を果たしていくことが必要だと考えています。
岐阜県は草の根国際交流を頻繁に行っていますが、最近は海外直結戦略の方針を打ち出し、昨年にはイタリア、ハンガリー、韓国、インド、イスラエル、台湾の6か国を訪問してきました。
イタリアとはデザイン分野で提携することになり、ハンガリーとはブタペスト工科大学とハイテク分野での提携をしました。韓国とはソウルに政府の肝入りでマルチメディアの振興センターが完成し、テープカットに招かれました。こことも提携の約束をしてきました。インドでは「インド・日本ソフトウェアリサーチコミティー」と正式に協定調印を行いました。岐阜県大垣市にある『ソフトピアジャパン』(ソフトウェアの研究開発拠点)にブランチを設けています。
台湾とは観光の交流促進について話し合ってきました。イスラエルは今年で建国50周年を迎えましたが、日本の知事として公式訪問したのは私が初めてです。現地のテクニオン工科大学などとの提携について、近く専門家のチームを派遣します。
今年5月にはニュージランド、オセアニア地域を訪問します。行財政改革について研究する予定ですが、このほか情報産業の関係で提携の話し合いを持つことにしています。今秋には世界ソフトウェア会議をスタートさせたいと考えています。準備委員会になりますが。いままでお付き合いしてきたソフトウェア開発拠点のネットワークをつくり、県の『ソフトピアジャパン』がハブステーションになろうということで、すでにアメリカのシリコンバレー、ユタ州、ウエストバージニア州などと提携し、県の職員も各1名ずつ派遣しています。世界と直結して自主・自立の精神で新しい産業おこしに取り組んでいるところです。

情報化社会の先端を行く『ソフトピアジャパン』

――情報化戦略においては、先進的な取り組みをしていますね
梶原
日本全体が情報化に大きく立ち遅れており、世界はもちろん、アジアの中でも軽く見られてしまう傾向にありますから、せめて岐阜県だけでも頑張っていこうと思っています。
『ソフトピアジャパン』は全国の教員、自治体職員、中小企業向けのマルチメディア研修事業を昨年から実施しています。
しかし、本来こうした事業は自治体が自腹を切るのではなく、国が取り組むべきことだと思うのです。そのため私は、政府の肝入りで全国のマルチメディア専門研修センターのようなものを、県内に設置するように郵政省などに要請しています。
護送船団でいつまでも東京司令塔のもとで幼稚園の遠足のように手をつないでいく時代ではありません。

人が集まる魅力づくりが重要

――一方、県内の街づくりにも独自の考え方があると思います。物流を促す交通体系や道路整備をはじめ、地域の基盤整備はどこにポイントを置いていますか
梶原
私は、情報化社会は工業化社会とは違うと考えています。基本的には交通条件を良くしなければなりません。モノの輸送というよりは人の交流の観点から、交通の利便性が必要になります。
情報化社会は、マルチメディアやコンピュータ通信ネットワークなども重要ですが、同時に人と人との交流が新しい価値を創造していく基になりますから、フェイス・トゥ・フェイスの人の交流が最も重要になるのが情報化社会です。
ただし、交通のみがいかに便利になっても、人が集まってくる魅力をつくらなければ意味はありません。

総延長2千kmの花街道

――確かに、地域に魅力がなければ、人は集まりません。岐阜県では、どのように地域の魅力を創出または向上させようとしていますか
梶原
一つは自然の美しさをアピールすることが大事です。そしてその付加価値を高めるため、私たちは『花の都・ぎふ』をキャッチフレーズに現在、14の花街道を整備しています。21世紀初頭には総延長が 2千キロになります。そうした付加価値を付けた自然の美を大切にしたい。
二つ目は、飛騨や美濃の伝統文化や人情を守ることです。ここは地歌舞伎が盛んな土地柄でして、27団体が伝統歌舞伎を継承しており、7の劇場型舞台が残っています。
三つ目は、新しい娯楽性も必要と考え、多治見市に国際陶磁器テーマパークを計画しており、隣の可児市には日本一のバラ園を誇る花フェスタ記念公園があります。美濃加茂市には「平成記念緑のふれ愛広場(仮称)」として、昭和期の日本村を造る計画です。木曽川中央の川島町には、東海北陸自動車道のハイウェイオアシスが出来ますので、ここに世界淡水魚園(仮称)を計画しています。建設省が自然共生研究センターを建設しており、県としても水産試験場を設置する計画ですので、一帯を河川環境楽園にしたいと考えています。
下呂温泉に国際健康保養地
また、岐阜は温泉天国としても知られています。下呂温泉を中心に国際健康保養地づくりを進めています。楽しみながら健康法を学び実践するという世界でも類例のない施設を目指して、現在、用地買収に取り組んでいるところです。
飛騨高山では世界民俗文化センター(仮称)を建設中です。世界の民俗文化を保存し育成していく拠点にしたいと思っています。養老公園には前衛作家によるテーマパーク・養老天命反転地があり、大勢の観光客で賑っています。
このように、オンリーワン型の魅力のある拠点づくりをしなければ、単なる自然景観だけでは集客力にはなりません。

