建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年4〜5月号〉

interview

東京湾アクアラインの開通で千葉新時代が到来

千葉県土木部長 池尻勝志氏

池尻 勝志 (いけじり・まさし)

昭和20年7月5日生まれ、大阪府出身。
昭和 46年 3月 神戸大学大学院(工学研究科土木工学専攻)修了
4月 建設技官(土木研究所千葉支所 道路部交通環境研究室)
55年 9月 月中部地方建設局 道路部 計画調整課長
61年 4月 近畿地方建設局 奈良国道工事事務所長
64年 1月 建設経済局 調査情報課 建設専門官
平成 2年 8月 近畿地方建設局 大阪国道工事事務所長
6年 4月 福井県 土木部長
8年 11月 近畿地方建設局 企画部長
9年 7月16日 千葉県 土木部長
昨年12月に千葉県の木更津市と神奈川県の川崎市を結ぶ、待望の東京湾アクアラインが開通し、文字どおり『千葉新時代』が到来した。千葉県は、世界に向けて新しい情報を発信する「幕張新都心」、研究開発拠点の「かずさアカデミアパーク」、国際的な物流拠点をめざす「成田国際空港都市」を基幹プロジェクトとする『千葉新産業三角構想』を推進しており、アクアラインは県内の幹線道路網の整備と一体となって半島性の解消と、21世紀に向けた新しい県土づくりに大きな弾みになることが期待されている。そこで千葉県の池尻勝志土木部長にご登場いただき、今回はこれらのプロジェクトの波及効果を県全域に広げる幹線道路網の整備などを伺った。
―木更津市と川崎市を結ぶ東京湾アクアラインのインパクトについて、どう見ていますか
池尻
千葉県は大きな半島ですから、アクアラインの開通により、入り口が広がったことに大きな意味合いがあります。既存の道路や将来の道路網を考えると、例えばアクアラインを経由し首都高速道路で横浜市内の路線を通れば、東名高速道路までつながります。
千葉側では、館山線を経由して東関東自動車道水戸線を通れば、茨城までつながります。その意味では、東京を迂回して、常磐道や東北道に連絡する一つの路線が完成したことになります。このことは千葉県にとどまらず、日本全体に大きな波及効果が期待でき、同時に人やモノの流れが変化することにより、社会構造の変化ももたらすでしょう。
―報道では、昨年12月の開通以来、利用者の伸びが予想以下だったとされますが、今後の動向についてはどう見ていますか
池尻
千葉県の人口は現在580万人で、これは四国4県を上回ります。それを考えるなら、アクアラインの開通直後の通行量は、いまのところ平日で平均14,000〜15,000台ですが、今後は上向きになると期待しています。道路開通のインパクトにより、物流や人の動きに変化が現れるまでには若干時間がかかります。時間が経てばいずれ目標の25,000台は実現できると思っています。
アクアラインは交通網として影響の大きい道路なので、この道路の開通を受けて、当面既存の道路でどう対応していくかという課題があります。千葉県には四季を通じて観光客が多く訪れていただいているので、ルートごとに道路標識など観光案内の情報提供に力を入れています。
―県のトラック協会によると、官民とも工事量の減少に伴ってトラックの輸送量もダウンしているとのこと。アクアラインは通行料が高いため、輸送コストに反映されて、デメリットが表面化する心配があるのでは
池尻
道路のメリットを考える場合、重要な要素は時間短縮です。直接、換算できる要素ではありませんが、時間短縮の効果は大きいものです。ガソリン代の軽減にもつながり、特にトラックやバスの場合は、それが顕著に現れます。
その意味で、先に社会構造の変化と述べたのは、そのメリットがいずれは明確に認識されることを想定してのものです。例えば、東京都中央区の築地市場が大田区に移りましたが、このお陰で千葉からはかなり近くなり、物の流れは変わりました。
―道路効果を、実際に経験してみるのがいいでしょうね
池尻
それが大事です。宣伝や、目的地にどれだけ魅力のあるものを造るかということも重要ですが、まずはメリットを実感してもらうことでしょう。
