建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年2月号〉

interview

食糧供給のための産業インフラはやはり必要

経済の広域化、国際化への対応も重要

北海道知事 堀 達也 氏

堀 達也 (ほり・たつや)

昭和10年11月22日生まれ、北海道大学農学部卒
昭和 33年 10月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所
34年 11月 北海道網走支庁上渚滑林業指導事務所長
35年 9月 北海道林務部林業指導課
37年 5月 北海道林務部造林課
42年 7月 旭川林務署
44年 8月 美深林務署音威子府支署業務第三係長
47年 5月 北海道林務部道有林第1課
49年 5月 北海道大阪事務所主査
52年 9月 北海道林務部道有林第1課販売係長
54年 5月 北海道林務部道有林管理室経営管理課販売係長
8月 北海道林務部林政課
55年 4月 北海道林務部道有林管理室業務課長補佐
56年 4月 北海道林務部林産課長補佐
58年 5月 北海道林務部林産課長
59年 4月 北海道林務部道有林管理室経営管理課長
60年 4月 北海道総務部知事室秘書課長
62年 5月 北海道生活環境部次長
63年 4月 北海道土木部次長
平成 元年 4月 北海道総務部知事室長
3年 5月 北海道公営企業管理者
5年 6月 北海道副知事(〜平成6年11月)
7年 4月 現職
国の道路予算配分をめぐって交わされた、岐阜県知事の「東京タコツボ」発言と自民党都連の「鵜飼いの鵜」発言による中傷合戦は、公共事業に関する都市部の立場と郡部の立場を象徴的に現しているといえよう。とりわけ、集積度の低い北海道などは、どの公共事業も投資効果が薄いとされ、関東、関西方面から厳しい批判の的となっている。しかし、公共投資への依存度が高い北海道としては、黙して語らぬわけにもいかない。北海道にとって公共投資とは何か。何が必要なのか。570万道民を代表する堀達也知事に語ってもらった。
―21世紀の北海道は、どんな姿が理想的と考えますか
これまでは、明治2年の開拓使設置以降、日本における「可能性の大地」といった位置付けで、わが国の発展に大きく貢献してきました。当初は、基盤整備や欧米技術の導入を積極的に進めることで、日本の近代化のための資源供給基地という役割を担っていましたが、戦後の混乱のなかで、豊富な資源を有する本道は、食糧やエネルギーの供給源として、また、急増する人口の受け皿として注目されました。
今後は、どんな役割を担い、どんな北海道づくりを進めていくかを考える場合、少子・高齢化やグローバル化、高度情報化や成熟社会への移行といった時代の潮流をしっかりと踏まえた上で、本道の特性や潜在力をどの分野に生かしていくのが適当かという視点で見ていく必要があります。
―10年度からスタートする新長期計画では、それをどう表現していますか
「第3次北海道長期総合計画」では、本道の多様性を認めあう道民気質や個性豊かな地域社会、国際的に有利な地理的条件、恵み豊かな大地や海と農林水産業などの優れた技術、さらには広大で豊かな自然や快適な生活環境などの特性に着目しています。
これらの特性や潜在力を、国内外で生かしていく方法として、「さまざまなライフスタイルを実現する場」、「北方圏地域や東アジア地域などとの連携を進める場」、「安全で良質な食糧などを安定的に供給する場」、「環境と調和して創造性あふれる産業展開を進める場」という4つの理念を掲げています。
―最近は、公共事業不要論が論議されたり、事業のコストダウンが求められていますが、どう考えますか
公共投資によって形成される社会資本ストックは、現在及び将来の道民の安全で快適な暮らしや経済社会の発展を支える基盤です。しかも、社会資本整備がもたらす効果は、直接的な経済効果にとどまらず、生活と経済社会に対して多様な面で重要な役割を果たしています。
本道経済は公共投資への依存度が高いのですから、公共投資抑制は単に建設業界だけの問題ではなく、北海道経済自体に及ぼす影響は大きいものと予想されます。
しかし、コストダウンは時代の要請ですから、庁内組織として「経済・景気対策推進本部」に「公共工事コスト縮減検討部会」を置き、公共工事コスト縮減に係る調査・検討を行っております。
―その点では、「時のアセス」の導入はタイムリーと言えますね