核融合科学研究所が完成

四つ目は、研究開発拠点の整備です。その代表的なものとして、土岐市に核融合科学研究所が完成し、この4月から実験を始めました。これが成功すれば海水に無限にある水素から発電が可能になりますので、エネルギー問題は一挙に解決することになるでしょう。
そのほか東濃地域には日本無重量総合研究所、超高温材料研究センターなど極限環境を研究する拠点があり、また飛騨地域には東大の宇宙線研究所もあり、研究開発自体が一つの魅力にもなっています。
――生活インフラ整備は進んでいますか
梶原
既存道路の改良率や、下水道普及率は全国平均を下回っているのが現状です。まだまだ社会資本の整備が必要です。特に公共下水道などは、平成7年の時点で36パーセントの普及率でしかないのです。
道路にしろ下水道にしろ、経済効率だけを整備の基準にしたのでは駄目です。道路などは「生存権保障道路」と呼んでいますが、憲法第25条に「すべて国民は健康で文化的な生活が保障される」と明記されているのですから、集積度や経済性に関係なく、万人が平等に道路の恩恵を受ける権利は保障されるべきです。
ところが、実際は経済効率中心で公共投資も大都市中心にシフトしていますから、過疎地域は取り残されてさらに過疎になる悪循環になっています。地方は大切な山や川を守っているにも拘らず、下流部の大都市の人々はそのことを忘れてしまっています。だから私は、あえてここで憲法第25条を持ち出して、憲法は9条だけではない、25条に生存権保障規定があること、経済効率だけではないのだということを真剣に訴えているところです。

地方の実態知らない『公共事業叩き』

――その意味では、近年、異常な盛り上がりを見せている土木や建築など公共事業に対する批判には少なからず反論もあるのでは
梶原
地域によって事情は異なります。その一つが公共事業です。公共事業に求められるものは本来、経済性より公共性なのです。それを戦後、経済万能主義の下で忘れてしまったのです。公共事業は公共の論理に基づいて社会的公正を実現することです。所得の再配分、資源の再配分の機能があることを忘れてしまい、建設省さえも経済官庁を志した時期がありました。
これはまずいと私は思い、そこで全国各地域の社会資本整備途上の自治体が連携し、地方での重点的な社会資本整備と、その財源確保に向けて全国的な運動を展開するため、昨年10月、 38道府県で『社会資本整備推進地方連合』を設立しました。提言者の私が座長を務めています。
東京の一部有識者は、地方における公共事業叩きに走っていますが、最近は全国一律のステレオタイプの発想で切って捨てる風潮が横行しています。こういう論調を流布する者を、私は地方の実態を知らない『東京タコツボ族』と呼んでいます。地方には地方なりに状況の差がありますから、金太郎飴のごとく一律に一刀両断の下に日本列島を切り捨てるわけにいきません。
余談ですが、政府が景気対策を誤ったのは、バブル崩壊後の引き締め策をそのままにして「行革、行革」と騒いだ東京タコツボ族の責任です。これによって巨大なロスを生んでしまったのです。東京タコツボ族に振り回されている政府も誠に情けない。
――行革や地方分権が論議されていますが、主張したいこともいろいろとあるのでは
梶原
そうですね(苦笑)、明治維新はいわゆる中央集権革命でしたが、平成維新は地方分権革命にしなければなりません。川に例えるならば「市町村は上流、都道府県は中流、国は下流」にあるべきです。巨大な権力を一点に集中するのは腐敗の元です。最近になって不祥事が頻発している原因も、突き詰めればそこにあります。
これを根本的に是正するためにも、首都機能移転や地方分権が必要です。私は今年から連邦制を主張しています。東海4県だけでカナダ、スペイン並みの経済力があり、これは世界で10番目の水準です。中部9県を合わせるならイタリア、中国並みになりますから、世界で7番目の経済力に匹敵するわけです。つまり世界に独立して出ていってもやっていけるということです。したがって、連邦制は案外に早く実現するのではないでしょうか。各州で善政競争をしたらいい。税金の使われ方も見やすくなるでしょう。それが大衆の声です。

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