建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年2月号〉

interview

21世紀の林業・水産業をどう展開

インフラ整備にともなうリサイクルを実現

北海道水産林務部長 中津俊行 氏

中津 俊行 (なかつ・としゆき)

昭和16年7月10日生まれ、岩見沢市出身、北海道大学水産学部卒。
昭和 39年 4月 入庁
53年 東京事務所主査
55年 水産部国際漁業課海外漁業係長
58年 同漁政課企画係長
60年 水産部国際漁業課長補佐
61年 同漁政課長補佐
62年 檜山支庁経済部長
平成 元年 水産部漁政課参事
2年 年商工労働観光部産業雇用政策室参事
3年 総務部知事室秘書課長
5年 住宅都市部次長
7年 根室支庁長
9年 現職
自然環境は、山から海まで一貫して密接な因果性を持っている。北海道の漁場からニシンが姿を消したのは、山の組成・環境が変わったからとする説もあるほどだ。北海道庁は、林務部と水産部の統合により総合的行政体制を確立した。北海道の基幹産業は第一次産業だが、自然環境保護政策とも背中合わせにある。産業として強化する反面、環境保全にも意を払わなければならず、同部に課せられた使命は重い。まして財政構造改革が進む中、産業としての足腰を強化するには様々な知恵を絞らねばならない。同部の中津俊行部長に、水・林各分野の状況と今後の政策について語ってもらった。
―水産業、林業とも後継者問題が積年の課題となっていますが、原因はどこにあると考えられますか
中津
農山漁村においては若者の都市への流出により高齢化や過疎化が進行し、地域活力の低下が見られてきていますが、一つは農山漁村の産業や生活環境の整備が十分ではないからでしょう。
農山漁村は都市部に比較して交通のネットワークをはじめ、医療や福祉、下水道などの生活環境の整備が遅れているほか、文化、教育、レジャーなどの施設、商品の品揃えなども少ない状況にあります。
一方、労働時間の減少、人々の価値観やライフスタイルの変化などを背景に、余暇活動を重視する傾向が強まっており、農山漁村に対して、豊かな自然環境に接する機会や伝統・文化と触れ合う場所の提供などが求められてきているのです。
―水産・林業とも業界事情は厳しいと言われていますが
中津
平成9年1月から、わが国においても国連海洋法に基づくtac制度(漁獲可能量制度)が開始されるなど名実ともに200海里体制が定着し、本道においても新海洋秩序下における漁業生産体制の確立を図ることが重要な課題となっています。
そのため、漁場造成や種苗生産など新技術の開発を進め、地域それぞれの特性を生かした栽培漁業を展開するとともに、水産物の産地価格の低迷やライフスタイルの変化に対応して、生産者側から新たな需要拡大と付加価値の向上など積極的な消費・流通対策を進めることが重要となっています。
さらに、金融自由化の進展に対応し、地域の中核となる漁業協同組合の経営基盤を強化するとともに、産業の担い手となる新規漁業後継者を育成していくことが重要となっています。
このほか、漁業は良好な自然環境を前提とする産業であり、その健全な発展を図る上で、水域環境の保全が極めて重要であることから、漁業関係者のみならず、幅広い関連分野の連携を促すことが必要です。一方、漁業系廃棄物の処理が地域の社会問題となっていることから、適正な処理に向けた有効利用技術の開発や施設整備の促進も課題となっています。
―林産業については
中津
森林は、木材を生み出す「生産財」としてのほか、豊かな水やきれいな空気を育む「環境財」としての役割も有しています。
北海道の森林面積は全国の6割を占めていますが、人工林の間伐など適切な管理を行うこととともに、広葉樹を中心とする自然林の保全が次の世代に引き継ぐためには重要な課題となっています。
しかし、この森林の整備・管理を担う林業については、担い手の減少・高齢化、木材価格の低迷による林業経営意欲の低下などにより、その経営環境は厳しい状況に置かれています。このため、森林を「環境財」、「公共財」として位置付け、公的な資金の充実が必要となっています。
また、過疎化の進行が著しい山村地域では、林業・木材産業が重要な雇用の場ですから、その振興が課題であり、森林管理から木材供給まで一貫した長期的視点に立った取り組みを、関係者が一体となって進めることが求められています。
特に、木材産業については、「木材の良さ」が見直されている世論を背景に、住宅や家具など木製品の市場拡大を図るとともに、先端技術の導入による木材加工技術の高度化や地域内の企業の連携による地域製材流通の強化を図ることが必要となっています。
こうした中で、国有林の森林管理体制の見直しは、原木の供給量の減少や労働の場の縮減など地域に与える影響が大きく、この転換に対応した取り組みを構築することが緊急の課題となっています。
―そうした課題に対し、どんな政策をもって臨みますか
中津
水産業も林業も自然環境に大きく依存する産業であることから、自然との共生を図りながらその振興に取り組むことが基本です。
このため、平成10年度は、地域の考え方を重視し関係する機関の力を結集した総合的な行政の展開を視点として、5項目の重点項目を掲げました。
―その内容は
中津
一つは「豊かな海と森づくり対策」です。「北海道の豊かな海を育み未来につなぐ」という基本理念のもとに、森、川、海に至るそれぞれの分野おいて共に行動を進める「豊かな海と森づくりネットワーク構想」の着実な推進を図るため、農林漁業者、地域住民、都市住民の連携によるネットワークの形成を図るとともに、魚を育む森づくりや藻場造成などの「海の森づくり」などを総合的に展開するというものです。
二つは「都市と農山漁村の交流」で、都市住民の二−ズに対応し、「海」や「森」を地域の活性化を図る手段として、「道民の森」の整備を進めるとともに、新しい遊漁制度づくりやマリンツーリズムの導入を促し、都市と農山漁村の交流の推進に取組みます。