7月15日に当面の対象施策を決定し、公表するとともに、再評価を行うための副知事を座長とする「検討チーム」を設置したところです。
対象となった6つの施策の背景や抱えている課題もそれぞれ異なるので、施策ごとの再評価作業の具体的な進め方について、その基本的な枠組みや作業スケジュールを定め、これらに沿って、「検討チーム」と所管部局が連携を図りながら、再評価作業を進めているところです。
必要に応じて、アンケート調査や公聴会の開催などにより、住民の意向を把握するとともに民間の調査機関による専門的な調査などを実施し、これらを基に、道としてより客観性の高い再評価に取り組んでいるところです。
なお、検討機関については、施策によって異なりますが、基本的には概ね1年程度を目途に、できるだけ早く結論を得たいと考えています。
また、すでに選定したハード事業はもとより、ソフト面についても、道として長年取り組んできているもので、その効果が十分とはいえないものや、構想・計画段階から進展を見ないものなどについて、内部的な検討を重ねた上で、できるだけ早期に対象施策として追加選定したいと考えています。
「時のアセスメント」は、「時の経過」という視点で施策の再評価を行おうとするものですから、変革の時代にあって、社会の変化に柔軟に対応し、より効果的な施策を展開するため、行政自らの仕組みとして継続して取り組んでいきたいと考えています。
―首都圏や関西方面では、地方での公共投資に対する批判が聞かれるようになりました。果たして北海道での公共投資は、ムダだったのか。産業、生活各分野の基盤整備について、北海道側としての主張を伺いたい
道路、空港、港湾などの社会資本は、広域的・大量・迅速な輸送を可能にし、経済の発展に重要な役割を担ってきました。今後も、輸送の広域化、経済の国際化、高度情報化に対応できるよう整備を進めておく必要はあります。
特に、地方圏では人口の減少、高齢化などの問題が顕著化しています。地域の自立的発展と連携を促して活力を持たせるためにも、地域間、地域内の交通ネットワークの整備は、一層進めていかなければなりません。
面積が広大で、首都圏から遠距離にある本道では、北海道関係路線の旅客数が2,000万人を超えており、北海道・本州間の輸送人員の約8割が航空機を利用するなど、航空輸送への依存度は高い。今後もこの航空輸送量は増加するものと見込まれます。
道内においては、札幌圏への人口集中や地方の過疎化が進行している一方、地域における国際化が進展していますから、人と物の円滑な移動を確保する上で、本道と本州間を結ぶ航空路線や道内航空網の拡充、国際航空ネットワークの整備・充実が一層求められます。
また、わが国は自然災害が発生しやすく、水害・地震などに対する生活の「安全」を求めるニーズは高い。この「安全」を確保する上で、社会資本は大きな使命を担っているのです。
―第一次産業と北海道は不可分の関係ですが、農業基盤整備のポイントは
21世紀は、国際化に対応した生産コストの低減と安全で良質な農産物の安定した生産がさらに求められます。そのためには、一層の生産基盤整備が必要です。
道では、市町村との連携によって農業者が必要な整備に積極的に取り組めるよう、道営の農業農村整備事業の農家負担を軽減する21世紀高生産基盤整備促進特別対策事業(21世紀農地パワーアップ事業)を、8年度より実施しており、地域の要望に沿った生産基盤の整備を進めています。
―林業では
北海道は、7割が森林で、全国の2割の森林を有している森林王国です。道民一人当たりの森林面積に換算すると1haで、全国の5倍になります。広葉樹などの貴重な天然林が広く分布しています。
こうした豊かな森林を守り、保全するためには、環境と調和した多様な森づくりが求められています。森林整備は、普段はあまり目立ちませんが、防災や水資源のかん養などの面で非常に重要な役割を果たしています。
―確かに治山事業はあまり目立ちませんが、その効用と進捗率は
道では、山地に起因する災害の危険地域を調査、把握していますが、山地災害危険地区は、全道で約23,000箇所あり、そのうち治山事業に着手している地区は35%程度にとどまっています。
近年は台風や集中豪雨による大規模な山地災害は発生していないことなどから、治山事業での防災対策を進めた成果が上がっているものと思います。しかしながら、局所的な災害は依然として発生しており、南西沖地震による山地災害や火山の噴火に伴う泥流の発生、岩盤崩落による災害など、山地の災害も多様化してきています。
