建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1998年1月号〉

interview

21世紀の国際コンベンション都市を目指す

バリアフリー社会の実現が悲願

横浜市長 高秀秀信氏

高秀 秀信(たかひで・ひでのぶ)

昭和 4年 8月 18日生まれ、北海道出身。
27年 3月 北海道大学工学部土木工学科卒
59年 3月 工学博士号取得
27年 4月 建設省採用
48年 8月 同大臣官房技術調査室長
50年 4月 同都市局下水道部流域下水道課長
52年 2月 同関東地方建設局河川部長
53年 11月 同大臣官房技術参事官
55年 7月 同中部地方建設局長
56年 6月 国土庁水資源局長
58年 7月 建設技監
59年 6月 建設事務次官
60年 10月 建設省顧問
61年 5月 水資源開発公団総裁
平成 2年 4月 横浜市長(1期目)
6年 4月 横浜市長(2期目)

横浜市政は、元建設事務次官の高秀秀信市長を迎えてから、2期目が終わろうとしている。この間、横浜市のまちづくりは、同市長の秀でた知識と手腕により、世界に誇る日本最大の国際都市として大きく変貌してきた。334万人の市民を代表する同市長に、横浜の未来像とまちづくりについて語ってもらった。
―21世紀の横浜市は、どうあるべきと考えますか
高秀
21世紀には、世界人口の約8割がいわゆる「都市」に柱むようになるだろうと言われています。「都市の生活環境は良くない」、「家が狭い」などと言いながらも、人々は都市に集まってくる。それは、就業の場があることや、医療、教育、文化的なものが手に入りやすいからでしよう。
横浜は、人口334万を数える大都市です。都市基盤整備、福祉施策など取り組むべき課題はたくさんありますが、便利であるとか、コンサートやイベントなどをいつでも楽しめるといった、いわゆる「都市の良さ」のようなものを市民が享受できる、そのような都市をめざしています。
また横浜は、開国以来、海外と日本との接点の役割を果たしてきました。その歴史と経験をいかして、世界に開かれた国際都市として21世紀を担っていきたいと思います。
今日、地球温暖化や資源問題などは都市共通の課題となっています。都市同士が協力し合えば、政治や外交をからめずに課題解決の道を探ることができるのではないかと思います。昨年に(11月22日〜25日)、横浜で「アジア太平洋都市間協カネットワーク会議(シティネット'97横浜)」が開催されました。17か国、52都市の市長や47の団体・NGO代表などが一堂に会し、都市間協力の課題や展望について議論を交わしたのですが、このようなネットワークを広げることによって、横浜市の都市行政に関する経験・技術をアジア太平洋地域の多くの都市で役立てることができればと考えています。
―市内での都市基盤整備などは順調ですか
高秀
就業の場を確保するという意味では、市内経済の活性化が欠かせませんし、行政の役割は、企業活動を活発に行っていただくための条件を整備することだと考えています。
典型的な例が、みなとみらい21地区ですね。ここでは、基盤整備を市と住宅・都市整備公団が行い、建物は民間に建てていただくことにしています。そして、将来的には19万人がここで働くことを見込んでいます。
今年7月には、この地区に「クイーンズスクエア横浜」という新しい複合施設が誕生しました。延床面積はじつに50万uにもなる3つの高層ビルから成り、オフィス、デパート、ホテルそしてクラシックコンサートホールが一体となって一つの街区を形成しています。
新聞によれば休日に約15万人、平日でも約8万人の人が訪れているということで、まさに横浜の新名所となりました。テレビドラマやコマーシャルの撮影にもよく使われているんですよ。隣にあるランドマークタワーも、相乗効果と言うのでしょうか、入場者が昨年に比べ5割も増えたそうですし、横浜駅周辺のデパートなどの人出も増えているようです。
クイーンズスクエアと同時にみなとみらい大通りという幹線道路も開通しましたので、官公庁の集まる関内地区とみなとみらい21地区、そして商業の集積地である横浜駅周辺地区が一つに結ばれました。クイーンズスクエア横浜は、現在工事中のみなとみらい21線「みなとみらい中央駅(仮称)」と直結する構造になっており、開通すれば、観光地としても有名な元町地区とつながります。東急東横線との相互乗り入れによって、東京の渋谷からも一直線です。
―最近は公共投資に対する見方がシビアになってきました
高秀
よく「公共事業投資はもう要らない、それより福祉だ」とおっしゃる方がいますが、実は、福祉施策の推進のためにこそ、都市基盤整備は必要なのです。基盤整備を行うことによって企業活動が活発になり、地域経済が発展すると、横浜市の税収も増え、福祉施策の財源とすることができるのです。
