建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1997年5月号〉

interview

北海道と沖縄の開発の必要性について理解を

食料基地などとしての基盤整備が必要な北海道産業振興のための生活・産業基盤整備が必要な沖縄

北海道開発庁長官 沖縄開発庁長官 稲垣実男 氏

稲垣 実男 いながき・じつお

昭和3年3月28日生まれ、愛知県幡豆郡出身、早稲田大学第二政経学部卒。
  51年衆議院議員初当選
  57年11月厚生政務次官(〜58年12月)
  62年11月衆議院社会労働常任委員会委員長(〜63年12月)
平成元年8月衆議院災害対策特別委員会委員長(〜2年1月)
  5年8月衆議院決算常任委員会委員長(〜6年9月)
  8年11月現職
(政党職)
昭和56年12月自民党広報委員会副委員長(〜57年11月)
  59年5月自民党政調社会部会部会長<三期>(〜61年7月)
平成元年10月自民党全国組織委員会副委員長(〜2年3月)
  7年10月自民党高齢者に関する特別委員会委員長
8年1月政調副会長

北海道開発庁、沖縄開発庁はこれまで何度も統廃合論議にさらされ、その都度、開発の必要性などを訴えてきた。だが、行政改革は今や政府にとって必須の政策課題で、公共投資に対する批判とも相まって、本州世論では開発事業そのものも批判の対象となっている。沖縄は米軍基地問題、劣化ウラン弾誤射問題などで、全国の関心と理解が深まっているが、本州世論に比較的鈍感な北海道民への風当たりはいつになく厳しい。とはいえ、北海道開発予算は、史上初めて1兆円を超えた。また沖縄県でも、米軍基地移転後の開発という大テーマが残されており、まだまだ北海道も沖縄県も独自の政策官庁は必要だ。そこで、昨年11月7日に発足した第二次橋本内閣において北海道開発庁、沖縄開発庁長官に就任した稲垣実男氏(比例代表区:東海ブロック選出)に、両庁の存在意義と開発・振興政策の重要性などについて語ってもらった。
――国民の間で最も注目されている政策のひとつに行政改革があります。これまでにも北海道開発庁、沖縄開発庁を国土庁に統合するなどの案が論議されたことがあります。最近になって行革機運が盛り上がりはじめてからは、再びそのあり方が問われています。これについて、どう考えますか
稲垣
北海道開発庁、沖縄開発庁は、とかく「タテ割り行政」と批判される各省庁の枠を越えた行政をそれぞれの地域の実状に即しつつ、総合的、効率的に進めている合理的な官庁です。したがって、社会資本の整備を総合的、効率的に進める上で両庁が果たしている役割は非常に大きいものです。
また、北海道は、国土の22%を占める広大で美しい空間に恵まれており、わが国の食料基地であるだけでなく、国土の均衡ある発展や、豊かで質の高い生活空間の実現を図る上で、大きな可能性に富んだ地域です。このようにわが国の長期的な発展に貢献する地域である北海道の総合的な開発を進めることは、非常に重要な意義を持っています。
沖縄は、苛烈な戦禍と長年にわたる本土との隔絶、広大な米軍施設・区域の存在など、本土にはない特殊事情があります。
3次にわたる沖縄振興開発計画の実施を通じて、施設整備の面を中心に本土との格差は次第に縮小されるなど、沖縄の経済社会は総体として着実に発展してきました。しかし、生活・産業基盤の面では、まだまだ整備を要するものが多く見られます。たとえば、地元の学校を卒業した若者たちは、就労の場がないためにやむなく県外へ出なければならないという状況で、早急に有効策を講ずる必要に迫られています。
このように、産業振興や雇用の問題など、沖縄にもなお解決しなければならない多くの課題があるのです。沖縄の振興開発を推進し、県民福祉の向上を図ることは、政府としての重要な課題でもあるわけです。
――最近の世論では、行革と公共投資をセットにして批判されているとの印象を受けます。特に、公共投資は赤字財政の最大の要因であるかのように言われ、このため、建設コストの逓減策や、さらには相次ぐゼネコンの受注をめぐる問題から、建設市場の国外開放など様々な改革は避けられないと思われますが、どう取り組んでいきますか
稲垣
平成8年12月27日の閣議における総理発言の趣旨を受けて、この1月に「公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議」が設置されました。北海道開発庁、沖縄開発庁もその一員として、政府の行動指針の策定に向けて、鋭意検討を進めてきたところです。
これまでも建設省、農林水産省、運輪省と連携を図りつつ、7年8月には建設費縮減計画を策定する一方、現地でも、たとえば北海道の場合は、8年10月に北海道開発局、北海道庁、札幌市の三者で「北海道建設費縮減推進連絡会議」を設置し、関係機関が連携して公共工事のコスト縮減に取り組んでいるところです。
