建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年3月号〉

interview

北海道の自立に向けて住民参加の議論を盛り上げよう

広域行政制度と合併について

北海道総合企画部地域振興室長 大西 秀人 氏

大西 秀人 (おおにし・ひでと)

昭和34年8月23日生まれ、香川県出身、東大法学部卒。
昭和 57年 4月 自治省入省
62年 北九州市財政局資金課長
平成 元年 岐阜県財政課長
5年 自治省税務局企画課長補佐
7年 同大臣官房総務課長補佐
北海道総務部財政課長
9年 4月 現職
北海道総合企画部の大西秀人地域振興室長にご登場いただいた。大西室長は自治省出身で道財政課長を経て昨年6月から現職。道の地域振興室は、政令都市の札幌を除く道内211市町村の総元締め的な存在で、日常生活圏の拡大や地方分権の進展、行財政改革などに合わせて市町村の枠を超えた広域行政がクローズアップされている中で、その役割はますます大きくなっている。そこで、最近の広域連合の動きや本道の発展方向についてインタビューした。
―北海道の面積は全国最大ですが、そうした広さのメリットがどこまで生かされているのか疑問です。広大な半面、集積度が低いため投資効果について他府県から批判の材料になっています。また、中央依存、官依存体質が今なお抜け切れないともいわれます。本道が自立していく道筋をどのように考えていますか
大西
確かに北海道の面積は九州に比べて2倍近く、その中に570万人の道民が住んでいます。面積が大きい割には、人口や産業の集積が低いところがあります。また、全国の過密・過疎の問題と同様に、北海道でも札幌圏への一極集中が起きています。過疎市町村は212市町村のうち155市町村で、全体の四分の三を占めているわけです。
とはいえ、すべてがデメリットというわけではありません。自然環境が豊かで、一次産業は大規模経営ができるというメリットがあります。
地域振興に近道はありませんが、私としては、各地域の中核都市を伸ばし、地域の牽引役として引っ張っていく地域振興策が中心になるべきではないかと思います。
―都市の規模は15万から30万人規模が理想的といわれますね
大西
しかし、どの地域にも歴史的な経緯があり、さらに面積や連たん状況もまちまちです。それぞれの都市で特色があり、生まれ育った人や外から来た人など、住民の考え方はさまざまだと思いますから、一概には言えません。住みやすいといわれる都市の平均値が15万人程度というだけでしょう。
―道内の市町村数は政令都市の札幌市を含めて212ですが、これは多過ぎるとの意見があり、合併を促すべきとの声も聞かれます
大西
人口的にみれば確かに弱小というべき小さな市町村が多いのですが、面積では本州府県の市町村に比べて圧倒的に広いのが特徴です。市町村合併といえば、本州の市町村は昭和30年代当初に『昭和の大合併』を経験しており、これによって約三分の一程度になりましたが、北海道にはそうした経緯がありません。
北海道は開拓によって開かれた地域で、市町村に人々が集まりながら地区ごとに分村していったという特殊事情があります。したがって、全国レベルでは合併推進の意見が多いとはいっても、それと同じ土俵で、北海道にもそのまま今日の議論が当てはまるものではないと思います。
ただし、過密過疎の問題を抱える中で地方分権が進めば、人口が少なく、財政力の弱い市町村が規模、能力からみて単独で分権に対応できるかというと、難しい問題もあります。そのための手法として広域行政的な手法もあるし、あるいは選択肢の一つとして合併も考えられるでしょう。
―全国3,300の市町村を、200程度にという議論もありますが
大西
かなり乱暴な議論だと思いますが、確かにそういう意見もありますね。私たちとしては、自主的合併を主張しています。地域が望まないのに、道が無理やり合併に向けて誘導する考えはありません。住民や市町村の自主的な判断のもとに進めていただきたい。
今後、市町村のやるべき仕事は増えていくでしょうし、住民参加の行政を推進していかなければならないので、自分たちの町や村のあるべき姿についてどんどん議論を進めてほしいと話しています。
―特に釧路管内の市町村などに見受けられますが、地域の特性を生かすより横並び的な意識が強く、その意味では大合併した方が合理的では
大西