―県中心部には、「かずさアカデミアパーク構想」がありますが、この開通でさらに弾みがつくのでは
池尻
かずさアカデミアパークは場所が時間的に成田に近く、アクアラインと接続する県央道が出来れば羽田にも近くなり、それぞれ1時間以内で行けます。
―最近は東南アジアに進出した企業が国内に戻りつつあるようです
池尻
東南アジアは経済情勢が厳しくなっています。千葉県は、工業はもちろん、農業生産額も全国でトップクラスです。大消費地である首都圏に位置することから、道路網整備による輸送時間の短縮は、農業関係でもメリットは大きいと思います。
―今後の県内の道路整備に、それらがどう反映しますか
池尻
県では、県内の主要都市から県都・千葉市へ1時間程度で行けることを目標とする「県都1時間構想」を進めているところであり、アクアラインに接続する道路を活用して、房総南部から県都への1時間到着を実現したいと考えています。
このため、今後は首都圏中央連絡道路(圏央道)と、半島先に向けての東関東自動車道館山線の整備が重要で、この2本が大きな骨格になります。このうち圏央道については、千葉東金道路二期として東金〜横芝間がこの3月に供用開始の予定です。一方、館山線については道路公団において木更津〜富津間の事業の推進が図られているところであり、富津〜富浦間については高規格127号富津館山道路として建設省において工事が進められています。
このうち、竹岡インターから岩井勝山までは遠からず完成します。これによって、県の南方から県都へ1時間で行けることになるのです。
もう一つは、太平洋側をどうするかですが、ここでは地域高規格道路で圏央道や館山線の近くに接続する方針で調査中です。また、銚子連絡道路も部分的に事業化に入っており、時間はかかりますが、広域的にはつながっていくでしょう。
また、東京都との都県境に集中する交通をどうするかも課題です。ご承知のように湾岸道路と京葉道路の交通容量が一杯となり、本来の連絡機能がうまく働いていません。
そこで第二湾岸道路と外かく環状道路によって、交通の分散化を図り慢性的な交通渋滞の緩和を図っていく必要があります。
―第二湾岸道路とは、現在の湾岸道路の海側の中央防波堤や東京ディズニーランドを経由し、東京湾沿いに延ばしていくというものですね
池尻
そうです。これが整備されなければ、県内部だけをいくら整備しても、東京断面の救いにはならないのです。この区間をどうしていくかを考えたいものです。
また、千葉地域と東葛飾北部地域を結ぶ国道16号線の交通混雑も問題で、これは4車線ですが、千葉市と柏市間は特に混雑が激しく、これも容量が足りないようなので、この道路のバイパスとして千葉柏道路を計画しています。
県としては、これらの路線計画を実行することで、問題を解決したいと考えています。
もう一つは、夢のような話ですが「湾口道路」の構想があります。海で隔てられた横須賀市と富津市を結ぶもので、首都圏の広域幹線道路網を形成するとともに新たな国土交通軸を形成し、東西交流を促進する重要な道路であります。千葉県としては、東京湾アクアラインとともに半島性の解消に大きく役立つものと期待しております。
――県の道路網整備においては、東京方面へのアクセスがポイントになるとのことですが
池尻
そうです。県内の道路整備の課題は、大きく分けると移動にかかる時間距離の短縮と都県境における膨大な交通需要への対応の問題、この二つに集約されます。さらに全国的な視野でとらえるなら、首都圏の交通混雑を緩和し、東日本と西日本を結ぶ動脈をいかに整備するか。この三点くらいに整理出来るかと思います。
そのために東京都の外側を大きく迂回する首都圏中央連絡自動車道と、木更津から川崎へ直結するアクアラインは首都圏の交通混雑の緩和に大きな効果が期待できます。
――確かに、東京都心部の渋滞はひどい状況です。東京都では、区部の平均速度を現在の13qから15qにアップできれば、経済的な波及効果は大きいと主張しています
池尻
その通りだと思います。都内の道路整備と合わせて、都内に用事のない車が直接、都内に入ってこないようにいろいろな道筋を造ることが必要でしょう。