今まで横浜は、東京のベッドタウン、支店経済と言われてきました。それが、少しずつですが、みなとみらいに東京から買い物に来たり、市内に住んで市内に勤める人も増えてきている。このようにして、地域経済の自立を図り、税収アップにつなげていきたいと考えています。
また、港湾経済の活性化も忘れてはなりません。横浜港が地域に及ぼす所得創出効果・雇用創出効果は、それぞれ市内総生産の約30%、市内雇用者数の約20%にのぼります。しかし、残念なことに横浜港に入ってくる船舶は減っています。それは、今日の海上輸送の主流を占める大型コンテナ船に対応できていないからです。
輸送コストを下げるためには、一度にたくさんのコンテナを大型船で運ばなくてはなりません。そういった大型船を入港させるには、水深15m以上のバースが必要となるのですが、残念ながら横浜にはないのです。日本全体でも神戸に2バースあるだけです。
そのため、日本向けの貨物を積んだ船は、例えばいったん韓国の釜山へ入り、小型船に積み替えて、新潟へ運び、そこから首都圏へ運ぶことになります。
そこで現在、横浜市では、コンテナ輸送に対応できるように、大水深バースを、とりあえずは2バース整備しています。将来的には12バースまで確保する予定です。市内経済を支える港湾機能の強化は、重要な課題だと考えています。
―生活基盤整備の充実については
高秀
今、力を入れているのは、防災対策と福祉施策です。防災対策については、平成7年の阪神・淡路大震災以来、―貫して、危機管理の発想を取り入れることを強調してきました。つまり、平常時の十分な備えと、いざというときの臨機応変な対応です。
今年から本格稼働した「高密度強震計ネットワーク」は、市内150力所に高精度の地震観測装置を設置し、その観測データをリアルタイムで3力所の観測センターに送って、きめ細かい地震情報を迅速に把握し、被害の予測や迅速な災害対策活動に利用するものです。約3kuに1力所の割合で観測装置があることになり、これだけ精密な観測網は世界にも類がありません。
今年9月には、横浜市大の研究グループが、このネットワークを使って、地震波の伝わり方をリアルタイムで観測、画像化することに成功し、学会でも注目されました。神戸の地震のときも、いわゆる「震災の帯」と呼ばれる地帯に被害が集中したのですが、地震波というものは従来考えられていたよりもはるかに複雑な伝わり方をするそうで、普段から計測することによって、いざというときの被害を最小限にくい止められればと思っています。
―福祉政策の面では
高秀
少子高齢化社会の到来に備えて、子育て支援施策と高齢者福祉施策に重点を置いています。
子育て支援施策は、安心して産み育てることのできる社会をめざそうということで、緊急保育5ヵ年計画を実施したり、子ども・家庭支援センターを全区(18区)に設置したりしました。
緊急保育計画というのは、保育園の入所待ち児童をなくすとともに、多様化する保育ニ−ズヘの対応を充実しようというもので、保育園の新設・増設はもちろん、無認可保育施設でも市の基準を満たすところに助成をする「横浜保育室」や、少子化で園児が減少傾向にある幼稚園で「預かり保育モデル事業」を行ったりしています。
また、育児不安に悩む人が多いということで、相談窓口として子ども・家庭支援センターを設置しました。これからは、社会全体で次世代を担う子どもたちを育てていくという意識が必要ですね。
―高齢化社会への対策は
高秀
今、介護保険法が話題となっていますが、私は介護の実施を任される自治体の長として、今のままでは、ホームヘルプサービスやさまざまな施設の整備が間に合わなかったり、保険料を支払っても、サービスを受けることができないケースがでてしまうのではないかと心配しています。
「心配だ」と言ったからかどうかは分りませんが、私は、10月31日付で厚生大臣の諮問機関である医療保険福祉審議会の委員に任命されました。これは介護問題だけではなく、医療保険制度の抜本的改革について幅広く検討する審議会ですが、この機会を生かして議論していこうと思っています。
横浜市の現在の取り組みとしては、ヘルパーの人材育成や、在宅介護支援の柱となる地域ケアプラザの整備を引き続き進めています。誰でも、住み慣れた家や地域で安心して歳をとりたいはずです。そのためには、地域で高齢者を支えるシステムが必要です。そして、システムを支えるには福祉活動の拠点となる「場所」がなくてはなりません。ケアプラザや特別養護老人ホームはまだまだ数が足りない。これらの建設については、今後も計画的に進めていかなくてはならないと考えています。
―最近は環境問題やリサイクルに対する関心も高まっていますが、資源循環型社会の実現についてはどんな展望ですか
高秀