釧路では先に述べたような議論が最近、起こっています。釧路市の人口が減少傾向にある半面、ベッドタウンの釧路町は人口が増えており、工場立地も進んでいます。
地域全体のために、今後もそれぞれで行政を推進していくべきなのか、あるいは役割分担できる面はないのか、そうした議論をしていただきたいと思います。
―一時は釧路市が釧路町を吸収合併しようとする動きもありました
大西
思うに合併というものは、首長が行政的に主導したり、または政治的な課題にするのではなく、住民や民間サイドから、特に経済界などから議論を盛り上げていくのが理想的だと思います。政治的な課題にすれば様々な思惑がからみ、スムーズに進まなくなる懸念があります。
私たちとしては、やはり住民参加のもとに十分議論し、自分たちの町の将来を考えていただきたいと思います。
―現在、埼玉県大宮市と浦和市、与野市の合併や、東京都保谷市と田無市の合併に向けての準備が進んでいますね
大西
これもおそらく、その方が理想的だとする住民の判断によるものだろうと思います。
―北海道の歴史は官主導だったので、何事によらず民間だけでは進まない傾向があります
大西
北海道民の気質には、そういう面はあります。先祖伝来として住みついた土地ではないだけに、住民の意識として『息子が道外に出るなら、自分も出ていくかも知れない』といった発想があるので、住民主導では本物の議論になりにくい面が北海道の特色としてあるかもしれません。
しかし、これまでの歴史はそうでしたが、開拓以来130年が経過したわけですから、今後の北海道をどうするかは、そろそろ道民主体で、地域主体で考えていく習慣を身につけていくようにしなければ、北海道や地域が自立していく方向は見えてこないと思います。
道としても地道に地域に働き掛けて、地域住民が自ら考えていく方向性を大事にしていきたいと思っています。
―公職選挙の投票率の低さを見ると、住民の自治に対する意識はまだ低いように思われます。行政がもっとアピールする必要がありませんか
大西
意識が低いのであれば、高まるようにしなければなりません。意識が低いから官主導で進めるというのであれば、本来の自治はいつまでも育ってきません。こちらも"お上意識"が抜けず、一方、住民もいつまでも依存心が抜けきれない。
だから、自立心を高めるためにどうすべきかを、私は考えていきたいと思います。
しかし中にはやる気があってさまざまな活動に取り組んでいる人は、道内にもたくさんいます。ただ、大きな動きになっていないということではないでしょうか。
―道から民間への提言は
大西
まずは議論を集約した上で大いに発信してほしい。市町村の合併問題にしても、住民の50分の1の署名による住民発議制度によって、合併協議会を設置できる仕組みもありますので、それを利用するのも一策でしょう。
―広域行政の取り組み状況は
大西
例えば昨年11月に、函館市と上磯、大野、戸井、七飯町の5市町で大学設置の広域連合を結成しましたが、これは地方公共団体の一つです。財政的には函館市が中心となりますが、広域連合が公立大学を設置し運営していこうということです。
釧路公立大学は、釧路市ほか9町村で構成される一部事務組合による運営です。これに対して、広域連合は一部事務組合を一歩進めた形で、首長や議会もあり、住民は広域連合に対して条例制定の請求や首長のリコール請求もできます。より自治体的な機能を拡充した広域行政制度です。
この広域行政制度については、ごみ処理におけるダイオキシン問題以来、市町村単独では一般廃棄物の焼却が困難になってきていますから、道主導でごみの広域処理計画の指針をまとめたところです。道の指針に基づいて、関係市町村同士の協議を進めてもらっています。こうした問題は広域行政的なシステムを活用しないと、スムーズにいかないと思います。
今後は、介護保険の運用が問題となるでしょう。介護保険は市町村が保険者になりますが、介護認定の基準がバラバラなのでは困ります。制度の整合性や効率的な運営のためには、広域行政の手法で取り組むのが望ましいと思います。
地方分権は市町村主体が基本ですが、すべての課題を単体で実施するより、広域行政で取り組む方が効率的です。これによって、最終的には合併問題にまで議論が進む場合もあり得るでしょう。
―そうしたシステムはもっとprすべきですね
大西
道としても広域行政と合併のパンフレットなどを活用して、情報をどんどん発信していきたい。