このような状況を踏まえ、今後とも積極的に治山事業を推進していかなければならないと考えています。
ただし、山地災害を防止するためには、山地施設の整備などハード対策のみでは限界があります。地域住民の協力を得ながら、異常気象時の緊急避難態勢の整備や危険地区の点検など、様々な対策も進めていかなければなりません。
また、治山事業では、山地災害を防止するための山地治山や防災対策総合治山のみではなく、水源地域の森林の整備を進める水源地域整備、生活環境の保全などを図るための環境保全保安林整備、防風林などの防災林造成、さらに保安林の機能を回復、向上させるために実施する保安林改良や保育などを実施しています。
森林に対する様々な期待が高まっている中で、森林の持つ防災機能をはじめ、水源かん養や環境保全機能をより高度に発揮させるためにも、治山事業を推進していく必要があります。
―漁港漁場については
本道の漁業生産体制は、沖合から沿岸漁業へと変遷しているので、新たな沿岸漁業の生産体制に対応できる漁業生産基盤の整備が必要です。
のみならず、安全性の向上や快適な就労環境の確保の観点から、質的な整備が求められるとともに、水産物に対する消費者ニーズの多様化や、海や漁村の自然の豊かさに対するニーズに応えた整備が求められています。
そこで、周辺水域の高度利用、水産物の安定供給、ふれあい漁港空間の創出、快適で活力有る漁港漁村の形成、美しい海辺環境の保全と創造などを目標に掲げて、漁港整備を進めていく方針です。
また、効率的な漁港機能の整備のため、漁港漁村圏域を設定し、この圏域の中で、漁業生産活動の拠点となる漁港と補完的な漁港と、機能分担を明確にし、それぞれの役割分担に応じた効率的な施設の配置を行うことが必要と考えています。
―平成9年は、様々なウィルスが注目され、多くの犠牲者が出ました。その意味では、都市と環境・衛生の関わりが特にクローズアップされた年とも言えそうですが
そうですね。本道の水道普及率は、既に95%を超えており、全国の普及率に並ぶ状況にありますが、なお、26万人余りの道民が未だ水道の恩恵を受けていません。生活基盤の確保はもとよりエキノコックスや病原性大腸菌o157などの対策の面からも一層水道の普及を図る必要があります。
また、トイレの水洗化やシャワーの普及など生活様式の多様化などに対応した水道の安定供給を求められており、新たな水道水源の開発や水道の広域化といった取組みを要する地域もあります。
さらに、近年大きな被害を受けた阪神淡路大震災や、本道の釧路沖、南西沖、東方沖地震によって、水道が果たしているライフラインの役割について再認識させられたところであり、災害に強い水道づくりを図る必要もあります。
―ごみ焼却施設から排出されるダイオキシンが問題となっていますが、対策は
道内の焼却施設は、8年度時点で132施設ありますが、焼却管理を徹底することなどにより、ダイオキシン類の発生を少なくするように市町村に指導しているところで、それぞれ対策が講じられています。
ダイオキシン類の排出量を抑制するには、何よりも焼却するごみの量を減らすこと、そのためには、ごみの排出抑制や、ゴミの分別、リサイクルや資源化に努めることが、これからはより一層重要になると思います。
反面、ごみを焼却処理する場合においても、燃焼の安定化など、ダイオキシンを削減する観点から、大規模な焼却炉で適正に処理することか必要といえます。
その意味では、市町村が個別にダイオキシン対策を講じた焼却炉を設置するよりは、複数の市町村が連携して広域的な取組を図る中で、焼却炉を集約化して大規模な施設の設置を検討していくことが、ごみ処理の適正化や、経済性の面からも有効であると考えています。
しかし、北海道のように面積が広いと、複数の市町村が連携しても、大規模な焼却炉の設置が困難な地域もあるでしょう。その場合は、ごみの排出抑制や分別を徹底し、さらに固形燃料化や生ゴミの堆肥化など、極力ごみの資源化を図った上で埋立を行うなど、地域の実情に応じた広域化の方策の検討も必要になります。
そこで、昨年、市町村などの意向も踏まえ策定した「ごみ処理の広域化計画」に基づき、広域的に取り組む際の市町村間の調整など、積極的に対応をしていく方針です。
また、ダイオキシン対策のために必要な施設改良などの予算の確保等については、国に対し、道として強く要望していこうと考えています。

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