道路整備についてはいろいろな意見がありますが、社会基盤として整備することについては、大方の理解は得られていると思います。モノの生産・販売にとどまらず、人々の日常生活そのものにとっても、道路整備は非常に重要です。
中には「経済効果が期待できないから、道路は必要ない」との意見もありますが、次世代の経済発展を支えるインフラ整備という観点からも依然としてそのニーズは高いものがあります。
――整備しなければならない路線や箇所は多いが、財政状況からみて公共事業関連の予算確保が難しくなっていますね
池尻
千葉県も厳しい財政状況にありますが、事業の重要性からみて、予算面でのマイナスの幅は小さいと思っています。
事業の優先順位を付ける必要に迫られてはいますが、地域住民が日頃から困っていることに十分配慮しながら対応していきたいと考えています。
――県の出資団体で有料道路を運営しているケースがありますが県自身での運営は考えられないでしょうか
池尻
かなりの交通量が確保されなければ、なかなか成り立たないのが有料道路事業の現状ですから、その意味では採算性が確保できる箇所が限定されるでしょう。道路経営の実態を見ると、利用収入は維持管理費などに充てるのが精いっぱいでしょう。
採算がとれさえすれば、一部有料制の導入は当然、視野に入れていくことも考えられます。
――これまで道路建設は延長を延ばすため質より量の時代でしたが、これからは質をもっと重視すべきではないかとの意見もあります
池尻
造るからには質的にも良い道路を造ることが、将来にわたるランニングコストの抑制にも結びつきます。「安かろう悪かろう」というのは問題です。
現在、取り組んでいるコスト縮減対策は、公共施設が必要以上に華美過大になっていないか、新しい工法を導入できないかどうか、つまり新材料、新工法の導入がポイントになると思います。
――ところで道路以外の事業についてもお聞きしますが、県内の河川整備はどの点に重点を置いていますか
池尻
県では、激甚災害対策特別緊急事業に指定されている事業をはじめ、ふるさと川づくり事業や、河川環境整備事業など様々な事業を実施しています。千葉は比較的平坦な地域なので、内水対策も重要な課題です。河川事業は人々の生活の安全やうるおいのあるまちづくりに不可欠なものであり、息の長い事業でもあることから一歩一歩着実に進めていきたいものですね。
――治水工法は、一時期は親水性が重要視されましたが、後には多自然型へと軸足が移ってきました
池尻
千葉県でも、方向としては多自然型が主流になっていくと思います。
――一方、県内の港湾整備はほぼ完了したとみて良いのでしょうか
池尻
本県には、特定重要港湾の千葉港をはじめ5つの港湾がありますが、何と言っても千葉港がメインです。
千葉港は市川市から袖ヶ浦市に至る広い港湾区域を持つ港で、公共埠頭のほか、京葉工業地帯の立地企業が保有する専用岸壁があり、これらを合わせた貨物取扱量は平成6年から3年連続で全国第1位となっています。
現在、東南アジア地域に4つの定期コンテナ航路が開かれており、貨物取扱量も順調な伸びを示しており、今後は、コンテナターミナルの拡充、京葉港二期地区の整備など、港湾機能の強化と快適な港湾環境の整備に努めていきたいと考えています。
――ところで、建設業界も競争が厳しくなっていますが、行政側としてのアドヴァイスは
池尻
建設業は、県民生活と産業活動の基盤づくりを担う産業として、高度化、多様化する建設需要に応え、豊かな県土づくりに一層の貢献をしていくことが期待されており、今後とも、活力と魅力ある産業として発展していくためには、@県民に対して良いものを安く提供すること、A新しい競争の時代を乗り切るため努力と工夫により自由に伸びられる競争環境を作ること、B技術と技能に優れた人材が生涯を託せる産業を作ること等を目標として企業活動を行っていくことが必要ではないかと考えています。

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