▲北海道発行のパンフレット
「新しい時代の自治が奏でるハーモニー」(市町村の枠を越えたまちづくり)
〈問い合わせ〉
北海道総合企画部地域振興室市町村課 011-231-4111(内線23-513・514)
または各支庁地域政策部振興課
―厳しい財政状況の中で自治体もリストラに取り組んでいますが、地方分権の障害になりませんか
大西
スクラップ&ビルドで対応していかなければなりません。リストラといっても、単に職員数が少なければ良いというものではありません。道も人員削減を打ち出していますが、スリム化するにしても、新たな課題に対しては必要な人員を振り向けていく必要があります。
もう一つ大事なことは、個々人の能力を高めるために、職員研修や人材育成に努めることです。リストラがすべてではありません。
ただ、「補助金の一般財源化」が実現すれば、自治体側の補助申請事務に携わる人員と、国側の補助認定事務に携わる人員の削減につながります。
分権の勧告を見ると、主旨は国の指導監督下にある事務について国の関与を断ち切る、つまり機関委任事務の廃止ですから、地方分権によって地方自治体の事務量が膨大に増えることはありません。
―北海道開発庁が合併することになりました。そうなると、今後はさらに自治体の力量が問われることになりますね
大西
北海道の首長は、みな元気が良い。将来を見通し、よく考えている人が多いとの印象を受けます。若干は国や道に頼るという傾向も見られますが、将来を背負うという意識の高い人が多いと思います。
現在の財政システムの上では、やはり上京し国に訴えていかなければならない一面がありますが、今後はそうした陳情行政は変えていく必要もあるでしょう。また、流れも変わっていくと思います。
―日本における北海道の果たすべき役割についてですが、今後とも一次産業をもっと伸ばしていくべきではないでしょうか。たとえばブランド米は別として、国民の常用米はすべて北海道で賄うという方向性が理想的では
大西
もちろん、主体は今後とも一次産業でしょう。製造業は全国的に低いですが、本州府県などの製造業が海外へ移転している時代ですから、これから新たな製造業を興したり、誘致するのはかなり難しい。
今後もそうした努力は続けていくべきですが、一次産業に付加価値を付けていく、いわゆる「1.5次産業的」なものを拡充していくべきだと思います。
北海道の一次産業は、量はもちろん、質的にも良いものがありますが、ただ素材の良さだけで売っていたきらいがあります。加工して付加価値を高め、価格が上がれば当然、生産性も上がることになります。
また、流通ルートにのせる上では、品質管理ももっと工夫すべきでしょう。
―拓銀の経営破たんもあって北海道全体が意気消沈していますが、こういう情勢の時はどのような心構えで臨むべきでしょうか
大西
過去は過去のこととして割り切り、将来を見据えなければなりません。北海道の将来方向について、道民がきちんとした目標を定めて、いま何をすべきかを考えるべきです。
知事も、今年は北海道の『構造改革元年』と強調していますが、構造改革に取り組むということは過去を変えるということです。
いま北海道は落ち込んでいますが、まだ底には至っていないと思います。ですから、ここ1、2年はかなり厳しい経済情勢が続くと思いますが、いずれは底が来るでしょう。問題は、底が来た時に反転する際に、どの方向へ反転するかです。ここ1、2年の間に道民の間で議論して、方向性を見定めなければなりません。
基本的には、農林水産といった一次産業をより生かすために、産業クラスター構想などに結びつけて、より大きな動きにしていくことがポイントだと思います。

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