今後、北海道開発庁としては、4月4日の関係閣僚会議において決定された政府の行動指針に沿って新たに行動計画を策定し、関係省庁と連携をとりつつ公共事業の早期発注・適期施行及び冬期工事のコスト縮減などにも考慮して、一層のコストの縮減に努めていく考えです。沖縄開発庁としても同様の措置を取ることになります。
建設市場の国外開放については、公共事業の入札・契約手続きを、国際的な視点も加味した透明で客観的かつ競争的なものにしていくための措置として、平成6年1月に工事や設計・コンサルティング業務に新たな入札・契約方式を採用するよう、政府として決めたところです。
北海道開発庁、沖縄開発庁は、この政府の方針を踏まえ、6年度から新たな入札・契約方式として、一定規模以上の工事については一般競争入札方式を採用し、また設計・コンサルティング業務については公募型方式を採用しているところです。
――沖縄県は、特に米軍施設・区域の返還跡地の利用について、全国から関心の目が集まっていますね
稲垣
沖縄には、全国の米軍専用施設・区域の約75%が集中しています。また、米軍施設・区域は、県土面積の約11%、沖縄本島に限ってみると約20%と実に高密度の状況にあり、土地利用上大きな制約となっています。特に、中南部圏には、米軍施設・区域が広範にわたって存在し、県民生活に様々な影響を及ぼしています。
昨年、日米間で普天間飛行場を含む11の施設・区域の全部または一部の返還がとりまとめられ、これが実現すれば約5000ヘクタール、沖縄県における米軍施設・区域の約21%が縮小します。これは沖縄復帰以来、今日までに返還された施設、区域の面積の累計4,328ヘクタールをさらに上回るものです。
今後、普天間飛行場の返還をはじめ、saco最終報告に盛り込まれた措置を的確かつ迅速に実施するよう全力を尽していくことが肝要であると考えます。
沖縄開発庁としては、これら米軍施設・区域の返還跡地の利用について、沖縄経済の自立的発展と県民生活の向上に資するよう努めていく方針です。
――北海道開発予算は、初めて一兆円を突破しましたね
稲垣
平成9年度は、第5期北海道総合開発計画の最終年度に当たることから、その総仕上げと次期計画への橋渡しという重要な時期と考えております。
そうした中、9年度の北海道開発予算は、1兆59億円と、大変厳しい財政事情の下で、当初予算としては、初めて1兆円を超える規模を確保することができました。
また、内容的にも、アイヌ文化の理解を深めるためのアイヌ関連新施策関係予算や、北海道総合開発の一層の促進を図るための特定開発連携事業関係予算が新たに計上されるとともに、新規事業としては、高規格幹線道路の新規区間や国営かんがい排水事業の新規地区が採択されるなど、主要要求事業のほとんどが認められました。
今後は特に、交通ネットワークの形成や情報基盤の整備、農林水産業の生産基盤等の整備、防災対策の充実、質の高い生活空間の形成に重点を置いて円滑な執行を図り、現下の北海道が抱える諸課題に的確に対応してまいりたいと考えています。
――U・R合意に基づく大型農業基盤整備も始まっていますが、北海道農業の再生に向けて、どう活用すべきと考えますか
稲垣
北海道の農業は、農業基本法制定以来、経営規模を拡大し、今では米、畑作物、酪農などを主体に、1戸当りの農地面積が都府県の10倍にも達しています。また、農産物の生産コストは、都府県のおよそ7〜8割で生産できるまでになりました。
しかし、これらの作付け作物の多くは、ウルグアイ・ラウンド農業合意の関税対象となっており、しかも北海道の農家は、家計費の大部分を農業所得に依存する専業農家の割合が非常に高いため、ウルグアイ・ラウンド農業合意による影響をもっとも強く受けるものと予想されます。このために、私たちは今後の政策実施においては特段の配慮が必要と認識しています。
今年は、ウルグアイ・ラウンド対策の3年目にあたりますが、こうした努力の甲斐あって、8年度補正予算と9年度予算においては、北海道の実情にかなり配慮されたものになったと思います。
国家財政が厳しいとはいうものの、各予算の内容は、農業基盤整備をはじめ担い手対策、土地改良負担金対策など、ウルグアイ・ラウンド対策としても21世紀に向けて力強い北海道農業を確立するという目標達成の上でも、是非とも必要な政策ばかりです。これらを、関係省庁と密接な連携を取りながら着実に実施し、実効性を上げていきたいと考えています。
さらに現在、平成10年度からスタートする新しい北海道総合開発計画の策定作業を進めているところですが、北海道の発展は、基幹産業である農業の振興が特に重要だとの認識に立ち、国民に対して安全な食料を安定的に供給するなど、全国における北海道農業の役割を一層、高めていく方向で検討するよう指示したところです。
北海道も沖縄も、振興・開発政策はまだまだ必要です。私としてはさらに現地の事情を把握するためにも、今後もこまめに足を運ぶつもりです

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