特に、これらの施策を通して、農業や商業など他産業との連携を図り、漁業や林業の経営の多角化、新しい産業起しなどを進めるとともに、都市住民などに対し、農山漁村の役割や一次産業の重要性のコンセンサス形成なども図っていきたいと考えています。
三つは「森林整備方向の転換に対応した総合対策」です。国有林の改革や「環境財」としての森林機能の見直しなどに対応し、広葉樹林の再生化など公益的機能を重視した森林づくりを進めるとともに、原木供給の変化に対応した木材産業の構造改革や、木材製品の物流拠点整備に向けた調査検討を進めるほか、木材チップの暗きょ疎水材など新用途の需要拡大に取組みます。
特に、林産試験場で開発した新技術、新製品の木材産業への移転を進め、技術の高度化による産業育成を図っていきたいと考えています。
四つは「海洋法時代に対応した新しい漁村づくり」で、新海洋秩序下における漁業生産体制の確立に向けて、道、試験場、漁協、市町村などを情報で結ぶ「マリンネット北海道」の整備を進めるとともに、クロソイやマツカワなど新魚種の栽培技術開発、産卵場や湧昇流漁場など漁場造成を促進し、本道周辺海域の資源づくりを進めます。
また、水産物の産地価格の低迷に対応し、物流対策としての広域共同システムの開発、産地直販強化対策、品質や産地表示の推進対策など道産水産物の流通加工の新戦略を展開していきたいと考えています。
五つは「特定地域対策」です。広範囲のエリアを持つ本道においては、それぞれの地域において固有の課題を抱えています。
具体的には、北方4島周辺海域の操業実現とその体制の確立に向けての支援や、道東地域のエゾシカ被害防止対策、日本海のニシン資源増大対策などを進めていかなければなりません。
―そうした政策を下支えする産業基盤整備は、様々に批判され、縮減の方向に向かっているようでが
中津
これまでの国の予算編成は、「シーリング」方式がとられていましたが、平成10年度予算については、「財政構造改革」に基づき、公共事業や社会保障などの政策ごとに歳出の上限や特別枠を設定するという「キャップ方式」が設定され、重要政策について思い切った重点化、効率化を図ることとされています。
このため、平成10年度の公共事業については、前年度予算の7%削減が打ち出されており、概算要求では一般枠として、前年度予算の89%をベースに、生活関連社会資本の整備、安全な地域づくりなどの諸課題に対応する「生活関連」や物流の効率化を推進する「物流対策」など、重点化のための特別枠4%が設定されています。
水産・林業関係の全国枠の公共予算総枠の政府案は89.9%となっております。
また、平成10年度の北海道分についての政府案は、水産関係は、対前年度比90.7%、林業関係では、対前年度比88.7%と大変厳しいものとなっています。
―公共工事自体も効率化が求められる情勢となりました
中津
国は、「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」を平成9年4月に定め、平成9年度から平成11年度までの3年間でコストを少なくとも10%以上縮減する目標値を設定しています。
主な内容については、資材費の縮減や機械化等を通じた生産性の向上、工事実施に係る各種規制緩和、技術の開発とその導入の円滑化、受発注における競争原理の一層の活用、地域の実情にあわせた構造基準の弾力的運用など各般の施策を総合的に進める必要があることなどを掲げており、各地方公共団体に対してもその積極的な取組みを求めています。
このことから、北海道も昨年8月に全庁的なコスト縮減の検討部会を設置しまして、12月に「北海道公共工事コスト縮減に関する行動計画」を策定したところです。
さらに水産林務部においても、昨年12月に、部内関係各課で構成する「北海道水産林務部公共工事コスト縮減推進委員会」において、計画、設計、積算段階から入札・契約、施工(資材、労務、安全対策、法規制等)まで多岐にわたるコスト縮減のための具体的な取組み内容を決定しました。
今後は、担当職員一人一人が常にコスト縮減に気を配り、コスト縮減に積極的に取り組むことが大切であると思っています。
一方、公共事業の執行に当たっては、このコスト縮減と併せその必要性、緊急度合等について十分検討するとともに、その投資を真に効果的なものとすることが重要ですので、事業の優先順位を定めて事業内容等の絞り込みや事業箇所の重点化により早期完成を図っていきたいと思います。
ただし、コスト縮減の裏付けなしに工事価格のみを下げるなどにより、工事関係者が不当なしわ寄せを披るようなことが起こらないよう留意すべきでしょう。
―国では、建設廃材リサイクルの法令化を検討しているようですが
中津
リサイクル法施行により、資源の再利用という観点から、森林土木工事で発生する樹木の根や木くずなどのいわゆる建設廃棄物を有効に活用する方策を進めているところです。現場でのリサイクルとしては、根を多少加工して暗渠排水材に利用したり、木の根や笹などをチップ化処理しそのチップの堆肥化を図ることにより残存樹木への効用を図るなど有効的な活用を一部で実施しています。
さらに、処理業者等でクラッシャー機械が導入されているところでは、木の根や枝などを破砕し、土壌改良剤などへ活用しているところもあります。
また、水産土木工事では、特に漁港の建設工事でコンクリート殻、浚渫土砂などの建設廃棄物が発生します。コンクリート殻は小割するなどして漁港工事の埋め立てに利用しており、また、浚渫土砂は同じく漁港の埋め立てに利用したり、他事業(海岸工事等)に流用しており、コスト縮減と合わせて有効的な活用を図っています。
公共事業に関して発生する廃棄物については、発注者としての責任を十分認識し、工事の発注・実施にあたっては現場内での有効利用やリサイクル法に沿った適正な処理を図っていきたいと思います。

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