リサイクル型の社会経済システムとライフスタイルの推進は急務です。また、この問題は、行政と市民、事業者が一体となって取り組まなければ進展しません。市民のごみに対する意識向上も鍵となります。
分別収集については、缶・びんの分別収集を、全市で100%実施することができました。現在、頭を悩ませているのはペットボトルの再資源化です。容器包装リサイクル法が施行されましたが、現在、回収リサイクル方法を模索しているところです。ペットボトルは、口金を外したり、内部を洗浄して、つぶさなければならないのですが、全て人力でやるしかないのです。従って人件費・運賃が非常にかかる。少し事業者側でも分担していただけないかと思っています。
―その点は、どこの自治体も共通の悩みですね。何か有効策は考えられますか
高秀
本当の資源循環型社会をめざすには、ペットボトルに限らず、ごみを出さない生活を考えるしかないのではないでしょうか。また、商品の製造に当たっては、最初からリサイクルしやすい、再資源化しやすい形で作ることも大切だと思います。
地球温暖化の問題にしても、例えば、二酸化炭素の排出量を抑えるために「自動車に乗らないようにしよう」などと言いますね。横浜市でも、エコライフチケットという地下鉄・バスの1日乗車券を発行して、マイカー使用の自粛を呼びかけています。
しかし、確かに不要不急のマイカー使用は自粛すべきでしようが、むやみに使用抑制を唱えても、実効性には乏しいのではないかと思うこともあります。かつて、アメリカのある都市で、パークアンドライドを実践したところがありました。都心の入り口までマイカーで来て、そこからは何人かが乗り合わせて1台の車で都心へ入る。しかし、これは失敗しました。朝はそれでもいいのですが、夜は、みな仕事の終る時間がまちまちで、朝一緒に来た人がいつまでも待っているわけにはいかないんですね。
また、シンガポールでの事例だったと思いますが、月曜日はナンバーが偶数の車、火曜日は奇数の車だけが都心に乗り入れられることにしたら、どこの家も車を2台持つようになってしまった(苦笑)。人間はそういうところがあると思います。
ですから、むしろ無公害型エンジンとか、排ガスの回収装置などの開発に力をいれる方が有効ではないかと思います。公害の少ない、環境に悪影響のない技術開発はできるはずです。官・民が力を合わせて、地球環境保護と利便性のあるものを両立させていきたいものですね。
―21世紀に向けて達成したい政策、構想は
高秀
やはり先にも触れた、少子・高齢化社会に対応した政策。そして、バリアフリー社会の実現です。障害のある方や高齢の方が住みやすい街は、実は誰もが住みやすい街なのです。
これまでも、福祉のまちづくり条例を定めるなど、さまざまな取り組みをしてきました。例えば、上大岡駅西口再開発事業では、まちづくりの最初の段階から障害者団体などの関係者に加わっていただき、「人に優しく、機能性の高いステーションエリアの創造」をコンセプトに整備を進めました。
その結果、全国に先駆けてバスターミナルに視覚障害者向けの音声誘導装置を設置するなど、バリアフリーの考え方に沿った建物整備をすることができました。電鉄会社をはじめ事業者の皆さんも大変協力的で、障害者対応のエレベーター、エスカレーター、トイレなどを設置していただきました。このように、市民、事業者及び市の三者が互いに協力、連携して、バリアフリー社会を実現できればと思っています。
ある時、足の不自由なパラリンピックのスキー選手の方が、「どこかへ行きたいときに誰かに助けてもらわなくても、自分一人でどこへでも行ける街が望ましい」とおっしゃっていました。「人の善意はありがたいけれど、やっぱり気が引けるので外へ出るのが億劫になってしまう」というのです。聞けば欧米では、どこでも1人で気兼ねなく行動できたそうです。横浜も、そんな街にしていきたいものです。
それから、コンベンション都市の実現も悲願です。世界の方々から行ってみたい都市と言われ、来て良かったと思われる都市にしたい。すでに、「パシフィコ横浜」という5,000人規模の会議まで対応できるコンベンション施設がありますし、ホテルの建設も相次いでおり、施設的には充実してきました。
また、大規模スポーツイベントもコンベンションの一つだと考えています。その意味で、2002年のワールドカップサッカーを楽しみにしています。昨年12月に竣工した「横浜国際総合競技場」は、平成10年のかながわ・ゆめ国体のために造った施設ですが、7万人収容の日本最大規模の競技場です。ワールドカップサッカーの決勝戦はぜひここで行ってもらいたい。選手・観客そして報道陣すべてのアメニティを考えた、自慢の施設なのですから。

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