建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年3月号〉

interview

地域主導の公共事業へ

新しい産業振興で経済の自立を支援

北海道開発局建設部長 斉藤智徳 氏

斉藤 智徳 (さいとう・とものり)

昭和20年3月22日生まれ、千葉県出身。
昭和 44年 東北大学大学院工学研究科土木工学修了
46年 北海道開発局札幌開発建設部岩見沢道路事務所工事課計画係長
49年 北海道開発局帯広開発建設部道路課国道橋梁係長
50年 北海道開発局帯広開発建設部帯広道路事務所工事課長
52年 北海道開発局室蘭開発建設部室蘭道路事務所第1工事課長
54年 北海道開発庁地政課開発専門官
58年 北海道開発局札幌開発建設部道路調査課
59年 北海道開発局建設部道路計画課課長補佐
61年 北海道開発局建設部道路計画課道路企画官
63年 北海道開発局網走開発建設部次長
平成 2年 北海道開発庁計画官
4年 北海道開発局建設部道路計画課長
6年 北海道開発局室蘭開発建設部長
8年 北海道開発局札幌開発建設部長
9年 7月 現職
最重要課題として行財政改革に取り組んでいる政府・自民党は98年度予算から公共事業費を大幅に削減する方針で、これまで公共事業への依存度が高かった北海道経済は大打撃を受けようとしている。最近は公共事業不要論まで飛び出すなど、風当たりも強まっているが、社会資本の整備は道民の暮らしに直結しているだけに、われわれとしても不容易な公共事業批判に与するわけにはいかない。そこで北海道開発局の斉藤智徳建設部長にご登場いただき、公共事業のあり方などをざっくばらん語ってもらった。この中で、斉藤部長は『今後、北海道をどういう方向で発展させていくかが議論のカギ。北海道の自立を後押しするのが、公共事業の大きな役割だ』と強調している。
―最近、公共事業に対する風当たりが強まっていますが、的外れの批判もあるようです。開発局としても『公共事業不要論』に対して、きちんとした理論武装をしておく必要があるのではないでしょうか
斉藤
公共事業批判には2つの要素があると思います。一つは「社会基盤は十分整備されたからもう公共事業は必要ない」という意見と、「バブル経済の崩壊後、大型補正予算を組んで公共事業を推進してきたにもかかわらず景気がさっぱり上向きにならず財政政策としての公共事業の効果が薄れてきた」という意見です。
社会基盤整備としての公共事業の必要性については、首都圏と地方では自ずと視点が違います。例えば交通渋滞の解消という視点に立てば、東京での道路整備は必要だが、稚内では必要なしということになります。しかしセキュリティという視点に立てば、「地元の医療機関では十分な治療ができないため、旭川に急患を搬送しなければならない。だから高速道路は必要である」という見方もできます。このように見方によって必要であったり必要でなかったりするわけで、投資効率という面からだけで公共事業の必要性を議論するのは間違いだと思います。
―首都圏では、面積が広大で人口の少ない北海道に高速道路は必要ないという声が上がっていますが、北海道の立場としては、どう考えますか
斉藤
北海道には、実際に人が住んでいるのです。国土政策として経済効率の良い国土を作り上げるため「田舎には住むな」という政策をとるならいざ知らず、均衡ある発展を目指すなら、地方に住む人たちの視点を無視すべきではありません。"利用者が少ない、交通量が少ない"といった一面的な視点で判断するのはおかしいと思います。先程も言ったように、いろいろな視点から議論すべきではないでしょうか。
本道の国道、主要道道といった幹線道路の整備率は全国的に見ても遅れているわけではありませんが、道路の密度、1ku当たりの道路延長は全国の半分しかありません。従って、通常は短時間で行けるのが災害等で一ヶ所が通行止めになると大きく迂回しなければならいため2〜3時間かかっているケースもあります。そういう意味では道路の整備率はまだまだ低いと言えるのかも知れません。
また、北海道の場合は、人の流れや貨物の流れはほとんど自動車に依存しています。本州のように代替の交通機関に恵まれていませんから、災害発生時などいったん道路が不通になると非常に大きな影響が出ます。そういった意味では交通インフラの整備は遅れています。
―北海道の基盤整備は、十分との主張もありますが
斉藤
見方によりますから、何とも言えません。まず、北海道を今後どういう方向で発展させるか、それから道民が現状をどう評価しているのかによるでしょう。
現在、『北海道自立論』が盛んに論議されていますが、自立するためにどんな地域にするのか、どんな産業を興すのか。例えば産業として観光をさらに振興するためには、それなりの投資が必要です。ホテル、レクリエーション施設といったハードの整備から、サービスの向上といったソフトの整備が必要ですし、公共事業としては目的地まで速く到着できる交通インフラの整備とか、あるいは電線類を地中化するなど景観に配慮した施設設計など観光振興に必要な施策を打つことになります。
また、現状に満足しているから今のままでいいということになれば新たに公共投資をする必要はないわけです。
―そうなると、地元が地域の将来像を明確にした上で、それに基く、地域提案型の開発手法に転換していく必要がありますね
斉藤
全くその通りだと思います。
―政策決定の主導権を徐々に地元に下ろしていく流れになりますね。そうなると開発局の果たす役割も変わってきますか
斉藤
事業実施だけでなく、技術を集約して提供するなど、地元のプランを支援していくという役回りになります。
―公共事業のコストダウンは、時代の要請となりましたが、国としてのモデルケースや取り組み状況は
斉藤
現在コスト縮減の計画を作成しているところです。実際には釧路港のしゅん渫土砂を、道路の盛り土に活用するなど、コスト縮減のひとつとして取り組んでいます。
開発局は道路、河川、港湾事業などを一組織で実施していますので、調整しやすい面があります。
―公共事業費の削減が政治日程にのぼり、入札制度も一般競争へシフトする傾向にあるため、建設業界では戦々恐々としていますが
斉藤
戦後、わが国は社会基盤の整備を推進してきましたが、社会情勢は大きく変化しています。したがって、公共事業も時代の変化に対応していかなければなりません。高齢化が進む中で労働人口が減少し、税収も伸び悩みますから、公共事業費はこれまでのように増える可能性はないと断言していいでしょう。
したがって、建設業界も時代に対応した産業にならなければ生き残っていけないでしょう。リストラや経営の効率化を図らなければ、時代の変化に乗り遅れることになります。
また、全体のパイが小さくなりますので、技術面で特化した企業を目指さなければ、競争に勝つのは難しくなるでしょう。
―北海道で公共投資をしても、結果的に道外企業を潤すことになっているとの意見もありますが
斉藤
それは違います。道外企業が施工した場合、資金の一部は本州に環流するでしょうが、空港や港湾、道路などは現実に社会資本として残っているわけですから、そういう指摘は誤りだと思います。
―千歳川放水路も新たな局面を迎えているようですが
斉藤
現在、北海道知事の諮問機関としての検討委員会で議論してもらっているところです。流域住民にとっては生命や財産に関わる重要な件ですから今後の推移を見守っていきたいと思います。
―最後になりますが、いま開発局が全道的に実施している事業の中で、これだけは外せないとして政策的に特に重要視している事業は何でしょうか
斉藤
今やっている事業で、ムダなものはないと思っています。あえて言えば、道路整備では何と言っても安全に走れる道路づくり、そして、北海道の自立に向けて輸送コストを下げるためには、高規格道路のように高速で走れる基幹道路の整備は今後とも積極的に推進していく必要があります。治水事業では洪水対策、防災の観点からも地域的な差はつけられません。

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